47. う、嘘、でしょう?
「おい、エミリー」
「ここにいますよー。ほら、手伝ってください」
お客様が来ているのに顔も見ずに手伝わせるなんて、お父様に見られたら怒られてしまうわねぇ。
新玉ねぎの収穫を手伝ってくれたお礼として苺狩りに呼んだのですが……まずはこのつりさげておいた玉ねぎを片付けなくちゃ。
「ん」
「はい、どうも」
こういう時に背が高いといいわねぇ。なんて思いながらバケツリレーのように、下ろして紐を外してでどんどんやっていきまして。
「じゃあ私はさっさと蒸してきますね」
「ああ……その、髪を……」
「苺の畑にでも行っていてくださいな。食べていてもいいですから」
そう言って、お勝手へ。
二週間も待たせてしまったんだもの。早く食べさせてあげたいわ。なんてたって新玉ねぎは甘くて美味しいんだから。
「よし、まずは洗って」
そうしたら皮を剥いて、十字に切れ目を入れる。コンソメを指で潰して、間にパラパラ振りかけて。
玉ねぎからは水分がでますからね。ちゃんと下にお皿を引いて。あとは蒸して、玉ねぎが透き通って、出てきた水分でコンソメが溶けていたらいい感じ。とは言っても手作りコンソメだから出汁がらが残るんですけどね。
あとは鰹節をパラパラと醤油をかけて完成。
「いい匂いだわぁ」
湯気がご馳走だもの。さっさと食べてもらいましょう。
お皿と箸を持って、そよそよと暖かい風が吹き抜ける裏庭に向かうと、嬉しそうにいちごを食べているケンさんの後ろ姿が。ああ、そういえば髪の毛を切ったのね。もっさりがさっぱりしているわ。
取っては食べて、取っては食べて。全く、食い尽くさないでちょうだい。
「まったく、そんなに食べて……」
「うまいんだ、仕方ないだろう。昔は嫌いだったのに、今は美味く感じる」
「っ!?」
おい皿が落ちるぞ、なんて言われても、そんなの、そんなことより。
振り返ったケンさんが、あまりにも、似ていたから。
紫味を帯びた、深い青色の瞳。あの人とは、全然色が違う。違うのだけれど。私を見る、その眼差しを、知っている。
「エミリー?」
私を呼ぶ、その低くて優しい声も。
「おい、どうしたんだ?」
私に触れる、働き者で優しい手も。
「おい」
匂いでさえも、何もかもが懐かしい。今まで、どうして、気づけなかったのかしら。いいえ、ずっと懐かしさは、感じていた。重ねていたんじゃなかったんだわ。
「いいえ、いいえ、なんでもありませんよ」
出会った時には想像もできない。こんなに痩せて、あの腹の肉で足も見えなさそうだった体は筋肉質になって。短髪も似合うじゃないですか。おかげでよく見えるようになった顔も全然醜くなんてないわ。ハンサムよ、ハンサム。
「いちご、美味しいでしょう」
「ああ、うまい」
私の野菜を食べて、美味しいと言ってくれるその表情が、なによりも大好きだった。
「やっと、野菜を美味しいって言ってくれましたね」
「何を言っているんだ。これは苺だろう? 果物だ」
「前に言ったでしょう? 畑から採れるんだから野菜ですよ」
そう言うと、サッと顔を青ざめて狼狽始めたケンさん。まったく、そういうことですか。
「『美味しいんなら、もっとたくさん食べてもらわなきゃ』」
まさか、二度も同じことを言うなんて思わなかったわ。
「いい……のか?」
「素直になりなさいな」
あの結婚を申し込まれた時にそっくりどころか瓜二つだわ。確かこの後……
「『この美味しい野菜が毎日食べたい。結婚してほしい』」
「……言われなくてもそのつもりですよ、もう」
ねぇ、健二郎さん。私、何度生まれ変わってもあなたをお慕いするのね。
まさか、蒸した新玉ねぎを持ったままだとは思わなかったけれど。




