第05剣『人の気配』
鎮也は護衛を旋回中の六黒に任せ、レオフィーナを地面に突き刺すと魔法のカバンの中から一振りの日本刀を取り出す、それも赤茶色の牛皮で作られた鞘に収まっている軍刀だ。
鎮也は鑑定眼を発動させた。
「―――――――――――――――――――――――――
七星剣第三星
【名称】海軍刀ヤマト
【製作者】星尾鎮也
【使い手・メイン】星尾鎮也 【サブ】桜咲耶
【分類】軍刀 【レア度】☆☆☆☆☆☆☆(7)
【長さ】99センチ 【重さ】1.6キロ
【聖剣核】ヤマトの心
【スキル】
『水魔法(特大)』…使い手が水魔法を扱えるようにする(効果:特大)。
『刀身射撃』………刀身が銃弾のように柄から発射させる。
『軍属化』…………生きたまま倒した魔物と交渉でき成功すれば軍属化できる。
『水の軍団』………水を媒介に水の体を持つ軍団を召喚できる。
『破損修復』………剣が破損しても時間経過で修復できる。
『剣獣化(白銀狼)』…額に刀のような角を持つ狼犬へと擬獣化できる。
【奥義】
『戦艦化』鎮也が某ゲームに影響を受けて追加したいと願った奥義、刀が戦艦になる。
【補足】
白波のような美しい波紋を持つ日本刀。漫画『桜花の祀り』に登場した戦艦の艦長が作品のクライマックスに携えていた軍刀。この刀の一撃がラストに主人公の活路に繋がる。剣獣化する犬のモデルは同作品に登場する主人公の愛犬である狼犬。奥義の戦艦化のモデルも同艦長が乗船していた日本最強戦艦である。
鎮也が『桜花の祀り』を読みカッコイイと思ったパーツを突き詰めて完成させた。
――――――――――――――――――――――――――――」
海軍刀ヤマトを受け取った咲耶は素早く腰の帯に納め鞘から抜き放ち、顔の高さまで持ち上げ八相の構えをとる。ヤマトの鏡のように磨きあげられた刀身には咲耶の横顔が写った。
「鎮也くん、第一陣来るよ」
咲耶の言葉に反応して周囲を旋回していた六振りの六黒が姿を現したエッジオーグルたちに襲いかかった。高速回転する六黒は鉄と同等の硬度を持つ鍵爪すらも容易に切り裂いていくが、しかし相手は数が多い、六黒の攻撃を潜り抜け鎮也たちに迫ってくる。
「セイヤっと」
重たい物を持ち上げるような掛け声で鎮也は横一文字にレオフィーナを振るう。それだけで五、六体のエッジオーグルを切り裂いたがそれでも奴らは怯むことなく迫ってくる。
振り抜いた姿勢で硬直した鎮也にむかって襲いかかる魔物の群れを、鎮也の背後から咲耶が高速で踏み出し、まるで舞を踊るかのような流れる動きで鎮也に迫る脅威を連続した斬撃で倒していく。
この演舞のような戦いぶりから咲耶は過去の世界で月光の舞姫という異名で呼ばれることもあった。
咲耶の連撃が終わると、レオフィーナを構え直した鎮也が再び大ぶりで蹴散らす、また振り終わったら咲耶が補佐に入る。この繰り返しで二人はかすり傷も負うこともなく第一陣を退けた。
だが……。
「減った気がしない」
「まだまだ囲まれてるね」
鎮也、咲耶だけでなく遊撃になっている六黒も相当数、もう二〇体以上は確実に倒している。
「『竜咆哮』使うか」
『竜咆哮』竜王剣レオフィーナのスキルの一つ、竜王の咆哮を放つことで周囲の意識あるモノをすくみあがらせ、低ランクの魔物程度なら倒すことも可能だ。
「問題ないと思うけど、やめといた方がいいかも」
このスキルには一つ欠点があり、効果範囲が広く範囲内の意思あるモノを無差別に対象にしてしまうのだ。もし範囲内に人がいた場合、まずいことになる。
「私がやるわ」
咲耶はヤマトを逆手に持ち直すと、大地に突き刺した。
「アクアウェーブ」
水属性の魔法。七星剣第三星・海軍刀ヤマトは使い手に水魔法を使用可能とするスキルを持っている。咲耶の発動させた魔法は地下水を噴出させ波を起こすもの、水辺の近くならこれだけで押し流せるかもしれないが、あいにくここは森の中、近くに湖も無く群れを押し流すほどの水圧は無い、それは咲耶も分かっている。
この魔法を使った理由は別のスキルを使うための条件作りなのだ。
「スキル発動『水の軍団』」
魔法で作った水たまりに刀身を浸して『水の軍団』を発動させると、水が隆起し、その姿を狼へ変えていく、相手が多いならこちらも数で対抗しようと、咲耶は水のある限り続々と狼を作り出していき、あっと言う間に水の体を持つ狼軍団が誕生した。
「みんな、お願い」
海軍刀ヤマトを指揮棒のように操り、生まれた水狼たちに指示を飛ばすと、散開してエッジオーグル達を逆襲した。
水狼の強さは魔物ランクで評価するならD級、エッジオーグルと同レベルであるが、相手は烏合の衆に対してこちらは咲耶と言う優秀な指揮官がいる。集団としての戦力差は大きく離れていた。
数でも負けなくなり、力量もこちらが上、負ける理由など一つもない。
「鎮也くんは休んでてもいいよ」
「いや、咲耶だけにやらせられない」
鎮也も休むことなく水狼に混じって戦い続け。
「終わった~」
戦闘はそれから二〇分ほどで終了した。
「まだだよ、これから素材を集めないと」
「そうだった」
水狼たちでは剥ぎ取りまではできない。
そして鍛冶師である鎮也が一番キレイに剥ぎ取ることができるのだ。
「今度こそ終わった~~」
「お疲れ様ですマスター」
剥ぎ取り作業は鎮也と咲耶二人だけでは大変だったのでレオフィーナも人に戻ってもらい三人で作業したがそれでも戦闘にかかった時間の倍以上かかってしまった。
でも、そのおかげで大収穫だ。
「―――――――――――――――――――――――――
・突撃剣トロンバトルナード
・陽翼剣オジロ
・大十手トウテツ
・雷蛇鎚ミュルニョル
・人食い牛グランドブルのC級魔核(1)
・人食い牛グランドブルの牙(1)
・鍵爪鬼エッジオーグルのD級魔核(108)
・鍵爪鬼エッジオーグルの鍵爪(87)
――――――――――――――――――――――――――」
と魔法のカバンの状態。
エッジオーグルの素材が魔核より少ないのは戦闘中に破壊してしまったからである。
「同名素材が重ね入れできてよかった」
重ね入れの能力は、この世界にきてから鎮也が魔法のカバンを改良してできた機能だ。収納個数は増やせなかったが重ね入れできるだけでも大分変ってくる。
今回も同名素材が一枠で入らなければ持って行ける数ではなかった。影魔法に影の中に収納ができるシャドースペースと言う魔法があるのだが、城や教会など対魔法処置が施されている場所に近づくと、強制解除されてしまい収納していた道具全てをぶちまけてしまうことになる。
以前に一度、ぶちまけたことのある鎮也はそれ以来、収納魔法は極力使わないようにしていた。
「あの牛、グランドブルって言うのか」
魔法のカバンに素材を入れることにより魔物の名前が判明した。
「私も聞いたことのない名前です。私たちの飛び越えた時間の間に生まれた新種なのでしょう」
やはりレオフィーナも知らない魔物であった。
「これはますます町で情報を仕入れないといけないな」
自分たちが飛び越えた時間に何があったのか、どのような変化があったのか、知らずに動けば身の危険にさらされるかもしれない。
それから再びレオフィーナを剣にして装備し直した鎮也とヤマトを装備したままの咲耶が森の出口を目指して進んでいく。
先ほどの戦闘以降は、魔物に襲われることもなく順調な旅路であった。草などの背も低くなってきて、森の出口に近づいてきたことが分かる。
「鎮也くん、あれ見て」
咲耶が示した先、木々が少しだけ開けた場所に、傾いた馬車が放置されていた。
「この時代にきて初めての人の痕跡だ」
元は帆馬車であったのだろうが、今は骨組みだけ残して帆の布は無くなっている。傾いているのは片側の車輪が外れてしまっているからだ。
「車軸が折れてる、この壊れかただと多分魔物に襲われたんじゃなくて、荷物の積みすぎで潰れたんだな」
「私たちみたいに魔物を狩りすぎて素材を積みすぎたのかな」
「この森は魔物が豊富だから、腕に覚えのある冒険者なら優良の狩り場だよな」
鎮也は折れた車軸を中心に馬車の状態を調べ始める。
「帆をはぎ取って荷物を包んでいったんだね、きっと」
「何年も放置されたわけじゃなさそうだ」
壊れているが風化はしていない、雑草もあまりからみ付いていないことから放置されてから一カ月もたっていないだろうと鎮也は推理した。
「人が生きていることが分かってよかったよ」
「鎮也くん、そんな心配してたんだ」
「もしかしたら最終戦争やって人類絶滅なんてこともあるかもな~くらいで考えていた」
鎮也は馬車の下を覗き込んで壊れ具合の確認を終えた。
「これくらいなら、すぐに直せそうだな」
「直せそうって鎮也くん、直すつもりなの」
「馬車は有れば便利だろ」
「まったく、壊れているの見つけるとすぐこうなるんだから」
口を膨らませて抗議してくるが、こうなった鎮也は聞き入れないことを知っているので止めることはなく、咲耶はしょうがないと作業に入る鎮也を守るために周囲の警戒をはじめてくれた。
「すぐ終わらせるから」
そんな咲耶に感謝しつつ馬車の修理に取り掛かる。
致命的な損傷は折れた車軸だけ、これなら部品を交換すれば使うことはできそうだ。
「レオナ、戻ってくれ」
鎮也の呼びかけに答え剣から青い軽装鎧を纏った少女の姿へと戻る。
「咲耶と一緒に周囲を警戒してくれ、俺は馬車を修復するから」
「了解ですマスター」
鎮也は折れた車軸の前で膝をつくと、魔法のカバンの中から巻きついた蛇が装飾されている黄金のハンマーを取り出した。
一応の確認のために鑑定眼を発動させる。
「――――――――――――――――――――――――――
【名称】雷蛇鎚ミュルニョル
【製作者】星尾和磨
【使い手】星尾鎮也
【分類】金槌 【レア度】☆☆☆☆☆☆☆(7)
【長さ】30センチ 【重さ】1.6キロ
【核】雷神石
【スキル】
『雷電鍛冶』……火で素材を溶かさずとも電撃だけで鍛冶ができる。
『雷付加』………作り上げた作品に雷属性のスキルを与える。
『浄化』…………不浄なモノを浄化する。
『伸縮』…………鎚の大きさを自在に変えられる。
『変形』…………電気の通せるモノなら形を変えられる。
『分解』…………電気の通せるモノなら分解できる。
【補足】
鎮也の伯父和磨が、鎮也の鍛冶師になりたいと言う夢を聞き、最高の素材をかき集めて製作した。北欧神話に登場する伝説上の鎚が参考にされている。鍛冶用のハンマーであるが性能が高いため戦闘でも使用可能である。
―――――――――――――――――――――――――――」
鎮也愛用の鍛冶用ハンマー。
続いて先ほど手に入れたばかりの素材、エッジオーグルの鍵爪も一つ取り出した。
「手に入った素材が役に立つ物で良かったよ」
振りかぶった黄金の鎚を鍵爪に振り下ろす。
「『分解』」
スキル『分解』を発動させると、打たれた鍵爪はその姿を変えスライムのようにドロドロに溶けた。さらに鎮也は連続でスキルを発動する。
「『浄化』そして『変形』」
スキル『浄化』で素材の中にあった不純物を取り除き、『変形』を使ってスライム状になった素材を鉄材へと変形させる。出来上がったのは0.5キロくらいの長方形をした鉄材、それに鎚を数度打ちおろし、分解、変形を繰り返し車軸の形へと変え、折れた車軸を引き抜き片手で傾いた馬車を持ち上げると、残ったもう片方の手で車軸を簡単に交換する。
日本にいたころは片手で馬車を持ち上げるなど考えられなかったが、この世界でゲームキャラのステータスを手に入れた鎮也には造作もないことであった。
ここまでで作業を終わらせれば咲耶にあきれられることもなかったが、工作大好きの鎮也くんはこれだけでは終わらせない。
「ついでだからもう片方もやるか」
同じ手順で手早くもう一つの車軸を完成させると、まだ壊れていない車軸も交換してしまった。
ついでのついでに弱そうな部分の強化修繕してしまい、修理がいつの間にか改造になっていた。
「やりすぎたかも」
完成した馬車は外見こそ変わっていないが、とんでもないハイスペックな仕様になっていた。
「マスター、車輪から魔力を感じるのですが」
無駄にすごい馬車を見て主のすごさをほめればいいのか、あきれればいいのかレオフィーナは悩み。
「鎮也くんだから」
の一言で片づける咲耶。顔にはやっぱりこうなったと書かれている。
「マスター、一応魔物の皮で革紐を作っておきました」
「ありがとうレオナ、ってこの皮どこで手に入れたんだ」
「マスターの作業中に襲って来た魔物から手に入れました」
「え?」
作業中に襲ってきた。
「襲ってきたの?」
集中していた鎮也は襲撃をまったく気がつかなかった。
「剣を借りようと思ったのですが、集中されているみたいでしたので、魔法で倒しておきました」
竜王剣レオフィーナのスキルは人の姿の時でも発動できる。
辺りを見れば目が無い狼型の魔物が何体も倒れていた。半分は斬られ、半分は焼け焦げている。斬ったのは咲耶のヤマトで、焦げているのがレオフィーナの魔法だろう。スキル『火魔法』を使ったのだ。
「貸しとけばよかったな、ごめん」
六黒は鎮也の腰に収まったまま、他の七星剣は魔法のカバンの中。
「この程度なら問題ないので大丈夫です」
「剥ぎ取りとかは?」
「もう咲耶と終わらせました」
「鎮也くん、この魔物はD級の穴倉狼モルダーウルフだね、普段は地面の下にいる魔物で、通称はモグラ狼だったかな、尻尾の皮は耐水性が強くて防寒具が作れるから売れる素材だったはず」
「馬車を見つけてよかったな、素材が運べる」
馬車を直して正解だっただろとアピールする鎮也だが。
「馬車を修理しなければ襲われなかったけどね」
咲耶さんには通用しませんでした。
「し、資金源が増えたからよしとしないか」
「それはいいんだけど、襲撃に気がつかないのはどうかと思うな」
「うっ」
言い返せる言葉が見つからない、屋敷で襲撃を受け未来に飛ばされたばかりなのだから。
「サクヤ、その辺りでいいでしょう。マスターは私たちを信頼して作業に集中したのですから、ここは信頼を嬉しく受け取ろう」
「そうそう、二人が守ってくれてたから安心して没頭できたんだ。本当に二人には感謝しております」
ここぞとばかりにレオフィーナの言葉を全肯定して感謝の言葉を述べる。
「まあ、今回はそういうことにしようかな」
「ありがとうございます」
感謝の言葉を受け入れた咲耶さんからお許しを頂けた。
「さて、せっかく馬車ができたんだから、素材を積むのは手伝ってね」
「お任せください咲耶さん」
鎮也は言葉使いが自然に敬語になっていた。
「これではどっちが主かわかりませんね」
ため息をつきながらも笑みをこぼすレオフィーナ。
これがいつもの三人の関係、咲耶がどこか抜けている鎮也を引っ張り、レオフィーナがそれを見守る。この絆は時間を移動しても変わることはなかった。




