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ラビンスキーの異世界行政録  作者: 民間人。
三章 聖俗紛争
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それぞれの事情3

 コランド教会の朝は早い。日課の祈りと掃除を終えると、大学さながらに聖典の研究と朗読が始まる。

 古典の時代より引き継がれた荘厳なビザンツ様式の聖堂は、高い天井と小さい窓から射す光だけを受け、朝でも薄暗い。祭壇の中心には雷を模ったモニュメントがあり、それを支える土台には細やかな賛美の歌が刻まれている。

 教会の前に停められた一頭建の馬車は、見栄っ張りな貴族の好む装飾で彩られていた。

 小太りで話好きなアーロンは、聖界とも世俗ともうまく距離を保っていた。そんな中、彼は懐かしい達筆に導かれてこの町にやってくることになったのだ。

「おぉ、クリメント!吃音は治ったかい?こんなに立派になっているとは、私も嬉しいよ!」

 大仰な反応は貴族の癖であり、ちょっととぼけた対応をしてやれば皆それなりに喜んでくれる。アーロンにとって、クリメントは学院の同胞であり、クリメントにとってアーロンは、吃音症に悩み俗世と縁を切った良き理解者だった。

「アーロン……。君も元気そうで何よりです」

 すまし顔のクリメントもさすがに顔を綻ばせる。彼は、この穏やかな中年に全幅の信頼を寄せていた。

「しかし君が手紙を寄越してまで呼んでくるとは、よほどの理由があるのだろう?」

「いつも、迷惑をかけてしまうね……」

 クリメントは目を逸らし、祭壇を掃除する修道士達を遠目に見る。アーロンは首を振り、笑顔で答えた。

「とんでもない!君の助けになるならば、私も嬉しいよ!我々は主の教えに従うべきだろう。即ち、隣人愛・友人愛は大事にするべきだ」

 クリメントは静かに微笑む。アーロンは聖職者の頃にはとても着られないような派手な衣装を身に纏ってこそいるが、手は豆だらけになっていた。

「まだ、耕して見えるのですね」

「あぁ、はい。癖になってしまってましてね……。もっとも、かつてほど長くできるほど丈夫ではなくてね。年を痛感させられるよ……」

聖堂のステンドグラスをひとしきり楽しんだ後、二人はクリメントの書斎に入る。書斎の中には聖典は勿論、教会法に関する資料が丁寧に保管されていた。机上には最新の論文が置かれ、未だに研究の跡が残っている。クリメントはアーロンを丁重にもてなすため、わざわざ新しい肘掛け付きの椅子を用意していた。真新しいそれに気が付いたアーロンは、クリメントの誘いに躊躇いつつも応じる。クリメントは心底安心したらしく、普段は見せないような無邪気な笑顔をのぞかせた。

「それで、お願いとは?」

「異端審問の手伝いをしていただきたいのです」

 アーロンは顔をしかめる。クリメントもきまりが悪そうに目を逸らした。アーロンは特別な来客の時にのみ提供される茶色がかった赤ワインを見おろす。

「私は異端審問は得意ではなかったのだが……。とても、見るに堪えないというか……」

「はい、分かっています。尋問を受けた者の願いです。君になら、告白してくれると……」

 アーロンはワインの波打つ様を眺める。赤色の中に映った自分の顔を戒めるように、時間をかけてその表情をやわらかいものに変えていった。

「……君の願いならば、断れないね」

「よろしくお願いいたします」

 二人は湿った空気をワインと共に飲み干す。極上の香りが鼻をくすぐる。よく熟成された、ビターな香りだった。


 アーロンが尋問用の地下室へ向かうと、ルシウスは既に手枷を付けられて座っていた。予想外の人物との邂逅に、アーロンは思わず声を上げる。ルシウスの膝の上には指詰めの準備が整えられており、大人の指の大きさに合わせた圧迫機が黒々とした塊となって錘の代わりをしていた。椅子にはやや大ぶりの棘が取り付けられ、受刑者たちの血が滲んでいた。すぐにやせ我慢と分かるような苦しそうな笑みを浮かべたルシウスは、アーロンを見るなり不敵な笑みを見せた。アーロンは駆け寄り、尋問用の椅子に座る。

「確かに、アーロン殿だ……。アーロン殿……御足労頂き感謝いたします。しかし教会というのは実に……」

「一体何をなさったのですか?」

 アーロンは思い当たる節があまりにも多く、逆に事態を把握しかねていた。ルシウスが思わず尻を持ち上げようとする。しかし、結局は情けない喘ぎ声をあげて力なく尻を下ろす。

「呑気なものだ。今更そんなことを聞くなんて。聞いているのでしょう?」

 アーロンは首を横に振る。ルシウスは小さくため息を吐いた。

「見てのとおり。私は研究において禁忌に触れてしまったらしいのですよ。考えてみれば、ゴーレムクラフトに生物の探求……咎められればきりがありませんな」

「……ルシウス卿。これより尋問を始めますが、異論は御座いませんか?」

 ルシウスは頷く。アーロンは息を呑み、ゆっくりと前かがみになる。

「貴方の罪を告白なさい。懺悔なさい。主は、貴方をお許しになるでしょう」

「俄然やる気が出ないのですよ。このような重しがあっては、頭もうまく回りませぬ」

「……よろしい。その重しを外しなさい」

 アーロンは審問官たちに指示を出す。審問官たちは不服そうに黒く重たい指詰め機を取り除いた。ルシウスは膝を少しだけずらす。太ももは赤く血が滲んでいた。

「改めて……。私はルシウス。この町で学者をしている者です。私は真理を追い求めるあまりに、主の教えに沿わぬ行いをしてしまいました。異端の地における研究も然り、魔術に傾倒し、商人達や、亜人たちにも伝聞しました」

 アーロンは腕を組みなおす。前かがみの姿勢は崩さずに、ゆっくりとうなずいた。ルシウスは悪びれる様子もなく、粛々と言葉を綴る。まるで神へ賛美を捧げているようにも映った。つっかえた腹が苦しくなったのか、ゆっくりと姿勢を正す。そして、白紙の供述書にルシウスの言葉を記していく。そして、筆を止め、眉を持ち上げた。アーロンは口を開く。

「しかし、どうやって隠してきたのですか?」

「留守の間はユウキに任せていました。研究室においておけば安全でしたので」

「もしや脅しでもかけたのですかな?」

 ルシウスは鼻で笑う。アーロンは一字一句逃すことなく、素早く筆を動かしていた。

「人の心を揺すぶるなど容易い事ですよ、アーロン卿」

「……では、貴方は彼に罪を押し付ければよかったのではないですか?」

「とんでもない。私は彼を揺さぶるってこそいましたが、彼を見捨てるほどの下郎ではありませんよ」

 アーロンは供述書をじっと見つめる。ゆっくりと首を傾げ、ルシウスの目を見た。ルシウスはアーロン以外からは見えないように目配せをする。アーロンは再び眉を持ち上げた。

「……成る程。では、貴方は確かに異端として認定されそうではありますね。処刑はなるべく早い方がいいでしょうか?」

「よろしくお願いします。もとより、罪を清算するつもりであなたを呼んだのですから……。」

「最後に何か、私に伝え忘れたことはありませんか?」

「勉強は続けたまえと、ユウキに伝えてくださいませ」

 アーロンは頷く。素早く立ち上がり、ルシウスに目配せをしてから、堂々と部屋を後にした。

夏の暑さも益々厳しくなり、空調が恋しくなる季節となりました。読者の皆様におかれましては、益々ご健勝のこことお慶び申し上げます。お疲れ様で御座います、民間人。と申します。今回は、現状更新が滞ることが予測される為、進捗報告とさせて頂きます。改めてご了承いただきたく存じます。

さて、進捗ですが、現在、投稿済みの作品を推敲しております。まだまだ至らぬところはあろうかと存じますが、四十話程度まで推敲を終えたところで御座います。

改めて読み進めておりますと、奇妙な表現の多い事、多い事……誠に汗顔の至りで御座います。

中でも、私の文盲かつ浅学な部分と申しますか、これが顕著に現れた例が貨幣計算に関する部分になります。かなりの手直しをし、確認した上でも非常に理解しかねるもので御座いましたので、大幅な修正を行う運びとなりました。読者の皆様を混乱させてしまった事を、お詫び致します。

また、ご参考までに貨幣計算に関するメモの方をここに提示させて頂きます。違和感等ございましたら、いつでもご意見いただければと思います。


計算貨幣……計算に利用するための貨幣で、実体はない。基準はその土地の領主が鋳造する金貨1枚を基準にする。

金貨1枚=銀貨4枚=銅貨40枚を基準とすることが多い。


ムスコールブルク貨幣対応表


金リーブル=計算貨幣

金貨一枚=160金リーブル(日本円約10万円)

銀貨4枚=金貨1枚

銀貨一枚=40金リーブル(日本円約25000円)

銅貨10枚=銀貨1枚

銅貨一枚=金4リーブル

(日本円約2500円)

四分銅貨=1金リーブル(日本円約625円)


その他貨幣

ペアリス・リーブル(計算貨幣)=1.5金リーブル(日本円約940円)


カペル金貨=200金リーブル(125000円)

カペル銀貨(グロ銀貨(銀の含有量が多い銀貨))=50金リーブル(日本円約31250円)

カペル銅貨=5金リーブル(日本円約3125円)


ドージェ金貨=168金リーブル(日本円約105000円)

ドージェ銀貨=42金リーブル(日本円約32500円)

ドージェ銅貨=3金リーブル(日本円約1875円)


ブランドブラグ伯銀貨=38金リーブル(日本円約23750円)

ブランドブラグ伯銅貨=1.9金リーブル(日本円約1188円)


教会貨幣……協会の鋳造する貨幣。


ヨシュアン(計算貨幣)3.125金リーブル

教会金貨(ヨシュア金貨) 200金リーブル

教会銀貨 (ヨシュア銀貨)50金リーブル

教会銅貨 (ヨシュア銅貨)3.125金リーブル(日本円約1953円)


フローラ(計算貨幣)2.5金リーブル

フローラ金貨 160金リーブル

フローラ銀貨 40金リーブル

フローラ銅貨 2.5金リーブル(日本円約1563円)


交換紙幣……貨幣と交換できる紙幣(手形ではない)


非国家主体による貨幣

エドワード禿頭王貨0.05金リーブル(日本円約31.25円)

偽ヨシュア銀貨18金リーブル(日本円約11250円)

パニッツァ(評価点)4金リーブルにつき1パニッツァ


ムスコールブルク税制度

教会税

十分の一税 司教座・修道会の境界を通過するたび貨物の一割の物品・貨幣の徴収

結婚税 教会での挙式のたびに、全財産の3%

ミサ料(御心次第)

運営費 所属者は年次一律5%


領主収入

関税 商品毎尚、外貨につき

40金リーブル相当毎に=4リーブルまたは相当の貨幣


入場税 関所につき5%

徴兵税 兵士以外の自由市民に年4金リーブル

所得税 一商館・一工場・一組合ごとに 支払う総所得の一割

総諸税 役場手続き利用ごとに4金リーブル

小作料 農地一ヘクタール毎に30%又は貨幣支払いの場合は相当額の80%


都市税 都市参事会員は以下の通り

親方・組合長・商館館長その他これに類する実質的最高経営権者の年次総所得が……

7000金リーブル〜 年次総所得の10%

5000金リーブル〜6999リーブル 年次総所得の15%

3500金リーブル〜4999金リーブル 年次総所得の20%

3500金リーブル未満 参事会員権なし


尚、参事会員は支払う所得毎に議決権

7000金リーブル〜〜 五議決権

5000金リーブル〜6999リーブル 三議決権

3500金リーブル〜4999金 一議決権


ここまで拙稿をが読了頂きました事を、心より御礼申し上げるとともに、これからも温かい応援を頂ければ、著者の励みにもなりますので、どうぞ温かく見守ってくだされば幸いです。それでは、今回は以上となります。御精読、有難うございました。

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