21. じゃがバターは罪ねぇ
「言われた通り汚れてもいい服で来たが」
「ええ、その格好くらいがちょうどいいわね」
今日も今日とて、ケネス様を呼び出しまして。
気持ちのいい秋の快晴、目の前に広がるのは芋畑。
「……これは、またさつまいもか?」
「何言ってるんですか、よく見て下さい。葉が違うでしょう?」
「……よくわからない」
まー! ここまで収穫を手伝わせたというのに。ケネス様もまだまだねぇ。
「これは、じゃがいもですよ」
「結局芋じゃないか」
「それはそうですけど、全然違います!」
さつまいもは根が大きくなったものだけれど、じゃがいもは茎が大きくなったもの。ついでに言えば、花も全然違う。さつまいもは朝顔みたいな花が咲くのだけれど、じゃがいもは茄子に似たのが咲く。確か分類とかなんやらが違うような話も聞いたけれど……まあ細かいことは気にしない。
「さ、掘りますよ!」
「……ああ」
「今日はお預けじゃないですからね。終わったらちゃあんと食べさせてあげますから」
「……」
まあ嬉しそうな顔しちゃって。わかりやすいったら。
じゃがいもを掘るときのコツは、茎の周りを優しく掘ること。種イモを植えた深さくらいまで。そして芋が出てきたら株の根本から引き抜く。
「できた」
「上手上手」
懐かしいわぁ。昔子供達と堀った時もありましたっけ。種イモかクズが残っていたのか、植えていないのに採れた時は驚いたわねぇ。
なんて考えていたらまぁた頑固な芋が。
「おい、気をつけろ。また転んだらどうする」
「そんな柔じゃありませんよ」
「小さいだろう」
後ろからケネス様に支えられまして。
……確かに身長は低いですけれども。というよりもケネス様が大きいんですよ。いつも首が痛いったら。
「随分と、汚れるのにも抵抗がなくなりましたね」
「おかげさまでな」
「よかったじゃないの。男前になりましたよ」
「別に男前になりたくて畑に来ているわけじゃない」
「わかってますよ」
私の野菜が食べたいからでしょう? いつも素直に美味しいなんて言ってくれませんが。
そんなそっぽ向いちゃって。子供じゃないんですから。
「ここら辺はあらかた掘り終わったが」
「相変わらず仕事が丁寧なことで」
ちょっと確認……種イモもクズもちゃんと回収してあるわ……。偉い……。
「この辺でいいですかね。あとはこの芋を干しますよ」
「どのくらいだ」
今が早朝で、今日は空気が乾燥しているから……まあ日の当たらないところで数時間くらいかしら。土が手で払えるようになるくらいまでだもの。
「まあお昼には」
「……仕事してまたくる」
「朝ごはん食べていきます?」
「行く」
なんだかあれね。収穫は大抵朝か夕方だから通い婚みたいになってるわ。別に婚約者なのだしいいのだけれど。原因は私ですし。
*
「あらおかえりなさい」
「た、ただいま……?」
下校中に挨拶した時の小学生みたいな反応されたわ。何かおかしかったかしら。
「ほら、芋が乾きましたよ」
「……本当だ」
「今から蒸しますね」
お勝手の流し台でたわしを使ってじゃがいもをよく洗う。綺麗になったら芽を取って。皮に十字を入れる。
なぜかあった蒸し器に水を張って、沸騰させる。そうしたらじゃがいもを入れて蒸す。
これだけ。竹串が通れば完成。だから蒸し芋は楽でいいのよねぇ。
バターを乗せたらもうご馳走。
「はいどうぞ」
「……いただきます」
「熱いから気をつけてくださいね」
秋じゃがは日持ちするのとホクホクなのが特徴。お芋だからお通じにいいし、お腹に溜まるし、免疫力も上がるのよね。いいことずくめだわぁ。
「あつっ」
「んもう猫舌なんだから」
「俺は猫じゃない」
「何当たり前なことを」
さて私も一口。うーん。このホクホクとバターの甘じょっぱさがたまらないわぁ。
随分と冷え込んできましたし、もうすぐ冬ねぇ。
「美味しいでしょう?」
「…………」
「こら、口がじゃがバターでいっぱいだから喋れませんじゃないのよ」




