43話 明かされた正体
― 深夜 ―
マキツユリ村のすぐ外に、生首がさらされていた。
生首の横には立札があり、このように書かれていた。
『この者帝国に反逆した罪により、斬首の上晒し首に処す』
生首は血の気の引いた、くたびれた表情をしていた。
口はだらしなく開き、頭頂部はやや薄い……。
俺の生首である。
いやー、まさか自分の生首をこの目で見るとは思わんかったわー。
俺って生首になるとこんな顔になるんだねー。
あ、言っとくけど別に幽霊とかじゃ無いから。
ちゃんと足もあるし。
全裸だけど。
ぶっちゃけ復活のスキルがあるから、発動させて復活したんだけど……イヤ、新しく身体が構築されるとは思わんかった。
てっきり首から胴体が生えたり、胴体から首が生えたり、一旦灰になってそこから復活したり、とかすると思い込んでたのさ。
そうしたら、新しい身体を任意の場所に構築して復活するシステムなんだもの。
イヤ、ホント想定外だった。
あ、死んだから神様にも会って来たよ。
だいたいこんな感じ。
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「何死んじゃってんのよ、あんたは」
死んでから最初に会ったのは女神様だった。
「う~む、そこは『おお ナミタロー しんでしまうとは なさけない』とか言って欲しかったな」
「なにそれ?」
「イヤ、やっぱいいや。ワケわからんコト言ってすまん」
やっぱネタを解ってくれる人が欲しいなー、ツッコミ入れて欲しいなんて贅沢は言わんからさ。
せめてネタが理解できる人を……。
「ほんと何で死んだわけ? 毒無効スキルをオンにすれば、すぐ元に戻るのにしないとかさぁ」
「イヤ、復活のスキルって使ったコト無いから、ちょっと使ってみようかな……と」
「あんた馬鹿?」
女神様のジト目が突き刺さる。
「えっと……酔ってたからかなー……」
「素面だったわよ」
そんなやりとりをしていると、別な声が割って入ってきた。
「あの~、そろそろ私の事も紹介して頂けませんか?」
そこにいたのは金髪碧眼の若い男の人……イヤ、神かな?
「あぁごめん、忘れてたわ。ナミタロー、こいつがこの土地の神様でスコーシァンだから。挨拶したいって言うから連れてきたの」
「初めまして、スコーシァンです。一応ナミタローさんは私の管轄する土地で亡くなられたので、魂の管理は私の担当という事になります」
「あ……初めまして、ナミタローです。魂の管理、ですか?」
挨拶を交わしたところで、女神様が口を挟んできた。
「ナミタローは復活しちゃうから、管理は必要無いわよ?」
「存じておりますよ、アルミトゥシュ様。ですから一応、と言っております」
女神様はちょっとだけむっとして『あっ、そ』と、言い捨てた。
「そうだ、やっぱ俺に毒盛ったのって村長?」
死んだときのコトを思い出したので、知ってるかな? と思って聞いてみた。
「そうよ、こいつのとこの勇者にそそのかされたの。あんた殺したら、村は帝国本領と同等の扱いにしてやるとか言われてやっちゃったみたいよ」
女神様がスコーシァン神様のほうを指さしながら教えてくれた。
スコーシァン神様はちょっと長いな。
話す時はマズいだろうけど、俺の頭の中ではスコちゃんと呼ぼう。
「いいですよ」
スコちゃんがにっこりとほほ笑んで、そう言ってくれた。
「えーと……一応聞くけど、何が?」
「スコーシアンの神とか言うのは長いから、短くできないかな? とか考えておられたのでは?」
……考えが読まれてる!?
「あんたね、こいつも神様なのよ。それくらいできるとか予想しておきなさいよ」
「イヤ、無理っす」
「初対面なんですからさすがに無理でしょう。あぁ、名前の件ですが、本当に構わないですよ。ちなみに私の事を何と呼ぶつもりだったのですか?」
「えーと……スコちゃんて呼ぼうかな? と」
「ではそれでお願いします! ぜひ! 実は誰かにニックネーム付けられた経験が初めてなので、すごく嬉しいんですよ」
「あー、じゃあスコちゃんで」
「よろしくお願いします、スコちゃんです」
なんか知らんが、スコちゃんは満面の笑みである。
「ねぇナミタロー、話変わるんだけど、殺されたから復讐とか考えてる?」
ホントに話が変わるね。
「考えてはいるけど、勇者には手を出さない方がいいんでしょ? 魔王を用意して勇者処分するとか確か言ってたみたいだし」
「そうしてもらえる? 魔王を使うのは、一応決まり事みたいなものだから。なんか魔王を使って憎悪を集めて、その後の憎しみの連鎖を弱体化させるんだって。造物主様がそうしろって言うのよ」
造物主さんが言ってるなら、しゃーないか。
「でもなー、なんかこうスッキリしないというか、面白く無いんだよなー」
頭では理解できるけど、心情的に何もしないでは収まりそうもない。
復活できるとはいえ、さすがに殺されてるからね。
「勇者は駄目よ」
う~む、だったら……。
「勇者がダメなら、せめて帝国軍に八つ当たりさせてくれる? 直接は手を出さないから、敵対勢力の支援とかその程度にするから」
……ダメかな?
「うん、まぁ、それくらいならいいわよ。なんたって殺されたんだもの、仕方ないわね」
女神差が腕組みをして頷いているが、死なない存在に言われてもあんまし理解されている気がしない。
「あんた今、死なない奴に言われても~、とか思ったでしょ」
「あ、バレた……」
「ふーんだ。言っとくけど、あんたも死なない存在だからね」
と、指をさされたのだが……。
「残念でした、俺はちゃんと死んでますよー。寿命が無くて復活できるだけですー」
「殴るわよ」
女神様はイラっとされたようだ。
「あー、ごめんなさい。だから拳を握りしめるのは止めて下さい」
今の状態で女神様に殴られたら、消滅とかしてしまいそうな気がするので。
「つか、そろそろ復活しますねー。あ、そうだ、俺の死体って今どうなってんの?」
「首から下はごみの穴に捨てられてるわね。首から上は村の前でさらし首になってるわ」
「さらし首? まぢで?」
「うん、まじで」
「なんでまた……」
「よっぽどあんたに負けたのが悔しかったんじゃ無いの? あのバカ勇者。あんたの首を切り落として、嬉しそうに高笑いしていたわよ」
「うわー、どん引くわー。勇者のやるコトじゃねーよなー」
「本当、まったくだわ。そうそう、魔王と魔物の軍団の準備はもうできてるから、あんたに関係無くサクっと勇者は消しちゃうわね。ルボッチ帝国を亡ぼすのは少しだけ待つから、その前に八つ当たりは終わらせなさい」
「あのー……今、帝国を亡ぼすとか聞こえた気が……」
「亡ぼすわよ」
「えー……」
「だって戦争に勇者を利用するなんて事をしたのよ? それなりのペナルティーは与えないとね」
「そこまでせんでも……」
「そこまでしないと理解できないの、人間なんてそんなものなのよ」
「そうなのかなー」
「以前にも同じことは起きてるのよ。その時も亡ぼしたけど、結局また同じことを繰り返してる。そんなものなのよ。記憶に残ってるうちはまだなんとか馬鹿な事はせずに済んでいるけど、それが歴史になっちゃうとまたやろうとするわ。ましてや伝承や伝説にまでなったら、もう過去の過ちなんて認識は無くなるわね。だからなるべく長くトラウマを残してあげるのが、人類の為でもあるのよ」
「悪いコトすると魔王がくるぞー、と」
まぁ、確かに効果的ではあるんだろうけど……。
「助けちゃ駄目よ、少なくとも国を動かしてる連中はね」
女神様は優しい、つまりは国を動かしてる連中以外は助けてもいいという意味だ。
「そいつらの始末が終われば、その他の人は助けてもいいんだな?」
「できるならね」
「じゃあ始末が終わったら、教えてくれるか?」
「いいわよ、だけど絶対に始末が終わるまで手は出さないでね」
「わかった」
「ちゃんと我慢したら、何かご褒美でもあげるわよ」
「ご褒美?」
おぉ! 女神様のご褒美とな!
「そうね……島の一つでもあげようか? それとも王様にでもなる?」
なんだ、そういうのか。
「イヤ、そういうのはいらんす」
「そうなの? 違う物でもいいのよ?」
「まぁ、その時までに考えときますよ。さて、とりあえず復活しないと……」
欲しい物と言われてもな―。
「復活するなら人のいないところにしなさいね、騒ぎになるかもしれないから」
「イヤ、そう言われても首は晒し首だし、体はゴミの穴だから周りに人がいないとか選べないし……」
「何言ってるの? 復活するのに前に使ってた首とか体なんか必要無いわよ?」
「へ? そうなの?」
「そうよ。復活する場所を決めてスキル使ってみなさい、実際にやってみるのが一番だから」
「へーい」
やってみますか。
下界へと意識を向けると、ぼんやりと下界の様子が見えてくる……どういう仕組みかは知らん。
だんだんはっきり見えてきたので視点を動かし、マキツユリ村の近くで人気のない場所を探す。
よし、あの辺がいいだろう。
『 復 活 』
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というような感じでした。
復活したのはいいんだけど、全裸で何も持って無かった。
まさに体一つでの復活!
頭頂部の毛根が、何故か復活していなかったのは納得がいかんが……。
で、さすがに気になっていた自分の生首を見学してみようと、深夜を過ぎて人がいなくなるのを待ち、ここまで来たワケだ。
全裸で。
服、欲しいなー。
そしてここでようやく思い出す。
次元収納に、所有者転移機能を付けていたコトに……。
所有者転移機能というのは、念じるだけで所有者登録してある者の手元に、登録してある物が転移してくれるという機能である。
はい、収納が手元にきましたー。
神木刀タナカムラクンにも同じ機能が付いてるので、こちらも手元に来た。
ダミーの荷物とダミーの金袋は、諦めるしか無い。
今月のお小遣いが入ってたのに……。
上空を何かが飛んでくる気配を感じてふと上を見たら、ドラ吉が戻ってくる気配だった。
ずいぶんと早いな。
どうせ向こうで美味い物食べて長居するだろうと思ってたのに、ちょっと意外だ。
俺を見つけたドラ吉がこっちへやってきた。
「ぴゅぴー?」
「イヤ、何やってるのと言われても……」
「ぴぴゅ?」
「別に好きで全裸なワケじゃないっての。色々あったんだよ」
「ぴぴぃーっ!!」
「ん? 何を驚いて……あぁそれか、それは俺の生首だ。ちょっと一回死んじゃってさー」
「ぴぴゅいぴー!」
「誰が化け物だ! つかお前が言うなよ!」
ドラゴンに化け物って言われたし。
「後で何があったか説明するから、とりあえず服を着させろよ」
「ぴゅいー」
予備の服はダミーの荷物の中だが、次元収納にはまだ師匠たちに貰った赤・青・黄の、原色の旅装備一式が仕舞ってあるのだ。
あまりにも目立つので着たくなくて、放り込んでそのままだったヤツ。
とりあえず手を突っ込んで取り出してしまったのは赤……全身赤ってのもちょっとなー。
ここはせめて、手袋とブーツとベルトの色くらいは変えよう。黄色にでもするか。
反射魔法は光も反射するので、鏡代わりにしてコーディネートを確認。
あ、コレ駄目なヤツだ。
頭がパンでできた子供向けヒーローの配色だし。
そうだ、マントを青にすれば……。
うむ、なんとなく誤魔化せた気がする。
師匠たちの三色も全部使えてるし。
「ぴぃぴゅ」
横でドラ吉も頷いている。
うむ、コーディネートはこうでねーと……。
なんか落ち着かないけど、とりあえずコレで我慢しようっと。
後でいつもの茶色の服とグレーのマントを買うのを、忘れないようにしないとなー……。
とりあえず自分の生首が晒されているのは、マズそうな気がしたので燃やしておこう。
さて、これからどうしよう……。
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マキツユリ村の中には帝国軍がウロチョロしていた、まぁそうだろうね。
レジスタンスの連中はどうなったかな? アジトにでも行ってみよう。
…………
意外なコトに、アジトは無事だった。
「な……ナミタローさん!? 死んだはずじゃ!」
「アレは影武者だ」
「ぴゅい」
ガワーハくんも生きてたか、よしよし。
そして、なして影武者とか言ってしまった俺。
「影武者……そんなものまで用意を……」
そんなに素直に信じられると、おぢさん少し罪悪感。
「うむ、彼にはすまないコトをした。まさか毒殺を狙ってくるとは。ところで良く無事だったね」
たぶん帝国軍に襲撃されたんでしょ?
「幸いにも帝国軍はごく少数でしたから。ただ勇者がいたもので、我々は逃げるしか……」
まぁ、仕方ないよね。生き伸びただけ立派だよ、良い判断だ。
「すまんな。俺がその場にいたらなんとかできたんだが、帝国に気取られないよう密かに準備をしていたものでね」
「密かに準備ですか?」
「うむ、武器と防具をね」
その言葉を聞いた途端、アジトにいたレジスタンスたちがざわつく。
あれ? 前より増えてない?
まぁ数は足りるんだけどさ。
そう、俺はこのアジトに向かう短時間で、武器と防具を500セットほど作っておいたのだ。
適当な大量生産でも俺が作ったモノは、性能的にその辺の店売りなど比較にならない高性能である。
防具に至っては海王龍素材を使ってあるので、並の兵士相手ならこちらが素人でもそうそう怪我はしないだろう。
そんな反則装備を、レジスタンスどもに持たせてやるつもりなのだ。
レジスタンスたち大喜び。
「勇者は俺がなんとかしてやるが、どうする? 今度は前回と違って戦闘になるぞ」
「やりますよ! 今度こそ本当に村を開放します!」
ガハーワくんの宣言の後には、レジスタンスたちの歓声が待ち受けていたのであった。
俺の帝国兵への、八つ当たりの嫌がらせは始まったばかりである。
恨むなら、将軍をやっている勇者を恨むがよい!
…………
村には100人ほどの帝国兵しかおらず、勇者はいなかった。
300名に近くなっていたレジスタンスはいとも簡単に帝国軍を蹴散らし、マキツユリ村は再び――今度は完全に――帝国から解放された。
村は再び歓喜に沸いたが、今度は宴会なんぞしない。
モソーハソの街の解放へ向かって、準備を進めるのだ。
そんな中、待望の援軍が村にやってきた。
既に帝国軍に占領されてしまったセビャニ王国軍の残党、今はゲリラとなっているその数3000の軍。
それがレジスタンスに合流すべくやってきたのである。
更にモソーハソの街からレジスタンスに加わるべく、300名の義勇兵なる連中が加わってきた。
そんな人数が、よくぞ街から抜け出せたものだ。
あ、そういやあの街、防壁穴だらけだったっけ。
ゲリラたちの幹部とレジスタンスの幹部による作戦会議に参加してくれ、とガワーハくんに言われた。
めんどくさいけど、参加しないとダメかなー……。
断る理由が思いつかなかったので、仕方なく作戦会議の席へ。
ここで思わぬ、というかやはりというか――知った顔が席に連なっていた。
モソーハソの街にいた鉄板焼きの屋台の親父さんが、義勇兵の代表の席にどっかりと腰を据えていたのである。
「よう、久しぶりだな! あんたが武器と防具を調達してくれたんだって? しかも飛び切りの高性能な奴を500組も!」
相変わらずの重低音ボイスだが、なにやら生き生きとしているように感じるな。
他の義勇兵やレジスタンス連中とは違い、全身鎧が様になっているし。
「そこに座ってるってコトは、親父さんが義勇兵のリーダーなのかい? というか、あんた絶対にただの屋台の親父じゃないだろ? そろそろ正体を明かしてくれてもいいんじゃねーか?」
ガハハハ! と親父さんの豪快な笑い声が響く。
「ただの屋台の親父だよ! まぁ8年前までは、ソーミャット王国で軍人なんぞをやっていたがな」
そこへタイミングよく部屋に入ってきたガワーハくんが、話を聞いていたらしく親父さんの正体を俺に明かしてくれた。
「でもただの軍人じゃありませんよね。ナミタローさん、ヤイカゲさんはソーミャット王国では軍団長にまでなった方です。左目を負傷して軍を辞められましたが、次の将軍の候補にまで名前の挙がっていた方なんですよ」
「へぇー、そんな凄い人だったんだね」
屋台の親父の正体は明かされたのだが、ちょっとだけ疑問がある。
「ところでその左目って、回復魔法とかでは元に戻らなかったの?」
王国ならその程度のケガを治せる回復魔法の使い手なら、簡単に用意できるんじゃないのか?
「あぁ、この傷には呪いみたいなもんが付加されていてな、普通の回復魔法じゃ治らないらしいのさ。試しに解呪の魔法と回復の魔法、両方同時にも試して貰ったが駄目だった」
「ふーん……ちょっと俺にも試させてもらってもいいかな?」
試してみて駄目だったとか聞いちゃうと、ちょっと挑戦とかしてみたくなる。
「なんだ? 回復魔法を使えるのか?」
「まぁね、そこいらの回復系魔導士には、引けは取らない腕のつもりだよ」
「ほう、だったら頼む。治れば儲けものだしな」
ガハハハと、また豪快な笑い。
さて、許可も取れたコトだし挑戦してみるか。
………
なるほど、確かに回復魔法を掛けているのに、回復する兆しが全くない。
ふむ、どういうコトだ?
「やっぱり駄目か?」
「イヤ、ちょっと待って……」
ちゃんと細胞自体は活性化しているし、回復しない理由は――待てよ、もしかして――。
「ちょっとだけその傷の部分に、傷を付けてみてもいいかな?」
「傷に傷か?」
「あぁ、解りにくかったか。その傷のところの皮膚を、ちょっとだけ切って傷つけてもいいかって意味なんだが」
ちょっとだけ考えたヤイカゲさんは、真剣な顔で『いいぞ』と右目を光らせて許可をしてくれた。
解体用ナイフを『キレイになれ』の魔法で消毒、サッと左目の瞼の部分をちょっとだけ切る。
うっすらと血が滲んだところで、回復魔法を掛ける。
治った。
うむ、思った通りだ。
となると……。
ちょっと考えて、俺は魔法でヤイカゲさんの左目の解析を始める。
「何か判ったのか?」
俺の様子を見ていたヤイカゲさんが、興味深そうに俺に聞いてきた。
「この目は回復魔法の認識では治ってる。だから元に戻らないんだよ」
「うん? どういう意味だ?」
まぁそりゃ訳解らんわな、こんな説明じゃ。
「簡単に言うと回復魔法ってのは、破壊された肉体の状態を元に戻す魔法だってのは知ってるよね」
「まぁそのくらいは知ってる」
「ヤイカゲさんの左目は、肉体の情報を回復魔法が誤認識するような魔法が掛かってる。つまり左目の今の状態が、肉体の持つ元々の状態であると回復魔法が認識するようになってしまってる。回復魔法にとっては、今の状態が正常なのさ」
「なんだそりゃ? そんな事ができるのか?」
「できる。てか、誰が考えたのか知らんけど、よくそんなコト思いついたなー。魔法に情報の誤認識をさせる魔法とか、普通考えんぞ」
基本的には認識阻害の魔法の応用なんだが、回復魔法がまず肉体の元の情報を読み取って認識するときに、誤った情報を認識させるというややこしい魔法――コレ師匠たちに教えてやったら、大喜びしそうだなー。
「まさか、治せるのか?」
「あぁすまん、別なトコに意識が飛んでた――ぶっちゃけると治るぞ、面倒なのは認識阻害の魔法を解除するコトだけだし――――しっかし魔法探知の魔法まで誤認識させて、ご丁寧に呪いに認識させる徹底ぶりとは……いやはや考えたヤツには恐れ入るわ」
「考えた奴は違法な人体実験をしていた魔導士で、ロクな奴では無いがな。それより治せるなら治してくれると、有難いのだが……」
イヤ、すまん。つい面白い魔法だったんで、個人的な興味が優先してしまった。
「うむ、ちょっと待っててよ」
まず認識阻害の魔法をいじって、そして普通に回復魔法。
はい、おしまい。
ヤイカゲさんの左目は、しっかりと開くようになった。
おおー! と周りのギャラリーが沸く。
「治ってるハズだけど、どう? ちゃんと見える?」
「おぉ! すげぇ! ちゃんと見えるぞ!」
右目をつむって左目だけで辺りを見回すヤイカゲさん。
「鏡を見せてくれ」
部下の人に手鏡を持って来させる。
「おい……なんで傷が残ってんだ?」
ヤイカゲさんの左目は眼球だけが完治しており、刃物の傷はそのまま残っている。
「いゃあ、そのほうがカッコいいかと思って……」
あと、さっき覚えた回復魔法の認知阻害を使ってみたくて、つい……。
「いや、そこは治せよ!」
「だって絶対そっちの方がカッコいいじゃん! 強そうだし!」
「女房に何て説明すりゃいいんだよ!」
「変な魔導士に治されたからこうなった、諦めろとでも説明しろ!」
すったもんだやってるうちに会議の時間となったので、この不毛なやり取りは強制終了となった。
目のところに刀傷とか、絶対カッコいいのに……。
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モソーハソ解放戦は、あっさりと勝利に終わった。
数的には互角だったが、俺の作った武器防具を装備した精鋭とも言える500名の活躍と、隙間だらけで本来の機能を果たしていない防壁、さらには街の住民の蜂起による混乱、という要素が大きく勝敗を決定したのである。
街の住民は歓喜し、お祭り騒ぎとなった。
宴会はやらんぞ。
帝国軍は5000ほどの数が駐留していたのだが、壊滅状態で撤退した。
だが戦いはこれで終わりではない。
ゲリラ軍との約束で、次はセビャニ王国再興の為に帝国本国への奇襲をするのだ。
レジスタンスと義勇兵とゲリラは組織を統合して解放軍と名乗り、これからの帝国との戦では一致団結してコトに当たる予定になっている。
そして結成された解放軍は今、捕虜を尋問して帝国軍の動向の情報を引き出しているのだが……。
俺の出番とか特に無いし、ぶっちゃけ暇。
手間取っているようなら洗脳魔法でも使って手伝ってやろうかとウロウロしてたら、意外な知った顔を見つけた。というか、見つけてしもた……。
尋問官にびびりまくって情報をペラペラ喋ってる二人組――グリマント王国でオークの親子をいたぶっていた、ゲスな二人組であった。
カジャ婆がネルシャにクズの見本を見せようと雇っていたが、雷虎にびびって逃げ出してから行方が不明になってたけど……。
グリマント王国で見かけなくなったと思ってたら、こっちに流れていやがったか。
あ、向こうもこっちに気が付きやがった。
「あー! てめぇは!」
「うおっ! なんでこんなところに!」
知らんぷりして素っ呆けようかなー、と思ったら近くにいたガワーハくんが耳ざとく近づいて来た。
「お前たち、ナミタローさんの知り合いなのか?」
ガワーハくん、聞くんならこっちに聞こうよ。そしたら素っ呆けるのに。
「知ってるっつーか、そりゃ有名人だもんよ!」
「有名人?」
ガワーハくんが首を傾げ、何かを思いついたように質問を続ける。
「有名人というのは、どのような意味かな?」
あー、なんかイヤな予感がする……。
「そりゃあ勇者の育成をしてた奴だし……」
「探索王って言やぁ、グリマント王国じゃ知らねぇ奴はいねぇし」
「探索王! ナミタローさんが!」
「探索王……」
「そうだったのか……」
「あの人が探索王……」
くそー、やっぱしこっち方面にも探索王のコトは広まっていたか……。
「なるほど。只者ではないとは思っていましたが、ナミタローさんの正体は探索王だったんですね」
イヤ、逆じゃ無いかな? 探索王の正体が俺というのが正解なのでは?
んなコト考えてる場合じゃ無いな。
参ったなー、コレでまた探し物とか頼まれる日々になると、めんどくさいんだよなー。
…………
探索王の話は、瞬く間に解放軍内に広まった。
あのゲス二人組が、俺の正体を明かしてしまった結果である。
くそー、ゲスどもめー……やっぱあいつら、どこかに埋めておくんだったな……。
せっかく復活のスキルとか設定したので、使ってみたかったんです……。




