20. 大根はしみしみが美味しいのよ
「あら、ケネス様。どうしたんです?」
今日は手紙を出していないはずですけど。
昼下がりに玄関でチャイムを鳴らそうか畑に行こうか迷った様子のケネス様。なんだかめんどくさそうな嬉しそうな……複雑なお顔。
「……これを届けにきた」
「これとは?」
ケネス様が使用人に持たせているのは、何やら大きめの箱。
「……とりあえず、その泥だらけをどうにかした方がいい」
「ん? ああ、今日は大根の収穫をしていたんですよ」
確かに私ったら泥だらけだわ。でもしょうがないのよ。
大根を収穫するときに気をつけるのは、途中で折れないようにすること。そのために周りの土をちょいとほぐして、根元を持ったらまっすぐ引き抜く。これななめになってしまうと根が折れちゃうのよねぇ。
とどのつまり、
「……転んだわけでは」
「ないですよ。こう、引き抜いた時に土がかかるんです」
だから泥だらけになるのはしょうがないんです、と身振り手振りで説明すると納得がいった様子のケネス様。何に納得しているのかは分かりませんが。
「今日はこれでふろふき大根にしますからね。食べていくでしょう?」
「ああ、いただこう」
さて、この大根はお勝手に持っていって、服はバケツにつけ置きしといて、シャワーを浴びて。……この世界はどうにもおかしいわよねぇ。昔の外国風なのにシャワーもトイレもしっかりしてるんだもの。昔なんて、桶ですくって頭を流していましたし、ぼっとんトイレでしたよ。
「お待たせしました……ってあらお父様まで?」
「あのロレーヌ公爵家から贈り物なんて……エミリー、何をやらかしたんだい?」
応接間には真顔のケネス様と呆れた様子のお父様が。
ということは、シャーロット様からかしら。まあ、早いこと。まだ一週間しか経ってませんよ。
「ただ単に舞踏会でお話ししただけですよ。……ケネス様、いつまでその真顔でいらっしゃるおつもりで?」
「……っ!」
そんなハッとして。気でも失ってましたか?ケネス様ったらたまにそうなりますよねぇ。変な人。
「……髪の毛くらいよく拭いてこい」
「あら、ごめんなさい。はしたなかったかしら」
「風邪を引いたらどうする」
「大丈夫ですよ、なんとかは風邪を引かないというでしょう?」
「自分で馬鹿だと宣言する者は初めて見た」
「利口ぶってるよりマシですよ」
なんて始まりかけた口論もお父様の咳払い一つで止まりまして。
「エミリー、中を開けてごらん」
「ええ、そうですね」
中にはハンカチに紅茶に髪飾りに……まあたくさん。あとは私以外読まないようにと書かれた手紙が一つ。
「全部お高そうだわぁ」
「……驚かせたら悪いからとうちに送られてきた」
「なるほど、そういうことでしたのね」
お手数おかけしてしまったわぁ。
しまって部屋に持っていくようメイドに伝えまして。
それは腕によりをかけてふろふき大根を作らなくちゃね。
「おい、贈り物より食い気か」
「大根はしみしみが美味しいんですよ」
「俺も行く」
相変わらず、何が楽しいのだか。まあ、味見くらいさせてあげますけども。
「まずは米を研いでから、大根の下処理を」
よく洗ったのを、輪切りして、面を取って十字に隠し包丁を入れる。
そうしたらさっきでた米の研ぎ汁で茹でる。こうすると、アクが抜けて甘くなるのよ。
コトコト茹でて、透き通ったらさっと洗って冷ます。
「冷ますのか」
「その方が出汁が染み込みますからね」
その間に乗せる肉味噌を作る。鶏のひき肉を臭み取りの隠し味の生姜少しと一緒に炒める。砂糖と味噌を入れて、味醂をちょっと。伸ばす感じでとろりとなるまで。
そうしたらカツオと昆布で出し汁を作る。同じように薄味の出汁で冷ました大根をコトコト煮る。
「このくらいですかね」
大根に肉味噌を乗せて、ゆずを散らせば完成。
「はい、味見」
「……!」
「じゅわっとしみしみで美味しいでしょう?」
湯気がご馳走ですからね、熱々のうちに食べないと。
「「いただきます」」
そうそう、これこれ。味のしみた大根に爽やかな肉味噌が合うのよぉ。秋大根といえば、ふろふき大根ね。
「……あまりは」
「お土産にしてあげますよ」
そろそろ素直に美味しいって言ったらどうかしら、この人。




