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第五十四話 夜明け

「ようやく大人しくなったか……」


 周囲の戦いの気配も止まり、先ほどとはうって変わった静寂があたりを包み込んでいた。


「倒したのねタスク」


 ドライアドがニュッと現れた。

 そのまま倒れている敵の状態を慎重に探っている。


「そいつ、人間なのか?」


「……ええ、人間ね……これは……」


「ん?」


 不思議な気配を感じて空を見上げると、天井は破壊され、まだ夜明け前の曇天が広がっているのだが、その一点からふわふわと光の粒が近づいてくる。

 ドライアドはその粒を受け取ると、何やら会話を始める。


「……わかった。タスク、ちょっと場所を移しましょう。

 この人を連れて行きたい場所と、見せたい場所があるって……」


 カイとカフェとも合流し、周囲の安全確認をお願いする。

 ドライアドと共に館の裏手に回ると、教会風の建物がポツンと建っていた。

 ドライアドは迷うことなく気を失った魔人もどきを魔法で出した枝葉で支えながら、扉を開けその建物に入っていく。

 俺もそれに続く……


「これは……凄いな」


 建物の中は広くはないが、天井に作られたガラスによる細工が素晴らしく、思わず目を奪われてしまった。

 天井の半分近くがガラスで透過しており、日中であればかなり幻想的な空間になることが予想される。


「タスク、こっち」


 気がつけばドライアドは部屋の一番奥にいた。

 その傍らには大きな棺のような箱がある。


「開けてもらえる?」


「わかった」


 重厚な棺の蓋を開けると、そこには……


「コア?」


「それ、取り出して」


 手に取ってみると、間違いなく魔人のコアだ。

 取り出すとドライアドは魔人もどきをそこに寝かせるように置いた。


「蓋を閉めて」


「大丈夫なのか?」


「大丈夫……だそうよ」

 

 光の粒も、ふわりと棺の中に入っていく。

 俺は、言われた通りに蓋を閉める。

 ピタッと合わさる蓋に、窒息の心配をするが、ここはドライアドを信じよう。

 よくみると棺の蓋の中心に赤い宝石が埋め込まれている。


「これで、お昼過ぎには目覚めるはずだって」


「誰と話していんだ?」


「精霊よ、彼の言っていることが本当なら、長年行方不明だったかなり高位の精霊……」


「精霊が地上に残っていたのか……」


「詳しい話は、昼過ぎ、彼女が目覚めてからね」


 それから俺たちは街の様子を確認する。

 敵兵たちは死んだように眠りについており、市民も同様だ。

 街の中の魔素の流れは停滞しており、俺たちは館の中央のシステムを利用して魔素を集めてマナに変えていくことにした。

 曇天はいつの間にか晴れて、鋭い日差しが降り注ぐ頃には、街中の魔素をマナへと変え、闘気の力で町中をマナで満たすことができていた。


「一段と凄いわねタスク」


「ああ、頼りきっていたのを辞めたからな」


 今は白衣になっている相棒をパタパタと叩く。

 ポケットには十分なマナによって充たされたコアが入っている。


「さて、そろそろ教会、で良いんだよな? に向かおうか」


「ええ」


 教会の扉を開けると、驚きの光景が広がっている。

 太陽の光を受けた天井のガラスが、壁面に見事な光の芸術を展開しており、最奥の棺に向かって、太陽の光が集中している。

 その光はすべて蓋についている真っ赤な石に集中しており、その石はまるでマナを含んだコアのように真っ赤に燃え上がるように輝いていたのだ。


「凄まじいマナの濃度だな……俺らの方法とは全く異なる方法でマナが生み出されている……」


「たぶん太陽の力と、この壁面の紋様が魔力回路のようにマナを生み出しているんだわ……

 やはり、本当に……」


 ガタガタと棺が動く。


「あ、暑いー……眩しいー……」


 聞いたことのある声のようだが、以前の濁りが消えており、これは、明らかに……


「開けてあげてタスク」


「ああ……」


 棺に近づき、蓋を開けると……汗だくで、着衣がピタッと体に張り付いて、見事なボディラインがはっきりとあらわになっている、人間の女性が横たわって悶えていた。


「あー……涼しい……」


 蓋に集まっていた光が、まるで彼女を照らし出すように輝かせている。

 ああ、間違いない、この女性は一般的な基準からいって、気持ちが悪いほど美しい女性だ。


「タスク、見過ぎ」


「ああ、悪い」


 現状の俺でなければ、鼻の下が伸びすぎて地面を突き破っていただろう。


「んー? 背中に誰かいるー?」


 ゆっくりと起き上がると、何やら背中を気にしている。

 

「ちょっと見てー」


 間延びした声と、その姿のギャップがすごい、光り輝く髪を束ねると美しいうなじが顕になる。

 これは、破壊力が強い。

 が、それ以上に驚かせたのは、その背中にヒシッと抱きつく子供がいた。


「ドライアド、この子ってアレだよね」


「ええ、精霊ですね。ルーシディア様、ご無沙汰しております。ドライアドにございます」


 ドライアドは精霊の名を呼びながら跪き礼の姿勢を取る。

 俺も慌てて跪いて同じように敬意を払う。

 現状のドライアドより高位な精霊ということは、精霊神に連なる人々だということだ。


「久しぶりなのじゃ、ドライアド」


 のじゃショタ。

 俺の頭で懐かしい単語が浮かんできた。

 その少年も美しい、お揃いの輝くような金髪に黄金の瞳、人では生み出せない美しさがある。


「きゃー、可愛いー、何この子? みんなのお知り合いー?

 ……ところで、ここはどこ? あなたたちはどなた?」


 巨大な双丘に埋まりそうに抱っこされた少年が少し羨ま、苦しそうだ……

 シリアスにはなりきらないが謎は深まるばかりだ。



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