30話 面倒な依頼
祝♪30話
「で、探してほしい物って何?」
次の日、バドントさんに依頼内容を聞いている俺……約束だかんね。
「ちょっと待ってくれ……まだ頭が……」
勢いであんな強いウォッカなんか飲むから……飲ませたの俺だけど。
お茶をがぶ飲みして、バドントさんがちょっとだけ復活した。
懐から地図を出す。
「えーとですね……ジオタオからグルジンベの間で船が襲われたんですが、その時に貴重な魔道具が川に落ちたらしいんです。落ちた場所はこの辺りです……この程度しか情報が無いのですが、見つかりますかね?」
「さぁ……探してみないと何とも……本当に川に落ちてるならたぶん見つかると思うけどね」
「ぴゅ」
「一応これが、魔道具が入っている箱の絵です。原寸大になっています」
何の変哲もない木製の白い小箱。
「中身は?」
「指輪と聞いています」
「ちなみに何の魔道具?」
「すいません、何かまでは……」
そこ大事なんだけどなー。
「一応探してはみるけど、見つかる可能性の方が低いから。そこは理解しておいてね」
「それはもちろん」
「あと一つお願いしても良い?」
「何でしょう?」
「自前の船で探しに行こうと思うんだけどさ、ナトカ川の航行許可貰えない? 時間もったいないから書類審査で通してくれると助かるんだけど」
「申請はしてみます。船はどちらに?」
「次元収納持ってるからね、その中」
「次元収納! それはやはり探索で見つけたのですか?!」
「うん、そうだよー」
もうここまで有名になっちまったんだから、せいぜい探索王の称号は便利に使わせてもらおう。
なんかこの流れだと『世界を股にかける探索王』コースに乗ってしまいそうな気もするが……。
「じゃあこれ、船の構造図と申請書類ね」
もちろん船の構造図は嘘っぱちだ。
王都の門番に依頼を仲介させた上にさっきから欠片も名前が出てこない依頼主なら、たぶん偉いさんか偉いさんに顔の効く人物だろう……だから書類審査だけで通るよね?
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案の定船の件は、書類審査で通った。
外観だけは役人さんがチェックしに来た……だけど次元収納から出すところをじっくり見てたんだよね、物珍しいからなんだろうけど……念のためダミーの収納も作っておくか。
「川で進水式ってのも、これはこれでアリだな」
船は重力制御で移動するけども、人目があるので陸からゆっくりと川へ滑り下りさせた。
一応魔道制御で動く船とは申請してあるけど、念のためだ。
「ぴー」
ドラ吉がシャンパン……ではなく瓶に入った焼酎を船にぶつけて割る。
さぁ出航だ!
…………
とりあえず船内ではなく船上で、乗り心地を満喫……うむ、当たり前だが揺れが船。
ゴブ太は面白がってあちこち移動しながら、景色を眺めている。
ドラ吉は、何故か舳先に陣取って微動だにせず前方を見ている。お前は船首像か!
あとでドラ吉用の台座を取り付けてやろう……。
ちなみに今は下流に向かって進んでいる、じき賊に襲われた地点だ。さすがに流れがあるので、そこから上流に落ちているとは考えにくい。
「この辺だよな」
「ぴゅい」
「地図だとこの辺ですー」
賊に襲われた地点に到着し、ここから船内に入る。
船内は全周囲モニターとなっているので、下を見れば川底も見えるのだ……水が奇麗なら。
そしてこの川は……当然濁って見ずらい……。
「さて、どうするべ……」
濁った水に潜っても楽しくないので、できれば潜りたくない……。
「よし、このまま川を下ってみよう」
「ぴゅ」
運と直感スキルに丸投げするコトにした。
川底を眺めながら、ゆっくり川下り……面白かったのは最初だけ、すぐに飽きた。
清流とかなら良く見えて楽しいんだろうけどさー。
「うえぇ……」
川底ばかり見ていたのでゴブ太が酔った、吐くなら外でな……。
…………
「海だな」
「ぴゅい」
「海ですねー」
結局海へ出てしまった……。
魔道具の指輪は見つからなかった。俺の運と勘が仕事しなかったんだから、川には無かった……コトにしておこう。
「せっかく海に来たから、水中も行ってみようか」
海の中を航行……全周囲モニターだから、ノーパシー深海国へ行ったときに乗ったモキール号よりも断然眺めがいいな。さしずめ動く水族館。
「魚がたくさん見えますー」
「ぴぴゅー」
「ついでだから、地中も行ってみようか」
地中航行開始!
海底の砂をかき分け地中へ。延々と続く地中の景色……。
「びー」
「土ばっかりですねー」
うむ、つまらん。もっとワクワクする予定だったのに……何故だ?
何故なのかひとしきり考えたら、答えは出た。
そうか! ドリルじゃないからだ! 何故船首にドリルを付けなかった、俺!
ドリルは漢のロマンだというのに……。
よし、2号には付けよう! 今のところ作る予定は無いが。
と、気を取り直し今度は……。
「空も飛んでみるか」
念のためステルス機能をオンにしておく、空飛ぶ船とかなんかマズそうな気がするので。
飛べ! 船! そういや名前をつけて無かった……。
快調に空を飛ぶ船……。
「うむ……これもイマイチだな」
「ぴゅ」
「普通に飛んだ方が楽しいですねー」
考えてみたら日頃から空をひょいひょいと、生身で自由に飛び回ってるからなー。
結論:船は基本的に海で使いましょう。
………………
昼飯のために、港街ブランラへ寄る。
ブランラはナトカ川の河口にある街だ、海鮮うどんが有名なのだそうだ。
ゴブ太が対戦した火蜥蜴の飼い主のポンパニャさんに従魔OKの店は聞いてあったので、すんなり食事は出来た。
シャコの天ぷらとか初めて食ったな……。
さて帰ろうかと港へ行き船に乗ろうとしたら……俺の船に偽装で付けてある救命浮き輪に、何かが引っかかって……。
「えーと……これは……」
そこには何の変哲もない白い木の小箱。うん、探し物見つかったね……。
考えてみたら木の小箱だもの、水に浮くよなー……川底に無いはずだわ。
自分の船に引っかかってた件については、もう驚かん。
「ぴゅいぴー」
「あー、それもそうだな」
一応、箱を開けて中身を確認してみる。
「まぢかよ……」
指輪だ……指輪なんだけれどもさ、毒耐性の指輪(強)だよねこれ。
鑑定するまでも無い。
だって俺が作ったヤツだものコレ……バイリバル王国の王都の冒険者ギルドに、10万ゴルダで売ったヤツ。
お前も、流れ流れてここまできたか……。
ちなみに耐性の魔道具は、何回も効果を発揮しているとやがては壊れる。
見たところ一度も効果を発揮していないようなので、俺はなんとなくほっとした。
毒耐性の指輪が効果を発揮するとか、どう考えても物騒だもの。
今回の持ち主が貴族の偉いさんとかだったら、たぶん大活躍なんだろうなー……。
図らずも貴族の偉いさんと、間接的な接点が出来てしまった気がする……引き受けなきゃ良かったかな? 面倒な未来が待っていなきゃいいんだが……。
…………
探し物も見つかったので、ナトカ川を上流へ向かい王都へ帰ろう。
帰りは船上で、ゆったりと景色を見ながら進む。
川の流れや鳥のささやきをBGMに、流れるのは目に柔らかな景色……秋の紅葉も楽しみだ。
春に桜ってあるかな……。
時折、船とすれ違う。
客船や貨物船、貴族の物と思しき豪華な船もあった。
何やらザワザワと声が聞こえる船が近づいてきた。見るとこちら側の岸、ウチの船の進行方向を指さしながらザワついている。
いったい何が見えるんだ? 別に何も……イヤ、何か光った。
「見えたかドラ吉」
「ぴゅい」
また光った……どうやら電光のように見える。何だろう?
気になるから、ちょっと見に行くか。
「ゴブ太、操縦頼む……適当に岸に着けといてくれ。行くぞドラ吉」
「ぴゅいー」
ゴブ太に船をまかせ、ドラ吉と共に俺は光の元へと飛んで行った。
…………
電光が当たったところでどうというコトは無いので、ほいほい近ずくと……いた。
あれは雷虎だな、図鑑で見た。
近くに人がいて……戦っているのかな?……。
良く見ると、一人は小さくて一人は年配の……おいおい、勇者と婆さんかよ。
勇者のレベル上げだろうけども、なして婆さんが苦戦する相手を選ぶ……。
こういうのは、婆さんが手加減攻撃できる相手を選ぶのが普通だろうに。
よけいなお節介かもしれないので、一応確認の声掛けをしてみよう。
「こんちはー、助けって必要?」
空から声を掛けてきた俺たちを、ちょっと驚いて二人が見る。
よそ見をした相手の隙を突こうと雷虎が電撃を飛ばしたので、障壁を張って防いでおいた。
婆さんたちがこっちを見てるが、返事が無い……やっぱよけいなお節介だったかなー?
そういや下種二人が見当たらんな……近くに死体も無いし、逃げたか?
「この子のレベル上げなんだが……いいのかい?」
ようやく婆さんが返事してくれた。
「素材貰えるならいいよ。そっちの目的はレベル上げなんだから、構わないよね」
それ程欲しい素材ではないけれど、こういう時は何か要求した方が警戒されず話が早い。
「じゃあ頼むよ」
婆さんが半分呆れたように苦笑いをする……見透かされたか、お人好しだと思われてるんだろーなー。
否定はしないけどさ。
「あいよ。ドラ吉ー、あれ死なない程度にボコって」
「ぴゅい」
「レベル上げ用なんだから、殺すなよー」
「ぴー」
レベル上げ用にボコるのは、ゴブ太のレベル上げで慣れたもんだ。たまに殺っちまう時もあったが……。
雷虎は見た目トラで、大きさは全長で4mくらい。
雷撃を出す時には、黄色の地色が金色に光る。
格闘での攻撃力がとにかく高く中距離での雷撃は金属鎧の脅威になり得るので、遠距離攻撃の魔法か弓矢等で攻略するのが普通だ。
まぁ目の前で雷撃なんか物ともせずに、簡単に拳でボコってるヤツがいるのだが……。
「そろそろいいんじゃね」
「ネルシャ、とどめ刺しておいで」
「うん、わかった」
てけてけっと走っていくネルシャちゃん。
「あんたたち、強いんだね。もう一匹の従魔の試合も見たよ」
「まぁ、それなりにね」
「ちょいと頼みがあるんだけどさ」
「頼みによる」
探し物とかなら断る。
「あの子のレベル上げの手伝いを頼めないかね、最近ちょいと辛くなっちまってね……」
その言葉に俺の直感スキルが敏感に反応した……そうか、そうだったか……。
「……いつからだ」
「気が付いたのは、ついさっきだよ」
「なるほど、それで雷虎に余裕で勝てると思ったら苦戦した……と」
「もう少し時間があると思ってたんだけどねぇ……」
この世界の爺さん婆さんは強い。年を取っても、レベルもパラメータも下がらないからだ……そして寿命の2~3ヵ月前から急激にパラメータが下がり始める。
目の前の婆さんの命は長くはないようだ。
それにしても勇者に縁があるよなー、俺って……ま、いつものコトか。
引き受けてもいいけれど……。
「いつまでやれと?」
「貸しのあるやつがいるから、そいつに引き継がせるつもりなんだけどね……仕事がなかなか辞められないらしいから、2~3年頼まれてくれないかね」
「長げーよ」
「あたしが死んだら全財産やるから、それでなんとか頼むよ……これでも腕の立つ冒険者だったんだ、報酬としちゃ十分な額はあるはずだよ」
「それ頼みっつーより、ほぼ遺言じゃねーか」
「依頼だよ、い・ら・い」
「なんで俺に……って、なんとなく分かるけどさ」
「強いしお人好しだし、あと従魔を見ての直感だね……あんたが育てたんだろ?」
「あっちのドラ吉に関しては、俺の意図しない育ち方してるけどね」
「それでもいい従魔だ」
勇者の育成か……ちょっとやってみたい気もする。
女の子を育てて立派な勇者に……なんかそんな育成ゲームあった気がするな……。
う~む……ぶっちゃけ強くなるように育成するのは、けっこう自信があるのだが……。
人間形成とか人格形成のほうは、さっぱり自信が無い……そもそもこの年頃の女の子をどう扱えばいいんだか、良く判らん。
「倒してきたよー」
「ぴゅいー」
ドラ吉を左肩に乗せて、ネルシャちゃんがてけてけ帰ってきた。
「解体も手伝ったよ、この子すごいんだよ」
目をキラキラ輝かせている、つかドラ吉がネルシャちゃんの肩から戻る気配が無い……気に入ったのか?
「へぇ~、解体もできるのかい……大したもんだねぇ」
「そうでしょ? すごいんだよ、包丁でパパッとやっちゃうんだよ」
「ぴゅいー」
ドラ吉のヤツ、褒められてまんざらでもないようだ。
「そうだドラ吉、素材全部こっちで貰えるコトになったから、お前の収納に仕舞っといてくれ」
「ぴゅい」
「あたしも手伝ってくるー」
ドラ吉を肩に乗せ、ネルシャちゃんがてけてけ走っていった。
「とりあえずあたしが死ぬまでの間、やってみないかい?」
婆さんが、気持ちを見透かしたように勧誘してくる……ま、いいか。
「ふむ、じゃあとりあえず……」
「よし決まりだね!ネルシャこっちおいで!」
「なーに、カジャ婆」
間髪入れずネルシャちゃんを呼ぶ婆さん。てけてけてけ……。
「この人が今日から仲間になってくれるそうだよ、あっちのミニドラも一緒だ。仲良くやれそうかい?」
「うん、ドラ吉とはもう仲良しだよ! おじさんも『トマト嫌い仲間』だから、たぶん大丈夫」
逃げ道塞がなくてもやるってばさ……やり口が容赦ねーな、婆さん……。
「ナミタローだ、よろしくな」
「ネルシャだよ、よろしくナミタローおじさん」
「ネルシャ、ナミタローはこれからお前のことを鍛えてくれるんだから、そうだね……師匠とでもお呼び」
「ししょー?」
「師匠なのか?」
育成コーチ的なポジションをイメージしてたのだが……。
「そう! 今日からナミタローが師匠で、ネルシャが弟子だ!」
結び付きを強固にしたいんだろうけどさ、そこまでせんでも逃げんてば……。
「はい! お互いもう一回挨拶!」
婆さん、あんた体育会系だろ。
「よろしく! ししょー!」
「よろしく、ネルシャ」
弟子に"ちゃん"付けも変だろうし、呼び捨てにしよう。
「あたしはカジャルールだ、カジャ婆と呼んでいいよ。よろしく」
「ぴゅいー!」
素材を仕舞って戻ってきていたドラ吉も、ネルシャの肩の上で挨拶をする。
こうして俺は『勇者の育成』という面倒ながらも面白そうな依頼を、引き受けるコトにしたのであった。
女の子の扱いが判らんとかゴブ太の存在を忘れてたとか、些細なコトは気にしないでおこう。
あと何かあったっけ?
……そういや下種二人のコトも忘れてたな。邪魔になりそうなら、どっかに埋めるか……。
女の子勇者が正式に仲間となりました。




