46. 新玉ねぎは甘いんです
「それで、今日はこれか」
「ええ新玉ねぎです。葉が倒れてもう一週間ですからね。しかも今日は晴れている。絶好の収穫日和です」
すっかり春の陽気になってきた今日この頃。畑にずらりと並んでいるのは葉の倒れたキュウコンのようなもの。そう、春のこの時期に採れる新玉ねぎ。
玉ねぎは天気のいい日に全部収穫しないといけませんから、人手が必要だったんですよ。この後一、二週間くらい干さないといけませんし。
「それで、手伝わせるために呼んだと」
「ええ!」
なんかもう、愛称だのなんだのは吹っ切れました。というよりもですね、私の羞恥心よりも野菜の方が大事なんですよ。ええ。
というわけでさっさと収穫していきますよ。
「よいしょっと」
玉ねぎはスコップとかで掘る必要はなくて、茎の下の方を持って引っ張れば抜き取れるのよ。さあどんどん抜いていきましょう。
なんて意気込みましたが、さすが生きる機械ことケネ……ケンさん。仕事ができるわぁ。呼んでよかった。
あっという間に畑から全部の玉ねぎが抜かれまして。
「これで終わりか?」
「ええ。ありがとうございます」
さて次はこれを天日干しにします。まあ色々と方法があるのだけど、とどのつまり通気性がよければいいのよ。昔はネットを使っていたけれど、ここでは手に入りやすい紐にしましょうかね。
「ちょっと見ていてくださいね」
まずは余分な葉を切った玉ねぎを二つ用意。そうしたら二つ折りにした紐を後ろに通らせて、穴に端っこを通す。しっかり縛って、玉ねぎと玉ねぎの間に下から紐を通して。上に引き上げれば完成。
「これを何個か作りますよ」
「……わ、わかった」
ちゃっちゃか作ってしまいましょうかね。
この新玉ねぎをどう食べようかしら。やっぱり蒸して鰹節とお醤油かしら。
ふと隣を見れば苦戦しているご様子。これはもしや……。
「もしや不器用なんです?」
「…………何か悪いか」
「うふふ、別に悪くはありませんけどね」
あらあらまあまあ。可愛いところもあるじゃないですか。
「なんで嬉しそうなんだ」
「あらごめんなさい。でも、不器用なら髪を切ったらどうです? 視界が明るくなった方がやりやすいですよ」
ついでに男前になりますしね。そろそろそのもっさり頭も見飽きてきましたよ。
そんな風に髪をちょんちょんといじるとムッとされまして。
「エミリーは、髪を切った方が好きか?」
「うーん、まあそうですかね」
別に不清潔なわけじゃないですけど、さっぱりしていた方がお顔がよく見えますからね。それにこのままだと目が悪くなりますよ、目が。今更ですけども。
「じゃあ切るか」
「あらすんなり」
「……もう隠すものもなくなったしな」
あのおびただしい量の吹き出物もなくなりましたしねぇ。ほんと、謎だわ。
「さて、これで全部ですね」
「……」
「助かりました。さ来週にでも食べさせてあげますから来てくださいな」
見るからに落ち込んでいるケンさん。そんな縛れなかったからって……収穫でもう十分役に立ってますのに。私は可愛いところを見れて嬉しかったですし。
「ああ、そうだわ。お礼にいちご狩りなんてどうでしょう?」
「いちご狩り?」
「いちごを摘んで、食べるんですよ」
もうすぐ食べ頃ですし。昔、孫が喜んでたのを思い出すわぁ。いちごを採っては食べて採っては食べて。お腹壊しますよ、と思わず言ってしまうくらいに。毎年食べきれなくてジャムにしていたけれど……今年は作らないかもしれないわね。
「伺わせてもらう」
「ええ、待ってますからね」