【主要キャラクター紹介】第 I 部分
第1部の主要キャラクター紹介となります。
【王立統学院第73期生の5人】
エリアス・フェルマー、16才(第2部開始時)
地方出身の少年で、王立統学院第73期生。眼鏡をかけた物静かな青年で、体力や魔力の出力では同級生に見劣りする一方、観察、分析、整理を得意とする。目の前の問題を「なぜそうなっているのか」と考え始めると止まらず、授業でも演習でも、与えられた前提そのものを疑うことがある。本人に反抗するつもりはないのだが、納得したことをそのまま口にするため、教師や周囲を困らせることもしばしば。魔法も派手さはないが、細く精密な制御を長時間維持することに秀でる。将来の希望は行政官。
ヒルデガルド・ヴァン・アルトハウゼン、16才(第2部開始時)
銀髪が印象的な貴族令嬢で、エリアスと同じ第七寮で四年間を過ごす。冷静で観察力が高く、人の言葉だけでなく、その場の空気や相手の意図まで読むことを得意とする。官僚である父が不正摘発に携わってきた家庭に育ち、国家や制度を理想論だけでは見ていない。軍事・諜報分野を志望し、情報を集め、必要なものを選び、誰にどう伝えるべきかを判断する能力に優れる。考えたことをそのまま口にしがちなエリアスに対しては、もっとも身近な助言役の一人でもある。アルトハウゼン伯爵家で唯一の娘であり、三人の兄たちからは溺愛されている。
【挿絵 エリアスとヒルデガルド】
ガイウス・レオニス、16才(第2部開始時)
大柄な体格と金髪が目を引く、軍務志望の学生。明朗で行動力があり、難しい状況ほど「まずやってみる」方向へ動く。魔法では強力な支援加護を持ち、出力の大きさでは同級生の中でも際立つ。野外演習や行軍ではその体力と面倒見の良さを発揮し、仲間から頼られる存在である。一見すると考えるより先に身体が動くタイプだが、実際には仲間の状態をよく見ており、自分が引き受けるべき負担を自然に判断している。第七寮の五人の中では、集団を前へ動かす推進力を担う。
リオネル・ヴァルカ、16才(第2部開始時)
橙色の髪と人懐こい態度が特徴の学生。外交・外事分野を志望し、人と話し、相手の反応を読みながら距離を縮めることを得意とする。好奇心が強く、危なそうなものを前にしても「何が起きるか見てみたい」と考える側で、慎重なヒルデガルドとはしばしば対照的である。一方、単なる軽薄な少年ではなく、人間関係や場の力学には敏感で、自分がどう振る舞えば話が動くかを直感的に理解している。理屈に没頭するエリアスを現実の人間関係へ引き戻す、貴重な友人でもある。
マリエッタ・セラン、16才(第2部開始時)
地方都市近郊で農産物の生産・加工・集荷・出荷を手掛ける中堅事業家「セラン農産商会」の家に育った少女。華やかな名門貴族ではないが、幼い頃から家業を通して、物を作る人、運ぶ人、帳簿を管理する人、代金を支払う人がつながって社会が動く姿を身近に見てきた。そのため五人の中でも金銭、物資、手続といった実務への感覚が強い。穏やかで目立つことを好まない一方、必要な仕事を着実に処理する堅実さを持つ。行政分野を志し、学院でも制度を「実際に動かす側」から理解していく。
【挿絵 ガイウス、リオネル、マリエッタ】
【その他の学生たち】
エレオノーラ・アルヴェリオン、17才(第2部開始時)
王家第五子にして第三王女。エリアスたちより一学年上の統学院生で、王族として高度な教育を受け、学力、魔法、社交、政治感覚のいずれにも優れる。しかし彼女をもっとも特徴づけるのは、強い好奇心と人間観察への関心である。幼い頃から、自分が王女だと知った瞬間に人々の態度が変わる様子を見続けてきたため、人の反応を予測することに長けている。そのぶん予想通りの反応には退屈しやすい。王女用に用意された筋書きを平然と無視するエリアスは、彼女にとって珍しく「次の行動が読めない」存在となる。
エドガー・ヴァン・ロッセル、16才(第2部開始時)
地方貴族出身の軍務志望生。長身で体格に恵まれ、剣技と魔法実技の双方で学年上位に入る実力者で、将来は将軍になることを公言している。入学当初は「強い軍人」への憧れが先に立ち、個人の武技や魔力出力を重視する傾向があったが、授業や演習を通じて、指揮官に必要なのは自分自身の強さだけではないと学んでいく。五柱戦では高い出力と容量を生かしてエリアスを圧倒する一方、途中で相手の戦術を見抜き、自ら戦い方を変更する柔軟さも示した。敗北を素直に悔しがりながらも相手の力量を認め、「次は勝つ」と握手できるまっすぐさを持つ。エリアスとは能力の方向性が正反対だからこそ、互いを成長させる好敵手である。なお、地方貴族とは地方在住の法衣貴族の意味で、領地を治めているわけではない。
ナディル・セファーン、19才(第2部開始時)
エルセリア王国から王立統学院へ派遣された留学生で、同国から受け入れた最初の学生。濃い褐色の髪と少し日に焼けた肌を持ち、制服の首元には故国の習慣で細い青紐を結んでいる。穏やかで話しやすい青年だが、何気ない言葉や常識の中にエルヴァとは異なる文化的前提を持っている。彼にとって「契約」は、人間同士の署名だけでは成立せず、神前でテレシアに受理されて初めて完成するものだった。本人は法律家でも外交官でもないが、だからこそ制度資料には書かれない「現地では当たり前のこと」を自然に語ることができる。異文化理解の難しさと、同じ言葉が同じ意味を持つとは限らないことを、エリアスたちに実感させる人物である。
【挿絵 エレオノーラ、ロッセル、ナディル】
【統学院の教官、職員たち】
アレクサンドロス・ヴァレティウス、六十二歳(第2部開始時)
王立統学院の学院長。穏やかな物腰の老紳士だが、学院全体を俯瞰し、学生一人ひとりの可能性を長い時間軸で見る教育者である。制度とは人を型にはめるためではなく、異なる能力を持つ人材を国家へ送り出すための器だと考えている。そのため、規則から外れた学生を即座に否定することは少ない。教官同士の教育観が衝突しても安易に結論を与えず、それぞれに議論させる。杖の頭を撫でながら考え込む癖があり、学生の名前と過去の出来事を驚くほどよく覚えている。
セヴェリオ・カルディス、五十六歳(第2部開始時)
魔法理論教授。厳格で、根拠、安全、手順を何より重視する。魔法を「才能を示す力」ではなく「制御しなければ事故を起こす技術」として教え、学生にも術式の構造から終了処理まで完全な理解を要求する。かつて魔導事故に関わった経験を持ち、額から右眉にかけて残る火傷痕はその過去を物語る。独創的だが規定から外れやすいエリアスには特に厳しい。しかしそれは才能を嫌っているからではない。才能のある者ほど、自らの能力を安全に管理する責任が重いと考えているからである。
エレノア・ミルセティア、三十九歳(第2部開始時)
学生指導主任を務める教官で、学生の日常生活と成長をもっとも近い位置から見守る人物の一人。柔らかな物腰ながら観察眼は鋭く、成績表だけでは分からない性格、交友関係、迷いまでよく把握している。学院の学生を単なる「将来の官僚や軍人」ではなく、まだ成長途中にある若者として扱うことを忘れない。そのため、能力だけを基準に学生を評価する意見には慎重である。教官会議では異なる教育観の間をつなぎながら、「その学生が何になれるか」という視点を持ち込み続ける。
ユリウス・ハルヴェイン中尉、29才(第2部開始時)
軍務教員として戦術・戦略教育を担当する若い教官。身体能力と方向感覚に優れ、目的を明確にしたうえで、自分で判断し行動できる人材を育てることを重視する。命令を正確に実行するだけでは、状況が崩れた戦場では役に立たないというのが基本姿勢である。そのため演習では、学生が教官の想定とは異なる手段を選んでも、目的に照らして合理的なら評価する。学生との距離が比較的近く、率直な物言いをする一方、決断した者には結果まで引き受けることを求める。
イリーナ・サルヴェリア、四十四歳(第2部開始時)
魔法実務教官。工兵・実習分野を担当し、理論よりも「現場で安全に機能するか」を徹底して見る実務家である。快活で学生とも話しやすいが、実習中の安全管理について妥協することはない。魔力の強さそのものより、制御、停止、周囲の確認まで含めて術者の能力だと考えている。過去の事故で右手に負傷歴を持ち、危険を知ったうえで技術を使う姿勢を学生に求める。失敗そのものを責めるより、失敗から何を学び、次にどう安全を確保するかを重視する教官である。活動的なためか年齢に比べ若く見られがち。
オスカー・ディメトリウス、四十八歳(第2部開始時)
統計・国家分析を教える教授で、眼鏡越しに資料を眺めながら考える姿がよく見られる。数字を「答え」ではなく、人間の思い込みを疑うための道具として扱うのが特徴である。資料と紅茶を机いっぱいに広げ、学生には平均値や総数の背後に何が隠れているのかを問い続ける。国家に忠実であることと、政府の説明を無条件に信じることは別だという考えを持ち、行政に携わる者ほど検証する習慣が必要だと教える。分析好きのエリアスとは、授業を通して独特の相性を見せる。
マダム・ベルタ・グラナート、年齢不詳
王立統学院・中央食堂の厨房長。五十歳を越えた大柄な女性で、白髪の混じる髪を後ろで束ね、太い腕に大きな前掛け、そして巨大な木杓子がトレードマーク。「マダム」は学生たちが呼び始めたあだ名であり、中央厨房と千人近い学生の胃袋を取り仕切る女傑である。豪快で口も悪いが、料理人としての誇りと責任感は人一倍強く、「学生を腹を空かせたまま授業へ戻さない」ことには一切妥協しない。食材だけでなく、調理能力、配膳、在庫、人の流れまで瞬時に把握する優れた現場指揮官でもある。エリアスの突飛な発想には呆れながらも、その実務感覚を認め、「悪い官吏になれる」と評した。彼女にとって食堂は、料理を作る場所であると同時に、千人の日常を支える一つの組織である。
【挿絵 統学院の教官たち】




