表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫フィガロと、願いの図書館 〜涙と魔法に満ちた旅の記録〜  作者: たかつど


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/15

12 ベビーチェア (後編)

 主様の願いを見つけたベビーチェアは、フィガロと共に「夜の図書館」を後にした。


 来た時と同じ、月の道が、二人の帰路を照らしていた。


 しかし、記憶の海に触れた代償は、少しずつベビーチェアの身に現れていた。


 体が、光の粒となって、はらはらと消え始めている。


 それは、まるで、夜明け前の朝露のように、触れると形を失っていくようだった。


 座面の布地は透け始め、木材のひび割れが、光の筋となって現れる。


 ベビーチェアは、自分の体が記憶の海に入った時、薄れていくことに気づいていた。


 しかし、恐れはなかった。


 むしろ、主様の願いを見つけた今、ベビーチェアの心は、不思議なほど満たされていた。


 寂しさも、悲しみも、全てが洗い流され、残るのは、温かい感謝の気持ちと、そして、深い安堵感だけだった。


 ゆっくりと、スクラップの山へと帰っていった。


 月明かりは、スクラップの山を銀色に染め、ベビーチェアがかつて座っていた頂点に、やさしく降り注いでいた。


 朝が来た。


 朝日は、スクラップ置き場を明るく照らし出した。


 遠くから、重機の轟音が鳴り響き始めた。ガシャン、ガシャンと、金属の山が大きく揺れている。


 今日から、このスクラップ置き場の整理が始まるのだ。


 ベビーチェアは、ついにスクラッププレス機にかけられた。


 巨大なアームが、ゆっくりと、しかし確実にベビーチェアを掴み上げる。


 金属の歯が近づく。かつて主様が座った座面が、歪んでいく。


 けれどその瞬間、ベビーチェアの身体はふわりと、光の粒となって舞い上がった。


 それは、悲しみではなかった。


 再会のあとに訪れた、静かな旅立ち。


 痛みも、恐れも、もうそこにはなかった。


 ただ、主様からの温かいメッセージと、満ち足りた愛だけが、光となって輝いている。


 光は風に乗り、どこか遠くへと運ばれていった。


 まるで、主様が初めて歩き出した日、風が運んだ歓声のように、軽やかに舞い上がっていく。


 フィガロは、それを見上げながら、その銀色の瞳を細めた。


 そして朝日に溶けるように姿を消した。


 彼の姿は、もはやどこにも見当たらない。


 まるで、最初からそこにいなかったかのように。


 残されたのは、穏やかな潮騒と、まばゆい朝日の光だけだった。



 エピローグ


 あのスクラッププレス機にかけられたベビーチェアの金属片は、ほどなく別の工場で新しい姿へと生まれ変わった。


 それは、この港町のどこかで、誰かの役に立つかもしれない。


 新しい椅子かもしれない。


 もしかすると、小さな自転車か、誰かの楽器かもしれない。


 あるいは、この港町を走る、船の一部になったかもしれない。


 それがまた誰かに愛され、ふたたび物語を刻んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ