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# 第63話:暗闇の瞳

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# 第63話:暗闇の瞳


**ドガラガシャァアンッッ!!**


ダインとドルドの巨躯が最上階のテラスを打ち破り、夜の街へと爆落していった――その直後のことだ。


「ダインさんっ……! リノちゃんっ……!!」


砕けたテラスの縁へ駆け寄ろうとするエレノア。だが、その背後で破砕された廊下の闇から、新たな【殺意】が雪崩れ込んできた。


**ジャキッ……!!**


ガラス片を撒き散らし、窓の亀裂から部屋へ躍り出たのは、黒装束に身を包んだ七人の刺客。


「チッ、次から次へと……湧いて出やがるな!」


アルが前に立ち塞がり、大剣を横一閃に薙ぎ払う。


**ズバァンッ!**


迫る刺客の刃を力任せに打ち砕き、踏み込みざまに一人の胸を拳でぶち抜く。間髪入れず、襲い来る二人目の斬撃を剣の腹で受け流し、そのまま首筋を切り裂いて石畳へ蹴り倒した。


豪快かつ苛烈なアルの立ち回り。

――だが、刺客たちの狙いはアルではない。


「キャッ……!?」


二人の影がアルの巨躯を迂回し、無防備なエレノアへ向けて一直線に肉薄する。

毒塗りの短刀が、エレノアの咽喉(のど)へ向けて突きたてられた。


「しまっ――エレノア!!」


アルが振り返り、大剣を振り抜こうとするが――距離がある。間に合わない!


「「――フッ」」


その瞬間。

部屋の扉から影のように滑り込んできた二つの【白衣の影】があった。


**ヒュンッ、シュザッ……!!**


夜の静寂を切り裂く、細く冷たい金属音。

エレノアの目前まで迫っていた刺客二人の首筋に、漆黒の鎖がついた極小の短刀が深々と突き刺さった。


「な……が、あっ!?」


血を吐く暗殺者たち。次の瞬間、鎖が力強く巻き戻されると同時に、彼らは喉を抉り取られて絶命し、床へ崩れ落ちた。


鮮血の舞う部屋の中に立っていたのは――仕込み鎖短刀を手にした、ザンギエットとお付きの二人のメイドたち。


(……この手繰り、この軌道……)


アルが息を飲み、ザンギエットの手元を注視する。

——寸分違わぬ洗練された死の所作。だが、ザンギエットは一切の素振りも見せず、冷徹な手際で残り二人の刺客の胸を鎖短刀で穿ち、静寂を取り戻させた。


「皆々様……ご無事でございますか!」


ザンギエットが血を払った短刀を袖口へ収め、深々と一礼する。


「ざ、ザンギエットさん……ッ! ダインさんと、リノちゃんが……外へ落ちて……!」


涙を浮かべ、取り乱すエレノア。

ザンギエットは砕けた窓から外を見下ろし、厳かな声音で告げた。


「……ダイン様とスネア様の強靭な生命力を信じましょう。ですが、ここへ留まるのは危険でございます。ホテル内も刺客どもの襲撃を受け、応戦の最中……急ぎ安全な地下区画へ移動いたしましょう」


メイドたちが「こちらへ」とエレノアとアルを促し、廊下へ脱出していく。


「アル様、エレノア様をお頼み申し上げます。私もすぐに向かいます」


ザンギエットは一人部屋に残り、惨劇の跡を見回した。


七人の刺客の凄惨な遺体。

破壊された家具と、爆破されて転がる重厚なオークのドア。

そして――先ほどまで首を撥ねられて倒れていたはずの

女暗殺者【シルヴィア】の遺体が、いつの間にか掻き消えるように消失していた。


(……足留め(目くらまし)、でございますか……)


通信魔導具が破壊された電灯の残骸とともに転がり、部屋は深い闇に包まれている。


ザンギエットは、無残に破砕された部屋の奥――漆黒の暗がりへと視線を滑らせた。


静寂が支配する部屋の隅。

光の入らぬ闇の中で、ドロリと【紅い瞳】が二つ、不気味な光を宿して輝いていた。


ザンギエットはその紅い光を逃さず、静かに、そしてまっすぐに見つめ返す。


暗闇に佇む『それ』は、言葉を発することなく、ただ静かに冷たい眼光を放ち続けていた――。


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