9話 神の刀
鑑定回です。
夜が明けた。
そして俺は大事なコトを思い出した……。
「やべ、毒耐性の足輪(ハエ用)を外すの忘れてた……」
となるとあいつら、そう簡単に死なないだろーなー。変な菌媒介して広めたりしないだろーなー。
…………なんか不安だ。
何か起きる前に逃げといたほうが、俺の精神にとって良いような気がする……。
はっ!これは俺の直感スキルが仕事してるのでは!
………………
「さ~て、王都も一通り観光したし、そろそろ違う街にでも行ってみようかな」
ちょっとワザとらしいかなっと……ドラ吉くんの反応は……。
「ぴゅいぴゅい」
うん、ドラ吉もその気になってるようだ。善き哉善き哉。
最後のそれなりの朝食を食べ――しまった、外で食うほうが良かったか――外へ出ると、おや?なんだか空気が落ち着かないな、なんだ?
ああ、そうか、昨日のエゴキン商会の件が噂話で広がってるんだな。
この世界にはテレビもネットも新聞も無いからこういう形で伝わっていくのか……。
「さぁさぁ! 王都通信の号外だよ! エゴキン商会で大事件だ! 詳しくはここに書いてあるよ!」
新聞、あったんだね……。
………………
号外だからタダで配ってるのかと思ったら10ゴルダだったので、仕方無く買って読んでみたらこれが案外詳しく書いてある。
よくぞまぁこの短時間で……よしよし、俺のことはもちろん被害者の会のことも書いてない。ちょっと安心した。
さーて、これならすんなり王都を出られるかなっと思いきや……まずい、なんか見覚えのあるのが前から歩いてくるぞ。
「ではノンデオスさん、王都警備隊としては全てがエゴキン商会内部での犯行ではなく、外部にも関係した人物がいるとの見解なのですね?」
「人物……というよりは組織の可能性が高いと考えていますが、政治的側面も可能性を捨てきれません。とにかく全てはこれからなので、断言できることはもうありませんよ」
なんか記者に張りつかれて迷惑そうな顔してる。あの女性記者はアレか? さっき読んだ王都通信の人だろうか?
「政治的側面と言えば、エゴキン商会に便宜を図っていた……」
ノンデオスさんがこっちに気付いて、記者の話を無視してこちらに小さく頭を下げてきた。ちょっとビビったが、こちらも小さく頭を下げ、『良かったですね、お疲れ様でした』という顔をする……ドラ吉の姿、やっぱ見られたんだなー。
急に空気をぶった斬り頭を下げたノンデオスさんに、記者が尋ねる。
「あちらの方は、お知り合いですか?もしや事件と……」
「いいえ、以前あの肩に乗っているドラゴンを触らせてもらったんですよ。あぁ、私が可愛い動物が好きなのは秘密にして下さいね。悪人はどんな些細な事でも悪事に利用しようとしますから」
またも記者の話をぶった斬って話すノンデオスさん……コレわざとだろ。なるほど、そういうことね、記者と話したくないからわざとこっちに挨拶しやがったのか。
まぁこれも縁だろうから、助けてやるか。
ドラ吉くん、ちょっと相談なのだが……。
「びゅい」
ぱたぱたぱた……とドラ吉が飛び立ち『ああぁぁぁ! ちょっと何! えっ! フン?!』記者の手帳にドラ吉が何かを落としたようだな……ふんふん。
……いいじゃん! 何度も言うが俺は胸を張って言えるほどのおっさんなんだからさ! ふん!
「あー、すいません、ホント、ウチのがすいません。うわぁ、汚れちゃいましたね。ホントすいません」
わざと記者とノンデオスさんの間に入って謝罪してみる。
「もう何してくれるのよ、せっかく書いた記事が……あぁ、待ってください! ノンデオスさん!」
記者が慌てて追いかけるが、ここぞとばかりに足を速めるノンデオスさん……イヤ、無茶苦茶早えーし! 絶対ソレ縮地とかのスキル使ってるだろあんた!
「ぴゅ?」
これで良かったの?と言いたげなドラ吉だが……すまぬ、俺にも判らん。
たぶん良かったような気がする。
とりあえずドラ吉、お前は良い仕事をした。
気を取り直して、いまのうちに王都から出てしまおう……今度こそ大丈夫だろうな。
よっしゃ! 無事に門まで辿り着いた! でもなんか列長くね? あぁ、事件のせいでチェック厳しいのか。まったく迷惑だよね。
服装よし、ダミーの荷物よし、木の杖よし、マントよし、ドラ吉よし、うむ、あとは順番くるのを待つだけだ。
「よし、次!」
良く見たら警備隊の人じゃん、まぁ急遽だから駆り出されてるんだな。
ほいほーい、俺ですよー。どうぞ検査して下さいな……ん? 別に異常無いよね、なして訝しげに俺を見てるのかな?
「荷物はこれだけか?」
「ええ、はい、そうですが?」
「ぴゅい」
何か?
「武器も持たずに、まさかその格好で旅しているのか? 護衛無しで?」
「イヤ、ほら一応この木の棒あるんで」
「ぴゅぴゅい」
「木の棒で魔物と戦うのか?」
ここは適当にごまかすか。
「この木の棒、実は魔法の杖なんですよ。俺、魔道士なもんで」
「ぴゅーい」
「あぁ、なるほど。この木の棒が魔法の杖だったのか」
いけそうかな?
「あと逃げ足にも自信あるんで、問題は無いですよ。この歳までそれでやってきたし」
「ぴゅいー」
この世界来たのは最近だけど
「まぁそれもそうか、だが過信せずに気をつけて。良い旅を」
「ありがとう、気をつけるよ」
「ぴゅい」
こうして俺たちは、無事に王都から出発したのであった。
あとドラ吉、おまえはいちいち返事しなくていいから。
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今回はまず王都を南下する、エチゴヤが襲撃された地点を通過し、分岐へ辿りつく。
目的地はもう決まっている、王都の西に位置する港町『エキムロ』だ。
何故『エキムロ』なのか……それは……
『海鮮天丼が食べたい』
というのが理由である。
王都で天ぷら蕎麦食べた時に天ぷらが全部野菜だったのが不満だったのだが、調べたら王都には海鮮の類がさほど多く無く物足りなかったのだ。特に天ぷら……特に『エビ天』が。
なのでこの分岐で俺は、迷わず西へ行くのだ。
「エビ天は正義!」
「ぴゅい!」
ちなみに、ここまでの道のりはやっぱりヒマだった。しかも一度見た景色だし。
ドラ吉なんかかなり遠くまで、獲物を狩りに出かけてたしなー。なんか知らんけど『トリケラビット』とかいう三本角のウサギばっかし獲ってきてたし。
あれって美味いのか?
そうそう今出てきたこんな感じのやつ、三本の角が三角形に並んで……。
あ、なんかこっちに突っ込んできた。
がしっ……。
反射的に角を掴んでしまった……。
「なぁドラ吉、お前こればっかり狩ってきたけど、これって美味いのか?」
なんか角掴まれてバタバタしてる。
「ぴゅい!」
力強く頷くドラ吉、そうか美味いのか。
「んじゃ肉にしとくか」
ひょいと空中に投げ上げて風魔法で首ちょんぱ。水魔法で血抜きして、また風魔法で解体。いらない部分は火魔法で燃やして……そろそろ昼だし、これ食ってみるか。
肉以外を収納し、椅子とテーブルを出す。
「昼メシにするぞー」
「ぴゅい」
めんどくさいから焼肉で、タレは王都で買ったヤツでいいか。
肉は3mmくらいでスライスしといて、鉄板で――テーブルが焦げるから間を真空にしないとな――よし加熱開始!
ジュゥアアァァァ!
うし! 焼けたから食ってみるか。
はむはむ……美味いな、ちょっと味は鶏っぽいか。でも繊維は獣系。
ジューシーかつ油の旨みが優しい。
「ぴゅぴゅぴゅー!」
「あ、悪い悪い。ほれ」
ドラ吉の抗議の声に応えて、皿に肉を盛ってやる。
そんなにがっつくなよ、ドラ吉。
一羽だと足りないな、もう一羽分……。
あれ? 魔物のウサギも一羽二羽で数え方いいのかな?
ジュゥワアァァァ
「ドラ吉、もうちょい待て」
そろそろかな……
肉を取ろうと箸を伸ばしたタイミングで
ガサガサガサ
「ゴキギュガギュ」「ギャギュゲキガ」「ギャゴギュゴ」
ん? なんだ? 青緑色したちっこくてキモいのがゾロゾロと……。
ゴブリンだ。
手にはボロっちい剣や斧、槍やこん棒を持って、数は十数匹くらい。
そういや普通のゴブリンを直で見るのは初めてだな。どれ、もうちょっと観察……。
バッ ジュジュッ
えっと、あれ?なんかレーザーみたいなのがゴブリンたちを瞬時に一掃してしまったんだが。
光が来たのはこっちの方向だから……。
そこにいたのはドラ吉くん。
バッ ジュッ
振り向くと新手として出てきた、一匹の頭が無かった……。
そうかドラ吉、お前のブレスだったか……全滅しちゃったな、ゴブリン。
「ぴゅーい、ぴゅーい」
ハイハイ、解りましたよ。ホレ、肉ですよ。
でもメシの邪魔だからって瞬殺しなくてもさ……もう少し見たかったな。
さてメシも食ったし、退屈な道中に戻りますか。
もうしばらく行けば少しは景色が変わるんだろうけどなー、ゴブリンとかまた出てこないかなー。
戦いごっことかしたいなー、こうやって木の棒でカッコ良く!……。
でも木の棒だといまいちカッコ良く無いかな?
ふむ、王都の門のトコでも武器のコト聞かれたし、武器でも作ってみっか。
何を作りますかね……一応魔道士を自称してるから、やっぱ杖かな?
道中はまだ長いし、剣とか槍とかはあと回しにしよう。
んなワケで、今日は杖♪
まずは木を選ばないと。
う~ん、ちょっと距離あるけど、あっちの林でも探してみるか。
少し時短するか、ちょっと飛ぼう。ひょいひょいと林の方へ、ついでにひょいと奥へ。
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な・か・み・さ・ま……」
イヤ待て俺、仮にこの神様が造物主さんだとすると、ものすごくヤバい物が出来そうな気がする。
ここはテキトーに決めよう!
まず手に小石を持つ。
これを後ろ向きに投げて、当たった木でつくろう。
後ろに向かって軽く小石を投げ、すぐさま振り返って確認……。
カキーン!
おい、カキーンって何だよ、カキーンって。
木に当たったはずなのに音がおかしいだろ!?
………………
……当たってしまったものは仕方が無い、この木で作るとするか。
「さて、杖を作る木はこれで良いとして、どの枝に……。
ズパッ!
「へ?」
ドラ吉さん、何をスッパリと翼で根元から切ってくれてんですか?
ギギギギ ズズゥゥーン
木は切り倒されたけども、う~む。
もう成り行きでいいか。
「ドラ吉、ついでだからこの辺でもう一回切ってくれるか?」
俺は切り口から1m程度のところを指さす。
「ぴゅい」
ズパン!
ゴロンと切れて長さ1m 直径40cmの丸太が出来上がる。それを浮かべて直径方向に回転させながら圧力を加える。
「圧縮、圧縮ぅ~」
ぐるぐるぐる ぎゅっぎゅっぎゅっ
こんな感じかな? 丸太は10cmほどの直径になった、あとはコレを削って杖っぽい形にして、道中でドラ吉が狩った魔物から手に入れた魔石を使って、魔法の杖の機能を内部に構築するのだ。
削るのにナイフは……解体用でいいか。
キキキキキキキキ
……削れないし。
これを削るにはこのナイフじゃムリか、ふむ。だったら……。
ナイフを改造してみよう♪ 一旦溶かして形を整え直して、魔力を通し金属を変質させ魔法剣の性質を付与して強化したら何とか……完成した。
よし、試してみよう。
しゅっしゅっしゅっ
おぉっ!削れる! ちょっとずつだけど……。こりゃ完成まで時間かかるなぁ……。
しゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっ(以下略)
ドラ吉くん、じっと見てるけど飽きないのかい?
しゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっ(以下略)
ありゃ? 杖っぽく無くなってきたぞ、削るのに夢中になり過ぎたか。まぁいいや。
しゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっ(以下略)
いい感じの反りになってきたなー……反り? 俺は何を作ってるのだろう?
しゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっしゅっ(以下略)
よし! 完成した!
……木刀が。
……解せぬ。
で、でもこの木刀、ちゃんと魔法の杖としての機能があるんだよ! そう! これは木刀型の魔法の杖なのさ!
……すいません、自分でも自信無いっす。
そうだ! こういう時こそ最近のファンタジー小説の定番スキル『鑑定』さんの出番だ!
「鑑定!」
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神木刀(名称未設定/名称設定可能)
属性:打撃・斬撃・魔法・神聖
攻撃力:22810(+11582/神聖)/打撃・51427(+11582/神聖)/斬撃
()内は指定属性の追加攻撃力
魔法威力 ×2.742 倍
魔力消費 ×0.198 倍
自動修復機能・武器防具破壊・障壁無効・不死特攻・所有者転移
現在の所有者:ナミタロー・ヒラナカ
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うむ、やっちまったな。
ドラ吉、前足で頭ポンポンして俺を慰めなくても、大丈夫だよ。
つーかもう諦めたよ、自分の能力とスキルに振り回されてるなー俺。
しっかし木刀なのに斬撃できるって、さすがにおかしくね? しかも斬撃のほうが攻撃力高いとか……。
もうなんかね、刀の柄のここら辺に『阿寒湖』とか彫っちゃいたいくらいの名刀だよ。
にしてもアレだ、神木刀ともなると名前つけられるんだね。何にしよう。
うーん、そうだな……見た目ただの木刀なんだけど、多機能で高性能……。
そういや若手の部下にこんなようなヤツいたな、見た目ぼーっとしてて指示しないと何もしないくせに、仕事任せたら早くて正確で何でもこなせる便利なヤツ……そう、田中村くん。
「よし!こいつの名前は『神木刀タナカムラクン』だ!」
タナカムとラクンで音節を分けると、なんかそれっぽく聞こえね?
「ぴゅいー」
命名仲間の弟分ができたドラ吉が喜んでる。
それにしても、俺って普通のモノ作るの逆にヘタな気がする。ここはひとつ、実験がてら何か作ってみたほうがいいのかな?
例えば、普通の鉄の剣とか……テキトーかつ雑に作ればなんとかなるか?
鉄の手持ちが無いなけど……イヤ、待てよ、さっきドラ吉が殲滅したゴブリンが確か持ってなかったか?
「ドラ吉ー、あっち戻るぞー」
さっき切り倒した木を、輪切りにして遊んでいたドラ吉を呼び寄せる。それ、楽しいか?
ひょいひょいと飛んで街道まで戻り、ゴブリンたちの死体を漁る。あった、これ鉄だよね。
適当に拾って空中で溶かし、剣の形に整える。柄には毛を処理したトリケラビットの皮を、接着しながら巻く。
完成。
うん、どこからどう見ても普通の鉄の剣だ、体格に関係なく使える汎用の片手剣。良い出来だ。
ん?……良い出来?……若干イヤな予感が。
「鑑定」
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普通の鉄の剣+5804
属性:斬撃・刺突
攻撃力:20(+5804)/斬撃・12(+5804)/刺突
()内は追加の攻撃力
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+5804て何? この時点で普通の剣じゃなくね? コレその辺の子供に持たせても、ゴブリンの大発生とか余裕だよね。
……うむ、決めた。
コレはとりあえず収納のこやしにしておこう。
「ぴゅ~~~」
ドラ吉が腹減ったって顔してる、もう日が暮れかけてるじゃん。ちょっと熱中しすぎたな。
「もう晩飯にするか? そうだな、網焼きにでもするか。肉はトリケラビットな」
「ぴゅー」
「イヤ、なんかもう面倒くさくなっちゃって……塩焼きでいいよな」
「びゅ~」
網浮かべて加熱して肉野菜を適当に切って乗っけて、あとは塩を……塩は……そうか切れてたっけ。
だがしかし、エチゴヤさんの倉庫からハエにくすねさせた塩が、俺の収納の中に入っているのだよ。
ふっふっふ……我が策に抜かりなし。
ゴソゴソゴソ
ちいさな袋を一つひょいっとな……あれ? 塩ってこんなに重かったっけ?
ひょっとして、塩では無かった……?
おそるおそる袋を開けると、はたしてそこには白銀色に輝く硬貨がギッシリと入っていたのであった。
えーと、なんか銀にしては色が深い気がするが、これはまさか……。
本日三度目の「鑑定」
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白金貨:白金を使用した硬貨 額面は100万ゴルダ
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どうやらあの場所は倉庫ではなく、金蔵だったようだ……
イヤ、だって、セキュリティーがやたら甘かったし、無造作に置いてあったからてっきり……
てか、白金貨って何? 聞いてないんだけど……
………………
クジャの大森林はこっちか。
「師匠ー!白金貨なんてモンがあるなんて聞いてねーぞー! 必要なコトは全部教えたって言ってたじゃねーかー! 他にも聞いてないコトあるんじゃねーのかー! まぢ勘弁してくれー!」
ふぅ、ちょっと気が済んだ。
だからドラ吉、俺の頭ポンポンしなくていいから。




