第五十六話 再開
「あらー……すっかりきれいになってるー……」
「ど、ドライアド!! き、聞いておらんぞ!! あ、あんな!!」
「あらー、精霊王様が、『いちばん大変な時にこちらに戻ってこないほどなんだからさぞ重要な要件が有るだろうからあまり手を煩わせないほうが良い』とおっしゃっていたのでこちらで解決しておきましたわ」
「んぐ……それは……その……」
「大丈夫ですよ、一時は生死に関わる大問題になりましたが、今はこちらのタスク殿の協力で持ち直しましたからー!」
「そ、そうなのか?」
「そうらしいです」
「そうであったか……その、ありがとう、というのはあれだが……」
「パーシェお嬢様!?」
「あらーマイラおばさまー、おひさしぶりですぅー」
気がつけば街の人にパーシェが取り囲まれていた。
街の人々は時に目に涙を浮かべながらパーシェが存命であることを喜んでいる。
なんだかすっかり話を聞く状態ではなくなったので、俺達はそれぞれの仕事に戻って彼女たちはそっとしておいてあげた。
町の外の整備を進め、夕方になり戻ってくると、盛大な宴が行われていた。
なんと、各家庭床下に食料などを保存していたらしい。
いや、食品はほぼ全滅だったんだが、酒類が数十年寝かされた状態、しかもほぼ動かすことなく静置されていたことによって、格段の味わいに変化していた。
地下エリアは魔素に侵されていないために、そりゃーもう酒好きにとってはたまらないものに、なっているらしい。
このことを丁寧に教えてくれたのは、ぐでんぐでんに酔っ払ったルーシディアだ。
パーシェの巨乳に後頭部をうずめながらそりゃーもう上機嫌でべらべらとお酒がいかに素晴らしいのかを語ってくれたので、思わずマナを直撃させてしまった。
精霊王様がお怒りになる理由がわかった。
この精霊、女と酒に弱すぎる。だらしねぇ……
「あらー、ルーちゃん寝ちゃったのー?」
「パーシェさん、楽しんでますか?」
「皆と久しぶりにあえてー、とっても楽しいですよー」
「それはよかった……ところで、貴方はなぜ魔法を使えるようになったんですか?
詳しい話をまだ伺っていなかったので……」
「うーんとー、街に来た師匠がー、才能あるからーって、街を守るにはこれしか無いってー、でも、私のうっかりで寝ちゃったからー、寝かしつけてあげたらー、もう起きなくなっちゃってー、一人でなんとかしなくちゃーってうわーってなってー……気がついたらタスクさん達がいた感じー?」
どうして疑問形なんだろうか?
「ふむ……結果として貴方だけではなく市民までも普通の人間では考えられないほどの長時間を成長も老化もすることなく過ごしたことになります」
「そうなのー? よくわかんないなー……」
「ドライアドはどう思う?」
「魔人も長寿です。マナに満たされた獣人も非常に長寿となるので、人間は魔素でもマナでも多く取り込むことで長寿になれる可能性があるのかもしれないわね……ただ、あの状態で長く生きることが幸せかは別だろうけど……」
「獣人達はあの極限状態でも子をなしてなんとか生き抜いてくれた……
魔素で汚れていたとはいえ、食事などを提供し、魔物から街を守っていたパーシェ氏には、罪はないと思います」
カイの報告の通り、獣人は魔素を受け入れないので、人間と同様には行かなかったが、特に悲惨な待遇を受けていたと言うよりは、この環境では仕方がなかった面が大きく、パーシェを攻めるわけにも行かなかった。
「いつ頃からこの大陸はこんな状況になったんだ?」
「うーん……物心がついた頃にはこんな感じだったよー」
「うちらの大陸も、無策でずっと放っておいたらこうなっていたのか……」
「ありえますね」
「他の大陸も毎回こうなってる可能性があるのか、対策を考えないとな……」
結局この日は俺たちも宴を楽しんだ。
それからは周囲の開拓と港への街道づくり、それと穀潰しにもしごとを与えた。
「精霊としてのお力を借りて、聖火を昇華させてもらいます」
「ふむ、それこそワシの専売特許みたいなものじゃな」
「ええ、ちゃんと仕事していただければ魔人によって精霊界が侵されることもなかったんですけどね」
「ぬぐっ……ドライアドは手厳しいのぉ……」
「いえいえ、これでも本当に優しくお伝えしてますのよオホホホホホ……」
ルーシディアのお守りはドライアドに任せて、俺はパーシェにマナの使い方を教えている。
と、言っても。俺の仕事は殆どない。
パーシェは……天才肌だ。
「よくわかんないけどー、こうですかー?」
こんな感じで、言えば全て直感的に一度で完璧に実行できてしまう。
たぶん、他のどの魔法使いでも魔素による人間の寿命の延長なんて不可能だっただろう。
パーシェの天才的なひらめきが、幾重の奇跡のもとで成し遂げた神技だったのだろう……
「そのまま高めていけるか?」
「こうかなー?」
闘気もあっという間にマスターしてしまった……
「その増大した力をこう臍の下に集めてさらに高めていくんだ」
「あんっ……熱いー……タスクさんー、熱くてどくどくするのー……」
この甘ったるい声さえなければ他の人間に任せても良いのだが、皆集中力を奪われてうまく指導ができなくなってしまう……本人がわざとやっていないのが、信じられないレベルなんだがな……
「そういうものだ、その熱が全身に行き渡ったら、開放するんだ」
「わかりましたー……はぁ……はぁ……熱い、熱いのが来るよぉ……
来ちゃうよぉ……あーん……!もうっ! もう、だめぇ……!!」
マナを高める方法は、こうして完璧にパーシェに受け継がれるのであった。
覗いていた奴らは後で全員特訓だ。




