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29話 不要な名声

闘技場回です

「ランパちゃん!」

「ぴゅー」

 ミニドラのランパちゃんと飼い主のミルタちゃんの、感動の再開だ。


 ランパちゃんの捜索も終え船を作るという目的も果たした俺たちは、王都グルジンベに戻っていた。

 勇者パーティーがあんなだとは思わなかったなー。


 一応依頼も終わったので冒険者ギルドに立ち寄り、依頼報酬の10ゴルダを手に入れる。

「また頼むよ」

 と、ドワーフのおばちゃん……ギルドマスターがおっしゃったので……。

「二度とやるか」

 と、丁重にお断りしておいた。


 …………


 ギルドを出て、ぷらぷら歩いていたらドアルに捕まった。

 ちなみにドアルはつい一昨日ランキング16位に挑戦して、やっぱり負けたのでまだランキングは18位のままである……こんな話が門を入ってからギルドまでの間で耳に入ってくるとは、口コミ情報恐るべし。


「ゴブ太の試合、決めてきたぞ」

「おおー……で、相手は?」

火蜥蜴(サラマンダー)、今のところ四連勝中の相手だ」

「強いのか?」

「強いし上手い、相手によって装備変えてくるんだよ……それがまた当たるんだ」

「飼い主が戦略家ってワケだな」

「強さ以上にやりにくい相手……注文通りだと思うぜ」

 対策をしてくる相手にどう戦うか、ゴブ太にはいい経験になりそうだ。

「約束通り、一杯奢るよ」

 今から対戦が楽しみだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 で、試合当日の闘技場。試合場への入場扉前。


「緊張しますー」

 いつもの装備(きぐるみ)でスタンバイ中のゴブ太。

 試合には装備の制限は特に無い、過度でなければ良いという運営のさじ加減一つの適当なルールだ。

「ぴゅー」

「緊張はしておけ……緊張していても出せるのが本物の実力だ」

「はいー」

 そろそろ出番かな?


 扉が大きく開いて、大きな歓声が入り込んできた。

「さぁ! 黒の門からゴブリン(キング)のゴブ太選手の入場です! 主はナミタロー・ヒラナカ!」

 場内アナウンスに促され、ゴブ太と俺の入場だ。

 ちなみに入場門は黒と白に分かれているが、白の方が格上とされる。

 ゴブ太は初めての闘いなので、黒の門だ。


「白の門からはこれまで四戦負けなし! 火蜥蜴(サラマンダー)のマサラ選手の入場です! 主はポンパニャ・ピックパート!」

 反対側の門から、厚化粧のおばちゃんと防具を付けたコモドドラゴンに似たトカゲが出てきた……トカゲの体長は3mを優に超えている。精霊系のサラマンダーもファンタジーには存在するが、この世界では立派な魔物さんのようだ。

 首から後ろには防具を装備している。防具にはハリネズミのように鋭い刃が無数に突き出ていて、尻尾の先はメイスの先端のような棘の付いた鉄球となっていた。

 つか、サラマンダーの名前がマサラとか……なんて安直なネーミングセンス……。


 しかしなるほど上手いな、あの装備だと前面から頭を攻撃したくなる。小柄だが素早いゴブ太が、背後に回るのを嫌がっているのかな……。

「ゴブ太、先に言ってあるとおり闘い方はお前の判断に任せる。自分で考え、工夫して闘え」

「はい」

 気合は入っている様だな。

 対戦相手もなにやら打ち合わせをしている……何を仕掛けてくるか楽しみだ。


「さぁ、いよいよ試合開始の時間となりました! マサラ選手対ゴブ太選手! 試合開始です!」

 開始の合図とともに火蜥蜴の全身が炎に包まれる……あの鎧と刃、やはり炎の中でも問題無しか。

「はぁっ!」

 掛け声とともにゴブ太が正面から仕掛けた。

 火蜥蜴が炎を吐く……炎を吐くとはいえ竜のブレスとは違って本当に息である、炎を纏った只の息なのだ。

 なので射程も短いし、温度も普通に炎……それでも脅威だが。


 素早く回避して目を狙うゴブ太、それに対して火蜥蜴はゴブ太の横の位置目掛けて突進した……ゴブ太の突きを躱して鎧の刃で切り裂くつもりだろう。

 もちろんゴブ太は突きを諦め避けたが、とっさなので避け方が浅い……当然尻尾が飛んできた。

 だが、向こうにも想定していないコトはある……明日には闘技場好きの間で噂になるかもな。

 ゴブ太、空を飛べるってよ……と。


 空中に浮いたゴブ太……そうなると火蜥蜴には、せいぜい尻尾と炎の吐息という射程の短い攻撃手段しか残っていない……だがしかし、俺はゴブ太にも遠距離攻撃の手段を持たせてはいないのだ。

 必然的に闘いは、空中から攻撃するゴブ太にカウンターを狙う火蜥蜴という図式になった。


 次々と素早い攻撃を仕掛けるゴブ太……まぁそれでいいさ、闘技場の闘いだからな。

 この展開でじっくり闘ったら、間違いなくブーイングの嵐だもの。

 ゴブ太の攻撃はなかなか当たらない、相手のカウンターも当たらない……。

 闘いは膠着状態となり、八分余りが過ぎた。


 そろそろゴブ太も相手の戦略に気づいたようだ……防具に守られていないのは頭だけではあるが、頭にしか攻撃しないのであれば回避はできる。

 回避をそのまま、あの鎧での攻撃に繋げるというのが相手の戦略である。

 胴体に攻撃しようとすれば刃の隙間をつかねばならないが、やはりリスクを伴っても実は攻撃するなら胴体なのだ。


 恐らくは火耐性を付加してあるとはいえ、炎に延々と熱せられていてはやはり大抵の素材には負荷がかかるのだ……鉄程度なら間違いなく柔らかくなっているはずで、現に刃の半ばまで赤熱化している。

 頭を狙い目と思わせて、胴体を攻撃対象から外す……そこまでは悪くない戦略ではあるが、どちらかというと負けない算段か時間稼ぎでしかない。

 勝つ算段も用意してあるはずだと思うが……どこで何を仕掛けるつもりかな?


 火蜥蜴(サラマンダー)に知らない特殊能力があるか、装備に仕掛けがあるか……たぶん装備だろうけど……。

 展開からして胴体への攻撃を意識させてからの仕掛け……そろそろだろう、胴体の刃か尻尾か……。


 ゴブ太が胴体への攻撃を始めた……やはり胴体から突き出た刃は柔らかくなっていたようで、ゴブ太の攻撃で次々と折れ曲がっていく。

 刃の折れ曲がった隙間を突くべく、ゴブ太が突撃。

「ゴブゴブの~、螺旋突スクリュー!」

「今だよ! マサラ!」

「キュオオオ!」

 火蜥蜴って、こんな鳴き声なんだ……って、こんなコト感心してる場合じゃなかった。


 ゴブ太が攻撃しながら避けた尻尾の先が爆発した……その爆発は大きな、しかも色からしてかなりの高温の火球となりゴブ太と火蜥蜴を包み込む……温度だけなら炎竜のブレス以上だぞ、これは。

 闘技場の客席に張られている障壁が、爆発の余波で揺れていた。


 今までの攻防で尻尾は打撃攻撃だけと思い込んだゴブ太は、回避も防御もできずまともに食らった。

 もちろんゴブ太の装備(きぐるみ)にも火炎耐性が付いているが、少し軽減されているだけなのでけっこう火炎ダメージが通っているはずだ。

 爆発の物理的ダメージのほうは、あの程度ならほぼ無効化されているはず……。


 ゴブ太が火球から抜け出てきた。

 火炎でのタメージは……表には出しておらず完封しているけど、無いはずはない。

 そもそも今の火炎ダメージを無効化できる装備など、俺は作った覚えが無いのだ。


 まるでノーダメージのように攻撃を再開するゴブ太

 火蜥蜴の胴体へと次々と攻撃を仕掛け、やがて火蜥蜴の鎧の傷が裂け目となった。

「ゴブゴブの~」

「参った! こちらの負けだ!」

 必殺の一手で決められなかった火蜥蜴(サラマンダー)の主、ポンパニャ・ピックパートが降参を宣言した……これでゴブ太の勝利だ。


「勝者! ゴブリン(キング)のゴブ太選手! まさに(キング)の称号にふさわしい闘いぶりでした!」

 そんな立派な闘いだったか?


 大歓声が場内に響き渡る、ゴブ太もその声に応え大きく手を振り……そのままパタリとその場に倒れた。


 こうして初めての闘技場での闘いは幕を閉じた。


 …………


 控室に戻って、全身火傷のゴブ太を回復中。


「どうだ、違和感のある場所はあるか?」

「大丈夫です、久しぶりに意識飛んじゃいましたー」

「ぴゅぴー」

「そうか、そういや最近ドラ吉と稽古して無かったっけな」

 ドラ吉と稽古していた時は、意識飛ぶどころか瀕死になるのが当たり前だったからなー……。

 考えてみたらけっこうハードな鍛錬してたんだな……さっきの試合でダメージを隠して闘い、意識を飛ばすことなく闘えたのはそのおかげか……。

 すごいなゴブ太……実は俺は、お前の精神力を尊敬してるんだぞ……言葉にも態度にも出さないけどな。まぁちょっとした見栄だ。


「ドラ吉先輩、回復ありがとうございました」

「ぴゅいぴー」

 おう、良くやったな……と、ドラ吉。

 お前もなんだかんだで面倒見いいよな。


 そんなこんなしてるうちに、控室に客が来た。

 門番のバドントさんとドアルだ。

 バドントさんはゴブ太が試合すると聞いて、こちらが教える前に自腹でチケットを買っていた……用意してたのにさー。

 ドアルは選手なので闘技場はフリーパスだ……座席は無いから立ち見だけど。


「いやぁ、いい試合だったよ。勝利おめでとう」

 これはバドントさん。

「いやー、賭けて正解だったぜ。ゴブ太は無名だからな、倍率(オッズ)が高くて大儲けだ!」

 こっちがドアル。

 どっちも人は良いのだが……この差はなんだろう。


「まいったまいった……従魔も大したもんだけど、なんだよその規格外の装備!」

「キュイイ」

 対戦相手のポンパニャ何某(なんとか)火蜥蜴(サラマンダー)まで、控室にやってきた。

「どこの職人に作らせたんだい? 教えとくれよ」

「俺のお手製」

「なんだってー!」


 次から次へと人がやってくる、もうなんかごちゃごちゃしてきたな……。

「なぁ、ゴブ太の勝利を祝って宴会といこうぜ!」

「「「おおー!」」」

 ドアルが飲む流れに持ち込もうとしやがる……なんか既に俺の知らん顔まで混じってる気がするが、気のせいか?

「あたしは負けた側なんだけどね」

「あまり店に迷惑を掛けないようにして下さいね」

「だったら外でやりませんかー」

「酒代はまかしとけ! 大儲けしたからな!」

「「「おおー!」」」


 もうここまで来たら、流れに乗っかるしか無さそうだ……ゴブ太も嬉しそうだし。

「だったら飯とつまみは任しとけ、たらふく食わしてやる」

「「「おおー!」」」

 主に海王龍(リヴァイアサン)の肉とか海王龍のとばとか海王龍チップスとかだけどな。

 ふふふ……思う存分食うがよい。


 …………


 外に出た俺たちは、河川敷に陣取って宴会を始める。

 もうこの人数だと、絶対に関係ないヤツ混じってんだろ……。

「それではー! ゴブ太くんのー! 闘技場での初勝利を祝ってー!」

「「「かんぱーい!!」」」

「待てよ、おい! 俺が言うんだろーがよ!」

「早いもん勝ちだ、ばーろー」

「宴会だぁーーー!!」


 闘いに勝ったら宴とか……俺たちはどこの海賊団だ……。

 さしずめ今日の船長は『着ぐるみのゴブ太』ってトコかな。


「いやー、強えーなーキングは」

「カッコ良かったぞキング」

「キングさいこー!」

 なんかそこいらのストリートギャングが褒め称えられてるみたいに聞こえるな……。


「街中に名声を轟かせて、王様に謁見とかしちゃおーぜー」

「従魔なのに騎士とかなっちゃったりしてなー」

「もう騎士より強えーじゃん」

「キングの名声に、カンパーイ」

 やめれ……そんな名声いらんから。


 まじさー、本当に名声なんか……。

「そうだ、ナミタローさん。ちょっと頼みがあるんですが」

 この宴会の良心、バドントさんが声を掛けてきた……なんだべ?

「実はこの間、船が盗賊に襲われましてね」

「ん? 盗賊退治か?」

「いや盗賊は捕縛して住処も制圧したんですが……貴重な魔道具が一つ行方不明になっていましてね……」

「ちょっと待て……ひょっとして探せと?……」

「いやぁ話が早くて助かりますよ、さすが"探索王"」

 今なんと?……。


「今"探索王"とか聞こえた気が……」

「だってナミタローさん"探索王"ですよね」

「ど、どこでそのコトを……」

「旅の冒険者から何度も噂話を聞いていましてね、木刀にミニドラ……門で一目見てピンときました。そう言えば早速この街でも、完全に死んだと諦めていたミニドラを簡単に探し当てたらしいじゃありませんか」

 へ? ランパちゃんて、死んだと諦められてたの……そんなん聞いてねーし……。


「なんだ、噂の"探索王"ってナミタローだったのかよ」

「"探索王"? あたしも聞いたことがあるよ! 噂じゃ大海原に沈んだお宝を、いとも簡単に引き上げたとか……」

「俺は行方不明になった人を、頼まれた次の日には見つけたって聞いた……」

「無くした結婚指輪を見つけてやったって話も聞いたぜ」

「ミルタちゃんのミニドラ探しを、たった10ゴルダで引き受けた人情家とか……」

 くそ……噂話なのに否定できん……つーか、なぜこんなに正確な噂話が伝わっているのだ……この世界の口コミ、恐るべし。


「探索王の名声は、この街でもみんな知ってますよ。依頼、引き受けてくれますよね」

 バドントさんに、笑みを浮かべながらお願いされた。

「詳しい話は明日にでも……」

「ありがとうございます!」

 探し物とかめんどくさいから、やりたくないんだよなー……名声とかいらんから、平穏な日々をくれ。


「酒がたりねーぞー」

「誰か街へ戻って買ってこいよ、金は俺が出す!」

「じゃあそれまで、チビチビやるとするかー」

 ふむ、酒か……そういやテオキメントで見送り潰しの為に作ったウォッカが、無駄にしかも大量に収納のこやしになってたな……。


 一応確認を取っておこう。

「酒ならあるぞー! お前らー、潰れる準備はいいかー!」

「「「おおー!」」」

 案の定ノリで返事しやがったな……よし、言質は取った。


 アルコール度数72度のウォッカ……火蜥蜴(サラマンダー)の近くに置いたら燃えるかな?


 ふふふふふ……覚悟しておけ。貴様ら全員、完膚なきまでに潰してくれる……。

やっぱり闘いのシーンは難しいです

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