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第06剣『魔改造、終了の知らせ』

 モルダーウルフの素材、尻尾と爪を回収した。


 尻尾以外の毛皮は剥ぎ取りに時間がかかりすぎるので諦め、尻尾は血をレオフィーナの火の魔法で乾かし、鎮也がミュルニョルで寄生虫などを浄化した。


「魔核は転がるからカバンに入れて、素材を馬車に載せるか」


 馬車には回収したモルダーウルフの尻尾とグランドブルの牙を置く。


「――――――――――――――――――

・突撃剣トロンバトルナード

・陽翼剣オジロ

・大十手トウテツ

・人食い牛グランドブルのC級魔核(1)

・鍵爪鬼エッジオーグルのD級魔核(108)

・鍵爪鬼エッジオーグルの鍵爪(82)

・穴倉狼モルダーウルフのD級魔核(14)

・穴倉狼モルダーウルフの爪(14)

―――――――――――――――――――」


 爪なども数の多いのでカバンの中。


 エッジオーグルの鍵爪を補修に一つだけ使うつもりだったが勢いで五つも使ってしまった。だがその分高性能の車体に仕上がっている。ここまでの高性能は必要なのかという疑問はあえて考えない。


「マスター、トルナードをお願いします」

「了解」


 鎮也は魔法のカバンから、突撃剣トロンバトルナードを取り出す。


「―――――――――――――――――――――――――

 七星剣第四星

【名称】突撃剣トロンバトルナード 【愛称】トルナード

【製作者】星尾鎮也

【使い手】星尾鎮也

【分類】突撃槍剣  【レア度】☆☆☆☆☆☆☆(7)

【長さ】160センチ 【重さ】3.8キロ

【聖剣核】トルナードの心

【スキル】

『風魔法(特大)』…使い手が風魔法を扱えるようにする(効果:特大)。

『粉砕』……………切っ先に触れたモノを粉砕する。

『加減速』…………物体の移動速度を加速させたり減速させたりできる。

『索敵』……………風が吹く範囲の索敵ができる。

『破損修復』………剣が破損しても時間経過で修復できる。

『剣獣化(馬)』……額に剣のような角を持つ剣馬へと擬獣化できる。

【奥義】

『飛翔』トルナードの魔力が届くなら船だろうが城だろうが飛ばすことができる。

補足

 参考にした漫画は異世界戦記物。モデルは主人公に剣を届けるため戦場を単身で横断した忠義の馬、アニメ化もされ、その時の演出が鎮也のお気に入りだった。額にある剣はまるでユニコーンの角に見えるが、ただのユニコーンではなくブレードユニコーンという上位種である。

―――――――――――――――――――――――――」


 横幅があり肉厚、切っ先が大きいトップヘビーの槍剣。

 突きの破壊力は七星剣の中で最強の攻撃力を持つ。


「トルナード、馬の姿になってくれ」


 トロンバトルナードは鎮也の手より浮かび上がり、白銀の光を放つと鉄色に近い葦毛の馬が姿を現した。額には剣のような角を持っている。


「トルナード、こっちにきてくれ、馬車に固定する」


 自分の役目を理解している様子でレオフィーナに呼ばれるままに馬車の前に移動すると大人しく固定されるのを待つ。剣獣たちは話すことはできないが人の言葉を理解する知能は持ち合わせている。


 そんなトルナードの様子を見ていた咲耶が鎮也に一つの疑問を投げかけてきた。


「鎮也くん、トウテツたちも出せば、素材全部カバンの中に入れられたんじゃない?」

「あッ」


 カバンの中の七星剣は擬獣化できる。

 みんな自身で動け、持ち運ぶ必要もないので出してもまったく問題ない。


「ま、まあ、これから別の素材が手に入るかもしれないし、馬車は必要になるはずだ」

「それは否定しないけど、もう少しだけ思考してから行動しようね」

「了解です」


 正論しかない指摘に素直に頷くことしかできなかった。


 だがもうやってしまった。それにたくさんの獣を率いて街に行くのも目立つ可能性もあるので現状では目立つことを避けたい鎮也たちはこのままで行くと決める。


 これが考えた上での判断なら咲夜も何も言わなかっただろうが、鎮也の場合は完全に行き当たりばったりだった。


「二人とも、準備ができたので出発しましょう」


 御者の位置にはレオフィーナが腰をおろし、鎮也と咲耶が荷台に乗りこむと馬車に繋がれたトルナードは自分の判断で歩き出した。


「トルナードとりあえず森の外、道が見つかるまで進んでくれ」


 了解と返事をするように一鳴きだけ声をだし、力強い足並みで悪路をものともせず進み、そして馬車も舗装された道でもないのに乗っている鎮也たちに殆ど振動を伝えず快適な乗り心地を提供する。


「うん、うまくいったな」


 予想通りの性能を発揮して鎮也は満足いったと頷く、鎮也特性の車軸はそれ自体が磁力を発しており、リニアモータのように車体本体を浮かせているのだ。これならいくら車輪が跳ねても振動はこない。


「これならトルナードが走っても耐えられそうです」


 御者に座るレオフィーナが手綱から伝わってくる手応えで馬車の頑強さを感じ取り感想をのべる。


「前に普通の馬車に繋げたら、まがり道一つで分解したもんね」


 咲耶は以前にあった出来事を振りかえる。


 前に冒険者ギルドの依頼で荷運びの仕事を引き受けたことがあった。量が多かったため馬車を借りて今回のようにトルナードに引いてもらったのだが、急ぎだったためトルナードにある程度全力で走ってもらったら、カーブ一つで車体が遠心力に耐えきれずバラバラになってしまった。


 それはもう見事な崩壊であった。


 その時も鎮也たち三人が乗っており、本人たちは無事だったのだが荷物はダメに、壊した馬車は弁償と散々な目にあっていた。この馬車の魔改造はその時の教訓を無意識に鎮也が反映させた結果かもしれない。






 それからは魔物の襲撃も無くまったりとした雰囲気で二時間ほど進み、鎮也はモルダーウルフの尻尾をクッション代わりに馬車の上でくつろいでいた。


 安定感抜群の荷台はまるでハンモックのような居心地の良さで、眠気が襲ってくる。木々の密集度も減り、枝の間から太陽の光が程良く差しこんでくるのも気持ちがいい。


「このまま昼寝したいけど、そろそろ森の出口だな」

「そのようですね」


 御者台に座っているレオフィーナが前方を指差した。

 森が終わり平原が広がっているのが見えたのだ。


「なんとなくだけど面影があるかな、草で隠れて見えにくいけど、あれってライトゥスとレフティアを繋ぐ道だよね」


 咲耶が過去の世界との共通点を発見する。


 昔と変わっていなければここはヴィラス帝国領内の国境付近、鉱山街ライトゥスと宿場町レフティアを結ぶ道が森を抜けた先に広がる草原を横断している。右へ行けばライトゥス、左へ行けばレフティアだ。


「マスター、どちらに向かいますか?」

「情報収集が目的だからな、大きい街がいいだろ」

「では鉱山の街ライトゥスですね」


 レオフィーナは手綱を引いて馬車の向きを右へと向けた。


 鉱山街と呼ばれるだけあって、ライトゥスの街の近くにはいくつもの鉱脈を抱える山があり、この近辺では最大の人口を抱える街であった。


 草原を抜けて渓谷を一つ越えれば街は見えてくるはず。ここまでくれば凶暴な魔獣に襲われる確率もだいぶへるだろう。


 平原を何事もなく通過し、大きな岩が目に入るようになってくる。道も柔らかい土からごつごつした岩道へと変わりあと少しで渓谷に差しかかるところで後ろから急接近してくる集団の影が見えた。


「鎮也くん、魔物の群れじゃないみたい」


 いち早く集団の存在に気がついた咲耶が相手の正体をさぐる。


 魔物のような荒々しさは無くどこか粘着質を伴う気配。こんな気配を放つ存在は欲に塗れた人間だけだ。


「来ると思っていた。これはお約束の相手ですよサクヤ」

「お約束の相手?」


 馬車を操りながらどこか嬉しそうな声のレオフィーナ。


「そう、異世界に飛ばされた主人公が目覚めた森から出て、最初に遭遇するのは姫が乗る馬車とそれを襲撃する山賊、お約束で決まっています」


 レオフィーナが言うお約束とは、ネット小説でよくある異世界転移モノのことであった。鎮也専用従者NPCとして一番初めに製作された彼女は生みの親である星尾和磨、またの名を大倉翔からいろいろと無駄な情報を教え込まれていた。


「あのレオナ、山賊たちが狙っているの、お姫様の馬車じゃなくてこの馬車みたいだけど」


 咲耶も山賊の類で間違いないと感じているようだが、レオフィーナの言うお姫様を乗せた馬車は見当たらない。


「そこは咲耶がお姫様役ということですませましょう。ギルドでのあだ名も月光の舞姫でしたし」


 とてもいい加減なお約束であった。


「マスターは姫お付きの執事役、私は護衛の騎士役ですね」

「でもレオナ、お約束だと護衛の騎士って大抵やられるぞ」


 主人公が助けに駆け付けた時には、騎士たちはすでにやられていて、唯一生き残っていた姫様を助け出し王国まで護衛するのが多いパターンだ。


「む、では姫のメイド兼幼馴染の少女役ということで」

「ああ、そんな役もたまに出てくるな」


 姫が唯一心を許したメイド。メイドの方は姫を様付けで呼び、姫はメイドに呼び捨てにするようお願いする。そんな関係の登場人物たち。


「二人の話にまったく付いていけないんだけど」


 一人取り残された咲耶は、緊張感なく接近してくる集団を監視した。






 さかのぼること少し前、渓谷を少し登った開けた岩場に風貌の悪い集団がいた。その中の見張り役と思しき男が単眼鏡を覗き込み草原からの道を見張っている。


「お頭、報告通りに馬車が一台向かってきやす」

「ずいぶんゆっくり、のんびりじゃねぇか」


 山賊『スパイクバリケード』。ライトゥス近郊で活動する山賊の中で最大の勢力を誇っている集団、道を進む商人の襲撃や小さな村への略奪を繰り返していた。


 被害の規模が帝国でも無視できなくなり、一度騎士団による討伐隊が差し向けられたことがある。しかし、スパイクバリケードはその騎士団をも撃破してみせた。討伐にきた騎士を皆殺しにし、彼らが装備していた武器を今では自分たちが装備し戦力を拡大させていた。


「今回は楽な仕事になりそうだが、手順はいつも通りにやるぞ」


 彼らの襲撃方法は獲物の後方から追いたてる部隊が罠の張られている場所まで追い詰め、逃げる暇を与えず全て奪い去る。追い込み漁のような手法を取っていた。


「後ろから追い立ての奴らが迫ってきやす」


 のんびり進んでいた馬車もようやく追い立て部隊に気がついたようで速度を上げだすが、もう遅い、それは開いた罠の口に飛び込む行為だ。


「よし、バリゲートを張れ、今回の獲物は小ぶりだが偵察の報告では若い女が乗っているらしい」


 女と聞いて後ろに待機していた荒くれ者たちが歓声をあげ、騎士団から奪った剣や盾を打ち鳴らし宴会のように騒ぎたてる。


「おとなしくしろよテメェら、オレたちはこれから襲撃をかけるんだぞ」

「お頭、慎重になりすぎっすよ、あんなボロい馬車、今さら気がついたって逃げられやしませんって」


 その通りと大口をあけてバカ笑いをする山賊たち。


 あれが普通の馬車ではないことを山賊たちはまだ知らない。山賊たちの終焉を知らせる蹄の音が遠くから鳴り響いてくる。

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