第2章 資産接触プロトコル 【 第1話 】 分散する細胞(セル)
かつては恐怖でしか見えなかった
世田谷の街並み。
だが今、
そこにはそれぞれの家族が過ごす、
かけがえのない平穏な日常が
広がっていた。
――もう、誰の平穏も奪わせない。
胸の中で強く誓いながら、
片桐蓮は歩き出した。
闇の先に待っていた、
自分自身の足で歩む新しい未来路へ向かって。
【第一部:見えない名簿】完
「神崎の件で学んだ。
日本国内に『巨大なサーバー』を置くのも、
一箇所にデータを集約させるのも自殺行為だ」
東南アジア某国、
熱帯のスコールが叩きつける
密林のコンテナハウス。
暗い室内でPCのモニターに向かい、
呟く男がいた。
トクリュウの新たな統括役、
コードネーム『蜘蛛』だ。
神崎と竹内の情報網が
警視庁によって壊滅させられてから数ヶ月。
警察のサイバー捜査能力向上と
「案件屋」への徹底した集中取締により、
かつての「一極集中型」の犯罪システムは
完全に過去のものとなっていた。
しかし、彼らは倒れていなかった。
より悪質に、より巧妙に
その形態を変貌させていたのだ。
「これからは
『分散型自律細胞(分散型セル)』でいく。
名簿データは一切データベース化しない。
数千に分割した暗号化ファイルを、
南米、東欧、東南アジアの数十の
P2P(分散型)ストレージに分散保持させる」
『蜘蛛』がキーボードを叩くと、
世界地図の上に無数の点が点滅を始めた。
「さらに、実行役との連絡には、
警察が解読・追跡を強化した従来の
主要な暗号化アプリ(TelegramやSignalなど)は
使わない。
独自のオープンソースコードを改変した
『使い捨て型の独自暗号化アプリ』を
毎回ビルドして配給する。
一通のメッセージを送るたびに
通信鍵が破棄され、
三十分でアプリ自体が
端末から自動消去される仕組みだ」
隣にいた配下の男が思わず唸った。
「これなら、末端の実行役が
警察に捕まってスマホを押収されても、
指示役のIPどころか、アプリの残骸すら
残らないってことですか……?」
「その通りだ。
警察が逆追跡用の
プログラムを送り込もうとしても、
宛先となるサーバー自体が
数分おきに世界中を転々とする。
追跡する頃には、
その『拠点』は世界から消えている」
『蜘蛛』の唇が歪んだ。
「案件屋という『頭脳』を叩けば
勝てると思っていた警察に、
本当の泥沼を見せてやる。
いくら『パケット解析』を進めようが、
追うべき糸口そのものを消し去れば、
奴らは暗闇で空を切るだけだ」
警察の「情報網遮断」という
執念の捜査に対し、
トクリュウ側もまた、
警察の目を完全に眩ませるための
新たな「デジタル迷彩」を
完成させつつあった。
暗躍する「不可視の影」との、
新たな泥沼の知恵比べが
幕を開けたのだった。
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2026年4月。関東近郊、A県K市郊外。
かつては里山だった丘陵地が、
五年前から
「スマート集落」として再開発されていた。
太陽光パネルと蓄電池、
IoT家電を標準装備した
瀟洒な住宅が並ぶ一帯だ。
行政の補助金が投じられ、、……。
明日も、19:20 に、投稿します。
よろしくお願いいたします。




