第26話「負けない賭けをするのです」
「ゲームというか、賭けなんだけどね」
「いいですよ」
「その前にこの百円玉を調べてくれ、なんか仕掛けがないか?」
俺は財布から硬貨を出すと、黒金に渡す。その時に一瞬手が触れた。
『呼んだよね?』
まるで壷から出てきた魔人のようなノリのラプラス。
「ああ、呼んだ。おまえの気まぐれで出てこなかったらどうしようかと思ったよ。最近、触れてもすぐに起動しないこともあるからな」
『まあ、いいじゃない。で、何が聞きたい?』
「これからコインを投げるけど、裏表のどちらが出る」
『小細工しなければ裏だよ。あ、【100】って刻まれてる側だよ』
「知ってるよ。【日本国】って書いてある方が表なんだろ?」
『ええ、たぶん黒金涼々は裏表を知らないと思うから、事前に教えた方がいいよ』
「わかってる。で、コイントスで裏表を選ばせるとしたら、あいつはどっちを選ぶ?」
『裏だね。わざと負けるの?』
「ああ。明日も会いたがってるからな。俺からの希望で会うのは不利になりそうだし」
『うふふ。まあ、頑張って』
会話の終了と共に時間の流れが戻る。
「今からこのコインを投げるから、裏か表かのどちらかを当ててくれ。ちなみに表ってのはこの桜の模様が刻まれてる方だ。間違えるなよ」
「わかりました。けど、賭けっていうからには何かを賭けるんですよね?」
「賭けは俺の時間だ。おまえが当たれば明日の放課後の時間をおまえにやろう。話したいことがあるなら聞いてやるし、聞きたいことがあるなら話してやる」
「ほんとですか? やったぁ!」
あざとさがないわけではないが、彼女は本当に楽しそうに声をあげた。
「負けたら、もうおまえとは会わない。いいか?」
「……わかりました」
黒金は複雑そうな顔をする。
このまま俺と会わなければ、俺の勝ち逃げみたいな感じだからな。自分が手玉にとられてそのままで逃げるのを甘受するほど、こいつのプライドは低くないはずだ。
「じゃあ、決めてくれ」
「うーんとね……うーんと」
と、本気で悩み出す黒金。そこまで本気で悩まなくてもいいのにな。
「たかがゲームだろ?」
「ゲームでも本気で遊ばないと楽しくないんですよ」
と逆に説教されそうになる俺。なんだこの状態は?
そうして3分ほど悩んだのちに「裏です!」と気合いを込めてお答えいただいた。
「じゃあ、行くぞ」
右手の親指でコインを軽く上にはねると、落ちてきたところを左手の甲でとらえてそれを右手で覆って隠す。
「どっち?」
黒金のその言葉で、右手を外す。そこには『100 平成28年』の文字が。ラプラスの予知通り裏だな。
「黒金の勝ちだ。仕方ないな、明日の放課後も付き合ってやるよ」
こうして、黒金涼々との第一回擬似デートは終わった。
ちなみに、もし未来予知が表だった場合は、賭けの内容を変えただけだ。
「俺がおまえの答えの通りの投げられたら俺に一切関わるな。もしお前の答え通りに投げられなかったら、俺の時間をおまえにやろう」的な感じで変えればいいだけどのこと。
これもラプラスによる未来予知があるおかげだった。
**
「志士坂。悪いけど、俺今日部活行けないから」
「え? 今日、厚木さん来るんでしょ? なんで来ないの?」
「……知ってるよ。行きたいよ。厚木さんと一緒に部活を堪能したよぉ。けど、ミッションがあるから無理なんだって」
思わず泣き言を漏らしてしまった。
「ミッション? こないだのあのパワハラされた人の件かな?」
「違わないようで違う件だ」
「よくわからないんだけど」
「とりあえず、俺は泣く泣く帰る」
「まあ、その……頑張って」
志士坂は苦笑いしながら俺を見送る。
俺は電車に乗ると、家の最寄り駅で降りず、その先のターミナル駅へと向かった。今日はそこで黒金と待ち合わせをしている。
学校で待ち合わせて一緒に帰ろうと思ったのだが、厚木さんに見られてたら変な想像をされるだろうし、あちらはあちらで、取り巻きの男子たちにいろいろ突っ込まれるらしいので、学校の知り合いのいなさそうな場所での待ち合わせを選んだのだ。
ターミナル駅なので、駅前には人が常に行き来していた。目の前には大きなビルが並び、煌びやかな看板が目に付く。
待ち合わせは16時ちょうど。スマホの時計を見ると16時半になろうとしていた。
「せんぱぁーい。遅れてすみませーん」
「あと5分遅かったら帰ってたぞ」
俺は冷たく言い切る。予想通りとはいえ、自分が待たされるのは癪である。
「まだ30分ですよぉ。女の子を待たせるよりいいじゃないですか」
黒金の言葉を無視して俺は歩き出した。
「今日はどうする?」
「先輩の好きにしていいですよ」
「じゃあ、ゆっくり喋れるようなところがいいな」
「静かなところですかぁ? もしかしてホテルとかですか?」
からかうように見上げながら、口元の笑みだけは隠せない黒金。
「ホテルは金がかかりすぎるだろ。俺らはただくっちゃべるだけだ。そんなところに休憩だけで5000円近くとられるのは嫌だね。それともおごってくれるかい」
「せんぱい、女の子にホテル代たかるなんてサイテーですよ」
口を尖らせて不満を漏らす黒金。
「あ、そう。俺は別にホテルなんて行きたくないけどね。黒金が行きたそうだったからさ」
「行ってみます? あたし、そういうのは興味ありますよ」
「取り巻きと、しょっちゅう行ってるんじゃないのか?」
あんだけ男をはべらかせてるんだ。何人かと関係があったとしても不思議じゃない。そもそもこいつは、おっさんと一夜を共にするんだからな。
「はあ? あたしをなんだと思ってるんですか?」
「ただのビッチだろ」
「ビッ……ま、いいですけどね。そのビッチと鼻の下延ばしながら一緒に歩いているのは誰なんですかね」
「え? 俺、鼻の下伸ばしてた? そんな可愛い子どこにいるの?」
俺はわざとらしく辺りを見回す。
「もういいです。せんぱいは勘違いしているようなんで、はっきり言っておきますけど、あたし処女ですからね」
「それがどうしたの?」
「それが……って、人が恥ずかしいの我慢してカミングアウトしたのに!」
「黒金。おまえ、カミングアウトの使い方間違ってるぞ」
俺は立ち止まると、ビルに入っている飲食店の看板の一覧の中から、ケーキバイキングの店を指差す。
「ここでいいか?」
「え? ケーキ食べ放題?」
「これならおごってやるぞ。昨日おごってもらったからな」
必要経費である。最近甘い物を食べる機会が少ないから、思考が鈍ってきたような気がする。糖分補給のついでだ。
「あ、ありがと」
店に入って席に着き、店員からのバイキングの説明を受け終わると、すぐに皿を持って立ち上がってケーキの山へと行進する。
そして戦果を誇るがごとく、その皿を見せつけるように黒金へと向ける。
「あー、あたしも行きます」
食いながらなので、しばらくは本当にくだらない話をした。学校での噂とか、ネットでの噂とか、都市伝説とか、中身のない話だ。それでも彼女はケラケラ笑いながら俺の話を聞き、時々ツッコミをしてくれる。
「そういや先輩。夕飯どうするんですか?」
「これが夕飯だよ」
ケーキの皿を上に挙げる。
「親に怒られません?」
「うちは共働きで、二人とも遅くに帰ってくるんだ。普段は妹と二人で食ってるんだけど、今日は晩ご飯を作る当番じゃないからさ、そういう時は外で食べてきたりする」
「妹さんとは仲良くないんですか?」
「普通に仲悪いよ。生意気な妹だもん。しかも中坊だからな、いろいろ難しいんだよ」
思い浮かぶのは憎ったらしい顔。
「先輩もいろいろ大変なんですね」
「そういや、おまえ夕飯食べられなくなるんじゃね?」
「いいんですよ。先輩と同じで、これ夕飯にしちゃいますから」
「怒られないのか?」
「うちも親共働きなんですよ」
「ふーん……」
家庭の事情なんて複雑だからな。ここで深く話を斬り込んでもいいけど、頃合いとしてはもうちょっとかな。彼女の心を開かないと、その深淵は見えないのだから。
「なんですか? おんなじ境遇だなぁって思いました?」
「思わねーよ。家庭の事情なんて人それぞれだ」
「あたしは、生意気でも妹か弟欲しかったなぁ。ううん、どうせならお兄ちゃんが欲しかったかも」
「ちなみに俺は妹属性に執着はないからな。『先輩がお兄ちゃんだったらよかったのにぃ』って言ってもウザいだけだぞ」
「チッ」
「そこ、舌打ち聞こえてるよ」
「ほんと、先輩って弱点が見つからないんですよね。というか、あたしが何か攻撃をするなら、厚木先輩しかないじゃないですか」
「言っておくけど、それに関しては冗談は通じないぞ」
「あははは……。先輩を逆恨みして、その怨みを厚木先輩に向けるかもしれませんよ」
「先に行っておく、厚木さんには手を出すな」
張り詰めた空気。黒金が本気でなかったとしても許すわけにはいかない。
「手を出したらどうします? そうですね。あたしの取り巻きに命令してレイプしてもらうとか」
「……」
頭が真っ白になる。理性が抜けてきそうなところを、誰かの優しい手がそれを抑えた。……さて、同料理してやろうか。
◆次回予告
あの手この手で攻めてくる小悪魔を余裕でかわす主人公。
どちらが強いかを火を見るより明らかだ!
さて、そろそろ本題に入ろうか?!
第27話「ゲームをするのです」にご期待ください!





