2-01-05 スレイトメンバー
慎二は悩んだすえ、サリー、マリア、イザベラの三人をスレイトのメンバーとして登録することにしました。
それは、今後彼女たちのプライバシーが失われることを意味します。
俺は、三人をスレイトのメンバーとして登録することにした。
「アー、この子達から了承が得られれば、3人とも俺のスレイトメンバーに加えてくれ」
『了解しました。
サリーはメンバー登録を希望しますか?
サリーをメンバー登録します。
サリーのメンバー登録が完了しました。
マリアはメンバー登録を希望しますか?
マリアをメンバー登録します。
マリアのメンバー登録が完了しました。
イザベラはメンバー登録を希望しますか?
イザベラをメンバー登録します。
イザベラのメンバー登録が完了しました』
登録の了承部分は、アーと彼女たち一対一にスレイト通信で行われたようで、俺には三人の返事の内容は聞こえてこなかった。
回答部分はきちんとマスクされているようだ。
そしてメンバー登録が完了すると、俺にはいくつかのイメージがうっすらとした見えてきた。
『初期状態の共感覚では、メンバーからマスターへの共有レベルは低く抑えられています。
あと、マスターからメンバーへの共有レベルは、遮断となっています。
既に共有を開始していますので、現在は登録した3人のメンバーの感覚が緩くマスターに伝わっているはずです。
見たいイメージがあれば、それを見たり、聞こうととすると、その共有レベルが上がります。
また、それを相手にも送るようにイメージすれば、他のメンバーとの共有のレベルが上がります』
そう言われて、マリアのイメージを強く見ると、おっさん、いや俺の顔が見えていた。
ああ、マリアは今俺を見ているのか。
今度は、そのマリアが見ているイメージを全員に共有した。
自分の目に見えるているもの以外が、いきなり増えたので、マリア以外はぎょっとする。
共有というのは、自分が目で見ている物が切り替わる訳ではなく、自分が見ている物と、もう一つ同時に映像が見えるということだ。
例えるならば、右目と左目で異なる画像を見るように……
左右の目は、独立して動いているので、人間は本来2つの画像を見ているのだが、脳で1つの画像に合成されている。
もし目が3つあれば、こうなるのかな。
今度は共有する画像を、マリアの目から俺の目というように、全員の視界を順番に切り替えてみた。
見えている他人の視野は、あくまで他人が見た画像であり、自分で視線や焦点を調整することはできないので、視野が捻じ曲げられるような感覚を覚え、軽く酔ったように感じる。
俺には、他人の中を覗き見るような罪悪感があり、慣れるまではすこし恥ずかしさを伴う。
同時に多くの情報を処理していたと言われる聖徳太子様のような事を真似していては、俺のかわいい脳では、やがてパンクするかもしれないな。
しかし、アーによると、3人程度の負荷であれば、慣れていない俺でも|なんとか≪・・・・≫大丈夫だといわれた。 俺でも……
大きなお世話だ。
いずれにしても、複数の異なる情報を同時に捌くには、慣れが大事とのことで、常に使うことで慣れてね!と言われた。
慣れることで、脳への負荷は徐々に下がるとの事である。
俺は共感覚を遮断してしまうのではなく、互いに弱い状態で常に共有しておくことにした。
これであれば、喫茶店の隣の席や後ろの席で、誰かがおしゃべりしているような感じだ。
周囲の人の話は常に聞こえているはずなのに、自分が特に気にしなければ聞こえない。 いや聞こえてはいるが、認識をしない。
気になる会話があり、それに聞き耳を立てると、ちゃんと聞くことができる。
そう、人間の脳では、普段からフィルタ機能が働いているのだ。
もし彼女たちに、何か強いストレスが発生した場合、そのイベントにより注意がそこに向き、互いに情報も交換できるので、メンバーの安全性が高くなる。
あと、翻訳機能も忘れずにメンバーにインストールしてもらう事にした。
共感覚は五感を共有と言っていたが、実際には脳に出入りする神経信号を直接監視するために、五感以外の神経を流れる信号も交換している。
どのような信号が伝わるかは、これからわかるのではないかと思う。
あと、人間の体には、脳内で作られたイメージを直接出力できる器官がない。
もし脳のイメージ信号が体から直接出力できると、自分の組織細胞の色や形を変化させて、カメレオンや魚などのように、体表で模様や、色など、何かを表現できるかもしれない。
脳で何かを強くイメージした場合、脳から神経に流れ出しても、人間は出力先の器官がないため、その情報は単に捨てられている。
例えば、目を塞いで頭の中でリンゴのイメージをする。
その強いイメージは脳から神経にも出力されているが、それだけである。
共感覚では脳が出力するイメージ信号を神経から取り出し、捨てられる前にそれをメンバーと共有できる。
これにより、言葉を用いなくとも、イメージによる直接会話が可能となる。
そう、これがスレイト通信の実態だ。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
メンバー登録している人間とは五感を共有できるというので、俺達はそれも試してみることにした。
まずストレージからコーラを取り出す。
マリアはコーラを見ると、ちょっと不思議そうに首をかしげる。
まだ彼女が一度も飲んだことがないドリンクだからだ。
「マリア、これを軽く口に含んだ後、思いっきり飲んでみて?」
マリアは、いきなり冷たいコーラのきつい味が喉に入ってくる。
マリアは、きつい炭酸と、その薬っぽい味に驚いて、口の中の物を思わず吐き出した。
マリアにはタオルを渡すが、他の二人は何が起きたかわからないので、不思議そうな顔でマリアを見る。
「ひどいですわ!」
涙目になり訴えかけるマリア。
「そうかい? 俺はとても美味しいと思うけどね。
もう一度俺が飲むから、今度はどんな味がマリアに伝わったか、教えて?」
俺は、自分の味覚をマリアの味覚に共有するように設定する。
そして、俺は再びコーラを一口、口に含んで飲む。
マリアは、「やめて!」と言いながら、表情が変わる。
マリアは、再び口の中のドリンクを吐き出そうとするが、当然口の中には吐き出す物なんて、何も入っていない
そして、今度は少し不思議そうな表情をして、
「あら? こんな味でしたかしら」と、少し困惑顔。
俺の味覚をマリアに伝えたんだけど、とここで皆に説明をする。
そして、「あぁ、なんか美味しいですわ!」
と、にこやかな表情に変わる。
「今度は、自分で飲んでみるかい?」
俺は、マリアへの味覚の共有を解除する。
マリアは、恐る恐る俺の飲みかけのコーラを飲んでみる。
「あら、美味しいわ。 美味しいですこれ!」
そういうと、もう一口飲む。
「さっきは喉が痛くて、きつい味で、薬臭くて、甘ったるいだけの、とてもいやな感じでしたが、今は美味しく思います」
「それは、俺が美味しいなと思いながら感じている味わい方が、マリアに伝わったからだと思うよ。
どこが美味しいのか、味わい方がわからないうちは、なかなか美味しく感じないものさ」
未発達な子供の舌では、苦い、辛い、酸っぱいなど、比較的単純な味覚しか感じられずに、結果的にまずく感じて、嫌いになることが多い。
しかし、同じ食材であっても、大人になるまでに味わい方というものが学習されると、それ以降は本来持つ複雑な美味しさがわかるようになる。
大人になり美味しさを感じ取ることができるようになると、それまで嫌いであったものが、好きになることはよくあることだ。
「サリーもやってみたい!」と言い出した。
俺が味覚の設定を変えようとすると、サリーが
「ちょっと待って! 最初は私の感じる味覚を慎二に共有してみて!」
言われてやってみる。
するとサリーは、いきなりコーラを一気に口に含み、先程のマリア同様思いっきり吹き出した。
わかっていたので、人のいない方に向かってだか。
俺はというと、サリーと同様に口の中には何も入ってないが、思いっきり吹き出した。
涙目でサリーを見ると
「マリアの仕返しよ!
さっきマリアはこんな感じだったのですからね!」
と、言って笑っている。
俺は改めてマリアに向かって、「ごめん」と謝った。
それは、すでに忘れてしまった食感だった。
確かに、子供の頃はきつい炭酸は口の中がシュワシュワして好きではなかった。 その懐かしい感覚だ。
「今度は慎二の味覚を私に共有して!」
と、サリーが言う。
「したよ」
「じゃあ飲んでみて」
と言って、俺にコーラが渡される。
俺は味わって、ゆっくりとコーラを飲む。
さっき吹き出したが、やはり冷えたコーラののど越しは実にうまい。
「じゃあ、戻してね!」と言って、俺の手からコーラを取り上げ、ゆっくりと口に含む
「さっきとより、ぜんぜん美味しいね!
喉を通る時の感じがいいわ! じゃあ、次はイザベラね」
そうか。味は舌だけで感じているわけじゃないんだな。
味として共有しているので、舌だけではなく、鼻で感じる香りや、のど越し感なども伝わったらしい。
「私は飲まないわ!」
と、頑ななイザベラさん。
「何言ってるの!
みんなで味合わなければ損よ!」
「そうですわ。
これは真っ黒な変な見かけの飲み物ですけど、悪いもので無なくってよ!」
まあ、最初は俺が飲むんだけどね。
イザベラに味覚共有をかけ、俺はゆっくりとコーラを飲む。
いきなり口の中に知らぬ液体が入ってきた感触に、イザベラは最初目を見開き驚くが、すぐに違った驚きに嬉しそうな表情となる。
「わかりました。これが味覚を共有するという事なのですね。
では、自分で飲んでみます」
共有を解除すると、イザベラは自分でコーラを飲んてみた。
うん、大丈夫のようだ。笑顔である。
他にもできるのですか?
と聞かれたが、俺もまだよくわからないので、できるらしいが実験はまた後、まずは予定の行動をしないと
すべての五感を共有するとどうなるか分からず怖いので、当面は安全対策としての軽い共有を行い、メンバーそれぞれにフィードバックするようにしておく。
オレとメンバー全員の味覚と嗅覚以外の感覚を軽い状態で共有する。
あたかも隣の席にだれか気配を感じるような状態だ。
気にしなければ気にならないし、注目すればはっきりわかる。
自分から呼びかければ、間違いなく聞こえる。
これは便利だ。
これだと、まるでエアスマホだね。
慎二君は3人娘はメンバー登録しました。
人の秘密を知ることは、その問題も抱えることになり悩みも増えます。




