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31話 運営する者

毎度長らくお待たせをしております。

本年初投稿でございます。


 ネルシャ・ブロムノー 10歳


 俺が正式に仲間になった、勇者の女の子である。

 両親は健在で、王都から少し離れたタリボー村で家具職人をしている。

 カジャルールの婆さん(以下カジャ婆)もタリボー村の出身で、赤ん坊の頃からの知り合いなのだそうだ。


 ちなみにどうして勇者と判るかというと、赤ん坊の時点でステータスに『勇者』の称号が付いているのですぐ判るらしい。


 当然ながら生まれてすぐに大騒ぎとなり、玉石混合の有象無象がやたらとネルシャに近づいて来た。

 果ては国の偉いさんまでやってきたので『勇者はその土地の民の為の存在であって、国家に利用されるべき存在ではない』との持論を持つカジャ婆が、ネルシャの盾になるべく勇者としての育成を買って出たのだそうだ。

 本来ならば育成はもう少し成長してからが普通なのだが、早めの育成はカジャ婆が自分の年齢を考えた結果である……。


 …………


 そして今俺は、タリボー村でネルシャのご両親に挨拶にきている。

 女の子の両親に挨拶……と言っても、もちろん『ネルシャさんを僕に下さい!』とかの挨拶ではない。

 今後、娘さんの育成は俺が担当させてもらいますよー的なヤツだ。


「なるほど、話は解った。こいつはカジャ婆から見て、信用できる奴なんだな」

 目の前の髭だるまは、ネルシャの親父さんでコモッタさんだ。

 歳を聞いたら、俺より一回りも若いでやんの……なんか微妙な気分だわー。


「あぁ……こいつならあたしが死んでからも、安心してネルシャを任せられる。それにあたしが直感持ちなのは知ってるだろ? スキルもしっかり信頼できるって言ってるよ」

「カジャ婆がこう言ってるんだからいいんじゃない? コモッタ」

 ネルシャのお母さんは強気そうな顔立ちで、コモッタさんより背が高い。名前はリクラーシャさんだ。


「だけど男ってのがなぁ……」

 気持ちは解る、俺があんたの立場でもそれは思うもの。

 世の中には少女どころか幼女が好きな人もいるからねー…………俺は違うからね、ホントだからね!

「大丈夫、そっちもスキルで確認済みだよ。小さな女の子に手を出す奴じゃない」

「ほら、安心じゃないの。コモッタは心配し過ぎなのよ」

「うん……まぁ、そうか……」

 カジャ婆……イヤ、カジャ婆の直感スキルよありがとう! これで俺がロリコンでは無いと証明された!


「15~6歳になったら判んないけどね」

 そっちは証明せんでいいから!

「そうなのか!?」

「あら15~6なら十分大人なんだから、有りじゃないの」

 こっちの世界では15~6で結婚とか普通にあるからなー……ではなくてさ、それ言っちゃうとコモッタさんが……。


「ネルシャはお前なんぞに渡さん!」

 ほら、こうなった……。

「イヤ、それは絶対無いから!」

「なにぃ! きさま! ネルシャの何が気に入らん!」

「どう答えりゃいいんだよ!」

「コモッタ! いいかげんになさい!」


 …………


 結局すったもんだの末になるがコモッタさんを説得し、なんとかネルシャ育成の了承は取れた。

 探索王の名声がその際に役に立ってしまったのが、何か納得いかない……。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「で、まだ来ないの?」

 カジャ婆が俺の次にネルシャを任せようとしている相手に引き合わせようと、店で待ち合わせているのだが……待てど暮らせど来ない。

「忙しい奴だからね」

 目立たないが高級そうな店で個室……人目をはばかる相手じゃなかろーな。


 コツコツとノックの音がした。

「お入り、遅かったね」

 カチャリと音を立てて、年配の男が入ってきた。年齢は俺より上……還暦前後というところか。

 佇まいに威厳を纏っているのが気になる。常に意識的に威厳を見せつけねばならない立場の人って、こんな人多いよね……。


「会議が想定より長引いてしまった、遅れて申し訳ない」

 頭は下げられる人らしい。

「何の会議かは聞かせないでおくれ。じゃあ早速始めるよ、こいつがナミタローだ……で、こいつはドルッポ」

 カジャ婆に紹介されたので、挨拶しておこう。

「ナミタローだ、よろしく」

「ドルッポだ、噂は聞いている」

 ガッチリと握手……案外力強い。


「ちなみに噂ってどんなの?」

「"探索王"の噂を……実は君に依頼もしている」

「あれはアンタだったか……」

 毒耐性の指輪(強)を探した依頼は、この人から出ていたのか。

「できればもう一つ頼みたいのだが……」

「その話はこっちの話が終わってからにしとくれ。どうせ仕事がらみなんだろ? ドルッポ」

 カジャ婆が話を遮った。


「その通りだ。すまん、カジャさん」

「宰相としての務めは横に置いといてもらうよ、あたしにはネルシャのほうが大事だからね」

 偉いさんだとは思ったが、宰相さんでございましたか……。


 …………


「それじゃあ2~3年で交代できないかもしれない、と?」

 話が違うんじゃねぇですかい? 宰相の旦那。

「今抱えている案件がとても面倒でね、2~3年で終わる保証はできん。もちろん1年も掛からないかもしれないが、可能性は薄いだろう」

 へ~、さいでっか……。

「あんたが宰相の座に居ようが居まいが、あたしは大して変わらないと思うけどねぇ」

「イヤ、カジャ婆……事実だとしても、それ言っちゃいますか……」

 本人に失礼っしょ。


「二人とも大概失礼ですね」

 へ? 俺も?

「国や民の将来が掛かっているんです。だから無能な奴らには任せられんのですよ」

 自分の代わりになりそうな人たちを、無能と言い切っちゃったよこの人……。

「まぁ、いいけどね。あたしはあんたよりナミタローに長くネルシャを鍛えて欲しいから、引継ぎの時期が延びるのは大歓迎だよ」

 ドルッポさんがムッとしている。


「なんだいドルッポ、その顔は。あんた宰相になってから、無駄にプライドが高くなってないかい?」

「そんな事は……」

「ナミタローの育てた従魔を見せてもらうといい。その上で自分がそこまでの従魔を育てられるか考えてみな、自ずと答えは出るはずだよ」

 えーと……ドラ吉は評価対象から外しておいた方がよろしいかと……。


「あぁ、そういやもう一つの頼み事とか言ってたけど、何か探し物? ホントなら偉いさんの探し物とか断るけども、知り合ったのも縁だし一つくらいならいいよ」

 ドルッポさんが叱られた子供みたいになってきたので、少し助けてあげよう。


「そうか! 頼まれてくれると有難い!……実は毒無効の魔道具が欲しいのだ」

「ん? でもこないだ毒耐性(強)の魔道具手に入れたよね。アレじゃダメなの?」

「うむ、やはり毒無効が欲しい。もちろん見つかったらで構わない、滅多にあるものではない事は承知しているからな。実はここだけの話……」

「あー、ここだけの話はいらないから。そっち系の話には、あんまし関わりたくないし」

 毒の関わる政治的な話とか、絶対ヤバい話じゃん。


「もし見つかったら持ってくよ。誰かに預ければいいかい? それとも直接渡す?」

「直接で頼む」

「了解~」

 そのうち適当なの作って持って行ってやるべ。


「そうだよ、忘れるところだった」

「何を?」

 カジャ婆も知力のパラメータ下がってるからな~……ボケが始まって……。

「ナミタロー、あんた今失礼な事考えなかったかい?」

「いえ、何も……」

 何でバレた……。


「まぁいい。ネルシャの武器を探しとくれ、ナミタロー」

「それ、探すの?」

「そうだよ、あんた勇者の聖属性武器はどこで手に入れると思ってるんだい?」

「勇者に代々伝わるとかじゃないの?」

「違うよ、探索で見つけるんだ。というよりも何かの依頼をこなしているうちに、いつの間にか目の前にある……ってのが普通なのさ。それと勇者の武器は一代限りで消える……だから引継ぎなんか無いんだよ」

「ふーん……でもそれなら、探す必要って無くない?」

「あんたが探せば、早く見つかるかもしれないだろ。ネルシャに早く聖属性武器を持たせたいんだよ」

「探せば見つかるってモノでも無いと思うんだけどなぁ……」

 まぁカジャ婆も、早くネルシャが聖属性武器を持つのを見て安心したいのだろう。


「そろそろ私は失礼させてもらいますよ。今頃部下が政務を抱えて待ちくたびれているでしょう」

「いいかげん部下に任せる事を覚えなよ。どうせ結果は大して変わりゃしないんだから」

「そういう訳にはいきませんよ。国を運営する者として、責任を持つ立場ですからね。仕事から逃げる事はできません」

 そう言って、ドルッポ宰相は去っていった。


 国の運営ってのも、大変そうだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 程なくして、カジャ婆が他界した。


 出会ってから約二か月、ネルシャ育成において頼れる先達を亡くしたのである。

 あの年頃の女の子をどう扱えば良いか学ぼうと思っていたのだが、カジャ婆もその辺りはかなり雑な人であり、あまり役には立ってくれなかった。


 その代わりと言っては何だが、さすがに長年冒険者をしていただけあって顔が広く、様々な人脈と顔つなぎさせて貰った。

 ネルシャ育成を頼まれた際に『自分の全財産で頼む』と言われたが、これも財産のうちだろう。

 もちろん金銭的及び物理的財産も受け継いでいる。育成にかかる費用は、別サイフにして必要経費をそこから出すことに決めた。


 ネルシャは泣いた。

 泣き止まぬネルシャを目の前に、俺は頭を撫でてやるくらいしか出来なかった。


 カジャ婆の墓は、出身のタリボー村に建てた。

 ネルシャの実家も同じ村なので、これ幸いと俺はネルシャが落ち着くまで両親に預ける事にした。


 ぶっちゃけ逃げたのでございますよ。

 どーしていいか、さっぱりだったんだもの……。

 あ゛ーこんなコトなら、娘の一人でも持っておくべきだった……イヤ、それはなんか違うか。


 こっちの世界に来て既に一年以上経過……現在43歳、独身……。

 あれ? なんか俺、人生で迷走してる?


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ― 数日後 -


 ネルシャも落ち着いたようなので、今日から冒険者ギルドの依頼を受けがてら育成を再開。

 とりあえずタリボー村のギルドで、依頼を物色中……。

「ししょー、あの依頼やりたい」

「ん? これか?」

「うん」


 一枚の紙には『不明者の捜索』木こりのシェンズさん父子が帰ってこないから、探してくれとの依頼が書いてあった。

「ひょっとして知り合いか?」

「うん、お父ちゃんがたまに木を買ってた木こりさん。ショントはあたしより二歳年上だよ」

 ショントとはシェンズさんとやらの息子らしい。


 ネルシャのレベル上げには役に立たなそうだが、気分を変えるにはいいだろう。

 忙しさは、喪失感を紛らわせるのに役に立つ……。

 その辺はさすがに経験上判る、伊達におっさんはやっていないのだ。


 …………


 依頼を受けて、早速シェンズさんが仕事してたらしい森の中へ。

「切った材木が放置してあるな……切り株も新しそうだし、たぶんここに居たんだろう」

「ぴゅいー」

「その辺探してきていい?」

 と言われてもネルシャ一人で行かせるのは危ないからなー。

「ドラ吉とゴブ太連れて行くんならいいぞ。ドラ吉、ネルシャを頼む」

「わかったー」

「ぴゅい」


 ドラ吉は既にネルシャの肩にスタンバイしている。というより、既にネルシャの左肩を定位置にしてしまっていた。

「ゴブ太ー、行くよー」

「わかりましたー」

 ネルシャがてとてと進み、呼ばれたゴブ太が従者のように付いて行く。


「さて、どーすっかなー」

 とりあえず木こりのジェンズさんが最近伐採場にしている辺りを聞いて、ここまでやってきたのはいいが……ここからはノープランである。

 いつものごとく、テキトーに歩き回るか……。


「ししょー! ししょー!」

 ネルシャに呼ばれた……まさかと思うが、そんな近場でもうジェンズさんを見つけたのか?

「どうした? ネルシャ」

 呼ばれたほうに向かうと、ネルシャが地面の何かを指さして……短剣?

「これ、だれかが落としたのかな?」

「ジェンズさんたちの持ち物……じゃあ無さそうだな」

 けっこう良い値がしそうだし、木こりの持ち物とも思えん。


「ししょー、はいこれ」

 ネルシャがひょいっと短剣を持ち上げて、俺に渡してきた。

「うむ」

 受け取ってしまった……どうしろと?


 なんとなーく眺めたら、聖属性の短剣だというコトが判った。

 聖属性の短剣? ひょっとして、勇者武器か?

 試しに握ってその辺の枝を切ろうとしたら、短剣に使うのを抵抗された。

 イヤ、俺なら無理やり使おうと思えば使えるんだけどさ……。


「ネルシャ、試しにこの短剣でそこの枝切ってみ」

「ん、これでいいの?」

 いとも簡単にスパッと枝が切断される。短剣が抵抗した様子はない、間違いないな。

「ネルシャ、その短剣はたぶんお前のだ。勇者の聖属性武器ってヤツだな」

「えー……これがー……」

 気に入らないようだが、気持ちは解る。勇者の武器が短剣とか……あんましカッコ良くないよねー。

 もうちょっとなんとかならんのかい、神様よ。

 ちなみに今までは、片手剣を両手で使わせていた。


「ちょっと待ってろ。今、鞘作ってやるから」

 抜き身を持たせたままってのも、危なっかしいしな。

 材料はその辺の木材と木の皮でいいか……。


「これがあたしの武器かぁ……」

 がっかりしているネルシャに……。

「ほれ、できたぞ」

 紐を通した木の鞘を放り投げてやる。


「早っ、もう出来たの? ししょー」

「お前の師匠は一流の職人だからな」

 早速鞘に短剣を収めるネルシャ。

「おぉー、ぴったし」

「とりあえずその紐で体に縛っとけ」

御意(ぎょい)!」

 なしてそんな返事を……これは普通に返事するよう教育すべきなのだろうか……。


 さて……わざわざ聖属性の武器をネルシャにくれたというコトは、悪魔がその辺に居たりするのかな?


「うわあ! なんだこれ? 糸?」

 おや? 早速ゴブ太が何かに引っかかってくれたようだ。

「き、切れない! なんだこの糸!」

 へー……ゴブ太の普通の鉄の剣+5804で切れないとか、普通の糸じゃないのか……。


「ネルシャ、短剣で糸切ってゴブ太を助けてやれ」

 何事も物は試しである。

「わかった!」

 ゴブ太の元へ素早く近寄り、短剣を振るうネルシャ。スパスパッとあっさり切れる糸……イヤ、そこまであっさり切れんでも……。


「た、助かりましたー」

 ゴブ太が礼を言うが、ネルシャは無視して一点を凝視している。その先には体長2mはあろうかというコゲ茶色の蜘蛛が糸で網を編んでいた。


「ネルシャ、戦うなら短剣でな」

合点がってんだ!」

 だからどこでそんな返事を……って、犯人はカジャ婆だよな、たぶん。


 蜘蛛が網を投擲してきたが、ネルシャが短剣であっさりと切り裂いた。

 ついでとばかりにネルシャが一番手前右側の脚を切り飛ばすと、蜘蛛は糸をまき散らしながら後方へと跳躍しながら逃げて行った。


「ししょー! 追いかけよう!」

 こっちに許可を取りつつ、追いかけようとしたので……。

「ちょっと待て、急がなくても大丈夫だ」

「えー、どして? 逃げちゃうよ」

 どしてと言われてもだな……その……たぶん悪魔がお前の経験値になるべくその先に居てだな、たぷん見失ってもちょっかい出してきて居場所を教えてくれるからなんだが……。


「お前の師匠は"探索王"だぞ、さっきの蜘蛛をみつけるなど造作も無いコトだ」

「「おおー!」」

「ぴゅ?」

 ネタバレはしちゃマズそうなので、それっぽい事を言ってごまかしておく。

 ネルシャとゴブ太はごまかされたが、ドラ吉には疑問形の目で見られてしまった……さすが付き合いが長いだけはある。


「とりあえず、蜘蛛が逃げた方へ向かおう」

 真っ直ぐ行けばたどり着くんじゃね?


 …………


「ししょー! あれ!」

 うん、本当にたどり着いたね。

「さすが主様(あるじさま)

「ぴゅい」

 辿り着いた場所には洞窟と思しき穴が開いており、その穴の前には先ほどの蜘蛛と毎度おなじみイベント担当……悪魔さんがいた。


「まず蜘蛛を倒せ、悪魔は後回しだ。ゴブ太はネルシャのアシストをしろ」

合点(がってん)です!」「はいー」

 ネルシャとゴブ太が蜘蛛を相手取る。

「ぴゅぴ?」

「お前の出番は無し、蜘蛛と悪魔はネルシャの経験値用だからな」

「ぴゅーい」

 おや、戦闘狂のドラ吉がずいぶんと聞き訳がいいな……成長したかな?


 ドラ吉と一緒に、板チョコ食いながら観戦。悪魔もこっちが動かないからか、動きが無い。まぁチラチラこっち見ながらなんだが……お前もチョコ食うか?

 ゴブ太が蜘蛛の脚を次々と切り飛ばし、ネルシャが止めを刺して対蜘蛛戦は終了した。今のところ、ゴブ太の方がネルシャよりかなり強いな……。

 さて、あとは悪魔だけだ。


「待て」

 ネルシャが戦おうとしているので止める。闘う前に、一応確認しておかねばならないことがあるのだ。

「木こりの親子が行方不明なんだが、お前の仕業か? 悪魔」

「ホう、ヨく分かったな。ドう窟の奥にイるぞ」

「なんで(さら)った」

「ク蛛の子たちのエサにする為だ、モうじき卵からカえるのだ」

 ふーん……今回はそういうイベントかー。


「ししょー、もうやっつけていい?」

「いいぞ、ゴブ太は引き続きアシストな」

 ネルシャだけだとまだ勝てまい。

「行くよ! ゴブ太!」

「あ、はいー」


 ネルシャとゴブ太が切りかかるも、攻撃がなかなか当たらない。

「んー、動くなー!」

「ネルシャさん! 挟み撃ちに!」

 ゴブ太の指示で悪魔を前後から攻撃するが、ネルシャの短剣が切り裂いた瞬間に悪魔が消えた。


「えっ?!」

「消えた?」

 ネルシャとゴブ太がキョロキョロと見まわしてるが……。

「ソれは分身のニセモノだ、ワたしはここだ」

 悪魔は空中に居た。


「いつの間に?!」

「サっきから居たぞ、ミえなかったか?」

「コっちにもイるぞ」

「コこにもイるぞ」

 次々と悪魔が分身していく。


「フはははは、ワたしに攻撃を当てられるカな?」

「くっ、当たらない」

「どれが本物?」

 さらに増えていく悪魔。

 やがてネルシャとゴブ太が悪魔に覆われて……イヤ、多すぎね?

 もうなんか二人とも見えねーし、さっきから俺たちの周りまで分身がポコポコ湧いて出てやがるし……。


「あー! もう、うっとーしいわ!」


 ズバシュ!

 あれ? なんか手ごたえが…………あれ? 何故悪魔が真っ二つに……。

 …………

 えーっと……俺はただうじゃうじゃと目の前の悪魔の分身たちがうっとーしかったので、なんかつい木刀を振って視界を確保しようとしただけで……だから……その……そこに本物がいたなんて思わず……。

 …………

 ハイ、やっちまいました……ごめんなさい……。


 誰にも気づかれないように悪魔に回復魔法を掛けてみたりしたのだが、時すでに遅し……ネルシャ用に出現してくれた悪魔さんの経験値は、無駄になってしまいました。

 イヤ、ホントにすまん。

 あー……なんか神々しい圧迫感が俺に向けて放たれてる気がする……。

 イヤ、気のせいじゃ無いな……本当に圧迫感が強くなってきた。


「ししょー、すごい……」

「さすが主様です!」

「ぴー」

 みんなに関心されているのだが、実際には"やらかし"なので全く喜べん……。


「ま、まぁこれくらいの見極めはできないとな。あははは……」

 立場上このくらいは言っておいた方がいいよね?

「あたしもできるようになるかな?」

 ネルシャがキラキラ目で聞いて来たので……。

「もちろん出来るようになるさ。頑張り続ければ、そのうちにな」

「ほんと? じゃあ頑張る!」

「うむ、頑張れ」

 勇者のネルシャなら出来るようになるさ……たぶん。


「そうだ、早くジェンズさんたちを助けに行け。ドラ吉とゴブ太は、ネルシャについて行ってやれ」

「ぴゅい」

「はいー」

「えー、一人で大丈夫だよ」

「駄目だ、さっきの悪魔みたいのが出てきたらどうする? ドラ吉とゴブ太も一緒だ」

「はーい……」

 ネルシャは不満そうだが、まだまだ一人で行動させるにはさすがに頼りない。

 ふむ……洞窟へと入っていったな……。


 さて、どうして俺だけ残ったかというと……さっきから神々しい圧迫感が半端なくなっているのだ。

 何と言うか、神様のジト目の圧力とでも言うのが適切なのか……。


 そしてその声は聞こえた。

「それで? ごめんなさいは?」

 頭の上……神々しい圧迫感のする場所から声がしたので見上げてみると、ぽっかりと開いた空間に白い空間が浮かび、その白い空間の中で水色の布を纏った、けっこうな美人さんがプンスカしていた。


「えーと……ごめんなさい」

 やらかしたのは事実なので、素直に謝っておく。

「まったくもう! せっかく勇者のために用意した経験値なのに、無駄になっちゃったじゃない」

「深く反省しております」

「無能め」

 無能はちょっと聞き捨てならんぞ。

「イヤ、さすがに無能とかどうなのよ。そもそも育ってもいない勇者にあの能力の悪魔って、ちょっと無理がありすぎるんでない?」

「あんたなら何とかするだろうと思ったのよ。実際やろうと思えば出来たでしょ?」


「出来ないコトは無かったろうけど、それ考える前に殺っちまった」

「無能め」

「またそれかい……そう思うなら次から力押し系の悪魔にしてくれ。そのほうが簡単だし」

「仕方ないわね、そうするわ……言っておくけど、次やらかしたら神罰だからね」

「へーい」

 本当に反省してるのかしら……などとブツクサ言ってるので、前々から気になっていたコトを質問してみよう……と、その前に基本的な確認をしておかねば。


「一応聞くけど、神様だよね」

「そうよ。そういえば名乗ってなかったわね、あたしは女神アルミトゥシュ。神界からあんたの事ちょくちょく見てたから、初めてな気がしなくてつい挨拶省いちゃった」

「あ、一応俺も挨拶しとく、ナミタローだ。てかさー、覗きとは趣味が悪いぞー」

「あのね、あんたみたいな規格外を監視無しで放っておける訳がないでしょう」

 うむ、正論だ。


「あの悪魔って、あんた……じゃなくて神様が寄こしてるんで合ってる?」

「あんたでいいわよ。一応、悪魔でイベント起こすのも、勇者の地位と名声を築くのもあたしの仕事だからね、面倒なのよこれが」

 やっぱそうだったんだ。

 なんかうんざりした顔してるから、本当に面倒なのだろう。


「そうだ、勇者の聖属性武器もあんたの担当か?」

「そうよ」

「あのさー、勇者武器が短剣とかどうなのよ。もうちょっとカッコいい武器にしてくれりゃ良かったのに、ネルシャもがっかりしてたぞ」

 惜しい……武器が短刀だったら、担当が短刀をとか言えたのに……。


「仕方ないじゃない。体が小さいからリーチも短くて長い武器無理だし、体重が軽いから武器も軽くないと上手く操れないでしょ? そもそもあんな歳で勇者活動とか、想定外なのよ」

 あれ? こっちが悪いの?

「じゃあ大きくなったら、もっと立派な武器くれるとか?」

「いやよ面倒くさい。ていうか、そんなに立派な武器を持たせたいなら、自分で作ってあげればいいじゃない。作れるでしょ?」

「へ? いいの? 勇者武器だから俺が作っちゃマズいかなと思って、遠慮してたんだけど」

 いいなら作っちゃうよ?


「いいわよ。その代わり勇者が死んだら、武器も一緒に消えるようにしておいてね。あと聖属性にするのは絶対に忘れないで」

「あいよー」

 そうか作っていいのか……どんな武器にしようかな……。

「……ねぇ、これから勇者の聖属性武器作るの、あんたに任せてもいい?」

「イヤ、なんでそうなるよ。自分の仕事なんだろうが」

「だって、面倒くさいんだもん」

「俺だって面倒くせーよ! だいたいこれからの勇者ったって、そう何人分も作れるほど長生き……」

 そこまで言って思った。あれ? ひょっとして長生きしちゃうかな?……。


「するわよ、長生き。だってあんたの寿命、設定されて無いもの」

 寿命が設定されて……無いですと?……。

「まぢで?」

「うん、まじで。一応ほら、あたしはこの世界の管理まかされてるから、寿命見たりできるのよ。だからまじ」

 長生きしそうだとは思ってたけどさ……まさか寿命が無いとは思わなんだ……。

 あれ? そうなると俺って……死なない? 再生とか復活とかヤバいスキル持ってるし……。


「だから勇者の武器だけでも手伝ってよー、一神で全部やるのは、本当に面倒なのよー」


 うーむ、死なないとなると今後の人生設計も考え直さねばいかんな……。


「そもそもあたしの仕事が多すぎるのよね。世界全体の調整はともかく、魔物の適正な強さと数の調整とか、悪魔を使って定期的に各地にイベント起こすとか、勇者の地位と名声を築かなきゃいけないとか、世界観が壊れないように文明を調整しなきゃいけないとか……」


 あんまし焦って観光すると、早々と飽きちゃいそうだなー。ペース落とすか……。


「だいたい世界観とか言われても、指示が適当なのよ! 自分で造ったんなら、管理まで自分でやればいいと思わない? 造るだけ造って管理運営は神まかせって、お前は何様だって感じじゃない?……まぁ造物主様なんだけどさ……」


 ずっと生きてると、世間から人認定されなくなっちゃうんじゃないか? 今から誤魔化す方法考えとかないといかんなー。


「ちょっと、あんた聞いてる?」

 あ、やばっ……。

「もちろん聞いてますよー。世界の管理と運営、大変ですよねー」

「そうなのよー。でも世界で暮らしてる連中なんて、裏方の苦労なんて考えて無いのよね。やれ暑いだの寒いだのとか、晴れの日が少ないから遊べないとか雨が少ないから作物が育たないとか、勝手なことばっかし言ってるし……」


 良かった、話半分でも聞いていて……にしてもほぼ愚痴だよね、コレ。


「争いは嫌だ平和がいいとか言われてもさー、そんなのあんたら人間が勝手にやってるだけで神様関係無くない? って言いたい訳よ。自分たちが止めればそれで済む訳でしょ? 戦争なんてさー」


 うむ、やっぱり愚痴だね。


「だいたい人間とかどうなろうと知ったこっちゃないってーの。こっちの担当は世界とか世界観なんだから、人間なんか大幅に数減らさなきゃそれでいいんだっつーの」


 愚痴ばっかなんだけど、コロコロ表情が変わって……なんか可愛いなー。


「ぶっちゃけ造物主様にはもう適当で構わないって言われてるんだけど、適当にやると今度は各土地の神連中が煩いのよー。適当でいいって言われてるんだから、少しは融通利かせればいいのにあの連中は……」


 うん、いろんな表情が見てて飽きない。おや? 惚れたか俺。


「もうさー……主神さまーとか言われてるけど、現実は中間管理職みたいなもんだったのよ。それがさー、造物主様にいきなり『もうこの世界は存分に楽しんだから、あとは適当によろしく~』とか言われて、この世界全部丸投げされたのよ? いきなり世界もらっても困るっての」


 つか、ホントに愚痴ばっかしだな……まぁ面白いからいいんだけどさ。


「世界を運営する苦労とか、少しは誰か解れっての。しかもこんだけやってるのにタダ働きみたいなもんなのよ? 信じられる? 一応神殿なんかにお供えとかされてるけど、肉体がある訳でも無いから別に食べられたりしないじゃん。意味ないよねー」


 少しは相槌も打っておいてあげよう。


「そうだよねー。運営してもらってるんだから、少しは課金しろって話だよねー」

「そうなのよー。課金?てのは良く解んないけど、少しは報われてもいいと思うのよねー」

「実際、何して欲しかったりするの?」

「う~ん、そう言われると特に何ってのも無いんだけどさ……できる事ならあんたみたいに、その辺ホイホイ遊んで歩きたいわねー」


「できないの?」

「巫女とかに降りて、顕現することはできるけど……せいぜい1~2分なのよね。しかも一度降りたら、巫女が回復するのに最低でも一年かそこいらは掛かるし。あたしを降ろせる巫女なんて滅多にいないし……お菓子つまむのが精一杯の時間なのに滅多に降りられないのよ……」

「それはなかなか……ストレス解消とかできませんな……」

「そうなのよー……」


 ここで今更だけど素朴な疑問。

「それはそうと、人前にこんな風に出てきて良かったの?」

「普通は良くないわよ。でもあんたの場合、造物主様が連れてきた異世界人だからいいかなーって思ってさ」

「テキトーだなー」

「そんな事無いわよ。異世界人とか想定外だから、頭の固い部下神連中もあたしに判断を任せるほか無いのよねー。だからあたしの権限で堂々と出られるのよ、理にかなってるわ」

 さいですか。


「てか、長話してるうちにそろそろネルシャたちが戻ってきそうなんだが……」

「あー……まだ話し足りないのにー」

 愚痴り足りないでなくて?

「とりあえず消えた方がいいんでない? 話はまた聞いたげるからさ」

「本当?! 実は話し相手に飢えてたのよー。部下神連中は作り笑顔で適当に相槌打つだけだし、神殿で人間相手にだと迂闊なことは言えないし……なんかこう……対等に話し合える相手っていうの? そういう相手が……」

 まだ話しますか……ネルシャたちの気配が、すぐ近くまで来てるんだけどなー。


「イヤ、もう洞窟の入り口近くまで来てるから。ほら、早くしないと」

「そうね、そろそろ消えるわ……そうだ! 今日からなるべく一人部屋で泊ってね、話しに行くから。じゃ、またねー」

 そう言って、女神のおねーさん……たぶん年上だからおねーさんでいいよね?……は去っていった。

 良く喋ってコロコロ表情の替わる女神様だったなー……話の内容はほぼ愚痴だったけど。


 まぁ……なんだ。


 どこの世界でも、運営さんて大変なんだなー。

なろうの運営様、愚痴ってもいいでいすよー。

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