23. 評価会議
午前中の疲れから容は深くため息を吐く。
「天贖様、本当におモテになられますね」
昼食の席で、太智、男衆、楓がいる中、上座の中央に座る天贖に文句を言った。今日の昼食のメニューは海鮮丼と味噌汁、サラダだ。天贖は味噌汁を飲みながら、ぶっきらぼうに返事をした。
「そのようなことはないと思うが」
朝の一件から、天贖は容としっかり会話はするようになったようだ。しかし無碍な反応はあまり変わっていなかった。上等だ。
直大、直志、義喜、楓の順に皆口々に言った。
「ある」
「ある」
「あるよねっ」
「ありますね」
天贖はバツの悪い顔をして、味噌汁を膳に戻し、反論した。
「俺はここの長だ。女衆がそういう態度で俺を持ち上げるのも、仕方がない。惚れられているわけではない」
「違いますね。私、今日は何度睨まれたか多過ぎて数え切れませんでした! 少しは自覚して慎んでください」
容が海鮮丼を膳に置き、語気を強めて言う。横で直志が小さく「すげえ」と言っていた。長に対する態度としては強気過ぎたか。しかし容は天贖に対し従うような態度をしてやるほど優しくはない。
天贖は不愉快そうな表情をした。
「それでは俺が口説いているように聞こえるだろう」
「その通りですよ。会えて嬉しいとか言われて嬉しいと思いを込めて返すのは、女からするとイエスイエス愛してるに聞こえます」
「お前の女としての意見か?」
「いや、私はそこまで女心に詳しくないですが、察するぐらいは私でもできます」
女のくせに女心には疎いと前半は少し弱かったが、後半は自信満々に言った。天贖は前半を拾うのはせず、ただ不満げにするだけだった。もしかしたら気を使われたのかもしれない。
「お前達はどう思う? そうだな、まずは直志」
自分は蚊帳の外だと思っていたのだろう、笑って天贖と容のやりとりを見ていた直志が慌てた。
「そ、そうですね。えっと、本当言うと、モテるのは天贖様が格好良いだけじゃなくて、1人1人名前覚えてて、1人1人どうすれば喜ぶのか知ってて、そのように振る舞っちゃうからだと思います。いい格好しい?」
直志は相変わらず直球だった。天贖は打ちのめされたらしく、箸を握り締めて俯いた。その後気を取り直したらしく、今度は直大の意見を聞いた。
「直志の意見に同意しますよ。直志は可愛いくて男からも誘われたことが何度もありますから、男に誘われる側の機微もわかるのでしょう。私も天贖様が女性と話していると口説いているようにしか見えませんね」
今、直志が可愛いだかなんだか言っていなかっただろうか。この2人はこれが基本なのか、周囲からの指摘は特にない。
「口説いているか、俺は」
「うーん、無自覚なんだから今更しょうがないんじゃないですか?」
「天贖様は、そのままでいてください。女衆に少し好かれ過ぎているくらい、いいではないですか」
天贖は思ってもみなかったことを散々言われたのか、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「皆の意見から容はどう考える?」
「つまり、無自覚に口説いて回る、いい格好しいの歩くフェロモン製造機ということですね」
「まとめろとは言っていない」
天贖は冷静に指摘しつつ眉を寄せていた。
「でも、楓さんの言う通り、そうじゃなきゃ天贖様じゃないっていうの、わかりました。太智世話係として天贖様の近くにいる私としては迷惑ですが我慢しますよ」
「やけにつっかかってくるな。俺がモテたら気に食わないのか?」
それでは容が女衆に嫉妬しているようではないか。不思議と言い当てられたような気分になってしまい、焦った。
「そ、そういうわけじゃありません!」
「お前は女だが、お前もモテたいのか?」
天贖様、時々天然?
「は……? そ、そうです。私も女の子にモテたいんですよ。学生時代はキャーキャー言われてましたしね!」
嘘は言っていない。容は女の友人はいなかったがショートカットの頃は女の子のファンが多かった。よく教室の廊下から歓喜の悲鳴が聞こえていた。容がセミロングにしてからは女にしか見えなかったらしく、大学生時代、今度は男のファンが発生していたと浚地から聞いた。
容がほっと胸を撫で下ろすと、直大が鼻で笑って、直志に耳打ちした。
「妬いてることがバレなくてよかったな、容さん」
「色々と時間の問題だと思うな。僕」
直大と直志の近くに座っている容は2人の会話が聞こえてしまった。反論したいが、天贖がいる以上、藪蛇だ。
容が膳に箸を置き、仕方がないといった体で両手を広げた。
「まあ、この件はどうしようもないってことですね。現状維持というわけです。天贖様」
「面白くないが納得しよう」
大人達の会話についていけなかった太智は、つぶらな瞳でつまらなさそうに容を見ていた。しかしご飯は美味しいのか、小さな手で握る箸は止めていない。
「太智、今日、私の家に行かない? ちょっと友達の様子を見に行くだけなんだけど」
それを聞いた太智が顔を輝かす。
「お前ん家!? 行ってみたい!」
「じゃあ、午後3時、屋敷前で集合な。約束なんだから、忘れちゃ駄目だよ」
「忘れるかよ! あ、天贖様、行って来ていいですか」
小さく聞いた声を受け、天贖は大きく頷いた。
「楽しんでこい」
「はい!」




