3-01-04 心霊手術
マリアの体内に石が見つかり、慎二はそれを治すことに頭を巡らせています。
俺は、体内の異物を取り除くのにストレージへの収容と言う荒業を使ってみる事にした。
やったことが無いことをいきなり人体に使う事はかなり危険な行為であるが、ここには検査機器があり、秘密の場所である。
この機会を逃すと、多分このような作業を行うことはもう2度とないように思われるし、マリアの体を考えると悠長なことは言ってられない。
しかし、体の中で石を動かし、どこかを傷付けたりするとそれこそ致命傷になる。
また、組織と一体化していたり、内壁に癒着していた場合、接続部が開れると大量出血の原因となる。
画像を診断して頂いた検査技師の方に話が聞きたいと、俺は扉の外で待つ宮守さんに伝えた。
そして、来ていただいた検査技師の方を交えていくつか質問をした。
「お呼びだてしてすみません。
あの、この黒い部分なのですが、技師さんは画像からどのような物と想像されていますか?」
「今まで、このような箇所にこのような物を見たことはありませんので、何とも言えませんが、何か石のようなものでしょうか?
腎臓結石や胆石など、体内に石ができやすい体質の方はいますが、子宮内部にこの大きさの石は私は見たことがありません。
小さい物であれば、極まれにはあるのですが、この大きさはかなり大きいのです」
「これは、体にくっついているのですか?」
「いえ、複数の画像を見ていますが、細胞壁への癒着は無いと考えています。
ただし、既に臓器の大きさを超えていますので、内側から石が臓器を押しており、細胞壁が薄くなっている箇所が見受けられます。
そのため、外科手術されるのであっても、取り出すためには他の臓器等への損傷も考えられるので、多分すべてを摘出する事になるのではないかと考えます」
「あの、こちらの検査装置についてお聞きしたいのですが、私は医師ではないので変な質問かもしれませんが教えてください。
マリアの体の中をですね、静止した写真ではなくて、動画みたいに俺が見ることはできますか?」
「そうですね。
エコーであればこんな画像はみることはできますよ」
エコーは超音波を使った、レーダーみたいなもので、お腹にいる赤ちゃんを見たりする装置だ。
でも、画像としてはそれほどきれいなものではない。
かといって、CTやMRIでは検査台のドーナッツの中に体が入ってしまうので、俺が体を見ることが出来ない。
今俺が考えていることは、マリアの体の中を動画で見ながら、正確に悪い患部のみを抽出し、ストレージに収容することだ。
でも、そんなことを技師さんに伝えてもしょうがない。
「そうですね... 胃のX線装置を使えば、ここの装置でもX線TV画像が見られますが、見たい部位は造影剤が使えそうにない箇所だしなぁ……
まてよ、この石はCTのX線を遮っていると言う事は、石が中に入っている事が確認できれば良いのであれば、造影剤を使わなくとも胃のX線で映るかな?
あ、さっき、胃のレントゲンを撮る検査の時にバリウムって飲んでもらったよね。
まあ、あれは金属の一種なんだが、酸やアルカリに対しても安定なので、胃液でも解かされないし、X線が透過しにくいんだ。
だから飲んだ後、ぐるぐる体を回転すると、バリウムが食道や胃の壁に付着して、内臓の内側の壁がX線に影を作って、画面に白く映るんだよ。
だから造影剤って呼ばれているのだけれど、もしマリアさんの体内の石?がX線を通しにくいようであれば影は映るので位置の特定できるね。
でも、臓器は見えないと思いますよ」
ちなみに、昔はX線を体に照射して、透過したX線でレントゲンフィルムを感光させるが、体を通過するときの減衰量でフィルムに濃淡を出していた。
現代のX線TV画像では、X線が照たると光が出るシンチレータという物を利用し、透過したX線の強弱を光に換え、それをCCDなどで感知して、デジタル画像になっている。
蛍光塗料に光を当てて、光った塗料をカメラで写すようなものだ。
「あの、お昼を食べちゃったんですが、検査ってできますか?」
「検査は胃じゃないから大丈夫だよ」
「では、今から見せてもらう事ができませんか?」
「午後は、検査は無いから今は空いていますが、宮守課長、装置使用許可をいただけますか?」
あ、宮守さんって、若いのに中間管理職の課長さんだったんだ。
俺は、ふと自分の会社の課長の事を思い出してしまった。
今ごろ、会社は何やってんだかな?
他人事どころではなく、俺は本当に大変な事に巻き込まれているのだけどね。
「本当は、X線被爆量を考えると、普通は女性のこの部位へのX線の照射は勧めませんが、緊急である今の状況では使ってもいいです」
「課長、ありがとうございます。
加納さん何を行いたいのかは分かりませんが、ではもう一度検査フロアに行きましょう」
検査技師の方も、俺が何をするのかちょっと興味があるようで、かなり積極的に話を聞いてもらっている。
「宮守さん、技師さん、これから起こることは極力内密でお願いします。
報告は必要かもしれませんが、他への公開は控えてください。
それと宮守さん、今からマリアの体内に見える石を少し動かしてみます。
万が一、彼女の病気の進行に影響が有りますといけませんので、すみませんが緊急対応できる病院をどこか確認できませんか?」
「何をするのかは知らないが、ここには検査設備しかないので、ここでマリアさんに外科的な処置はできないわよ。
君の話は、ERみたいな緊急手術ができる病院を想定しているのかな?」
「そうですね。
できれば、ここから近いERがある病院の確認をお願いします」
「うーん。
あそこは異次元の方を見てくれるかな?」
「課長、調べた限り、マリアさんはこの世界の人間の方と変わらないですよ」
「わかったわ。 とりあえず確認はしておきますが、極力変なことはしないようにね」
検査室に入った俺たち4人は、マリアに胃X線の検査台に寝転んでもらった。
捜査室のモニタを見ると、確かに石の影が見える。
俺は念のためにX線を避けるエプロンと鉛ガラスのフェースマスクをして、検査台にいるマリアへ向かう。
「すみませんが、画像に変化が無いか少し見ていてください」
技師さんに声をかけ、俺はマリアの手を握り、エターナルをマリアの体内に流し込む。
「おっ! 何をしたんだ! 石の周りの臓器まで黒くなっているぞ!」
今、マリアのお腹の内側で、石の出す光が皮膚を透かして見えている。
体内で、かなり強く光っているようだ。
エターナルが流れ込むことで、周りの臓器にもX線は遮断されているようで、反転した映像は逆に暗く見えるようだ。
「すみませんが、俺もその画像ってみれませんか?」
「うーん、そちらの検査台にはモニターはついていないからな」
マリアからスレイト通信で、
『誰かメンバーにあちらでモニタを見ていてもらえば、慎二も見えるのじゃない?』
そうか! その手があるか!
『サリーとイザベラ。 下の胃X線検査室って部屋にすぐにきてくれ!」
『『わかったわ』』
すぐに、検査室の扉がノックされた。
「すみませんが、今サリー達が来ましたので、そちらに入ってもらってください」
宮守さんは首をかしげながら、どうしてここに来たのかわからないようであるが、二人を部屋に入れてくれた。
『今、マリアの体の中がそちらの部屋の画面に映されているので、その画面をスレイト通信で俺に見せてくれ。
ここからはスレイト通信での会話にしてくれ』
目が良いサリーの方が見やすいようで、それを自分の視界で認識する。
『マリア、多少魔法は使えるか?』
『はい、里よりは弱いですが、慎二からエターナルは流れてきています』
『マリアも、スレイト通信で自分の体内は見えているよな。
それでは石をほんの少し、前後左右上下に少し振動させるような感じで、動かせるかを試してみてくれ。
体を傷つけないように、ゆっくりとだよ』
『はい、うっ!』
「おい! 加納君! 何をしている! 石が動いたぞ!」
『マリア、大丈夫か?』
『あ、すみません。
初めて体の中で石を動かしたので、ちょっと驚いただけです。 特に痛みはありません』
「技師さん、石を少し動かしますので、どこかで癒着していないかをモニターで確認ください」
「加納君。 もし体を回せるようであれば、検査台の上で少しずつ回ってもらえないかな?
そうすれば、全周の確認が出来る」
『マリア、少し体の角度を変えては石を少し揺さぶってくれ』
『わかりました』
俺は、マリアの回転を補助し、45度くらい回転させては技師さんに確認を行った。
一周廻って、石を振動させると、石と周囲に少し空間が出来る事が確認できた。
全周で空間が見られたので、石と子宮の癒着部分は無いものと考えられる。
単に石が大きくなって、子宮壁を押していたようだ。
ここで、イザベラからうつ伏せの状態の時、骨と石の上に空間が一番開くと言ってきた。
また、その状態の時が周囲の臓器への圧迫が一番小さいとの事。
さすが、上級工員。 体の内部は知らなくとも、俺がやりたいことはきちんと理解してくれたようだ。
『そうです! その角度で体を固定してください』
サリーも、エプロンとフェースマスクをして中に入って来てくれた。
まあ、本来作業中のX線室は立ち入り禁止だが、緊急だしね。
そして二人で、マリアの体を固定する。
『慎二、石にフォーカスして中心一部を小さくストレージに取り込んでください』
『了解。 入れた』
『アーさん、今の検体をストレージ収納のターゲットとして設定してください』
『了解でーす!
セット完了です!』
『慎二、ターゲット周辺の細胞にをひっかけないように、ターゲットのみを慎重にストレージに収納してください』
『収納!』
「おぉ! 石が消えたぞ!」
操作室から驚きの声が聞こえてくる。
「すみません、周囲の組織に影響が出ていないかそちらで解りませんか?」
『マリア、痛みは無いか?』
『ん、大丈夫。 なんかお腹がすっきりしたわ』
『そうだね。 10年以上溜まっていたものが出たからね!』
『ばか!』
「技師さん、この後、もう一度断層診断とエコーで体内を確認していただけませんか?」
「何をしたんだ? それで石はどこに行ったのか?」
「では、石を出しますので、何か皿みたいのを貸してください」
「これを使ってくれ」
手近にあった消毒薬品が入っていたステンレスのバットを渡してくれた。
俺はさっと後ろ向きになり、スレイトから取り出した石をバットに入れて観察した。
特に石に血はついていないようで、出血はなさそうだ。
「すみませんが、これの成分分析ってできますか?」
「え、あっ、わかった。 これが入っていたのか? 大きいな...」
宮守さんから技師さんに声がかかり、
「守秘義務だからね。 これ以上、詳しくは彼には聞かないようにね!」
「あ、わかりました。
あの、ストレッチャーを持ってきますか? それともエコー検査室まで歩けますか?」
「あ、大丈夫そうです。 自分で歩いていきます」
技師さんは電話で部下を呼び、石の分析を手配し、エコーを行っている間にCT装置とMRI装置の部屋にウォーミングアップを行う指示をしている。
マリアは一人で行けると言ったが、サリーとイザベラが肩を貸し技師と一緒にエコー検査に向かった。
マリアは出産後の妊婦さんのようなちょっと気怠いオーラを発し、ちょっと上気した艶っぽい表情をしていた。
残された俺は、宮守さん、あ、珠江さんに説明できる範囲で話をすることになった。
まあ、スレイト通信で無言ではあったが、2人の目の前で心霊手術? をやってしまったので、言い訳は必要であろう。
さあ、どうするか考えよう!
うーん。 困ったな。
「慎二さん、 先ほどのって、あれですか? 白神様の黒妖と同じ力なのですか?」
迷っている俺に、いきなり彼女の方から正解を言い当ててきた。
「えっ、えっ! どうしてわかったのですか!」
「いえ、私どもの神社に残る記録の中には、昔、痛む腹の中から石を取り出したと言う伝説もあります。
なんかそれを思い出していたのよ。
まあ、今の時代に心霊手術が出来るのだったら、確かに 『びっくり人間大集合』 にでも出演できるわね」
心霊手術とは、呪術のようにメスなどを使わずに、患部を体内から取り出す魔術のような手術の事だ。
「はぁ……」 俺は少し力が抜けてしまったように返事をした。
ちなみに装置検査が終わったマリアは、女医さんの内診でも異常がないことが確認された。
黒い影は完全の除去されたようで、またどこも後遺症は残っていないとのことは幸運であった。
しかし、彼女たちに出張所で見つかったのは、本当に偶然だったのだろうか?
何か1つでも歯車がずれていたら、出会えない奇跡であると思われた。
まあ、いずれにせよ、思わぬところで、大問題の一つが片付いてしまった。
マリアさんの非開腹手術は無事に終わり治ったようです。 良かったです。




