第八話 嵐の後
扉を抜けてからどれだけ時間が経っただろうか?
5件目の処置を終えてから、よく数えていない。
緊急性のある症例の処置をとにかく最速で終えていき、次に緊急性はないものの放置していれば命に関わる症例を治療していく、そしてようやく軽症例も診察を終えた。そして重症例の見回りが終わって、ようやく一息つける。
どうしてこんな事になったのか、事は扉をくぐるまで遡る。
精霊世界の隙間を利用した『道』は俺たちがいた場所と集落をつないでくれて、短い不思議な空間を抜けると集落へと到着した。
「ど、どういうことだ!?」
到着した集落は、酷い有様だった。
息も絶え絶えな村民、戦いに困憊した住人や動物たち、そして、魔物たちの死体が大量に。
「みんな!? どうしたんだこれは何があった?」
「魔物が大量に……お、お前はどうやって帰って来たんだ?」
すぐに俺は駆け出した。
「とりあえず息のあるやつを全員ここに寝かせて! 助けられる命は助ける!!」
一緒にいた元気な獣人たちに指示を出し、集落の一角を簡易的な治療場所にする。
「タスク、貴方の力を借りるわね。手伝うわ」
「すまない、やばいのから片っ端から治療していく!」
ドライアドさんが手伝ってくれたおかげで非常に非常に助かった。
麻酔を鎮痛を魔法で行ってくれるおかげで俺は執刀に集中できる。
治癒魔法というのもあるけど、傷口の治る速さが早くなる。その程度までしか出来ない。
ただこのおかげで軽症の処置は最小限で良くなった。
肝臓損傷や脾臓破裂、肺損傷、開放性複雑骨折、とにかく手当たり次第にスピード優先で治療していく。後で知ったが俺の手技もドライアドさんの魔法で加速されていたらしい。
道理で出血が緩やかすぎると思ったんだよね、俺が早くなっていたんだね。
この無茶の反動は二日後に出たのは別の話。
そんな感じで、集落についてから2週間ぐらいは、なんか昔みたいに獣医師をしていた。
俺らが連れてきた仲間たちのおかげでずいぶんと集落も復興して、村と言っていいほどの見た目になっている。
獣人や動物たちの回復力は回復魔法も合わさって素晴らしいものだった。
正直厳しいかもと思っていた子も回復してくれた。
結果として犠牲者は3名で済んでくれた……亡くなっている子を治せる神ではない……
「タスクお疲れ様」
「ありがとうドライアドさん」
入院患者の診察を終えて固まった背筋を伸ばしているとドライアドさんがカップを持って近づいてきた。俺はカップを受け取って一口飲む。正直草の汁を薄めたような味だが、ほんのり冷たい。その冷たさが乾燥していた喉を優しく潤わせてくれた。
「ずいぶんと元気になりましたね皆」
「ドライアドさんのお陰です。魔法っていうのは凄いものですね」
「いえいえ、タスクの技術がすごかったからだよ、何百年もこの世界を覗いていたけどあんな技見たこと無い……お腹を開けて内蔵を……うっ……」
「思い出さないほうがいいですよー……あの時は必死だったので……」
そう、必死に目の前の病気になった患者を助けることだけに集中していた。
久しぶりにそれだけに没頭して、心地よかった。
俺はもともとそれだけに集中していたかった……もちろん飼い主とのコミュニケーションも獣医師の仕事のひとつなのも理解しているが、それに疲れていたのも、紛れもない事実だ。
一刻を争うような場面で金銭の説明に長い時間をかけられたり、中には心無い選択をするような飼い主に一生懸命説得したり、獣医師はただ動物を治療するだけではいられなかった。
結果として、あんなことになったわけだし。俺は獣医師として未熟だったんだろう。
「どうしたのタスク?」
「ん? いや、昔を思い出していただけだよ……」
「……それは、異世界だったりするのかな?」
「!? 知ってるのか? どうして俺はこんな場所にいるんだ!?」
「落ち着いてタスク、痛いから……」
「あ、ご、ゴメン」
思わずドライアドの肩を掴んでしまった。
「極稀にこの世界に、別の世界から迷い込んだ、場合によっては呼ばれた人や動物が来ることがあるの……そして、大抵はこの世界にとって必要な大きな変化を起こしていくの」
「呼ばれた? 誰が呼ぶんだ?」
「たぶん、この世界を作った……神様?」
「神……がいるのか……」
「わからない、精霊王様も知らないんだって」
「……そうか……」
わからないことをいくら考えても仕方がない。
それよりもこの世界で今後どう生きていくかをちゃんと考えていかないと……
「それにしても、その白衣? 凄まじいわねそれ……」
「そうなのか? あんまり気にせず使ってるけど……」
「そうね……貴方は今その白衣を使いまくったことでマナに満たされているの、そのせいでその白衣と繋がりが強くなったみたい。そのせいであなた自身にはとんでもない保護や付与がされているわ」
「なんかピンとこないな……」
「多分貴方はこの世界のどんな魔獣と戦っても負けない。そういえばわかるかしら?」
「ま、まさかぁ……」
「龍だろうが巨大種だろうが、貴方がその気になれば敵じゃないわ。
貴方を捉えた貴族たちも運が良かったわね、今のタスクに手を出せば後悔じゃ済まないわよ」
「そ、そうなのか……確かに着慣れたと言うかしっくり来るなぁと最近思っていたけど……
そうか、最近欲しいと思ったものがすぐ手元にあるのは白衣との意思疎通……なんか危ないこと言い出してるな俺、でも、それがうまくいくようになったからか……」
俺は白衣の胸の部分にある獣医師のマークを握り、いつもありがとう。そう、心の中でつぶやいた。
なお、私はおしゃべり大好きなのであんまり苦になりませんです。




