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10話 未知なる魔物

祝10話♪

 やっちまったよなー……。


 白金貨を数えてみたら各袋に100枚、それが5袋だから全部で500枚。

 一枚100万ゴルダなので総額で5億ゴルダ、1ゴルダ=10円換算で日本円で50億……。


 すんごい泥棒さんになってしまった……。


 まぁ塩だと思って頂戴した時点で泥棒なんだけどさ。

 こうなると、間違っても王都バイリバル・テラルには戻れんな……厄介な未来しか思い浮かばん。

 エキムロで様子見て、ヤバそうだったら他国へ逃げよう。うむ、それが良い。

 ヤバいとしたら、あの図面なんだよなー。

 筆跡鑑定したら、商会の図面の字と王都警備隊にドラ吉が投げ入れたメモの字が同じだとバレるんだよね。


 だがやってしまったモノは仕方が無い、ここはラッキーだったと思って貰っておこう。

 それにしてもエチゴヤは、どんだけ儲けてたんだよ。

 ちょっと拾ったら5億ゴルダって……。


「ドラ吉~」

「ぴゅ?」

「旅するのにお金の心配が、いらなくなったぞ~」

「ぴゅいー」

「そのかわり泥棒になっちまったけどな」

「ぴゅーい」

 ま、いいんじゃね? みたいな顔してやがる。うむ、そうだよな。


 気 に し た ら 負 け だ


 さて、退屈な道中の再開だ! 何かイベント起こらないかな~。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 王都バイリバル・テラルから港町エキムロまでの間には、村が二つある。

 そのうちの王都側にあるソビの村を俺達は出発し、早くも夜。


「今日も何も無かったな」

「ぴゅい」

「魔物も出なかったし」

「ぴゅい」

「イベントも無かったし」

「ぴゅい」

「せいぜい馬車と何回かすれ違っただけだもんなー」

「ぴゅいぴゅい」


 晩飯の伐採ロブスターのマヨネーズ和えをつまみながら、ドラ吉と話す。

 半分独り言のようなもんだが。

 ホント、こいつが居て良かったよ。


「寝るか」

「ぴゅいー」

 いつものように整地してベッドを配置。

「おやすみー」

「ぴゅぴゅいー」

 俺とドラ吉は、眠りについたのであった。


 zzzzzzzzz


 ………………


 ガン!


 ん? なんだなんだ? ん?


 目を覚まして起き上がると……あたり一面、霧?

「おいドラ吉、起きろ~」

 布団をはぐって、ドラ吉を揺り起こす。

「あくびしてんなよ、起きろ。なんか変だぞ」

 光を作って辺りを照らす。なんだこの霧? 緑色? 毒かな?

 正直、俺もドラ吉も毒が平気なので判らんのだ。


「とりあえず、飛ばすか。ドラ吉、ちゃんと目を覚ませ」

 風を起こして、霧を吹き飛ばすと……。


 目の前に魔物らしき生き物がいた。


 黄師匠に見せてもらった魔物図鑑に載ってた、クリーモって魔物に似てるけど……。

 違うんだよなぁ……クリーモは、植物系でコケシみたいな緑の胴体から6本の触手が生えてる。それにぷよぷよした湿地の魔物でその場から動かないはずだ。

 目の前のこいつは、コケシみたいな胴体はドス黒くて、触手も6本だけど先端が鋭い。

 何よりこいつは移動している、根っこをうねうねと動かして……ぶっちゃけキモいし。


 新種か亜種かな? だとしたら黄師匠に見せてやりたいなー。

 魔道カメラを持っていれば……写真とか好きじゃないから、作らなかったんだよね。


 せめてスケッチでも、とメモ用紙を取り出そうとしたら、目の前が緑色に。

 なんか噴き出しやがった、さっきのもコレだな。

 魔法を使う気配がする。

 慌てて風魔法で吹き飛ばしたが……。


 転移されたか……。


「ぴゅ~?」

 ようやく目が覚めたドラ吉が何事? と言いたげな顔で首を傾げていたが、そこにはもう何もいなかった。


「もういなくなっちゃったよ、もう気配も無いし寝なおそう」

「ぴゅい」

 コテッ

 早えーな、おい……まぁいいか、俺も寝る。

 緑色に染まったベッドに『キレイになれ』の魔法をかけ、俺も二度寝をするコトにしたのであった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 朝起きると、深夜出た魔物の霧で緑色になっていた地面が、すっかり元に戻っていた。

 時間経過で元に戻るみたいだな……あ、霧のサンプル取っておけば良かったかな?


 まぁいいか、別に対策考える必要も無いし。

 朝飯に、買っておいた焼き鳥を頬張ると、俺達は港町エキムロに続く道を歩き出した。


 ドラ吉が、焼き鳥を食べた後の串を口に咥えて、なんか渡世人ぽい雰囲気を出している……。


 お前そんなネタどこで覚えた?


 ぷっ トンッ


 ドラ吉の吹いた串が、木の幹に突き刺さった。


 ………………


 道中しばらくして、そろそろ昼飯にしようかと思った頃、向こうから4人の冒険者らしき人影が早足でやってきた。

 銅の鎧に銅の剣、銅の兜と銅で固めた4人組は、こちらへ近づいてくるなり怒鳴るように聞いてきた。


「おい、この辺で魔物を見なかったか? 黒っぽい歩くクリーモで緑の霧を吐く。どうだ?」

「隠すと為にならねぇぞ」

「正直に言え」

「…………」


 なんだこいつら、それが他人に物を聞く態度か?

 最後の一人に至っては、無言で銅の剣をチラつかせて睨んでくるし。


 知ってるけど、ちょっとムカついたので顔には出さずに、すっ惚けてやろう。


「いえ、ソビの村からここまで、魔物には出会ってませんよ。それより、歩くクリーモですか? 珍しいですねぇ、ぜひ見てみたいなぁ」

 歩くどころか転移までするけど、こいつらに教えてやる義理は無い。


「ちっ! 知らねぇのか。お前、もう行っていいぞ」

「役に立たねぇな」

「こっちじゃ無いのかもな」

「…………」


 話も終わったようですし、お暇しますかね。

「見つかるといいですね、それじゃ」

 軽く右手を挙げて別れの挨拶。あいつらの態度に返す反応としては不自然なんだけど、バカっぽいヤツらだし気付きゃしないだろ。


 案の定こっちには目もくれず、何やら話しあった後ソビの村方面へ向かっていった。


 それにしても何なのかね?

 魔物もそうだけど、あの銅で固めた装備。

 銅に弱いのかな?あの魔物。で、珍しいから捕獲して売れば大もうけできるとか……そんな感じかな?

 黄師匠とか、喜んで大金出しそうだもんなー。

 もし捕まえたらお土産にしてあげよう。


 ………………


 夜になったけど今日はまだ歩く。

 もうちょっとでエキムロの一つ手前の村、ナリッツ村に到着するからだ。

 ちなみにドラ吉は、俺の左肩の上で器用にコックリと寝ている。


 ようやく見えてきた、ナリッツ村だ。もう遅いけど、まだ宿屋に泊まれるといいんだが……。


「おぉーい、もう閉めるぞ~、早く入れ~」

 門番さんがこっちへ叫んでいる。

 やべ! 急がないと!

「いゃあ、すんません遅い時間に。開けておいてくれて、助かりました」

 恐縮する俺に……。

「まぁ、遠くにでも姿が見えてるのに、閉める訳にもいかんからな。仕事だ仕事」

 この門番さん、いい人だ。何かお礼をしたいな。


「そうだ、これ良かったらどうぞ」

 ダミーの荷物からワインの小瓶を出して渡す。時間魔法で10年分寝かせた、逸品とはいかないが良い酒だ。

「いやいや、こっちは普通に仕事しただけだから」

「いえいえ、ホントに有難かったんで貰って下さい。ほんの気持ですから」


 ありがちな譲り合いの結果、俺は勝利したのであった。


 ………………


 ついでに教えてもらった宿は、すぐに見つかった。

『熊の宿』

 名前の由来は、入ってすぐに解った。宿のおやじが熊獣人、それだけ。


「すんません、一人なんですが空いてますか?」

「おう、うちはたいがい空いてるよ。こんな遅い時間にくるのは珍しいけどな」

 柔らかい物腰のおやじだ、この村なんかいいな。


「いくらです?」

 金袋を出しながら尋ねる。

「一泊300ゴルダで、朝飯が要るなら予約制で55ゴルダ。前金だ。あと、そのちっこいドラゴンはそのままでいいぞ」

 助かります、ドラ吉にも礼を言わせたいが、肩でコックリ寝てるし。

「じゃあ朝飯付きで」


 で、俺は金袋の中身を確認してるのだけれども……。


「銅貨が無い?」


「何だ?金が無いのか? 盗まれたか?」

 熊おやじが俺と宿代、二重の意味で心配している。

「いえ、そうじゃなくて、なんか銅貨が……」

 そう、何故か銅貨が……。


「全部、金になってる」


 ………………


「ああっ! お前さんもしかして黒くて歩くクリーモに出くわしたのか!?」

「ええ、まぁ、そうですが」

「緑の霧、吹きかけられたろう!」

「はい、まぁ、たっぷりと」

「わはははは、そりゃお前さん運が良かったな!」


 よくよく話を聞いてみると、あの魔物はつい最近この辺りに出没し始めたらしく、緑の霧に触れるとなぜか銅が金に替わるのだそうだ。

 うむ、高度な錬金術だね。俺? できるけどやらんよ。だってそれ、やり過ぎると経済が混乱して、美味しいお店が無くなったりしかねないもの。それにほら、俺今お金持ちだし♪


「あぁ!それであいつら、銅の装備で固めてたのか!」

 俺は街道で出会った、態度の悪い冒険者たちを思い出した。

 そうかあいつら、自分達の銅装備を金にしようとしてたのか……ついでに捕らえて独占すれば、銅を金に替え放題。そりゃ血眼にもなるよなー。


「ここのところ、そんな奴らばっかりだよ。おかげで商売がやりにくくて仕方ねえ」

「そうなのかい?」

「あぁ、なんせ銅貨を使ってくれないからな、だから釣り銭が全然足りなくなっちまった」

「そっか、銅だもんなー。それなら朝飯60ゴルダにしちゃえば?」

 青銅貨は緑の霧で金にならなかったので、それなら問題無いんじゃないか?


「でもなぁ、ここを定宿にしてる客もいるし、そういう客に値上げは悪くってなぁ、かと言って値下げも苦しいし……」

「この騒ぎが落ち着くまでってコトで納得してもらうしか無いんじゃないか? つか、俺はそれで全然問題無いから」

 そう言って、銀貨3枚・青銅貨6枚をカウンターに置く。


「やっぱりそうするしか無いのかねぇ……仕方無いのか。悪いな、すまんがそうさせてもらうよ」

 カウンターの硬貨をおやじさんが受け取る。

「仕方無いんじゃない? 話が広まったらもっと馬鹿騒ぎになるだろうし、今のうちに値段変えといた方がいいよ。あと銅製品も鉄に買い替えるか厳重に仕舞うかしとかないと、そのうち盗まれるかもよ」

「はぁ……そうかもな、気をつけとくよ。まったくなぁ……」


 おやじさんの気持ちは解る、まったくなぁ……。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 おやじさんの作る朝飯は、なかなかの味だった。ドラ吉も納得。

 この辺に来る時は、定宿にしよう。


 ナリッツ村は朝からバタバタしていた。

 もちろん例の、銅を金にする魔物が原因だ。おかげでこっちも落ち着かないや。


 にしても、ガラの悪そうな連中が多いな。しかも態度ばかりデカくて、特に強くも無さそうなヤツ。

 あぁ、そうか。ロクに稼げないようなヤツらだからこそ、そんなに血眼になってるのか。

 ああいう連中は関わっても気分悪くなるだけだから、さっさと村を出よう。


 いざ港町エキムロへ。


 ………………


 う~ん、なんだかなぁ。

 村を出ても、なんか慌ただしい冒険者たちがエキムロ方面から次々とやってくるので、なんとも落ち着かない。

 ただ村に居た連中みたいに必死なのが半分、面白がっているようなヤツらが半分なのが救いか……。


 途中何度も銅を金に替える魔物について聞かれたが、面倒なので『そんなのがいるらしいよ』で済ませた。

 ドラ吉が狩りに出たくてウズウズしてたが、面倒なバカがうろついてるので自粛させといた。

 後で……そうだな、海で狩りさせてやるから今は我慢しとけ。


 ………………


 昼間はずっと落ち着かなかったけど、夕方頃になってやっとすれ違う輩が減ってきた。

 ふぅ、晩飯は落ち着いて食えるかな?


「ぴゅー」

「そうだな、そろそろメシにするか」

 いつものように土地を平らにしてテーブルを置く。

「ピザでも焼くか」


 予め作ってあった生地を伸ばし、作り置きのピザソースを塗る。自作のチーズとナリッツ村で買った野菜、照り焼きにしてあった丸呑カエルの肉を細かく散らして焼く。

 ピザ窯は土魔法でちょいちょいっと作り……一枚だけ焼くには窯大きすぎたかな? ……火魔法で一気に焼きあげる。


 完成♪


「ほいよ、ドラ吉。2切れでいいか?」

「ぴゅい!」

 俺が8等分に切り分けたピザを取り分けてやると、ドラ吉が早速がっついた。

 アレ? ドラ吉、お前耳から食べる派?


 半分ほど食べて味をちょっと変えるために、ハチミツを軽く垂らす。

「お前もいるか? ドラ吉」

「むぐ……ぴゅい」

 口の中に残ったピザを飲み込んで、ドラ吉が頷く。

 ちょろちょろっと、ハチミツをピザに垂らしていると。


「うわぁ~、おいしそ~」

 若い女の冒険者がこっちに駆け寄ってきて、テーブルの横で目をまんまるに見開きピザをガン見してくる。

 あ、ドラ吉が警戒して体で自分のピザを隠した。気持は解る……。


「ちょっとモリアン! 待ちなさい!」

「モリアン、さすがにその行動は失礼だと思うよ」

「すいません、いきなりウチのがすいません」

 仲間と思われる3人組が、モリアンと呼ばれた冒険者に追いついてきた。


「だってピザだよピザ! 最近焼き魚ばっかしだったし、反応しちゃうじゃん!」

 モリアンだったっけ? 反応が子供だなーこの娘。

「だからってそんな勢いでダッシュするとか止めなさいよ! 危ない人だと思われるでしょ!」

 細目の、これも若い女がキツい口調で説教をし始める。


「そうだよ、今の行動は迎撃されても仕方ない行動だったと思うよ」

 ガタイのいい全身鎧の若者が説教をかぶせる、こっちは男だ。ふむ、鉄の全身鎧か……。

「もう本当にすいません、こいつが訳わかんない事を、本当にすいません」

 さっきから優男くんが謝り続けているけど、訳わかんない事はないぞ。確かに行動はアレだが。


「あああぁぁぁぁ! ピザがあぁぁぁ!」

 話の最中も食べていた俺が最後の一切れを口に運ぶと、断末魔の叫びとともにガックリとうなだれるモリアン。もちろんドラ吉もさっさと食べ終わっている。盗られそうな勢いだったもんね。

 反応が子供なんで、なんか見てて面白い。

 なので、ついついおっさんの習性が発動する。


「食うか、ピザ。なんなら作ってやるぞ」

 子供が自分の飲み食いしてるモノをじっと見てると、ついつい『食うか?』とか『飲むか?』などと言ってしまう習性。そして酒など飲ませてしまい周りの女どもに怒られるという、おっさんにありがちな習性だ。


「ホント! ホントに! うわーーーーーい!」

 バンザイジャンプを繰り返す子……モリアン。

「いいんですか?ご迷惑じゃ……」

「いいよいいよ、ピザなんて大した手間じゃないし。窯も作ってあるしな」

 優男の問いに軽~く答える。


「ただし、金は払えよ。店でもないようなこんな場所だからそうだな……500ゴルダでいいか?」

 ちょっと高いけど出張屋台頼むようなモンなんだから、このくらいは取らないと。

「もちろんです! ちょっと待ってください。ナリア、いいよね」

 優男くんにナリアと呼ばれた細目の女性が金袋を取り出す、この娘が金庫番なんだね。


「じゃあ2枚! 2枚作って!」

「モリアン、さすがにそれは食べ過ぎだと僕は思うよ」

 ガタイのいい若者が注意するが

「だって、みんなも食べるでしょ? あたしが1枚で、みんなが1枚」


「あの~……2枚お願いしてもいいですか?」

 また優男くんが腰を低くする。 気をつけないと、そのうち腰痛持ちになるぞ。

「構わないよ、材料はまだまだあるし。何なら3枚でもいいぞ」

 ピザ窯大きく作っちゃったし。


「だったら3枚で……いいよね、ナリア」

「いいわよ、ここのところ野営食ばっかりだったしね。あと、わたしも食べたいし」

「んじゃ3枚だな、ちょっと待ってろ」

 優男くんが金庫番のナリアさんに許可をもらったようなので、作り始めましょうか。


 生地を伸ばし食材をひょいひょい出してると、ナリアさんが食いついてきた。

「え? どこから? 採れたてみたいな? 調理済みのものまで……え? 何?」

 あ、次元収納そのまま使ってた……

 ここんところ外で食べる時はドラ吉しかいなかったんで、すっかり習慣になっちまってたなー。

 まぁいいや、この世界に存在しないモノってワケじゃないしバラしても……さすがに性能までは言わんけど。


「次元収納って知ってる?」

「えぇ! これがあの!? はじめて見た……。これってすごいたくさん入るんですよね……ひょっとして、時間経過も止めてあったり重さも軽減されてたりするんですか?」

 ナリアさんも、これまた子供みたいに食いつくねー。


「そうだよ、時間経過も無し重量もゼロだから本当に重宝してるよ」 

 具財を乗せ終わったので、3枚まとめて窯に放り込む。

「すごい!あの……もし良かったら、どこで手に入れたかお聞きしても?」

「もらいものだよ、ウチの師匠に旅の餞別だってもらったんだよ」

 作ってと言われると面倒くさいんで、ここは師匠を便利に使わせてもらおう。


「クジャの大森林に賢者が三人住んでるのは知ってる?」

「はい!もちろん! ひょっとして、賢者様のお弟子さんなんですか? すごい!」

 ナリアさんの目がキラキラして――細いから判り辛いけど――俺を見てる。悪い気はしない。

 我ながらチョロいな、おっさんは。


「実質ただの使いっ走りだったけどね」

 などと話をしながら4人分のベンチを土魔法でこしらえると……。

「土魔法でこんなに簡単に……さすが賢者様のお弟子さん……」

 ナリアさんに感心された。 しまった、これもだったか。

 キラキラした目で見られるのも悪くは無いのだけれど、慣れて無いのでちょっと疲れる。

 なので……。


「ほい、できたよ~」

 ピザ3枚を出して、テーブルに並べてそれぞれ8つに切り分け、その場をごまかした。

「うわぁ」「美味しそう」「ピザなんて久しぶりだ」「いっただっきまーーーす!」

 いきなり食いついたのが誰かはいうまでもあるまい。

 1枚だけハチミツ垂らしといてやろう。


 ………………


 ピザを食べながら話を聞いていると、やっぱりこいつらも銅を金に替える魔物の噂を聞きつけてナリッツ村まで行こうとしていたらしい。

 ちなみにパーティー名は『自由な雲』だそうだ。


「その割には銅製品を身に付けたりはしてないみたいだな。俺の見た中には、装備が全部銅ってヤツも居やがったけど」

「いくらなんでも、そこまでやる気は無いですよ。他の魔物もいるし、銅装備じゃさすがに不安ですし」

 と優男くん改め、ハギウスくんが答える。


「もぐもぐ……でも、銅はいろいろ持ってきてるんだよね……はむはむ」

 食べながらモリアンが教えてくれる。

「主に鍋とかですけど」

 ナリアさんの説明。


 ガタイのいい若者改めオイズくんが大人しいけど……なるほど。

 オイズくんは可愛いモノ好きらしい、さっきからコックリし始めたドラ吉をニコニコ眺めてる。

「起こそうか?」

 オイズくんに言うと……。


「そんな、可哀想ですよ。 この子、聖属性のミニチュアドラゴンですよね」

「そうだよ、聖属性」

 ミニチュアドラゴンでは無いが。

「可愛いなぁ……男の子かな? 何歳ですか?」

「男だけど、歳は正確には判らん。従魔にしてからまだ一年も経ってないし」

「そうなんですか? でもずいぶん心を許してる感じですよね。 いいなぁ……」

「飼えないからね」

「解ってるよ、そんなこと」

 ナリアさんに釘を刺されるオイズくん。


「それにしても、本当にいるんですかね? 銅を金にする魔物なんて。僕は信じられないんだよなぁ」

 ハギウスくんが腕組みして疑問を投げかける。

「あたしはいると思う~」

「モリアン好きだからね、そういう話。ナミタローさんはどう思います?」

 ナリアさんが聞いてきたので、「そうだね~」と言いながら、まぁこいつらだったらいいかな?と荷物からあるモノを出す。


「見てごらん」

 と言って、俺は硬貨を1枚ハギウスくんの方向へ、親指でハジく。

 元銅貨だったモノだ。


「えっ、これって……」「ウソ?」「これ銅貨の……」「ほらほらほら、言ったじゃん!」

 俺はニヤリと笑って

「それが証拠だよ」

 ダメ押ししてやった。


 ひとしきり4人で大騒ぎしたあとで……。

「譲って下さい、ぜひ! お願いします!」

 ハギウスくんが土下座してきた。

 イヤイヤイヤ、土下座するようなモノでも無いから。頭上げておくれよ。


「もちろんいいよ、だから頭上げて。つーか、そもそも換金するつもりだったしね」

「いいんですか!」

「だからいいよ、とりあえず重さ量ろうか」


 重さを量ってみたら元銅貨3枚と少しで金貨1枚と同じだったので、元銅貨3枚と金貨1枚を交換した。

「じゃ、これで取引終了っと」

「ありがとうございました」

「礼を言われるコトじゃないよ」


 気が付くとすっかり暗くなっていて、ドラ吉はもう本気寝だ。

「俺も寝るか」

 いつものように整地してベッド置いて布団に潜ろうとする。


「「「「 えっ? 」」」」

「へ?」

「そのまま寝るんですか?」

「ええ、まぁ」

 俺ってば、またやらかした?

「あぁ、魔物除けの魔道具をお持ちなんですね?」

 えっと……。


「まぁそんなもんです」

「見せてもらっても?」

「それは内緒ってコトで」

「そうですか、残念です」


 ナリアさん、肩落とさないで。ホントは何にも無いんだから。

 上手いコト言い訳思いつかなかっただけだから。


「効果範囲はどのくらいなんですか?」

 いい質問だねハギウスくん、返答に困るよ。えっと……。

「ベッドの周りだけかな?」


「じゃあ一緒に寝よう!」

「モリアン、迷惑だから止めなさい」

「ええー」

「ほら、男の人のベッドに女の子が一緒にというのはやっぱりさ……」

「僕もドラ吉ちゃんと一緒に寝たいな……」

「あんたもキモいから止めなさい」

 賑やかで楽しいけど、付き合ってもやれん。


「んじゃ俺先に寝るから」

「はい、僕らは普通に野営しますんでお気遣いなく」

「何かあったら盾にしてかまわんから。 おやすみー」

「はい、おやすみなさい」「オヤスミー」「盾にですか?」「おやすみです」

 ようやく布団に入れるよ。


 これが俺と、気のいい若者パーティー『自由な雲』の4人との、初めての出会いであった。


 ………………


 ………………


 イヤ、別に長い付き合いになる予定は、全く無いんだけどね。

 なんとなくノリで言ってみたくなったので、つい……。

『自由な雲』の4人は、もう少し出すつもりです。

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