2-03-01 マリアの魔法
キャンプ場での一夜、慎二も女性用に建てた大きなテントに泊まることになりました。
せっかく自分用のテントを建てたのだが、結局夕食後にそれを撤去することとなってしまった。
そして俺達4人は、大きいテントの中、4つの寝袋で朝を迎えようとしていた。
俺は、夜明け前に起きて畑を調べたかったので、あえて個別のテントにしたのだが、別のテントで寝ることは許してもらえなかった。
そろそろ、あさぼらけの時間だ。
あさぼらけは、太陽が昇ってくる前の時間に、周りがうす暗くなってくる時間帯の事だ。
この状態は、照度計は0ルクスであり、太陽から直接光は届いていない事を示しているが、 U V 計が先にふれだす。
弱い紫外線のみが地上に降り注ぐ、ちょっと面白い時間帯だ。
地球の水平線より下にある太陽光線から、紫外線のみが届けられる時間のようだ。
子供の頃、ここにあった小屋で泊まった時、このあさぼらけ前後の時間に畑が光る現象を見た。
それが、薬草が発する光だったと、あとで婆さんに教えられたので、薬草がこの雑草の中にないか見つけるために早起きをした。
貴薬草の発光現象は、紫外線と関係があるのかもしれない。
しかし、残念ながら、太陽が昇るまで待ったが、そのような光を見つけることはできなかった。
俺は、今からもう一度寝るのもどうかと思い、一人外のテーブルで熱いコーヒーを淹れる準備をしていた。
そう、マンションでもコーヒーは淹れてきてストレージに入っている。
しかし、豆にお湯を注いで、豆が膨らみ、香り立つのが好きなのだ。
お湯は、マンションにて沸騰したやかん事をそのままストレージに突っ込んできたので、やかん1個分の熱湯はある。
まあ、熱湯が無くなっても、淹れたてコーヒーはあるのだけど。 ちょっとした俺のこだわりかな。
ペーパーフィルターの端を折り畳み、ドリッパーにセットし、挽いてあるコーヒーを計量スプーンで入れる。
そこで、後ろに気配を感じて振りかえると、俺の後ろにマリアが立っており、俺の作業を見つめていた。
「あ、おはよう。
起こしちゃったかな?」
「いえ、明るくなってきたので... 国ではそろそろ起きる時間でした」
「よろしければ、わたくしにもそのコーヒーを、一緒にいただけませんか?」
「ちょうど豆を入れているときでよかったよ」
そう言うと、マリアはくすっと笑う。
どうやら、少し前から俺が豆を入れるタイミングを、後ろで待っていたようだ。
あとは、追加で誰もいないことを確認し、お湯を入れ始める。
周りに、コーヒーアロマが広がり、朝の野山の中で贅沢感がある。
カップには、あらかじめ少しお湯を入れ、温めておく。
フィルターに入れた、豆の中心にお湯を少し注ぐ。
少し待ち、豆が膨らんでくると、あとは挽いた豆の壁を崩さないように、優しく少しずつお湯を足し始める。
豆の上に浮いてくる小さな泡の色が白っぽくなったら、ドリッパーを素早く取り除く。
これ以上お湯を入れると、せっかく美味しく入ったコーヒーに雑味が漏れ出てしまう。
2つのカップのお湯を捨てて、カップにコーヒーを注ぎ、マリアには砂糖とミルクとスプーンを出してあげる。
するとマリアは、
「わたくしも慎二と同じ味を味わいたいわ」
と、俺と同じくブラックで飲むようだ。
一口飲むと、やはりちょっと苦かったようで、ここで砂糖を入れるのかと思ったら、
「すみません、この間みたいに慎二さんの味覚を教えてください」
と言いだした。
あ、コーラのいたずらの時だな。
俺は自分の味覚をマリアに伝える設定をして、自分のコーヒーを一口飲む。
「あ、おいしい。 良い香り。
ありがとうございます。 今度は自分の味覚で飲んでみます」
俺は、マリアへの味覚を遮断した。
マリアはカップの香りをかぐと、軽く一口、それをゆっくりと舌の上を流し、その後鼻腔にコーヒーの香りがたくさん届くように息を吐いた。
俺は、自分では気が付かなかったけれど、そうやってコーヒーを飲んでいたようだ。
「あぁ、美味しいですわ。
苦みはほとんど感じず、お砂糖を入れていないのに、ほんのり甘さすら感じます。
慎二さんはいつもこうやって飲んでいたのですね!
お砂糖やミルクを入れないと、すっきりしてコクがあり、なんといっても香りが一番ですわ。
コーヒーというものは、味よりも、香りを楽しむ飲み物だったのですね。
これは、本当に大人の飲み物ですわね」
「ああ、朝はそれがないと目覚めないという人もいるくらいだからね」
コーヒーを飲んでいると、マリアが何かそわそわしている。
コーヒーが飲みたくて、起きてきたのではなさそうだ。
何か俺に話したいことでもあるのかな?
「どうかしたの?」
「実は、昨日ここに来てから少しですがエターナルを感じるようになってきました。
というより、最初バスの中で慎二さんの隣に座って、手をつないでいただいたとき、それが最初です」」
「あ、嫌だったのかな?」
「いいえ、とてもうれしかったのです。
あまりにも嬉しかったので、その時は自分が興奮したからかと思っていたのですが、今は手をつないでいないのですが、この里に来てからすこし感じるように思えます。
わたくしの国にいた時と比べると、僅かではありますが、確かにこれはエターナルの感じです。
この里って、何か特別な場所なのでしょうか?」
「そうだな。
確かにこの里の次元は少し異なるようだし、薬草ができる場所でもあるので、ひょっとするとこの次元では少し異なるのかもしれないな」
「すみません。
わたくし、少し試したいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「なんだかわからないけど、いいよ」
そう答えると、マリアはテーブルの上にある俺の手をそっと握ってきた。
そして、顔をぱっと挙げ、
「はぁん!」
いきなり、色っぽい声を上げた。
上を向いたまま、手を握りつづけ、なんか様子がおかしい。
「大丈夫か?」
そう言って俺は手を放そうとしたが、かえってぎゅっと強く握られてしまった。
しばらくして、手を放してくれたが、マリアは少し息が荒い。
「すみませんでした。
ちょっと強く感じてしまいまして、 あ、エターナルをです。
バスの中は大したことなかったのですが、今は かなり強く感じました。
わたくしの国にいた時よりも強いかもしれません」
マリアの話だと、魔法はエターナルの流れから生み出されるマナの力を使うそうだ。
普通魔法使いは、エターナルの流れから生み出されたマナを体内に蓄えて魔法を使うそうだが、マリアは病気でマナが蓄えにくいらしい。
エターナルはこの宇宙を満たした水みたいなものであり、そのエターナルの流れがマナを生み出す力らしい。
この前聞いたことを、勝手にこの世界の自分の知識で理解すると、
この世界は電気を流す導体であり、エターナルと言う電流が空間を流れており、魔法使いはそれをマナ溜まりと言う体内の電池に溜めている。
魔法を使用する際は、溜めたマナからエターナルと言う電流を取り出して魔法のフォース、電気で言うエネルギーにして利用する。
これが俺が、マリアから聞いて勝手に現代の電気の世界に当てはめた魔法理論だ。
多分、イザベラのマナクリスタルと摩導具も同じ関係だと想像している。
効果を出すのに人体で行うか、道具を使うかは大きく違うが。
先ほど接触で、少しマナが溜まったらしいので、今魔法を試してみてもよいかと問われる。
この里であれば、誰の目にも触れないので、ちょうど良さそうだ。
彼女は最初上を向き目を閉じ、両手を水平に開いた状態で立ち上がる。
次に目を開け、水平に開いた手は前に動かし、肩幅で並行した状態まで閉じる
しばらくその姿勢でいると、両手の間に小さな埃のような物が集まり出して、それが小さな輝きを発しだした。
マリアは手を降ろすが、その輝きは空中にしばらく残っており、やがて消えていった。
マリアたちがこの世界に転移してきた時ほどは強くないが、あの時の光に近いように感じる。
「これがわたくしの魔法です。
これは光の魔法です。
やっぱりこの感じはエターナルでしたわ!」
上気したマリアは、腕の白い肌までが赤みがかってていた。
「わたくしは、あまりマナを集めてしまうと病気が進んでしまうので、これ位にしておきます」
俺は、はっ!としてマリアを見た。
そうだった、彼女は魔法使いだけれど、それが病気を進行させているようであった。
「大丈夫か?
全部出してしまったか?
それと、早く里を出るかい?」
「いえ、大丈夫です。
慎二はなぜかエターナルを集めやすいようです。
この里の中で慎二と継ながっていると、わが国にいた時よりもエターナルは多く感じます。 直接継ながっていなければ問題はありませんわ。
あと、まだわたくしの中にマナが少し残っていますので、サリーとイザベラが起きたら魔法を見せてあげたいと思っていますわ」
「もし、体に負担が出るようであれば、すぐに俺に話してくれ」
「わかりましたわ」
正直なところ、話してもらっても、何をしてあげればよいか全くわからない。
マリアも魔法がこの世界でも実在し、それを俺に見せることができて安心したらしい。
でも、なるべく早めに里を出たほうが良いのかもしれない。
マリアには、これからこの里のエターナルについて、何かわからないか調査をお願いした。
俺とは接触しないで、だけどね。
この里は何か他の場所と違うようですね。
エターナルの流れは、マリアさんの体に悪影響が出なければよいのですが?
ちょっと心配です。




