第五十一話 聖炎
「苔というかシダというか、ジメジメしてネチョネチョしてる……」
「魔素を含むからへばりつくし、本当に不快……」
とりあえず、なんとか上陸は果たしたが、まともには進めない。
持ち込んだ物資で進むための道具を作る。
「魔植物を処理しながら進める道具作りー」
「どんどんどんぱふぱふ」
「んで、タスクどうするの?」
「丸投げかよ、魔素の浄化と植物の乾燥だよな……マナを大量に含んだ聖なる炎とかで道を作っていくかぁ……
火炎放射器を魔道具で作ればいいよな、カンジキとかでヌメヌメ対策をして……」
「さ、ドライアド後は任せて大丈夫よ」
「カフェはタスクの扱いが上手いですね」
「まあねー」
こうして俺はまんまと立案から試作までやり切ってしまった……嫌いじゃないんだよあるもので工夫して問題を解決していくの……整形外科とかって結構その場の症状に合わせて工夫で解決することが多いからね。
何度かの試作の後に魔素消毒と植物の排除は炎で焼き切る方法になった。
マナを豊富に含む炎、温度はそこまで高くなくても青白く揺らめくので、美しい。を前方に放射して行軍ルートを作っていく方法を取ることになった。
「この大陸に住んでいる人はどうやって生活してるんだ……」
「街から出られないのも納得だよね」
「視界も悪いから魔物にも注意しましょうね」
とりあえず船を停めている周囲はその道具を利用して広範囲の整地を行う。
それから船を周囲から隠すカモフラージュをしておく。
少数の兵を残して俺たちは大陸の調査を始めた。
数人が魔道具で道を切り開き、俺たちが輸送部隊を守りながら進む。
空気も悪いので、俺は、というか白衣さんは全力で浄化を続けている。
魔素が大量に存在するので張り切ってマナへと変換している。
こんな環境でも魔物は存在した。
「気を付けろ!
周りの植物を燃やせ!
隠れる場所をなくして死角からの攻撃を防げ!」
魔物はこの大陸に順応している、魔植物を利用して俺たちを襲ってくる。
うず高く茂った植物だと思ったら魔物の背中に生える植物だったり、様々な擬態をしている魔物が居た。
見たこともない魔物が多く、どんな物が手に入るのか、少し心躍る時間もあったが、濃厚な魔素の中で生活をしている素材は魔素を抜くと脆弱であったり、問題点が多く、テンションが下がった……
ジメジメとした高温多湿と、いつ襲われるかわからない張り詰めた精神は、俺たちを少しづつ疲弊させていく……
「タスク、もうさ、車使おうよ!」
「うーん……徒歩は無理かぁ……」
行軍は遅々として進まないし、日数が経つとせっかく解体した道が再び植物で覆い隠されていく。
悪い意味で生命力が強い……
「仕方ない、目立つかもしれないが車両を出そう。
一度船に戻って車両を改造しよう」
こうして、車両前方から炎を吐き出すなかなか凶悪な車が完成する。
イメージとしてはバスを想像して欲しい、物資人員を乗せる空間を大きくし、輸送能力を高めた結果だ。動力はエンジンではなく魔法だ。
「それと全員で座禅やるぞー、そろそろ充電しておきたい」
魔人から取り出したコアには大量のマナが収められる。
大規模生道具はこれを電池のように使っている。
コアへの充電は獣人達の闘気によって増幅するマナを用いて行う。
周囲に有る大量の魔素を白衣でマナに変化させ、マナを吸い込んで瞑想状態の獣人が闘気を起こしてマナを大量に増やす。
闘気式発電所みたいなものだ。
カフェ隊の隊員たちは超一流の闘気使いが揃っているので、半日も座禅を組んでいればコアに大量のマナが満たされていく。
俺も一緒に座禅を組む。
瞑想というものは自分自身と向き合い、自らの位置を確かめ、世界との繋がりを持つような、そんな素晴らしい感覚が得られて心身ともにリフレッシュする。
新たな大地で疲れていた心も、これで再び満たされた……
「よっしゃ! 行くぞ!」
科学の力で探索速度が加速する。
探索を繰り返すことで結構燃やしちゃっても延焼は広がらない確証が得られたので、バンバン燃やしながら探索を続けた。
そして、巨大に盛り上がった植物の山の頂上に、人工物を発見する。
今にも魔植物に飲み込まれそうな都市だ。
「結構規模は大きいな……」
「あの内部で生活を完結しなければいけませんからね……」
「衛生状態が不安ね」
「漂ってくる匂いからは、良い想像はできないね……」
派手に燃やしながら進むのはこれまで、街を伺える場所に少し開けた場所を作って拠点を作る。
隠す素材は周りに溢れているので、カモフラージュをして車両を兵士に任せる。
俺とドライアド、カフェ、それと数名の兵士で街への侵入を試みる。
「もう火は使えないから、これに身を包んで植物の中を進むぞ」
全身を包む雨合羽のような装備を作った。
マナを流すことで植物が張り付くことなく移動できるし、空気の洗浄もしてくれる。
宇宙服というか、潜水服みたいなものだな。
日が沈めばかなりの隠密性も持っているので、この場にはぴったりだろう。
『もうすぐ日も沈む……行こうか』
潜入ミッションの開始だ。




