【第2部】「自律分散型スマート集落」 第4章:プロトタイプの根本的な再構築(2) 情報の残骸
亡霊はついに、
自らの手を汚すことも、
愚かな人間に脅かされることもない「完璧な怪物」の胚胎に成功した。
窓の外では、
東南アジアの湿んだ夜風が巨大なビル群を吹き抜けていく。
遠く2036年の未来、
日本中のスマート集落を震え上がらせることになる「事案Z」へのカウントダウンは、
この静かな夜、
人間の意志を完全に手放した男の決意と共に、確かに始まったのだった。
案件屋・神崎の逮捕、
そして海外指示役・竹内らの摘発から数週間が経過した。
都内の警察署にある取調室。
片桐蓮は、グレーのパイプ椅子に静かに腰掛けていた。
身柄の拘束は解かれ、
保護観察処分及び執行猶予付きの判決を待つ身となった彼の表情には、
かつてのような怯えや焦燥感はない。
「片桐、体調はどうだ」
取調室に入ってきた松永警部補が、缶のお茶をテーブルの上に置いた。
「大丈夫です、松永さん。……大学からは退学処分が届きました。
実家の両親にも、全部話しました」
蓮は少し言葉を詰まらせたが、まっすぐ松永の目を見返した。
「母さんは泣いていました。『生きていてくれてよかった』って。
俺、なんて馬鹿なことをしたんだろうって、改めて胸が苦しくなります」
「そうか。……ご両親の言葉がすべてだよ。お前は踏みとどまったんだ」
松永は静かに頷くと、手元のファイルを開いた。
そこには、
神崎のサーバーから押収されたデータベースの最終解析レポートが綴じられていた。
「お前たちが現地で集めさせられたデータは、
すべて警察のデータベースへ移送され、無効化(無害化)処理が完了した。
お前が勝手口の写真を撮った世田谷の高齢者宅にも、
地元の警察署から防犯対策の強化と見守り支援の手配が済んでいる」
「よかったです……本当に……」
蓮は胸をなでおろした。
だが、松永の表情はどこか険しいままだった。
「だがな、片桐。
これで『一件落着』とはいかないのが、このネット社会の恐ろしいところだ」
松永はモニターに、
ある暗号化掲示板のスクリーンショットを映し出した。
そこには、
神崎が逮捕される直前に駆け込みで転売していたとみられる、
一部の「情報断片」が売買されている痕跡が残っていた。
「神崎という巨大な『案件屋』は潰した。
だが、奴がばら撒いた『見えない名簿』の残骸は、
まだネットの暗闇に漂っている。
一度デジタル上に流出した個人情報は、完全に消し去ることが極めて難しい」
蓮は息をのんだ。
自分が軽い気持ちで入力したデータ、写真、そして住人たちのプライバシー。
それらは神崎が消えてもなお、社会のどこかで「傷痕」として残り続けているのだ。
「俺たちがやらなきゃいけないのは、犯人を捕まえることだけじゃない」
松永は固い決意を込めて言った。
「流出した情報の『死滅』だ。
この残骸を拾って次の犯罪を企む第二、第三の神崎を、
俺たちは絶対に生まれないように叩き潰し続ける」
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「警察庁から正式に通達が出たぞ。
2025年から2026年にかけて推し進められてきた
『情報情報源・案件屋に対する集中取締期間』の成果と、
今後の法整備についての追及方針だ」
警視庁サイバー犯罪対策課のミーティングルーム。
松永警部補の言葉に、……。
明日も、19:30 に、投稿します。
よろしくお願いいたします。




