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第七話 循環

「ぱ、パパ……」


 腐った死体、正確に言えば狐のような姿をした獣人の腐った死体が歩いている。

 その姿を見て獣人の一人が苦しそうに声を上げた……


「まずいぞ、不浄の者がいると魔素が溢れ出す……そして、どんどん不浄の者が増えていく」


「パパー、パパー! 嫌だよぉ!」


「駄目だ! もう君が知っているモノじゃない!」


 他の獣人が泣きながら死体へと歩いて行こうとする獣人を止めている。

 つらいな……


「どうすればいい!?」


「アレも、この一帯を焼き払うしかない、もしくは魔素を……そうか!」


 俺も気がつく、魔素がこの化け物を産むなら、全部吸い取ってしまえばいい。


「何度も命を助けてもらってお願いばっかりで済まないけどさ、こんな酷いこと、もうやめてやってくれよ!!」


 白衣のポケットを手で広げて周囲の魔素を勢いよく吸い込んでいく。

 流石に大量に流れ込みすぎて少しびっくりした。しかし、それと同時に自分の体の異変に気がつく、身体が熱い、特に右手のあたりがうっすらと光りだしているようにさえ感じる。

 俺を中心に風が起きて周囲に吹き込んでいく、魔素を絡めとるように集めてどんどんポケットに流し込んでいく。


「体が……熱い……」


「と、とんでもないマナが……その手に……」


「手が、何かおかしいのか?」


 俺は弟さんに振り替える際にその手をポンと背中に乗せてしまった。

 ぽふっと心地よい手触りの背中に……


「う、おおおおおおおおおお!!!」


 弟さんが、発光した。

 雄たけびを上げながら発光した。

 なんだこのスーパー弟さん……


「これは、闘気オーラか!! 熱い、熱いぞー!!」


 絶叫する弟さんの口から、レーザーが放たれた……

 その光はゾンビを包み込み、そして周囲を薙ぎ払っていく……


【あああああああああああ……】


 ゾンビは光に包み込まれ、そのおぞましい声がだんだんと収まっていく……

 まるで何かに満足した表情で、穢れた肉体、恨みや憎しみが消えていく。

 元の状態からは想像が出来ないほど、綺麗な遺体がそこに残されていた。

 周囲の魔素だまりは完全に消し去り、陰鬱な重苦しい気配が嘘のように無くなっている。

 建物などはそのままなのだが、明らかに空気が変化した。


「パパ、パパーー!!」


 あまりの出来事に呆然とした獣人の手を逃れ、遺体に駆け寄る若い獣人……

 綺麗になってはいるが、父親が亡くなったという事実は変わりない、その胸に顔を埋めて泣きじゃくっている。

 

「何が起きたんだ……?」


 弟さんは元の姿に戻っていた。はぁはぁと息を切らしているが、辛そうというよりは心地よさそうにしている。


「大丈夫か? すまない、俺もよくわかっていなかったんだ」


「俺も自分に何が起きたのかはわからないが、今は力があふれている……

 たぶん闘気というやつなんだろう……古い時代はこの力を使える動物や獣人がいたと聞いたことがある」


『あらあらあらー! 凄いマナね! 心地がいいわ!』


「だ、誰だ!?」


 突然の声に獣人や魔物が集まって警戒をする。

 父親の亡骸にすがって泣いていた獣人も抱えられてその集団に守られている。

 その俊敏さに感心してしまう。


『ごめんなさいね、驚かしたみたいね』


 ぼんやりとした揺らぎのような存在が、人型へと変わっていく、木々の蔦のような髪の毛、ところどころに花があしらわれており、身体を包んでいるのも植物の葉のような作りで、植物人間?

 とでも表現すればいいのか、声と髪の長さ、体つきから女性であると推測される。


「あ、貴方はどなた様ですか?」


 動物たちを守りながら問いかけてみる。

 声の調子からは敵意はなさそうだが、たぶん、存在的に上位のモノである気がする……


『美しいマナがこんなに大量にあるなんて嬉しすぎて出てきてしまったわ。

 はじめまして、私は森の精霊の一人、ドライアドって呼ばれていたわ』


「ドライアド……精霊……まさか、すでに滅んだって……」


「昔話の存在だと……」


『そうねーここ数百年はマナが少ないから()()()には来られなかったからねー』


「敵では……ないんですね?」


『ええ、むしろこんなに素敵なマナをくれたお礼に助けてあげるわ!

 森に来た、この穢れた人たちは貴方たちの敵でしょ?』


 その女性が手をかざすと何もない空間が鏡のように変化して別の場所の風景を移しだす。

 あの魔法使いに、改めてみると骸骨のようにガリガリの女、それに完全武装した兵士たちが森の中へと入っている映像だ。

 獣人達から悲鳴が上がる。


『大丈夫、ちょっとだけここのマナを借りるわね』


 周囲から何かを救い取りその映し出された鏡に注ぎ込む、すると魔法使いの周囲に濃厚な霧が立ち込めていく、ガリガリの女は何やら苦しそうにしており、魔法使いに縋り付いて森から出て行くようだ。


『魔族はマナが嫌いだからね、特にこれだけ綺麗なマナは命取りになるわ』


「魔法ですか?」


『違うわ。今のは森の子達にちょっと手伝ってもらっただけよ。

 昔は人間もこうやっていろんなことが出来たのに、今は魔人が教えた魔法を使って穢れを生むようになってしまったの……』


「複雑なんですね……」


『貴方は……人間?』


「はい、迷い人なんですけど、人間です」


『……こんなにマナがあふれる人間なんているのかしら?』


「ああ、これはどうやらこの白衣が凄いらしいです」


『ううん、貴方自身も凄いわよ。今すぐにでも貴方に抱きついてしまいたいくらい綺麗なマナで満たされているわ』


「ああ、たぶんさっき大量に魔素、でしたっけ、それを吸い込んだんで……って近い近い」


 ドライアドさんがくんくんと俺の体を嗅いでいる。

 時々深呼吸みたいに深々と吸い込んではぁぁぁ~~~~ってため息をついて、微妙に色っぽかった。


「そ、そろそろいいですか……?」


『あら、ごめんなさい。夢中になっちゃった……それとー……』


 俺の脇を抜けて弟君の側に立つ。次の瞬間弟さんに顔を埋めてもみくちゃにしている。


「な、なにを……」


『いやぁぁぁ、久しぶりのオーラー……クンカクンカ、スハースハー』


「お、おやめください精霊様……そ、そこは……ゴロゴロゴロゴロ……」


 ドライアドに撫で繰り回されいつの間にかとろけて喉を鳴らしている。

 うらやましい。俺も触りたい。

 満足するまでクンカクンカスーハースーハーしたドライアドさんがようやく弟さんを解放する。

 バッと飛び跳ねるように俺の背後に隠れた。


『あーーーー、気持ちよかった。何百年ぶりかのオーラを味わったわー』

 

 ドライアドさんの体についていた花が見事に咲き誇って、どことなく本人の肌までもつやつやしている。


「な、何をなさるんですか!?」


 尻尾を膨らませて耳ぺたーんとして警戒している。

 なんてことを、撫でるハードルが上がったじゃないか……

 おっといかん、この破天荒なドライアドさんに引っ張られたが、俺たちは逃避行中だ。


「とりあえず追手を巻いてくださったのはありがとうございます。

 私たちは早いところ村へと向かわなければいけないので……」


『よし! すっごくいい思いをさせてもらったのでその村まで扉を開けてあげる!』


「扉?」


『えーっと、村ってここよね?』


 先ほどと同じように鏡が現れて映像が映る。動物や獣人が暮らしている村……村というか、集落というか集団? 建物とは呼べないような作りのテントが並んでいる。


「おお、長老、姉貴! 確かにわが村だ!」


『貴方の匂いを探ったからねー』


 ペロリと舌なめずりをするドライアドさん、弟さんが再び俺の影に隠れてしまう。


「オーラってのは何なんですか?」


 さっきから気になったことを聞いてみる。


『獣人や動物たちが大量のマナを体内に取り込んで起こすのが闘気(オーラ)

 オーラは体外に出すと穢れを払って大量のマナを生み出すの。

 本当は人間も使えるはずなんだけどね、そうしてマナは保たれて増やされて世界を包み込んでいたはずだったのよ』


「それが今やマナが貴重な物になっていると」


『そう、魔人が人間を取り込んで、マナを魔素に変える魔法を教えて広めたの。

 オーラよりも遥かに楽な魔法は爆発的に人間に広がったの、その結果、魔獣や魔人が活発になって、逆に人間の安全が減っているんだけどね、獣人や動物の性にされてしまっているの。

 本来は魔人や魔獣の天敵である獣人、動物は人間と協力して生きていたのに……』


「なんだかすごい話を聞いている気がしますね」


『私たち精霊なんて存在も、数百年ほど自分たちの世界に引きこもってたからね。

 まだおとぎ話とはいえ知ってる人達がいて嬉しいわ』


「せ、精霊様その絵の場所に連れてってくれるんですか?」


 俺の背後からコソコソと顔を出して話しかけている。かわいいね。


『ええ、どうぞどうぞ』


 画像が拡大して人が通れるほどになる。

 弟さんが恐る恐る顔を突っ込むと驚いて顔を引っ込める。


「本当に村の側だ!」


『あまり長くはつなげられないので、早く通っちゃってください。

 ()()()()()()()()()()()


「ドライアドさんもついてくるんですか?」


『ええ、私は、貴方、そう言えば名前は? あるんでしょう名前?』


「あ、はい。匠 神薙 匠です」


 なぜか周りの獣人や動物たちが驚いている。そういえば名前を名乗っていなかった。

 悪いことしたな。

 そんな俺の考えとは関係なく、ドライアドさんは優しい微笑みを浮かべながらとんでもないことを口にする。


『やっぱり。私決めました。タスク、貴方についていきます』




 


 


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