12. 釣り
目覚めると、顔を顰めたくなるほどの強い頭痛がした。まだ見慣れない高い位置にある木造の天井が目の前に広がっている。頭痛のせいか霞んで見え、眠さと見辛さで容は目を薄く細めた。布団から上半身だけ起こして呟く。
「んー。頭痛い」
突然、軽快な音がして襖が開けられる。
「大丈夫ですか!?」
「か、楓さん!?」
目の前には、両手を挙げ、襖を開けたままの格好で、顔を顰めている楓がいた。
「いきなり開けてしまい申し訳ございません! 頭が痛いと……!」
「だ、大丈夫です。すぐに治まりそうです」
楓の必死な様子に容の眠気も飛んでいき、目覚めたばかりでもはっきりと反応が返せた。
「そうですか。治らないようでしたら、お薬がありますので、お申し付けください」
楓の胸を撫でるような仕草から、心から心配してくれたことがわかった。
「わかりました。ありがとうございます」
容が起き上がり、楓の背後にある襖の向こうを見る。はっきりと明るく、今、朝なのだと気づく。
「もしかして、起こしに来てくれたんですか」
「はい。太智さんを起こしに行っていただいてもよろしいですか。朝餉ができているのですが、まだ起きていないようで」
「あ、じゃあ、身支度を整えてすぐに行きます」
楓が部屋を出て行った後、しばらく頭の痛みで布団の上に突っ伏した。早く太智のところへ行かなければならないのに、まだ動くのが辛い。次第に頭痛にも慣れた頃に、のろのろと起き上がった。
屋敷から貰った帯で結ぶ形の白い寝衣を脱ぎ、半袖シャツとジーンズに着替える。そういえば、男衆も女衆もこの屋敷に合いそうな古めの格好をしていた。容はどういった服装をしていればいいのだろうか。
「注意されたらでいいか。とりあえずこれでいいかな」
布団をたたみ、押入れに入れてから、伸びをする。凝り固まっていた関節が緩む。
「んー! もう頭大丈夫そう。前半辛い夢だったけど、後半はいい夢だった。けど明晰夢なんて前は見なかったのに。……あっ」
太智を起こしに行かなければいけないが、そうすると化粧をする時間がないと気づく。壁掛け時計がなかったので、机に置いていた腕時計を見ると、時間は朝7時を指していた。朝食が7時15分と聞いていたから、太智を起こしに行って席につこうとすると時間は少ししかない。
「まぁ、いいか。天贖様の前で化粧なんかしなくても」
あの意地悪に可愛く見られたいなどと露ほども思っていない。イケメンだろうが構うものか。
「さあ、太智起こしに行くか」
太智の部屋は容の部屋から結構歩く。「近くの客間」とは誰が言ったか。
「おーい。太智、開けるよー」
襖越しに声をかけるが、返事がないようだ。
「起きてるー?」
やはり返事はない。
「開けるよ」
障子をそっと開けると、部屋自体は容の使っている客間と変わらないようだった。襖を開け、寝室を覗くと、太智は夏掛けを抱きしめて横向きに寝ていた。あどけない顔が、可愛らしかった。太智の枕元まで寄って行く。
「起きてー。太智」
何度か耳元で話しかけても起きないので、夏掛けを奪おうと掴みとる。
夏掛けを軽く上に引いても、太智は手を離さない。
少し引き摺ってみるが太智もついてくる。
思い切り上に持ち上げたら、何と、太智が釣れた。
「凄いな、これで起きないなんて」
夏掛けを掴んで離さない太智の手を取って、指を開かせようとする。
「ん!? この子握力強いよ!?」
指一本も動かない。寝ながらよくこれだけの力が出せるものだ。諦めて夏掛けを太智ごと降ろす。もうこれしかない。
「お・き・ろーーー!」
大声を耳元で発した。何度も繰り返すが、起きない。耳すらも反応してくれない。
容は途方に暮れた。
「かくなる上は」




