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第五十二話 侵入

 街の空気は……もう、暗いなんてもんじゃない。

 人間はまるでゾンビのように仕事を終えたら各自の住まいに戻っていく。

 日が暮れると町中に人影一つ無い。

 魔素が泥のように溜まり……街の中心の館に吸い込まれている。


「間違いなくあそこに魔人がいるな……」


 町の中央にそびえるひときわ大きな建物、城と言っても良いだろう館。

 街に溜まった魔素を効率よく吸収できるように空気や水の流れが調節されている。


「これは、簡単には近づけませんね」


 館の周囲に遮蔽物がなく、近づけばすぐに発見される。

 館の周囲には……もう人間ではなくなっているであろう、衛兵が警戒している。

 とても奴らの警備を抜けることは出来ない。


「戦争するわけにも行かないし、多分街の人間も完全に操られている」


「獣人たちもひどい扱いを受けていたし……早くなんとかしたいんだけど……」


 カイもカフェもいい案が浮かばないようだ。

 正直俺も……と思ったが、有る一画を見た時に案が浮かんだ、が、非常に言いだしたくない……

 しかし、他に方法もなさそうだ。


「なぁ……あれって……」


「どうやら館からの排水……そうか!」


「そうかってなにカイ?」


「排水路に潜って館に侵入すればいい「絶対イヤ」」


「……諦めろカフェ、この服を作ったのも何かの縁だったのだ……」


 あれだけ濁った水なら、俺達の姿も隠してくれる。

 排水路は街のハズレまでつながっており、警戒エリアの外からも侵入できる。

 他にルートはない。

 ドライアドはいざというときのために外で待機してもらう。


 不気味なほど静まり返った街を進み町外れの下水の開放部へと向かう。

 防護服を全て密閉して、濁った汚水へと侵入していく。

 

『おお、思ったより、問題ないな』


『生暖かくて、気持ち悪いわよ……』


『出来る限り底を進むぞ……って……うへぇ……』


 何かを考えたくない堆積物の底に、鉤爪を引っ掛けながら水流に逆らい進んでいく。

 潜水服のおかげで空気は作られているし、匂いもない。

 ただ、排水路底の滑りだったり、時折身体に付着するものの不快感は拭えない……

 何かの骨だったり、腐敗した何かをかき分けながら、進み続けていく。


 どれくらい進んだだろうか、円筒形に深くなった箇所にたどり着く。

 慎重に周囲を伺いながら水上へと顔を出す。

 周囲は陰気臭い石壁で囲まれた、どうやら地下であろう部屋に出ていた。

 周囲に生態の気配は無い。

 そーっと水面から部屋に上がっていく……

 薄暗い部屋、扉は一つ、窓は一つもない。

 どんよりと魔素が充満しており、扉から水場まで不潔なぬめりが続いている。

 周囲から排水が中央に流れ込むようになっており……

 明らかに排泄物が流れているような水路もあり、気分を悪くさせる……


『どうにか侵入できたな』


『想像はしていました、やっぱりこうなんですね』


『……カイ、言わないで』


 闘気を整えて、浄化の力を最大限に発揮する。

 脱ぐ気にはなれないが、体についた不浄なものがきれいになるだけで、少しホッとする。

 悪臭を巻き散らかして隠密行動も取れないしね。


『さて、いこう……』


 ゆっくりと扉を開けて耳を澄ます。

 短い廊下を進み、地上へと続く螺旋状の階段を登っていく。

 どうやら地下へはほとんど人の出入りが無いようで、階段等にもホコリが積もっており、照明なども機能していなかった。


『ここからだな……』


 たぶん地上への扉を少しだけ開けて廊下の具合を確かめる。

 館の中も魔素が濃厚で雰囲気は重苦しい……

 周囲から人の気配はしない。

 慎重に廊下に出て館の内部を探索する。

 警備自体は外の警備が厳しいので、内部の警備は薄い。

 部屋の中では何かの作業を行っている人間を確認できたが、皆、何かに取りつかれたように生気のない顔つきで黙々と働いている。


『ある程度構造はわかったな……たぶんこの上に魔神がいると思う』


 この街全体から集められた魔素を効率よく回収して集められ、それを吸い上げるのであればここ、という場所があり、その直上が建物の中で最も守りやすく大きな部屋ということがわかった。

 

『できれば、不意打ちで仕留めたい……』


『敵陣での乱戦は避けたいですね』


『全員準備してね』


 兵たちが分散する。 

 目的の部屋の前には流石に衛兵がいる。

 俺とカイで一瞬で倒し、部屋に侵入して魔人を倒す。

 周囲からの敵襲を兵たちで奇襲する形で迎撃して、速攻で終わらせる。

 これが作戦だ。

 兵士の詰め所につながる扉を閉鎖したりする工作も同時に行い、少しでも作戦成功の可能性を上げていく。


『配置についたか?』


『いつでもいいわよタスク』


『カイ、行くぞ……3……2……1……GO!!』


 短剣を投げて、衛兵の注意を引き、一気に接近し当て身で気絶させる。

 カイも見事に反対側の衛兵を倒す。

 そのまま素早く、静かに扉を開いていく。

 扉の隙間から魔素があふれるほど、室内は濃厚な魔素で満たされている。


「ん~~、どうしたのだぁ~~ぐへぇ~~。勝手に部屋に入るなぁ、と言っている~~だろ~~」


 なんとも怠惰な声が暗闇の奥から聞こえてくる。

 素早く室内に入り、悪趣味に豪華絢爛な室内、その一番奥の巨大なベッドの上の人間を確認する。

 病的に太りちらした真っ青なスライム……いや、人間風の姿。

 ぐっちゃぐっちゃとベッドサイドテーブルに乗せられた果実を口に入れている。


「どうした~?」


 ベッドサイドの明かりをこちらに向けてくる。

 その光を避け、一気に接近し、カイと同時にそのスライムに攻撃を加える。

 カイが正面から短剣で突き刺し、俺が背後から抜き手でコアを狙う。


「誰だお前ら~!?」


 ぶにゅううう……気味が悪い感触が抜き手に伝わってくる。


『これは……!?』


 カイから明らかな動揺が感じ取れる。

 いや、俺もめっちゃ焦っている。

 確かに俺の抜き手は敵の体に突き刺さっているが、本当にスライムのように包み込まれ、コアまで届かない。

 カイの短剣も完全に突き刺さっているが、血の一滴も出ない。


「貴様ら~何者だ~~」


 仕方なく距離を取ると、魔人はベッドの上から動くことなくこちらを睨みつける。

 非常事態だと言うのに、どうにも緊張感のない間抜けな声で気が抜ける。

 改めて見ると、とんでもない。

 まさに肉の塊のような生物。

 ベッドが歪んで地面についている。

 闘気をまとった俺の拳もカイの剣も、濃厚な魔素がジュウジュウと蒸発していく。


「なんだ~なんだ~?」


「緊張感がないな、一応魔人を倒すものなんだが……」


「敵~~? どうしてだぁ~~?

 それに魔人?? 何の話なんだぁ~?」


「とぼけているのか? お前のことだ」


「魔法を使うからかぁ~?」


「お前の見た目が普通の人間の訳が無いだろ」


「何を言っているのだ~?

 僕は魔法使いだけど人間だぞぉ~?」


 話が、噛み合わないし、気が抜けていく……

 どうすりゃいいんだかこれは……





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