第九十八話 人々の期待
三次試験は、二次試験の一週間後に行われる。
「ジョシュア」
ビトの母、フィデリアはカキの父、ジョシュアに声をかけた。
「また勝手に邪魔させてもらってるよ」
フィデリアが一方的に話し、ジョシュアは何も答えない。今はそれが普通だった。
「カキが、中級戦闘魔術師昇格試験の三次試験に出るよ。もちろん、うちの子もね。見に行かないのかい?」
ジョシュアは黙って、フィデリアに背を向けたまま座っている。
「カキは〈神の子〉〈救世主〉だ。だから、厳しく育ててきたんだろう?そんな息子が中級に昇格しようとしている。アンタは見るべきじゃないのかい?」
ジョシュアは何も反応しない。
フィデリアはため息を漏らした。
「アンタはいつまでそうやっているつもりだい?私はアンタのことが嫌いだからね、好き勝手言わせてもらうけど・・・それでも、カタリナはアンタを愛したんだ。アンタと、そして、生まれてきたカキと、幸せな家庭を築きたいと、カタリナは常々思っていた。アンタは、カタリナと、カキと、幸せになろうとちゃんと思ってたのかい?」
ジョシュアは、カタリナの名前に少しだけ肩を揺らした。
「カキは子どもながらに、先を見据えているよ。アンタなんかより、ずいぶんしっかりしている。母親を喪っても、ちゃんと前を見て進んでるんだ。それなのに、父親であるアンタはそんな脱け殻のようになってていいのかい?」
ジョシュアは何も答えない。
「私は、カタリナとカキの味方だからね。アンタ見てると、イライラする」
フィデリアはそれだけ言うと、家を出ていった。
カキは〈神の子〉〈救世主〉として、国で有名だ。そのほとんどが、カキが人より劣っていることなど知らない。
だから、誰もが今回の三次試験を楽しみにしていた。
三次試験は個人戦で、競技場で行われる。観覧自由の盛り上がる試験として、有名だ。
〈神の子〉〈救世主〉の力を見れると、国中が活気に溢れていた。
「今回の試験、〈神の子〉〈救世主〉が出るんだろ?」
「楽しみだよなぁ。どれくらい強いんだろ?」
「毎年、この試験を見に行くのは楽しみだけど、今年は特に楽しみだわぁ」
何も知らない人々は、頬を紅潮させて口々にそう言う。
「何か、お前のことずっと見てきてたから忘れてたけど・・・お前って、〈神の子〉〈救世主〉なんだよなぁ」
「な、何だよ?わかってるよ、オレだってそう呼ばれるようなやつじゃないって」
ビトの言葉に、カキは顔をひきつらせる。
「けど、国中の人が楽しみにしてるぜ?お前の試合。こりゃあ、相当頑張んなきゃなぁ」
「・・・何か、面白がってるだろ、お前」
カキは、国中の人の期待に押し潰されそうになっているというのに。
「あと三日かぁ。三次試験は個人戦。お前と戦う可能性もあるわけだよな」
「三次試験は勝たなきゃ受かれねぇんだよな?」
「三試合中、二試合に勝たなければ、中級戦闘魔術師には昇格できない」
「うげっ・・・勝てるかなぁ?」
「なーに弱気になってんだよ?らしくねぇなぁ」
「みんながオレに期待してるからだろ!?」
個人戦となると、カキ一人の実力で勝たなければならない。不安にもなる。
〈神の子〉〈救世主〉ということで、人々の期待は大きい。絶対に負けるわけにはいかない。そんな中で勝てると自信を持って言えるほど、カキは強くはない。
「心配すんなよ。実力がどうであれ、お前はお前にしかないもんを持ってるからよ」
ビトは、カキの肩を叩き、そう言った。




