第十八話 全力を尽くす
「毎年のことですが、やっぱり戦闘コースを選択する生徒はほとんど予選通過して、最初のバトルも勝ってますね」
エベラルドは周りの先生にそう言った。
「まぁ、戦闘コースを志願するからには、簡単に負けられても困りますよ」
隣にいた先生はそう答えた。
「ぜひとも頑張ってもらいたいものです」
また別の先生はそう言った。
カキとニコラスの次の対戦相手はシーラとマリアンだ。クラスメイトとの対決ということで少し複雑な心境だ。
とくに、シーラとマリアンは好きな人との対決だからそれなりに思うところはあるだろう。
でも、どちらも勝ちたいとは思っている。
そして、試合のときがやってきた。防衛魔術の競い合いだ。
防衛魔術の競い合いとはいえ、お互いに防衛していてもどちらが優れているかなんてわからない。片方が物を飛ばす魔術を仕掛け、片方が防衛魔術を出すというものだ。
「では、始め!」
先生の指示で試合が開始された。
今度の試合はさっきより難しくなっている。だからカキは少し肩に力が入った。
はじめはシーラとマリアンが攻撃、カキとニコラスが防衛だった。時間は三分。
シーラとマリアンは思い思いに物を飛ばしてくる。
カキとニコラスはそれを防衛魔術、“シールド”を使って防いでいた。主にニコラスが、だが。
とはいえ、物を飛ばす魔術程度の力ならそこまで“シールド”に力を入れる必要もない。正直なところ、カキは飾りのようなものだろう。
あっという間に三分の時は過ぎ、カキとニコラスが攻撃にまわった。これまた飛ばしていたのはほとんどニコラスだったが。
「お前、もっと飛ばせないのか?」
「オレもやってんだよ、これでも!いいだろ、この競い合いはどれだけ防衛魔術が使えるかなんだから、攻撃が下手でも問題ないだろ!」
言い合いをしながらも物を飛ばしていく。
シーラとマリアンは全部に冷静に対処し、二人ともうまく防衛魔術を使っていた。
この三分もあっという間に過ぎ、審判の先生の判断によって勝者が決められた。
「勝者は────・・・カキとニコラス!」
どちらも負けず劣らずの防衛魔術ではあったが、カキとニコラスは無事、勝つことができた。
「負けちゃったね」
「うん。でも、頑張れたと思う」
シーラとマリアンはそう言って笑いあった。
「おめでとう、カキ、ニコラス。」
シーラはすぐにカキとニコラスのもとへ行ってそう言った。
「サンキュー、シーラ。」
「私たち負けちゃったけど、次に勝負することがあったら、そのときは負けないから!カキとニコラスは優勝目指して頑張ってね」
シーラは笑顔でそう言った。
「当然だ。優勝するのはオレたちだ」
ニコラスはそう言って、シーラに背中を向けた。
カキはニコラスのあとを追った。
カキとニコラスはその後も順調に勝っていったが、カキには気がかりなことがあった。
「オレはこの程度でいいのか・・・?」
純粋に疑問を感じた。というか、感じないほうがおかしい。
ここまで勝ってこれたのは間違いなくニコラスのおかげだ。ニコラスが二人分頑張ってくれているから、カキ程度の実力でも勝ってこれた。
だけど、このままじゃカキは魔術の実力がちっともつかない。それはダメだとカキは焦っていた。
今日は何とかなったけど、明日はどうなるかわからないから。
「ニコラス!」
カキはニコラスを呼んだ。
ニコラスは怪訝そうな顔をして振り返った。
「何だ?」
「オレ、お前の足手まといだけど・・・全力でやってるから。全力でやりたいから。だから少しでいいからコツを教えてくれ」
カキは真剣な眼差しでそう言った。