第十三話 Clear Lilly Quartetto
別の日の日曜日。澄香はゆりえに誘われて駅まで来ていた。どうやら澄香に会わせたい人がいるようだ。桃と藍那も誘ったが、二人は二人でもう出かけていたらしく、澄香と二人で会うことになった。
ゆりえは学校で見せる姿、三つ編み伊達メガネの姿だ。
「で? あたしに会わせたい人って? まさか、同人誌仲間じゃないでしょうね!?」
澄香は自分の胸を両手で抱いて、横歩きで少しゆりえから離れる。
「ちがうよーそんな知り合い居ないし、居たとしても澄香を見せたくないもの」
ふーん…と言いながら、ゆりえの隣に戻る。
「あたしがこっちに引っ越してくる前の、小学校の時の友達。今日こっちに遊びに来るって言うから、澄香を紹介しようと思って」
その言葉を聞いて澄香が驚く。
「あんた…友達いたんだ…(変態なのに…)」
「いるよ! 失礼な!」
憤慨するゆりえ。
ゆりえがプンスカしている後ろから大声で駆け寄ってくる姿が見えた。
「おーい! ゆりえー!」黒髪のポニーテールを揺らしながら駆け寄ってくる元気そうな女の子とその後ろから、「ちょ…ちょっと…大声出さないで…恥ずかしいよ」おどおどしながら少し気の弱そうなセミディの女の子が歩いてくる。
その二人の姿を見つけて駆け寄るゆりえ。
「久美! 有希!」
久しぶりに会った二人の友達の手を笑顔で握る。
「お? 向こうにいるのがゆりえが紹介したいって言ってた子?」
久美と呼ばれたポニーテールの女の子がゆりえの肩越しに澄香を見る。あ、どうもーという感じで会釈をする澄香。
「そうそう! こっちで仲良くなったの! 紹介するね!」
ゆりえは二人の手を引き澄香の前まで来ると、紹介を始める。
「このポニーテールの子は、杓久屋久美で、こっちのおとなしい子が牡反野有希。二人とも小学校の時の友達だよ」
どもーと言う感じに手をあげる久美と、よろしくお願いしますと言う感じでお辞儀する有希。
「あ、加美澄香です。宜しくお願いします」
澄香も丁寧にお辞儀して自己紹介をする。
「加美澄香…かみすみか…上から読んでも下から読んでも同じ! トマトと一緒!」
まるで大発見をしたように喜ぶ久美に、
「失礼だよ!」
そう言いながら久美のお尻をつねる有希。
「そかそか! トマトはゆりえの胸の大きさか!」
久美がわはは、と笑いながら大声で言うので当然、駅を行き交う人の注目の的になり、真っ赤な顔で俯く有希。
「私のおっぱいはトマトより大きい…よ?」
自分の胸を触りながら確認するゆりえ。
楽しそうな話し声を聞きながら、澄香はオセロがいきなり白にひっくり返り、1つだけ残された黒のような、一抹の寂しさを感じた。
「どうしたの?」
少し気持ちの沈んだ澄香の顔をゆりえが覗き込む。
「あ…なんでもないよ」
頭をブンブン横に振り、気を取り直す。
久美は、ふふふーん、と言いながら、値踏みするような目でゆりえを頭からつま先まで舐め回すように見る。半袖Tシャツに七分丈のパンツに素足でスニーカーを履いている。
親指をぐっ立て、眩しいくらいの笑顔で、
「合格!」
「何が?」
少し戸惑いながら返すゆりえに、有希が言う。
「久美、ゆりえちゃんが都会に引っ越して染まってるんじゃないかって心配してたの。でも変わってないみたいで、私もちょっと安心した」
「元居た芦浦市もこの洲芦市もそんな変わらないでしょ?」
街並みを見てゆりえが言う。
「うちらの住んでる場所、周り山ばっかりじゃん!」
「お洋服買うのも電車に乗らないといけないもんね。だから今日はこっちでいい服見つけるつもり!」
有希の言葉に建物を指差すゆりえ。
「じゃあ、あそこのお店がいいよ。結構可愛い服揃ってるよ」
そう言うと、ゆりえは澄香の手を取り、「行こ」と言い店へ向かって歩き出す。
手を繋いで歩く澄香とゆりえの後ろから久美が雑談を始める。
「服って言えばさー、小4の時山で木登りして遊んでたんだけど、ゆりえ木の枝に引っかかってさ!」
ゆりえはその声に顔を赤くしてワーワー言い出すが、クスクス笑いながら有希も続く。
「そうそう、宙ぶらりんになってゆりえちゃんジタバタしてたら、靴が飛んで大きな木の上に飛んで行っちゃって、靴が取れなくなってそのあと服が破けて落っこちちゃってね?」
「足くっさくてさぁ! うちら鼻押さえながら、どうやって帰ろうか悩んだんだよ! 上すっぽんぽんだし」
ゆりえは澄香と繋いだ手をぎゅっと握りしめて真っ赤な顔で俯く。
「どうやって帰ったの?」
澄香が聞くと久美と有希はゆりえの左右に、澄香をゆりえの前にして、
「こうやって、ゆりえちゃんを隠してお家まで帰ったの」
「すっぽんぽんガード! とか言いながらね! いやあ! あれはさすがのうちもドキドキしたよ」
もー! と真っ赤な顔で言うゆりえ達を見て、「いいな…」と呟き、ゆりえの過去を知る久美と有希に少し嫉妬する澄香だった。
それから四人で街を回り、公園で一休みすることに。じゃんけんして、負けたゆりえがジュースの買い出しに行き、久美、澄香、有希はベンチに座って待っていた。その足元には大量の紙袋が置かれている。
「いやあ、買いすぎちゃったね」久美が足元の紙袋を見たあと、横目で澄香を見ながら、
「加美さんさぁ、うちらがゆりえの昔に話ししてる時、羨ましいとか思ってた?」白い歯を見せながら、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
澄香は図星を突かれ驚いたが、否定することなく答える。
「うん…あたしの知らないゆりえを知ってて、ちょっと羨ましい、ずるいなって思っちゃった」澄香は空を見ながら、「やなやつだよね、あたし」ため息をつきながら呟く。
「そんなことないよ。私達もね、ここに来る前まではそう言う気持ちだったもの」
え? と言う表情で有希を見る澄香。
「そうそう、ゆりえから事あるごとに、こっちでは色んな楽しい事があったって報告してきてさ。うちらのこと忘れたのかって、対抗心燃やしてた」
「でも加美さんとゆりえちゃんの様子を見て、ああ、良かったって気持ちになれたの。気付いてた? ゆりえちゃんずっと加美さんの手握ってたんだよ?」
「あ…」澄香は自分の手を見る。その手にゆりえの温もりが残っているような気がした。
「ゆりえって、昔はもっと物静かでさ。でも今日会ってめちゃくちゃ喋っててびっくりしたよ」
久美は澄香の肩を抱き寄せ、頭と頭をくっつけて満面の笑顔で言う。
「ゆりえがあんな元気な子になったのは加美さんのおかげ! 加美さん…いや、澄香! ゆりえのことこれからもよろしく!」
「うん…! 任せて!」
澄香も満面の笑みで答えた。
「うふふ、良かった! 加美さん…澄香ちゃんも足臭そうな顔してるし、ゆりえちゃんを安心してお任せできるよ」
「顔で臭いを判断すな!」
澄香の鋭いツッコミに、ベンチで三人笑っていると、四人分のジュースを抱えたゆりえが戻ってきた。
「なになに? 何話してるの? 私も混ぜて?」
久美、澄香、有希は三人顔を見合わせて、「秘密!」と声を揃える。
教えてよーと言うゆりえの声、三人の笑い声。賑やかな四人の声が公園に響いた。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、久美と有希が帰る時間がやってきた。
「今度は芦浦市にも遊びに来てね」
「じゃ、ばいばーい!」
そう言うと二人は大量の紙袋を手に、ホームの方へ向かって行った。二人を見送り、姿が見えなくなるとゆりえは髪をほどき、伊達メガネを外した。
澄香の隣の美少女が、「じゃあ、あたし達も帰ろっか」と笑顔で言うと、澄香は少し驚いた表情を浮かべるがすぐに笑顔で「そうだね」と返した。
帰路についていると、澄香達の向こうから藍那と桃が歩いてくるの見えた。
「お、澄香じゃん。今帰り? 一緒に帰ろうよ」
言い終わって、澄香の隣の美少女に気付く。
「おわっ! 誰よその美少女!」驚く藍那に、驚きのあまり「はわわ! こんばんは!」と、まだ日も暮れていないのにお辞儀をしながら夜の挨拶をする桃。
そんな二人の様子を見て、澄香とゆりえは顔を見合わせて、あははと笑う。
そして澄香はゆりえの腕に自分の腕を回して言う。
「この子はあたしの大切な友達だよ」
そう言われて顔を真っ赤にするゆりえ。
桃は「澄香ちゃんは、あたしのおばあちゃんです!」と謎の対抗心を燃やし、藍那はそんな桃を抑えながら、「澄香、紹介してよ!」と澄香に迫る。
「えーどうしよっかな」
そう言うと澄香はゆりえの手を取り駆け出した。
藍那は、「あ! こら待て! 逃げんな!」と澄香を追い、桃は、「待ってよ! おばあちゃん!」と澄香に叫びながらとてとてと駆け出し、澄香は、「あたしに同い年の孫はいません! てか誰がおばあちゃんじゃ!」桃に鋭いツッコミをいれ、ゆりえは、「あはは!」と、澄香の手を強く握り締め笑う。
そんな賑やかな声を残し、四人の背中は街並みへと消えて行った。
この後、謎の美少女がゆりえだと知り藍那と桃が腰を抜かし、顎が外れるほど驚いたのは言うまでもない。




