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3-02-01 入国手続

 マリアの体内の黒い石は現代技術と慎二のストレージにより取り除かれました。



 検疫施設で、俺は静かな朝を迎えた。

 久しぶりに一人部屋での目覚めで、ゆっくりと寝たような気がした。


 朝食は、ホールで小規模なビュッフェスタイルであった。

 和食は無く、洋食系のメニュー中心で、各種のパンと、ハムや肉系、生野菜、フルーツなどが並んでいる。

 卵料理について、スクランブルエッグや、目玉焼き、オムレツなど頼んだものを目の前で手早く作ってくれる。

 また、ベーコンは注文で、フライパンでカリカリに仕上げてくれる。


 これであれば、少人数でも対応できて、かつ出来立ての美味しい料理がいただける。

 いろいろな世界から来る人達でも、少しずつ自分でチョイスができるので、対応できるのだろうな。


 さぞやお替りが大変かと思ったのだが、どうも話題の中心が食事ではないようだ。

 彼女たちは、食事もあまり喉に通らず、食後に戴ける服の話題ばかりで、これでは先が思いやられる。

 こりゃ、いかん所に火をつけられてしまった予感がする。


 食事を慌ただしく終えると、彼女たちは洋服が渡されるラウンジへと急行していった。

 俺と最後に残ったマリアは優雅にお茶を飲んでいた。


 今まで、カジュアル用品店で満足であったところに余計なことを……


 部屋に戻った彼女たちは、、届いた新しい服に着替え、皆で鏡の前でファッションショーだった。

 服の他にも、服に合わせた靴や下着など、それぞれ一式コーディネートされていた。

 普段でも着られる服が何着かと、フォーマル1着が贈られたようだ。

 これらは、日本政府からのプレゼントと言われた。


 今日は、外務省へ出かけると言うことで、全員フォーマルとなった。

 女性陣だけではなく、なぜか俺のもあった。

 まあ、女性陣が全員フォーマルで、俺だけ普段着というのは変だしね。

 でも、なぜに燕尾服?

 貴子に「馬子にも衣装」と笑われた。


 そろそろ出発しようと言うのに、西脇さんがいなかった。

 昨日の検査結果の話の後、やはり彼女はタクシーで東京に向かったと言うことで、既にこの施設にはいなかった


 本日向かう先は、その西脇さんがいる外務省と言うことで、俺たちを迎えるための準備があり、彼女は先に出発する必要があったらしい。

 彼女がここの検疫に留められたのは、予定外だったのであろう。

 多分夜通しで準備をしているようである。


 宮守、えーと、珠江さんは、今回の検査の報告書を作る必要があると言うことで、ここに残ってまだ作業が残っているとのことである。


 そのために西脇さんが手配してくれた車が施設に到着し、東京の彼女の元に向かうことになった。


 明日までは彼女たちと一緒の行動となるため、今夜は西脇さんに宿を取ってもらうという話を珠江さんから聞いた。

 東京に住まいがあるのに、都内に泊まるのっていうのは、なんか不思議な感じだ。



 俺たちは、再び中央道を走り、そのまま首都高へ入り、外務省に向かう。

 車が都心が近づくと、三人娘は皆窓にぺったりくっついて、いろいろ聞いてくるが、真希と貴子まで窓を取り合って騒いでいる。


 新宿の高層ビル群を過ぎ、緑が深い皇居の脇で首都高を降りると、車はすぐ近くのビルに向かう。

 守衛さん横のゲートを抜けるが、ここは顔パスのようだ。

 そして車は9時少し過ぎに建物の前についた。


 建物の前には西脇さんの代理のお兄さんが待機しており、

「皆様には、ここで少しお時間をいただきます」


 開いたワゴンのドアから声を掛けられ、ここで車を降りるように促される。

 皆、ゲストとかかれたIDタグを首にぶら下げる。

 俺を始め、みな周りをキョロキョロ見回しながら、お兄さんの後ろをついていく。

 俺だって、こんなところ来るのは初めてなんだよ!



 最初に売店みたいなところにつれていかれた。

 幼女にここで売っているお菓子でも買ってくれるのかと思ったが、違った。

 店のおばさんが奥の壁際の上からぶら下がっている紐を引っ張ると、天井からグレーのスクリーンが降りてきた。

 これからの手続きに写真が必要とのことで、俺と3人娘と貴子の証明写真が撮られるらしい。


 スクリーンの前ある丸椅子に、俺が最初に座るように言われた。


「お兄ちゃん、あご引いてね」


 店のおばさんは、カメラが既にセットされた三脚を、床の赤い印に合わせて置き、「はい撮ります!」 ピカッ


 と写真を撮られた。 何も言うことが無いうちに終わっていた。 手慣れている。


 俺が写真を撮っていた間に、イザベラは棚のお菓子を見つけたようで、彼女にしては珍しく欲しそうに見ている。

 これまで辛抱してきたので、お菓子くらい遠慮しないで買ってあげるよ。

 撮影をしていない皆様、当然のようにワッと参加して、あれもこれも買うことになる。


 俺は、カメラの前で、初めて写真を撮る彼女たちに、あれこれと指示を出す。


 なぜか撮影には貴子も混じっている。 貴子も異次元人の関係者となるのかな?

 サリー! まっすぐカメラを見ないと、写真が取れないから。 俺の指先を見て!


 にぎやかな後ろを振り向くと、真希さんと貴子さんまで手にお菓子を持っている。

 俺はそれらをまとめてカゴに放り込み、急いで会計を済ませると、すでに全員の撮影が済んでいた。

 君たち、ちょっと買い過ぎだって。


 お菓子を買っていることで、すこし遅くなってしまった。

 お兄さんの案内で建物内の移動だ。

 お兄さんには、待たせてすまないと謝っておく。



 俺たち一行はエレベーターで最上階まで昇り、特別会議室と書かれた部屋に通された。

 検疫設備で狭いエレベーターは体験済みだったので、昨日のように騒がれずに良かった。


 会議室と言っても、奥は大きな窓の部屋で、ゆったりしたソファーが向かい合うように置かれ、片側だけで10人は座れる。

 多分偉い人達が使う会議室なのだろう。


 俺は一番奥に案内され腰掛けるが、安い椅子しか座りなれていない為、背もたれまでの距離が長く深く沈むソファーは落ち着かない。

 間もなくすると、書類を抱えた西脇さんが入ってきた。


「お待たせしました」


 持ってきた書類を皆に配る。

 10枚くらいの紙が綴じられている。


「皆さん日本語は読めるのですよね?」 と資料を配る。


 彼女たちに確認するが特に問題はないようだ。

 貴子は? って見ると、体は幼女だが、婆さんの頭脳だけあって問題ないようだ。 そんなことを考えていたら、なぜか貴子に睨らまれた。



 50代後半だろうか? 少し年配のダンディな人が会議室に入って来た。


「西脇君、出来たよ」と言い、持ってきた封筒を西脇さんに手渡す。


 西脇さんは、私の上司の局長だと言って紹介してくれた。


「君が加納君か。 唯華君のこと、くれぐれもよろしく頼むよ」


 と言って手を強く握られた。

 西脇さんって、ユイカって名前だっけ。


 その時は、何を言っているかよくわからなかったが、とりあえず

「はい」と返事する。


 今度は西脇さんに


「唯華、幸せにおなり」

 軽く彼女を抱きしめると、そのまま出て行った。


「え! あれってセクハラ上司じゃない?」 って真希。


「西脇局長も、宮内庁出向組で私の叔父です。

 私は物心ついたこからお世話を頂いており、本件も全てご存知です。

 一族同士では、多くが西脇姓ですので、個人的に呼ぶ場合は名前で呼んでいます」



「身分証が出来上がりましたので皆様にお渡しします」


 そういって、先ほど受け取った封筒からパスポートみたいな小さな手帳を取り出す。


「皆さん、身分を証明できるものがないとまずいでしょう。

 皆さんはこの世界の国としての実体がまだありませんので、当面は日本国政府があなた達の国際的身分を保証するための書類です。

 いってみればパスポートに近いものです。

 しかし、国が出来れば大使と同じ扱いになりますので、こちらはそれまでの継なぎのようなものです。


 それと、一緒に特別永住者証明書をお渡ししておきます。

 これは国内でのIDカードやマイナンバーカードなど、日本で活動する際に身元を証明するカードで、今後も使えます」


 茶色のパスポート|みたいな≪....≫物とカードを受け取る。

 今持っている赤いパスポートとは異なるようだ。

 めくって見ると、さっき売店で撮ったと思われる俺の写真がある。

 このためのフォーマル着用か。


 カードの住居地を見ると東京都千代田区千代田1番1号になっている。

 自由に設定できる本籍を、千代田区千代田1番に勝手に設定している話はたまに聞くが?


「この住所って?」


「陛下のご厚意で、当面国内での住いが決まらないだろうと言うことで、住居地は皇居に置かせてもらってあります。

 実際に郵便が届けば、宮内庁経由でこちらに連絡が入ります。

 当然、そこに住居はありませんので、いわゆる私書箱ですかね?


 これがあれば、皆さん堂々とこの国で生活ができます」


 えっ! これって、ひょっとして国籍の問題が解決したの?

 最大限難しいかと思っていた、新たな戸籍を手に入れることが出来るようだ。


「三人はわかりますが、貴子の分もあるのですか?」


「加納貴子様はすでに亡くなっており、これは戸籍を失った貴子様への新たな証明書です」


「それと俺にもあるのは?」


「ええ、加納様もすでに日本の国籍はありませんので、その証明書です」


「あぁ、そうですか、それでって、何じゃそりゃ! どういうこと?」


 かなり取り乱した


 検疫所での話し合いで、彼女たちのこれからについてがあるので、俺も身元引受人となる多少の覚悟はしていたが、俺自身の国籍まで失うとは聞いていなかった。

 まあ、実際には既存の登録抹消までにはもう少しかかるらしいが。


 説明によると、異次元人の身元引受人が日本人であり、それを日本国として認めるとうまくないらしい。

 他国に対して、日本が異次元人を囲い込んでいると見なされ、諸外国にばれた時、外交上の大きな問題となってしまうとの事。

 それで、身元引受人となる俺ごと日本から切り離す必要があったと言われた。

 納得はできないが、この娘達を守る為の代償であれば、仕方ないと割り切ることにした。


「その書類は皆さんの身元を、それぞれの世界の政府に代わって日本国が保証すると言うだけの物であって、国籍や日本戸籍ではございません」


 西脇さんにもらった資料には、それらについて書かれていた。

 驚くことに、彼女の資料ではスレイトの存在が前提となっており、それを持つ俺が中心に考えられている。

 もっとも資料では黒妖と記載されているが。

 俺が神社で見せたり語ったりした以上のことが書類では想定されている。


 西脇さんに確認すると、西脇さんの部署では伝承を元に、以前から黒妖の可能性については検討していたらしい。

 以前から貴子の里をおとずれて、黒妖と異次元人についての関係の聞き取りを行う予定をしていたそうだ。


 しかし、貴子が失踪してしまい、その機会を逸してしまった。 そして、神社に黒妖が戻ったことが伝わったため、調査は打ち切られたらしい。

 ところが、神社から黒妖を受け取りに従者が来る可能性があることが宮内庁に報告され、にわかに忙しくなっていたらしい。


 あと、俺は西脇さんからスマホを渡された。


「スマートフォンや携帯電話の通信モジュールに電源が入りますと、加納様の位置情報が基地局経由で外部に漏れてしまいます。

 ご自分のスマートフォンや携帯電話をお持ちでしたらすべて解約してください。

 あ、それはこちらで手続きは行います」


「アドレス帳の引継ぎはできますか?」


「加納様のお知り合いの方への電話連絡は、今後難しいと考えてください。

 ご存じと思いますが、日本国内には米国の通信傍受施設があります。

 日本国内の一般通信は、諸外国から監視されているものとお考え下さい。

 こちらは軍事回線を用いた通信機器になり、通話にも特別なスクランブルが掛かっており、諸外国に対して情報漏洩の可能性が低くなります」


 なんか、すごく大げさな話に聞こえるが、そんな物が本当に必要なのかな?


「それと、ご自分のパソコンからインターネットをご使用される場合、このスマートフォンのWifiテザリングで接続してご使用ください。

 今後は、決して一般の通信回線を用いたネット利用は控えてください。


 異星人や異次元人と言った異世界人は、各国ものすごく敏感な存在なのです。

 ですので、日本政府としては、直接関与はせずに、加納様を緩衝帯として保護させていただきたいと考えております。


 特に数が少ない異次元人の方の情報が、もし漏洩したとすると、各国からかなり危ない接触が予想されます。

 高い可能性として拉致される可能性が考えられます」


 いろいろ言われるが、俺にはまだそんな実感がない。


「ここからは、ご相談というより、加納様へのお願いですが、現在持たれている国籍をはじめ、様々な存在履歴の削除をさせていただきます。

 会社も退職いただき、また現在の住居も退去いただくことになります。

 そして、それらの存在履歴をすべて抹消させていただきます。


 簡単に言えば、加納様の存在を生まれた時から抹消することになります。

 それを行わないと、異次元人の身元引受人となられる加納さんの周囲の方の安全が保障できなくなってしまいます。

 先ほど申しましたが、国家レベルで各国が動き出すことになります。

 すでに後戻りはできません。


 日本国政府としては、これ以上直接的に関与は控える事になりますので、今後は私が個人として加納様たちのサポートを考えております。

 加納様と同じく私も日本国籍を離脱して、皆様と立場を同じくして対応させていただくつもりです。

 国籍が無い状態のこの方たちを、今後どのように安全に保護されるのか加納様に何か方針はございますか?」


 痛いところを突かれた。

 どうやら、世の中に認知されて良い方向に動き出しましたね。


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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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