22ただの妖怪
「ここが墨岡さんが言っていた廃ビルね」
斗真と楓は廃ビルの前にいた。
そこは街の駅から、少し離れた今は誰もいない廃ビル。
前は何かの施設だったのか、三階建てで、そこそこ大きい。
楓は、耳に着けている小さいイヤリングである「姿化かし」を外し、角を生やす。
楓は妖具『飛翔草履』を履き、斗真も早速背負っていた筒から、新しい妖具『花咲の弓』を取り出す。
楓が言うには、役所の電話に、助けを求める若い女性の声がしたらしい。
けれど、突然絶叫後に電話が切れたそうだ。
何かトラブルにあったと、役所は判断して、退魔士である楓と斗真に連絡があった場所へ行って欲しいとのことたった。
斗真と楓は廃ビルに入る。
廃ビルの中では、使われないコンクリートの部材や鉄くずが床に散乱していた。
外も暗くなり始めているので、かなり不気味である。
誰かがいる気配はない。
「なぁ、妖怪関係のトラブルって、言ったけど、具体的にどんなものなんだ?」
斗真は楓に聞く。
楓は腕を組んで、
「う~ん…墨岡さんに電話を掛けてきた人は途中で切れたから、詳しいことは分からないみたいだけど。こういう場合、基本的に”妖怪と妖怪同士”の問題ね」
「妖怪と妖怪同士?」
斗真が首を傾げる、
「墨岡さん………もっと言うと、役所に電話を掛けたってことは、掛けた人は妖怪ね。この街に住んでいる妖怪は何かあれば、役所に電話することになっているから。妖怪が役所に電話を掛ける理由なんて大抵、他の妖怪とのトラブル」
つまり、この街の役所は『退魔士協会・隗隗街支部』だけでなく、妖怪の相談窓口も務めているのか。
「他の妖怪とのトラブル………だったら、ここには役所に電話した妖怪と、別の妖怪がいるってことか?」
「そうね。まずは、そう妖怪たちを探さないと」
楓が辺りを見渡す。
「う~ん…私の〈妖怪センス〉が反応していないってことは、今回は”ただの妖怪”ね」
楓の髪は特別で、髪を武器にするだけでなく、妖獣が近くにいると反応する〈妖怪センス〉と言う能力があると、以前彼女は言っていた。
「あれ?けど、その〈妖怪センス〉…妖獣の時に反応するものじゃなかったっけ?」
妖獣である泥田坊の時は、近くにいる際に頭のてっぺんから一本の髪の毛がアンテナみたに立っていた。
「"悪い妖怪"の時も反応するのよ」
楓は、そう言う。
「〈妖怪センス〉には、反応なしと。それじゃあ…手分けして、探そう。斗真は一回を探索して、私は二階を探索する」
「いや、その必要が無いぞ」
楓の提案を却下する。
「どうして?」
「俺のスキルがあれば、探索は簡単だ」
「すきる?」
「ああ、〈万能眼〉〈透視眼〉」
スキル名を唱える斗真。
探索の時こそ、斗真の〈万能眼〉の本領発揮。
早速、泥田坊を倒した際に手に入れたスキル〈透視眼〉を使い、廃ビルを隈なく見る。
〈透視眼〉によって、廃ビルの壁や天所が透ける。
一階にいても、二階の様子が透けて見える。
そして、斗真は見た。
二階に、赤いレインコートを着た女性がいるのを。
こんな廃ビルに、一人の女性…怪しい。
「楓、二階に誰かいる。赤いレインコートを着た女の人」
「二階?何で、そんなことが分かるの?」
楓は斗真が何をしたのか、理解できなかったようだ。
傍から見れば、斗真は廃ビルの内を見渡していただけにしか、見えなかったのだろう。
「あ!そっか…楓には、まだ伝えてなかった」
まだ、楓には斗真のスキルである〈万能眼〉に関して、何も伝えてなかったことを思い出す。
斗真は自身のスキルを簡単に説明する。
勿論、異世界の事は除いて。
「は?オール・アイ?それで、斗真はいろんなものを見ることが出来るの?」
楓が目を大きく見開く。
「そうだ。今使えるのは、魔力…………妖気を視認できる〈魔力眼〉に、遠くを見られる〈千里眼〉、そして、物体を透けて見られる〈透視眼〉の三つ。さっき使ったのは、〈透視眼〉」
斗真は〈透視眼〉を使ったことを言う。
「信じられない。そんな力があるなんて聞いたこと無いよ。後で詳しい話は聞かせてもらうからね」
楓はスキルの存在に懐疑的になりながらも、一旦は二階に向かう。
斗真も続く。
斗真と楓が古ぼけた階段を上り、二階へ上がった。
「う~ん…赤いレインコートを着た女の人は確か、この辺にいたはずなんだけど」
斗真と楓は一階から〈透視眼〉で、赤いレインコートを着た女性がいたであろう場所にいた。
斗真は周りを見渡す。
その際、赤い物が目に入る。
「あ、いた」
斗真が見ている先に、赤いレインコートを着た女性がいた。
こちらに背を向けて立っていた。
やっぱり、怪しさ満点である。
「ここは私が」
斗真が警戒して、赤いレインコートを着た女性を見ていると、楓がその女性に近寄る。
「すみません」
女性のすぐ後ろまで来て、楓が声を掛ける。
赤いレインコートを着た女性はゆっくりと振り返る。
その女性は、長い黒髪に、高い背丈を持っており、冷たい視線を楓に向けていた。
女性の顔には、顔の半分以上を隠す大きなマスク。
「あの………こちらで何を?」
楓が女性に問いかける。
すると、女性は、
「ねぇ……私、綺麗?」
「はい?」
「私、綺麗?」
綺麗か、質問してきた。
「は、はい。綺麗です」
楓は反射的に答える。
それを聞いた女性は徐に、マスクに手を持って行き、外す。
その瞬間、女性から魔力が出る。
「これでも?」
「「っ?!」」
楓と、少し離れて女性を見ていた斗真も息を飲む。
女性の口は耳まで裂けていた。
この女性は間違いなく、妖怪口裂け女だ。
ホラー映画で何度か見たことがあるが、リアルだと相当恐怖物である。
女性…口裂け女は楓の頬を両手で包む。
「ふぇ?」
「綺麗なお顔。私よりずっと綺麗じゃない」
急に、そう言いだす。
口裂け女は戸惑う楓を他所に、楓の顔を両手で掴んだまま、口が裂けた顔を寄せる。
「ああ、嫉妬する。こんなきれいな顔……………………無くなっちゃえば良いのに」
口裂け女が楓の顔をねっとりとした目で見る。
そして、口裂け女の髪が突如動き、長い髪が楓の顔に絡みつく。
「うぐ!んん!」
口裂け女の長い髪が楓の絡みつき、喋りづらそうにする。
「うぐぐ!お、落ち着いてください!」
髪の毛を剥がそうと、楓は手をバタバタと動かし、口裂け女に落ち着けと言う。
斗真はそれまで口裂け女のインパクトに驚いていたが、ハッとして弓を構える。
「おい!止めろ!」
矢を右手で持ち、狙いを口裂け女に向ける。
狙いは額。
「と、斗真!だ、駄目!」
楓は手を動かしつつ、横目で斗真を見て、叫ぶ。
楓は手で顔に纏わりついた髪の毛をどける。
「この人は妖獣じゃなくて、”ただの妖怪”だから退治するのは駄目!あくまで取り押さえるだけ!」
口裂け女を攻撃するのでなく、取り押さえるのだと、斗真に伝える。
「なるほど、分かった」
了承した斗真は取り敢えず、矢を口裂け女の髪に狙う。
シュッ!
矢は放つ。
放たれた矢は狙い違わず、楓に纏わりつく口裂け女の髪に当たり、射抜く。
楓を捕まえていた口裂け女の髪が射抜かれたことで、何本か切り落ちる。
「きゃ?!」
口裂け女は軽い悲鳴を上げ、楓から離れる。
その隙に、斗真は『花咲の弓』を握って、花をイメージする。
すると、弓柄から赤い蕾の花が咲く。
斗真は、その花を引き抜き、口裂け女に近づく。
そして、
「このチューリップで、どうか落ち着いてください」
「…………」
口裂け女は斗真に見せられた赤いチューリップを無言で見つめた後、
「可愛い……お花」
喜んで、チューリップを受け取った。




