第五十話 腐りきった大地
捕虜たちは、俺が知っている人間よりも、なんというか淀んでいた……
「魔素に長くさらされていたせいでしょうね……」
ドライアド曰く、人間が長く魔素にさらされると、魔素に依存し始めてまともな判断などができなくなってきて、最終的には魔人の手下に成り下がるらしい。
どうやら別大陸は、この大陸とは比べ物にならないほど魔素で溢れているようだ。
マナに溢れた空気を吸って、マナが浸透した大地で育った野菜や動物で作った食事、健康的な運動と休息によって、少しづつ生気を取り戻していく。
しかし、非常に時間がかかる。
これは長期治療が必要になるために、専用の施設を作ることになった……
一方獣人達は、病気や怪我を治療して、栄養状態を回復させると、すぐに正気を取り戻して元気なっていく。
「向こうは酷いようだな……」
獣人たちから情報を集めると、別の大陸の状態は想像以上に悪いことがわかった。
魔物が闊歩し、人間はいくつかの街でしか生きることが出来ず、正体を表した魔人の奴隷として生きており、獣人はそのさらに下の存在として扱われているようだ……
「聖地も汚され、聖獣様は魔獣となり……ううっ……」
「その聖地は開放する必要があります」
「大陸の開放か……これは、スケールがでかいな……」
まずは大陸間の確実な移動手段の確立が必要だった。
敵の手法からヒントを得て、魔法による推進装置を考え、大陸の巨大魔法陣を利用したマナによる位置情報の共有など、現代社会におけるエンジンとレーダーのようなシステムを作り上げていく。
俺の知識から出るアイデアをすぐに実践レベルまで作り上げる優秀なブレインもたくさんいる。
教育の重要性を改めて実感した。
正直敵国の船は、木切れを組み上げて魔法で無理やり動かしている粗末なもので、これには労働力である人間たちの教育レベルの低さが影響していると見られた。
「他の大陸からの侵攻も警戒しないといけない、こちらからの逆侵攻部隊は少数精鋭で行う」
敵兵である人間たちは、正直相手にならない。
兵力として、あまり上手い運用とは言えない。
魔人は魔人自身の力を過信している。
魔物と魔人に対応できれば、組織として動く必要性は無いと判断した。
「俺とドライアド、それにカフェ隊で攻め込み、残りは各方面への警戒と防衛を頼む」
「少なすぎます!」
「いや、大舞台で敵を刺激することなく隠密行動を取って、できれば魔人だけ倒していくなら、これがベストだし、万が一他の大陸から一斉に攻められた場合、俺以外の魔法使いが多方面に展開できないと犠牲が大きい」
「……こういう時だけ理路整然とおっしゃいますね兄者は……」
「獣医的な仕事の時もしっかりしてるつもりだけどな……留守は任せるぞカイ」
「かしこまりました」
こうして、俺達は他大陸への逆侵攻に出る。
目標は北大陸。
出発当日、港には全長50メートル程の船が停泊している。
中型船で機動性を重視している。
魔人さん達の拙い魔力利用とは別次元の推進装置を装備しており、どれくらい別次元かと言うと、空も飛べます。
はい、船ですが、空も飛べます。
100名くらいなら迅速に輸送できる、計画では主力船となっている。
大型輸送船、高速中型船、超高速小型船が現在急ピッチで製造されている。
「それでは、行ってくる」
船の操作はカフェの部下たちが行ってくれるので、俺は外で風を感じている。
「海風も悪くない……が、恐ろしいほど揺れないなこの船……」
近海から外海へ出ると波も高くなり本来なら航行に支障をきたすはずだ。
それを解決するのが魔法だ。
船体周囲の海域、水の波長を調整して波を消してしまう。
その結果、湖とかを進んでいるように静かに進むことが出来る。
今は使っていないが、風魔法を利用して船体に吹く風も止めることも出来るので、嵐の中でもなんの問題もなく高速航行が可能だ。
「魔法ってすげー……」
「マナを大量に消費するので、本国からの支援がないと駄目なのがねー……」
「俺と獣人たちでガチンコの鍛錬をしてマナを増やしまくれば短期間ならなんとかなるんだがなぁ……」
「うちの子たちが全員動けなくなってもいいならそれでもいいけどね」
「……おかしいわ……」
「どうしたのドライアド?」
「海の精霊の気配が、しない……こんなこと……」
「タスク! あれ!!」
海上を見ると、明らかに変色をしてどす黒く濁った海が広がっている。
「緊急停止!!」
船を手前で止めて、海上の調査を行うことにした。
注意深く海水を採取し、分析をする。
「魔素をまとったヘドロって感じだな……」
浄化することで禍々しい黒色からきれいな緑色に変化した。
藻の大量発生だが、魔素に侵されているために周囲の生態系も穢していることが予想された。
「タスク様!! 船上に魔物が上がってきました!!」
「すぐに行く!」
俺が駆けつけると、すでにカフェとドライアド、それに兵たちが魔物を退治していた。
周囲に汚染されたヘドロが飛び散って、せっかく美しい船体が台無しだ……
「白衣、頼む!」
俺の願いに応えて、白衣が周囲を浄化していく。
それでもへばりついた藻を兵たちが必死に洗浄する必要があった。
「これを進むのは骨が折れそうだね……」
「タスク、海水は聖水化出来る?
それが出来るなら、水魔法で、こんな感じで……」
ドライアドの提案はすぐに実行される。
「白衣さん、頼むぜ!」
ポンプによって後方の海水を白衣に送り込む。
白衣によって浄化され、さらにマナを加えた聖海水を船首から前方の海へと散布する。
すると、穢された藻は浄化され、水魔法でかき分けながら進む。
そのままだとへばりついてとても処理できない魔藻も、この方法なら分けながら道を作ることが出来た。
欠点としては、速度が出せないこと、それに俺が船首にずっと座っていなければいけなかった……
一週間ほどその航行方法で進むと、ようやく新大陸を視界に収めた。
「酷いですね……」
「ああ……」
もうもうと立ち込める魔素、表現としては、腐りきった大地が広がっていた……




