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-- 吉岡聡太 --
「お兄ちゃん!」
俺が孤児院に帰ると、妹の綾音が元気よく飛び出してくる。
俺はそれをしっかりと受け止めると、綾音に危ないと注意して椅子に座らせる。
一週間前までは寝たきりで過ごしていた妹がここまで元気になるとは、本当にダンジョンのアイテムさまさまである。
最近飲んでいた薬ももはや必要ないようで、医者にも完治の太鼓判を押された。
俺はアキラさん達の言うように、すでに探索学校には入学と取りやめる書類を提出済みだ。
一緒に行くはずだった友人にはいきなりのことなのでかなり怒られたが、別に会わなくなるわけでもないし本気で怒っているわけでもないだろう。
「しかしこの孤児院とももうお別れか・・・」
アキラさん達も準備があるようで、俺の方はしばらくは自由にしてよいとのことだっだ。
ただし、探索者登録は必要だろうということでアキラさん達に確認して、今の空き時間で講習に通っている状態だ。
探索者登録自体は、15歳以上であれば1ヶ月程度の講習を受けることで行うことができるため、俺でも問題なく登録できる。
昔は18歳以上という扱いだったようだが、年々それが引き下げられていったようだ。
俺は今年に中学を卒業後、探索学校の寮に入る予定だったのだが、今後は代わりにアキラさん達の家に厄介になることになっている。
綾音とも暫くは離れ離れで暮らすことになるだろう。
探索者だった両親が死んでから、身寄りもなくこの孤児院に入ったが、妹が事故にあってからもみんな俺たち兄妹に良くしてくれた。
不安だった健康の面も解消し俺も安心して孤児院を出ることができる。
今後の予定としては、アキラさん達の依頼を受けつつ、2人が俺に探索者としての訓練も付けてくれるらしい。
どうやらそもそも依頼というのが、特殊な訓練法についての実験をしたいということだったようだ。
言ってしまえば俺はアキラさん達の弟子みたいな扱いになるらしい。
確かに探索者になる者にとって、先輩探索者に師事してもらうことはよくあることではある。
そして最終的には師事してもらった先輩のチームの一員として活動することも多い。
アキラさん達がどこまで考えているのかは分からないが、期待を裏切らないように頑張らないといけないだろう。
「お兄ちゃん・・・、私もついていっちゃだめ・・・?」
綾音がこちらを懇願するように見る。
すでに何回かやりとりをした内容だが、まだ諦めてなかったようだ。
「その話はもうしただろ?アキラさん達に迷惑がかかるだろうし、それに学校はどうするんだ?」
事故にあってから綾音は通信制の学校に通っていた。
しかし体が元気になったからには孤児院や地元の友達も通っている現地の学校に行って、一緒に遊んだりするのがいいのではないかと思っている。
それについて院長先生から通常の全日制の学校への転校を提案されたのだ。
仮に今の学校を転校するとなっても、今の学校は通信制の学校だ。
友達も当然いるようだが、もともとネットでやり取りをしていた友達なので綾音が転校しても関係が変わることはそれほどはないのではないかと思っている。
中学2年からの転校となり、いろいろと大変な面もあるだろうが転校先に友達も沢山いるだろうしすぐ慣れるだろう。
「それは・・・、学校は今のままがいいなと思って」
「せっかく元気になったんだからみんなと一緒な学校に行きたいだろ?」
「転校したら今の学校の友達と疎遠になっちゃうじゃん・・・」
「いつもネットでやり取りしてるんだから別にそんなに変わらないんじゃないか?」
「変わるよ!話す機会も減るし!学校での話題もなくなるじゃん!」
アキラさん達の家についてはまだはっきりと聞けていないが、この孤児院からは結構遠いところにあるそうだ。
さすがにそこからはここの学校に通えないだろう。
綾音の言っていることも全くの嘘ではないとは思うが、そういう理由もあり綾音は今の通信制の学校のままでいたいと思っているフシもあるのではないかと思っている。
「仮に学校は変えないにしても、アキラさんとミズキさんに迷惑がかかるだろ?すでに返しきれない恩があるのに、さらに我儘は言えないだろ」
「ミズキさん達なら、迷惑じゃないって言ってくれるかもしれないじゃん・・・。ね・・・?迷惑かどうかは・・・、一回くらい聞いてみちゃだめ?」
「だめだ」
妹はまだ数回しか会っていないミズキさんに結構懐いたようだった。
人見知りという訳では無いが、あまり他人に懐くことを見たことがなかったので驚いたものだ。
まぁ恩人というのも大きかったのかもしれない。
それに本当に聞いてみたら、以外とOKしてくれそうな感はある。
俺もまだ数えるくらいしかアキラさん達と会っていないが、なんとなく彼らの雰囲気は理解している。
いろいろと一般常識を知らない部分もあるし、どう考えても普通の感性をしていないのだが、たぶん良い人達なのではないかと思う。
しかしだからこそこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
「残念だけどだめだ。俺ですら生活費をどうしようか考えてるのに、綾音の分の余裕はないよ」
俺もしばらくは面倒を見てもらうつもりなのだ。綾音の分まで面倒をかけるわけにはいかない。
そういうと綾音はむーっと悔しそうな表情をしたが、我儘を言っていることはわかっているらしくすぐに大人しくなった。
「まぁ俺が十分に稼げるようになるまで我慢してくれ」
俺が綾音の分の生活費などもろもろを余裕を持って稼ぐことができれば、アキラさん達にお願いして部屋を貸してもらうくらいはできるかもしれない。
それでもある程度は迷惑をかけるだろうが、妹の要望もできれば聞いてやりたいのが心情ではある。
「そんなのいつになるかわかんないじゃん」
そんな俺の考えを切り捨てるように綾音が不満を言う。俺は痛いとこをつかれて渋面になった。
「そういうなって。俺も頑張ろうとしてるんだぞ?そんな事言うならもう一緒にゲームで遊んでやらないからな?」
「べつにいいよ。ミカちゃんと一緒に遊ぶから」
「そこは悲しんでくれないと、俺がかなしいぞ」
「じゃあ一緒に遊ぶのでいいじゃん」
「それもそうだな」
そういってかつて元気だったときのように綾音とじゃれあう。
こんなくだらないやりとりでも綾音が元気になったことが実感できて嬉しく感じてしまう。
その後も俺たちは兄妹のとりとめのないやり取りをしばらく続けたのだった。
ちなみに綾音の学校については、結局は綾音の要望で転校せず今のままということになった。




