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やさしい悪魔は正解をおしえない ~ 片思いのあの子が死ぬ未来。運命の歯車をぶっ壊す方法とは? ~  作者: オカノヒカル
□第三章 誘惑の小悪魔 - Tin Woodman -

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第27話「ゲームをするのです」


「先輩、眉ひとつ動かさないんですね。ま、そんなことしたら、あたしぶっ殺されますか」


 さすがに俺のただならぬ雰囲気を察したのか、場の空気を和ませようと戯ける彼女。


「俺ってそんなに優しい人間に見えるか?」

「え?」

「死は逃避だよ。俺がそんなに簡単に逃がすわけないじゃないか」

「せ、せんぱぁい……なんか怖いんですけど」

「俺はおまえが自分で死にたいって思っても死なせない。殺してくれって嘆いても許さない。苦しみが続く限り生きてもらうよ」


 そこでようやく黒金は頭を下げる。


「せんぱい、わかりました。ごめんなさい。冗談が過ぎました。あたしの負けです。いえ、二度と厚木先輩をディスるような話題は出しません。申し訳ありませんでした」


 ちょっとびびらせちゃったかな。話を聞こうと思ったけど、これ以上はまずいかもな。


「悪い。ちょっと興奮しすぎたわ」

「いえ、あたしも悪ふざけが過ぎました。せんぱい、厚木先輩のこと、本当に好きなんですよね」

「ああ」

「まだ好きになるって気持ちは理解できませんけど、けど、誰かを好きになる気持ちをもてあそぶのはよくないことだって気付きました。ありがとうございます」


 どこまで本気かわからない言葉で、彼女は頭を下げる。これは駆け引き。だけど、そこに恋愛感情はない。


「別に俺は恋の家庭教師ってわけじゃないんだから、お礼なんていいよ」

「せんぱい。明日はどうします?」

「明日?」

「また昨日みたいに賭けをしましょうよ。先輩の時間を賭けて」


 ちょっと想定した流れじゃなかったけど結果オーライかな。


「ああ、いいぜ。ただし、今日は黒金がコイントスをやってくれ。当てるのは俺だ。俺が当たれば、もうさよならだ。外れたら明日も付き合ってやる」

「わかりました。えっと。ちょっと待ってください」


 彼女は鞄の中にあった財布から500円玉を出す。


「これも表はこっちの葉っぱが描いてある方なんでしょ?」

「葉っぱじゃねーよ。桐の花だろ? 花札に出てくるだろ」

「キリ? あの高級タンスとかの?」


 女子高生に花札の喩えはなかったか。少し反省。


「そういうこと。ちょっと見せて」


 俺は強引にその500円玉を取る。瞬間、黒金と少し手が触れる。イカサマがないか調べるため、という口実で悪魔を起動させるためだ。


『はいはーい』


 ラプラスの浮かれた声が脳内に響き渡る。


「最近、ノリいいよな」

『呼んでくれる回数多くなったじゃない』

「いや、満員電車では、おまえ呼ばなくても出てくるじゃん」

『それで? あ、聞くまでも無いね。コインは【表】が出るよ』

「サンキュ。それだけ聞ければいいわ」

『ねぇ。黒金涼々と会うようになってから、よそよそしくない?』

「そうか? 気のせいだろ」


 早々に会話を切って日常へと戻る。


「問題ない。じゃあ、俺の賭ける方は【裏】だ」

「表が出たらあたしの勝ちね。いくよ」


 キーンといい音が鳴って、500円玉が宙を舞う。そして、彼女の左手の甲に着地し右手がそれを覆う。


 そしてもったいぶりながら、それをずらして硬貨を見せる黒金。


「表ですね!」


 嬉しそうに。本当に嬉しそうに彼女は声を上げた。



**



 今日は擬似デートというより本格的なデートじゃないかと思うくらいの日だった。


 待ち合わせは遊園地の前。都内にあるこぢんまりした場所である。昨日、彼女からSNS経由でメッセージがあってこの場所を指定されたのだった。


「あれ?」


 時間より十分くらい遅れていくと、そこには黒金の姿があった。


「もー、せんぱい。女の子を待たせるのはよくありませんよぉ」

「昨日は30分も遅刻してきたじゃん」

「昨日は昨日ですよ」


 と軽口を叩き合うのも慣れてきたな。


「チケット代高かっただろう?」

「もらったやつですから大丈夫ですよ」

「誰に?」

「クラスの男子です」


 めちゃくちゃさわやかな笑顔をこちらに向ける。


「マジかよ……」


 というか、これって俺が刺されるんじゃね?


 学校の奴、特に黒金のクラスの奴に見つかったらやべえな。


「それより、楽しみましょう」

「本当にデートするのか?」

「それ以外の何があるんですか?」

「俺としてはおまえの話が聞きたいんだけどな」


 そのまま入場口へと入っていく。遊園地といっても規模が小さいのでネズミの国のテーマパークのような壮大さはない。とはいえ、コンパクトさと近くにドーム球場があるのが売りの場所であった。


「なんですか? なんでも聞いていいですよ」

「そもそも、遊園地なんて、何度も男たちと来てるんだろ?」

「嫉妬ですか?」

「違うって」

「グループで何回かは来たことありますけどぉ、男の人と二人っきりなんてせんぱいが初めてですぅ」

「ダウト!」

「あははは。せんぱいにはかないませんね。そうですね。中学の時、学校の先輩と来たことがあります」

「どんな奴だ?」

「あたしと同じかな? 恋という感情を知らない先輩でした」


 ふいに表情が曇る。嘘ではないかな。


「ふーん。でも、どっちからか誘ったんだろ?」

「ええ、その時はその先輩の方からでした。せんぱい、あの観覧車乗りましょう」

「おいおい、観覧車はデートの最後が相場じゃないのか?」

「乗りたいときに乗るのがあたしのスタイルです」

「ま、いっか、静かに話もできるし」


 そう言って俺の手を引いて観覧車の列へと並ぼうとする。


 なんだかんだ引っ張り回されるのも悪くはないと感じるようになったのは、この小悪魔に慣れたからなのか、はたまた俺も1年の男子のようにこいつの魅力に絡み取られているのか。


 そんなことを考えていたら、風景は暗くなっていつもの悪魔が起動する。


『呼んだ?』

「呼んでないけど」

『ついでだから何か聞いていけば?』


 あれ? なんか、ちょっと苛ついている? いつもはシニカルなラプラスが珍しいな。俺、なんかやったっけ?


「なんだよ、そのついでって?」

『最近あんたさ。あの子にご執着なの?』

「いや別に……ただの情報収集の過程だろ?」


 おまえが全部答え教えてくれたらこっちは苦労しないんだよ。適当なヒントばっかり言いやがって、という不満を飲み込む。


『厚木球沙は諦めるの?』

「諦めねーよ!」

『けど、あんた楽しそうだよ』

「……」


 そういえば徐々にあいつに毒されてきているような気がしていた。あいつの嘘を見抜いてドヤ顔するより、あいつが本音で話してくれることが嬉しくなってきたのだ。


 仲良くならなければあいつの闇を曝けない、とか思いながら普通に楽しんでしまっている感じはある。


『ま、余計なお世話であるかもしれないけど、目的は忘れないようにね』

「わかってるよ」


 会話を切って日常へと戻った。


「そういえば、せんぱぁい」

「ん、なんだ?」

「昨日、せんぱいのクラスの人に告られました」


 あー、それ富石かな。惚れたって言ってたし。


「あ、そう」

「せんぱいと一緒に見に来てた人ですよ。オトモダチですね」

「友達というより腐れ縁だな。で。どうしたんだ?」

「やっぱり気になりますぅ?」


 俺が嫉妬でもしてるのかと確認するように、上目遣いに俺の表情を窺ってくる。


「どうでもいいけど」

「ま、断るのも悪いので、オトモダチになりましょうっていいました」

「それ、遠回しに断ってるんじゃないのかよ」

「いえ、気が向いたら一緒に遊びましょうって言いましたから。そもそも、あたし、特定の誰かと付き合う気がありませんし」


 いずれフラれる運命にある富石とはいえ、まあ、自業自得なんだろう。あの世に連れていかれないだけマシと思え。


 しばらく歩くと観覧車に乗る列を見つける。


 待ち時間は30分となっていた。前もって調べてきたけど、これ一回りするのに15分くらいだったかな。待ち時間より短いのか。


「せんぱい。ぼーっと列に並んでるのもアレなんで、ゲームをしましょう」


 ゲーム? コイントスのことか?


「明日の賭けなら今日の最後の方がいいぞ」

「違います。お互いに質問しあって、1分以内に答えるんです。黙り込んだら負け」

「ペナルティは?」

「相手の嫌がる呼び方、もしくは自分が呼んで欲しい呼び方を相手に指定します。あたしが負けたらアホ金でもいいですよ」

「なるほど。暇つぶしにいいかもな」


 こういう未来予知に頼らないゲームもいいだろう。大した罰じゃないしな。


「じゃ、言い出しっぺなのであたしが先行になります。先輩、今まで女の子と付き合ったことはありますか?」


 初撃のジャブとはいえ、ちょっとキツいぞ。思わず黙り込みそうになるのをこらえて、涼しい顔で答えた。


「ないぞ。よし、こっちだな。おまえの好きな物はなんだ? 食べものでもいいぞ」

「うわ、せんぱい優しいですね。そんな簡単な質問なんて。もしかして、あたしの好きな物をリサーチしてプレゼントでもくれるんですか? そーですねぇ、ケーキとクレープかな。あとサ○ンサの財布」


 さりげなくブランド物をぶっこんでくるところが侮れない。こうやってオタサーの姫は出来上がるのか。


「プレゼントなんてしねーから」

「ざーんねん。じゃあ、あたしの質問です。せんぱいってドーテーですか?」


 こいつ、いきなり飛び道具持ち出してきたぞ。ボクシングで例えていた俺がバカみたいじゃないか。


「童貞だよ! 女の子と付き合ったことがないって言ったろーが、おまえ鳥頭か?」


 逆ギレしてやる! こいつなら別に恥かいてもかまわないしな。相手が厚木さんだったら、たぶん言い淀むだろう。


「いや、プロの方にお願いしてもらったとかあるじゃないですか?」

「高校生がそんな店、入れねーよ!」


 こいつ、俺を動揺させようとして下ネタ路線できたか。かといって、俺も反撃にそのカードを使うと、単なるセクハラになってしまう。


 ならば……。


「おまえが中学の時に二人きりでデートした相手って、斉藤新じゃないのか?」


 俺は少し前の教室でしたあいつとの会話を思い出す。どう考えても様子が変だったもんな。







◆次回予告


大きな目標の為には些細な障害さえ許さない。


だからこそ彼は、小悪魔にさえも手を差し伸べる。


第28話「恋愛相談は意味がないのです」にご期待ください。


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