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意外な人との再会


「…騒々しいな」


 黒い髪に黒い瞳。鍛えられたその体躯は騎士特有の肉付きをしている。全身から溢れ出る緊張感は、他者に対してだけではなく己にも厳しいことが自然と伝わってくる。


 ローランド家の月と太陽。


 ──その、月の方。理知的で思慮深いケヴィン・ローランドは、幼い頃から卓越した剣の才能で有名だ。騎士団加入後は僅か数年で本部長補佐へと昇り詰め、自分よりも年上の部下を従えていくうちに冷徹にならざるを得なかった様だが、それが元来の性質だったのでは…とも噂されている。


 そんな彼を見て、レイモンドとアンドリューが同時に声を上げた。


「お前が俺の護衛なのか?」

「あ、兄上っ、どうしてここに?!」


 その問いにケヴィンは淡々と答えていく。


 当初、ガルツィ王国から派遣された騎士が護衛となる予定だったが、いつの間にかそれが敵である将軍の手の内の者にすり替わっていたのだと。その為、次の人選を行なっている最中で、繋ぎとしてレイモンドの幼馴染であり且つその実力が認められているケヴィンに声が掛かったということらしい。


 他国の要人に自国の騎士が護衛に就くことは非常に稀だが、実はかなり以前からケヴィンがレイモンドを守っていたのだそうだ。


「兄上は現在、ガルツィ王国にて外遊中だったはずじゃないのか?」

「アンドリュー、今まで黙っていてすまなかった。改めて説明させて貰うと、実は外遊ではなく任務として隣国に渡っていたんだ」


「任務とは、いったい…」

「我がデュアマルク王国は、ガルツィ王国と比べると軍事力に乏しい…それは知っているだろう?」


「ああ…、残念だがな」

「幸いなことに、ガルツィ王国の王族と我が国との間に繋がりが有ることも?」


「勿論。我が国の先代王妃はガルツィ王国の末姫だったし、その王妃が早世され、それと入れ替わる様にレイモンドの母であるフェリシア様が嫁いでいらっしゃったからな」


 後は説明を受けなくても、自ずと理解した。


 このところガルツィ王国の情勢が不安定だったことを鑑みると、両国の繋がりをより強固にする必要が有る。所縁の深いレイモンドが玉座に就けば、我が国がガルツィ王国から攻め入られる可能性も払拭され、当面は安泰となるのだ。二カ国間の橋渡しとなる人物を守れよ…との王命を受け、ケヴィンがレイモンドに同行したのだろう。


「…だから私は、ケヴィンではなくアンドリューと婚約を結ぶことになったのね」


 思わずそう呟いてしまったのは、王命を伝える文書には『ローランド家の子息と婚約を』としか記されていなかったからだ。何故、長男ではなく次男のアンドリューになったのかが漸くこれで理解出来た。


 レイモンドの警護を命ぜられたのであれば、それはいつ終わるとも知れない大役だ。今回はたまたま帰国することが出来たものの、留学期間が終われば再びガルツィ王国へと戻るしかない。そうなるとまたいつ自国に戻れるか分からないのだ。


 ケヴィンは私を見ようともせず、アンドリューに向けて話し続ける。


「ガルツィ王国滞在中は、敵を油断させる為に単なる学友という形でレイモンドを守るよう仰せつかっていた。ところが急遽、この国でも俺が護衛となることを命ぜられたせいで学友の振りを続けることは難しくなってしまい、もう公言しても良いと言われたのだよ。それで漸く家族にも話せる様になった次第だ。とにかく秘密裡に行なうことが多過ぎてな。もし、お前たちに不便をかけているのであれば申し訳なかったとここで謝っておこう」

「謝る必要なんて無いさ!兄上の功績は我がローランド家の誇りだよ。自国の為に心置きなく任務を全うしてくれ!」


 普段は大人っぽく見えるアンドリューだが、兄であるケヴィンの前ではこうして少年らしい顔を覗かせるのだな。…そんなことを思いながら2人を眺めていると、アンドリューが突然こう言った。


「そうだ、兄上。この先、我が家に立ち寄る予定は有るのか?」

「ああ、週に1日は休みを貰えるはずだから、その日は顔を見せに帰ろうかと考えている」


「だったらその時、俺の恋人も同席させていいかな?長らく家族に会わせていないから、そろそろ顔を見せておいた方が良いと思うんだ」

「恋人?ああ、別に構わないが。恋人というのは、その…、婚約者のことか?」


 てっきり私は、エミリーを紹介するのだと思い込んでいた。


 何故ならどう考えても自分が『恋人』と呼ばれるはずが無いからだ。そして『さすがは天下のローランド家!王命で定められたお飾りの婚約者なんぞ無視して、本物の恋人を招待するんだな』などと感心していたほどだったのに。


「うん、ヴェロニカを招こうかと思ってる」


 …だからその返事を聞いて、目玉が飛び出そうなほど驚いたのである。

 

 

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