東全獅と波崎和馬
「人探し、ですか?」
「うん。だからまあまあ君を呼んだんだ。君は、そっち方面が専門だもんね?」
右足の痛みから回復した時雨は、窓側、波崎和馬の右隣の木箱に座って、中年男の微笑する灰色の視線を受け止めた。次いで、咥えタバコの中年男は正面を掌で示して言った。
「そして今回の人探しの依頼者は、東全獅さんと絶薙大和さんです。ええっと、お2人はヨロズで再会するはずだった、しかし行方がわからなくなった共通のご友人をお探し、ということでしたよね?」
「ええ。そうです。いや、本当に間が悪くて、申し訳ない。波崎氏はヨロズから引っ越すための準備で忙しい時に。ですが、知り合いによれば、波崎さんはヨロズ随一の探偵だと聞きまして・・・」
確認する波崎の言葉に、テーブルを挟んで時雨の左側の木箱に座ったオレンジ髪、東全獅が首を縦に振る。おそらくは時雨と大和が来るまでに聞いていたらしい波崎の現状に対して丁重な謝罪をしたことから、時雨は少なくとも自分の正面に座る大和、たちこめるタバコの煙が気に入らないのか〔先ほどから鼻をクンクンさせて臭いを嗅いでいる猿〕よりは常識のある人物だと東全獅を断定する。
しかし、
『この東って男にしろ、絶薙にしろ、とても一般人とは思えない。いや、まず一般人ではない』
時雨はそう思った理由と記憶、東全獅の軍人もかくやという屈強な肉体と、時雨を追跡してきた時の大和の驚異的な能力を反芻する。感染者という、3人に1人は簡単に拳銃よりも強力な能力を持っているこのご時世にあって、多くの感染者や異常者を相手にしてきた時雨の感覚は、眼前の2人を単なる賞金稼ぎや軍人上がりではないと判断する。
時雨の僅か1秒にも満たない思考に割り込んで、波崎の声が紫煙の霧の中に響く。
「いえいえ、まだ1週間はここにいますのでね。まあまあその間だけでも、私も出来る限り協力させてもらいますよ。なあに、僕には彼、天出雲時雨くんがいます。人探しに関しては、今や私の上を行く彼がね」
「それは頼もしい!」
波崎と東全獅の、期待の込められた灰色とオレンジの眼差しが時雨を見る。社交辞令とはいえ、波崎がここを去った後、自らが興した探偵事務所の所長として独立する予定を考えれば、ここは無難に応対するべきだと時雨は判断。
「私などまだまだ若輩です。所長を見倣いつつ、常に全力で事に当たるだけです」
もちろん、時雨にそんな気は毛頭なかった。
なぜなら今時雨は個人的で、しかし何より優先すべき案件、〔行方不明となった両親と大切な仲間達〕に関わる人物から情報を引き出さなければならないからだ。
しかし、時雨の殊勝で礼儀をわきまえた言葉にエラく感銘を受けたらしい全獅が、タレた目を大きく見開いて震えだす。机から身を乗り出して波崎の両手をガッシリと掴む。目じりに滲んだ涙を隠しもせずに、食いしばった歯の間から声を漏らす。
「なんて出来た子!相棒の大和と同じ16歳ですよ!?くぅううう、交換して欲すぃいい・・・!」
「まあまあ東さん、時雨くんもああ見えて、結構猫被ってますからまあまあ」
「これが資料でずうううううううう!」
「まあまあ東さん、まあまあ」
時雨は波崎が東全獅を慰めている間に、簡素な折りたたみ式テーブルに置かれた資料、封筒に、時雨は一言断って了承を得てから手を伸ばす。まだ鼻でクンクンやっている大和を放置して、さっさと封筒の口に手を突っ込み、中から捜査対象の経歴書らしい写真付きの用紙を取り出す。あくまでその行動は、波崎の面子と、この先興す自分の事務所の評判のためだ。
だから、
「・・・この、方ですね?捜査対象は?」
「ぞう、ぞうでず。ぞの子の、名前ば・・・」
時雨は声に動揺が現れないように必死に隠す。用紙に添付された捜査対象の顔写真が、時雨の背に冷や汗を一筋落とす。
東全獅が、波崎に慰められながら言った。
「名前ば、朧凛名でず・・・!」
まあまあとあやす波崎の声が、驚愕する時雨の耳には遠い。




