第八十四幕 二極の太陽
時は、フードの女の奇襲より少し前に遡る。
「見つかりそうにないかい? チョー隊員」
「無理っスよライトサン。そこら辺に落ちてる砂粒から一粒の塩を見つけろって言ってるもんっスよ」
ライトは中層、丁度マサミチ達のいる時廟の墓とは真反対の位置にいる。
今現在、ライトには新人教育の任が出されている。そもそもチョーはライトが勧誘した隊員なのでライトがきちんと教育してね☆ と。なので不法入国者の確保と事情聴取という比較的軽めな任務で力量の把握や協調性の有無などを確認しようと思っていたのだが……。
「ふぅ……まさか数週間も捕まえられないとは。団長の評価を私が下げてしまう……!」
「ライトサンはダンチョーサンの話してる時だけポンコツになるっスよね……」
「────!?」
「しかもチョーの力を確かめるってのはわかるんスけど、ライトサンほぼ役に立ってないじゃないっスか」
「────!?!?」
悪気のない言葉の暴力が容赦なくライトの心のヒットポイントを削っていく。
こういう探索が不向きなのは自覚しているがこうもはっきりと言われると傷つく。
「得意だーって言ってる広範囲の魔力探知もよゆーで対策されてるっスし。いいとこなしどころか役立たずっス、お荷物っス」
「うぐっ……!」
「はぁー、ライトサンっスよ? 「比較的簡単な任務で君の力を量る。まぁいざとなったら私に任せればいい」とか言ってこの依頼受けたの。ライトサンは知らないかもっスけど私に任せろって出来る人の言う言葉っスよ?」
「がはっ!!」
心無い一言に、ライトは膝から崩れ落ちる。
子供みたいな見た目のチョーにユグレシアを代表する最高戦力が大ダメージ (心の)を受けている姿は通行人からしたらシュール極まりないだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここでライト・クロクアロー、彼の人物に捕捉を入れようと思う。
件の彼、ライトはクロクアロー家の次男。
貴族クロクアローを象徴とする能力を受け継いだ次期当主候補──なのだが、ライトの両親はどうしようかと激烈に頭を悩まされているという事実がある。
普通ならば本家の能力を受け継いだ時点で次期当主が確約されるのだが、彼は……彼だけは違った。
一言で彼を表すなら”ポンコツ”だろう。
彼の自室はゴミが散乱し、服はどれが洗っていてどれが洗っていないかの区別もつかないほどだ。
彼に一度書類を任せれば、確実に仕事はこなすが八割の確率でぐしゃぐしゃになって提出される。
そう、彼は当主という責任のかかる立場に致命的に向いていないのだ。
ライトの業務内容は書類などを一切介さない実務が多い……っていうか全部そうだ。
実力は確か、愛想や社交性も良い。ただ致命的に私生活が終わっている。
ただ、それだけの男なのだ──
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「──ん?」
項垂れていたライトは弾かれたように立ち上がった。
「どうしたっス──」
「しっ。少し静かにしてくれ」
明らかに先程までとは違うようすに何事かとチョーが口を開くが人差し指で静止される。
その様子にチョーは眉尻を下げるが、ライトは気にも留めない。
ただ彼は今、”星”を観ていた。
”天帝観測”と呼ばれるクロクアロー家に伝わる魔力技術がある。
空、それよりも上にある宇宙。彼らは”星”と繋がり、そこからすべてを見通す。
国全体、その範囲のありとあらゆる魔力を観測する事が出来る星の瞳。それに、何かが映った。
「傷──起こり──……ッ!!」
一見関連のない言葉の羅列。そこに変化が生じる。
目が見開かれ、世界樹の方に視線が向かう。何事か、とチョーも同じ方向を見るが、世界樹には何ら変わりはない。訳が分からない、とチョーが首を傾けるのも無理はない。なぜなら。
「ああ、そこか──」
視点が違うのだから。
「言葉足らずですまないチョー隊員。だが時間があまりない。これで、わかってくれ」
一瞥もくれず、ライトは正確にチョーの額に指を添える。そして、記録を渡す。
ライトが何を観測したかの記録を。
「んな──! ライトサ」
その記録に眼を見開き、どういう事だと問おうとしたが。既にそこにライトの姿はなく、ただ残光が漂っていた。
↳↰
「──そこまでだ」
星が落ちたのかとでも錯覚する轟音と共に、身震いするかのような冷徹な声が響いた。
突如として空から降って来た彼は、燃え盛る太陽のような魔力で威圧する。
今しがたフードの女に対抗するため、それとアキラの魔力の痕跡をかき消すために、父が奥義として使っていた『銀世界』を展開したはずだ。
それが、たった今崩壊した。
『銀世界』は辺りの空間に存在する魔力を支配し、自分の物として扱う技である。
言うなれば空間に存在している魔力を自分の拡張パーツとして使う事で少ない魔力で自分の出せる力以上の力を発揮する『○○廻戦』の領域〇開のような物だ。
だが『○○廻戦』の領域〇開とは違い、領域としての定義が曖昧だ。
外郭、言わば明確な領域の境目がなく、破壊することは非常に困難を極める。そもそも概念としてそこに存在しているだけの形而上的存在だ。
壊せるわけがない。そんな想像、どうやって……。
「────」
息を飲み、抱き寄せたアキラを自分の身体で隠そうとする。もうバレているかもしれない、というよりバレているだろう。それでも、そうせざるを得なかった。
最初に会った時とも、二度目会った時とも似つかない高圧的な気配。
ウルルの圧倒的暴力による恐怖のような圧ではなく、目の前に太陽を置かれているような包み込むような圧。
彼の後ろに立ち、一緒に戦うという状況になったのならどれほど心強いだろう。そんな事を考えさせられ、現実から逃げ出したくなる。
「マナー違反じゃなーい? 呼ばれてない食卓に土足で入り込むだなんて」
「これが社交の場であれば直ちに頭を下げ、誠心誠意謝罪するだろう。ただし、この場でその行為をする必要はないと判断した」
「うふふ……言うじゃない。いいわ! 貴方も食卓に並べ──────」
狂気を目に宿し、自らの欲望に身悶えしながら「殺す」とそう宣言する、はずだった。
瞬く間に、ライトとフードの女の姿が消えた。正確に言えばライトがフードの女がいた位置に置き換わり、女の方だけが姿を消していた。
「ふむ……存外頑丈ですね。少々手荒にしたこと、後に謝罪するとしよう。もし、彼女が犯罪者でなかったのであれば、だが」
足の裾についた土を払いながらそう吐き捨てる。
マサミチも、アキラも見逃した出来事。
ライトはほんの少し早く動いてフードの女の目の前に立ち、片足でジャブのように蹴りを一発だけ放った。ただそれだけだ。
ただそれだけの行動が、その場にいた誰にも認識できない速度で行われただけのことだ。
「さて──」
その声にビクリと腕の中のアキラが震えた。アカツキの気配も乱れに乱れている。恐怖しているのだろう。かく言う自分も足が竦み、歯が奥でかちかちと音を立てている。
「不法入国者、魔力の性質も適合。人相は……確認できないがおおまかな身体的特徴は目撃情報と同じだ」
「────」
「では、その犯罪者をこちらに渡してもらおうか」
有無を言わせぬ言圧に身体がぶるりと震えた。
この相手に、ライトにアキラを渡してはいけない。僕の恩人を、渡すわけには──。
先のない右手をライトに向け、左手で強くアキラを抱きしめる。
その反応を見てライトは眉尻を下げ、ため息交じりに口を開く。
「その反応、交渉決裂とみて相違はないな?」
「うっ──。し、四季・冬式! 雹そ───」
恐怖を代弁する歯を無理やり食いしばり、まだ出血が止まらない右腕で能力を行使する。
が、衝撃が走り腕が上に跳ね上げられ、氷の槍が生成しきる前に中断される。
「業務妨害と無許可の能力使用。厳罰対象だ」
声のした方に、なり振り構わず弾かれた右腕を向ける。
駄目だ、アキラは僕の恩人なんだ。アキラも、ソラやアルベリと同じくらい大切なんだ。一人も失いたくない。この人の、みんなのお陰で前を向けたんだ! 恩返しだってまだできてない!
すこしでも抵抗して時間を稼がな──
「未熟」
短く一言。後、一閃。
視界がぐるんと回り、身体の制御が勝手に手放される。遅れて気づく。
あ────ご──。
脳が揺れ、呆気なく倒れる。意識の糸がぷつりと解け、床に倒れ伏す。
それを流し目で見送り、傍らにいるアキラを一瞥する。
「では、連行する。女性に手荒な真似はしたくない。そう、それでいい。
──君は、そこで反省しているといい。君が今回補導されないのはソラシア様のためだ。感謝を伝えるといい」
脳が揺れ、意識が分断されている状況で、身体など動くわけもない。
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──────
────
──
──ガシッ。
「──? 意識を失っているはずだ。なぜ、まだ動ける」
「──にが……さない」
燃える燃える。魔力が燃える。
焼べる焼べる。この黒い感情を。
「──ぶっ殺す」
仲間を奪う、大切な人を奪うコイツを、許さない──!
身体が紅く胎動する。身体を熱が覆っていく。
黒く変色した炎が溢れ、身体をも焼き焦がしながらなおも火力をあげていく。
「暴走……未熟な証拠だ。感情に振り回されるなど笑止」
その言葉は届かない。
今はただ、この感情に身を任せて!
「Aaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」
その叫びが合図となり、黒と紅の太陽が激突する──
天帝観測でチョーが貰った情報はマサミチが傷を氷で塞いだという情報です。ライトはマサミチのことをよく知らないけど、チョーからしたらただ事ではないですからね……。
どうして俺はその情報を本文に書けないんだ!!
A.文才がない。 クソォ!




