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2-01-04 温泉宿の夜

 役場の原田課長に出迎えられた慎二は、課長からすこしお願いをされてしまいます。



 出張所の課長との話もほぼ終わると、俺達4人は課長さんの車で温泉まで送ってもらった。

 今日のうちに、神社の話も済ませておきたいと思ったのだが、神社も事前に準備が必要らしく、下山が急に早まってしまったので、明日来てほしいらしい。

 俺たちを送ると、課長は帰宅するのではなく、再び出張所へ戻っていった。 忙しかった様で、申し訳けない。


 今夜の晩飯は、温泉でいただくことになっている。

 俺たちは、旅館に到着すると、最初に明日朝の移動の手配をお願いしておくことにした。

 朝早いので、今のうちに朝のタクシーを予約しておこうと考えていた。


 しかし、タクシーは町から来てもらう事になるので、朝早い時間だと、この山の中にまで来てもらうのは難しいらしい。

 そして、旅館の車で村まで送迎いただけるとのこととなった。


 朝6時に婆さんの家の前で待ち合わせなので、かなり朝早い時間出発となり、とても申し訳けない。

 でも、その時間の出発でないと、同行者は山に慣れていない人達なので、昼までに里につくには、早朝に出てもぎりぎりの時間だと考えている。



 夕食前に、先に例の温泉に皆で向かう。 そう課長が言っていた子宝の湯である。


 男湯と女湯が分かれていて、青と赤の暖簾(のれん)で入り口が区別されていることを説明し、彼女たちとは入り口で別れる。

 平日でもあり、この温泉宿はそれほど大きくないので、この時間の風呂は貸切状態であった。


 湯舟に浸かっていると、隣の女風呂が賑やかな声が聞こえてきた。

 俺がいなくて、互いに言葉が通じなくとも、3人の仲は悪くないようなので、ちょっと安心だ。


 この温泉が、ホルミシス効果というものがある温泉水なのか。

 ピリピリした感じもするが、気のせいかな?



 風呂に来る前に、部屋には鍵をかけてきたので、風呂から出た後は、皆でロビーで待ち合わせることにした。

 女性陣が戻ってくるには、しばらくかかると思っている。


 宿のロビーには、ちょっと古い地球儀の置物がおいてあった。

 時間つぶしに、その地球儀を回しながらぼんやりと地図を眺めていたら、最初に温泉を出てきたイザベラがぽつりとつぶやいた。


「それって、地図よね? 変わった地図ね。 でも、この世界は陸地が少ないのね」


「えっ? イザベラの世界も丸い星なの?」

 まずそこからだ。


「そうね、なんか陸地の形がぜんぜん違うし、そもそも もっと陸地が多かったわね。

 地図って国の機密情報だったのですが、私は遺跡を探る旅をしたから、その時に自分の住んでいる世界の地図を学んだわ。

 北の遺跡って、丸い星の一番北側にあったのよ」


 イザベラの世界では、摩導具を使って、かなり正確な測量が行われて、精密な地図が作られていたとのこと。

 そして、この地球とは陸地の形がかなり違うそうだ。


「サリーの世界はどうだった?」


 ちょうど風呂から戻ってきたサリーにも聞いてみる。


「サリーの世界には、これほど精密な地図はないけど、商会組合は独自に地図を作成していました。

 組合員には地理情報を共有する事を義務づけていたので、海を越えた範囲まで広い範囲の地図がありましたよ。

 でも、私たちが普通に使う地図はもう少し大ざっぱで、このように丸い形の地図じゃなかったけど...

 私の世界の地図を丸くすると、この地球儀? と、似ていると思うよ」


 俺は紙と鉛筆をサリーに渡して彼女の世界の概略地図を書いてもらう。

 サリーには似ていると言われたが、なんか現代の地図の書き方自体が異なり、俺にはとても同じには見えない。


「うーん」といって唸っていると、サリーは地球儀を指さし、


「私の国は、たぶんこの辺だと思うの」


 そう言われて、そこをよく見たがよくわからない。



「そうね、 この丸い地図だときっとそこね」


 最後に来たマリアは、サリーの手書き地図と地球義を見比べて、さらにわからない事を言う。


「慎二の国のこの地図とは、書き方が違うのよ。

 サリーの国を中心にして回して見て」


 サリーの地図は自分の国が世界の中心であり、遠く離れた場所は無視されているようだ。

 さらに、サリーの書いた地図は山脈を上に配置して書かれていたが、サリーが指さした地球儀の場所には南南東に山脈が斜めに走っている。

 また中心から距離が離れると、方角も怪しいようだ。

 まあ、異なる世界を比較しても意味無いか。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 楽しみであった、温泉旅館の夕食は和食だった。

 しまった。 和風旅館に泊まって、箸の問題を忘れてた。

 箸が使えないのでナイフとフォークを出してもらう。


 日本で箸が使えないと生活するのに問題があるな。

 既に、マンションでも練習は始めているが、人前でも箸で食べられるように、もう少し箸使いを教えよう。


「はい、ちょっとこっちを見て!」


 すでにナイフとフォークで食事を始めている娘達は振り向く。

 俺は箸を持ってみせる。

 それに、さすがに山の中の温泉なので、お刺身はほんの飾り程度であったが、刺身をいただくのは金属の食器ではなく、やはり木製のお箸でしょ。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 さっきの風呂場でも思ったが、俺がいないくて、3人となった時に、互いの言葉が通じないのは厳しい。

 また、外に出かけた時に、俺とはぐれてしまったりすると、言葉が通じず大変なことになる。

 場合によっては、素性がばれてしまう危険性もある。


 今夜は温泉旅館での宿泊で、夜の時間もまだまだ長い。

 アーも交えて皆で話し合えば、なにかしらの方法があるかもしれない。


 今、俺とアーはスレイトを介在した通信で、言葉に頼らずイメージを送りあって会話している。

 これはスレイト通信というらしい。


 そして、スレイトのマスターである俺が聞いた言葉は、俺の脳内に組み込まれた翻訳機能で3人それぞれの言葉に変換され、そしてスレイト通信で彼女たちに送られている。


 でも、そういえば俺が読んでいなくとも、サリーは一人で日本語の文字が読めていたな?

 ということは、サリーが目で見た文字が、スレイト通信で俺の脳に送られて、翻訳機能で文字として理解された後、そのイメージがサリーに返されていると考えて良いのかな?

 なぜ、会話の場合だと、俺が聞かないと、翻訳ができないのかなぁ?


 アーに聞くと、サリーが話す言葉が知りたいと、最初に俺が言った為、俺に音声翻訳が実装されたとのこと。


 文字の理解は、音声よりも後で実装され、その時はスレイト通信により情報を共有していたので、別の機能を実装したようだ。

 なので、サリーの情報を共有して、翻訳して戻していると、俺の考えで合っていた。


 また、アーの情報では、マスターには仕事を補佐するメンバーという考えがあるとのこと。

 これは、俺のスレイトにメンバーとして登録すると、マスターが使えるスレイト通信や翻訳などの機能がメンバーも利用できるらしい。

 登録すると、俺ではなく、メンバーに機能が実装されるので、例え俺とは切り離されてもメンバーだけで翻訳機能などが使えるとの事である。


 あ、すると俺の頭の中では、今日本語を3か国語に同時翻訳していたのか。

 翻訳する言語数が増えるたびに、俺の脳みそでの処理が増えると言うことは、知らないうちに脳みそが疲弊してくると言うことか...


 しかし、メンバー登録すると、メンバー側に翻訳機能がインストールされるので、俺の脳での処理は無くなる。

 これは、ぜひメンバー登録をお願いしよう。


 アーによると、メンバー登録すると、さらに多くの機能がメンバーも利用できるらしい。

 例えば、アーは俺が他の人にも姿を見せても良いと指示しているが、メンバーになると俺の指示がなくとも見える。

 いや、それ以上に、マスターと同様にアーを利用することすら、出来るようになる。


 当然、マスター権限がなければできない操作もあるが、マスターでなくとも できることはたくさんある。


 メンバーになると、注意点というか、更に大きな機能というか、利点であり、縛りとも成りうる事が有るらしい。

 メンバー登録をすると、マスターの設定により、メンバーと感覚を共有することになるらしい。

 これは共感覚と呼ばれ、メンバーの受ける五感がマスターに伝達されるとの事。


 また、逆にマスターが受ける情報をメンバーに共有させることも可能との事である。

 大事なこととして、これはあくまで五感を共有するものであって、メンバーの記憶や思考を共有するものではないらしい。


 人間は、体の五感センサーが感じた情報を、神経を経由して、信号として脳に送られ処理されている。

 共感覚では、その信号を脳の手前で拾いあげ、それをスレイト通信でマスターに送るのだ。

 五感とは視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚であり、人体のセンサーは常にそれらの信号を脳に送っている。

 その脳に送られる信号を手前でキャプチャするようで、他人の脳の中をスキャンするものではないらしい。


 メンバーに対する権限は、すべてマスター側にあるということで、マスターには共感覚の遮断も可能であるとのこと。

 マスターはメンバーの体が受ける感覚情報を知ることができる事になる。

 当然他人の大量の情報が入ってくれば、それは大変なことになる。

 そこで、共有する強さは自由に調整できるので、普段は弱めにしておくことが推奨されているとのこと。


 メンバーは共感覚により、マスターとは常に以心伝心状態であり、メンバーのプライバシーは無いに等しい。

 メンバーになると言うことは、マスターと一心同体、手足のごとく分身のような存在になる覚悟が必要である。


 よほどの信頼関係がないと、メンバーに加えることはできない。

 すごく便利な機能だからと言って、やはりホイホイと使ってはいけないのだろう。


 パラセルの試練を受けて選ばれたマスターとは異なり、メンバーはマスター自身が選ぶ。

 メンバーとなるには、互いに信頼があり、すべてを包み隠さずに付き合える関係の人物を探し出す事が必要なのだ。


 アーと俺と3人娘とは、一緒にこの話をしている。

 こんなプライバシーを無視したようなメンバーに登録してもいいのだろうか? と俺は考えている。


 しかし、皆に異存は全く無いようで、すぐに登録してほしいとさえ言っている。


 本当に良いのだろうか? 俺はまだ悩んでいる。


 だって、マスターがその気になれば、メンバーの私生活のすべてを知り得る事になる。

 更に、その気になれば……


 メンバーとなり共感覚を持つということは、裸のつきあいができない相手とのメンバー登録は難しい。

 あっ、そういうことか。


 それが判ったうえでも、皆は問題ないと言う。


 まあ、俺が遮断すれば、共有機能を切ることはできるようなので、現在の俺たちの関係や、この国での生活を考えるとメンバーである利点が非常に大きい。

 一つ屋根の下、互いに離れることもできずに暮らしている俺達4人は、すでにメンバーみたいな関係であるしな。


 うん、この娘達が、安全にこの世界で生きていく為には、今後ずっと必要になる。

 俺は、彼女たちをスレイトメンバーに加えることにした。


 スレイトって、どれほどの機能があるのでしょうか?

 慎二くんと三人娘はこれで一心同体ですね。

 でも、お嫁さんにするなら、一人に選ばないといけないし……

 さて、どの子にするのでしょうね?



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この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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