第三十七話 聖地カンナギ
「この集落の民24名、全てタスク様のお世話になります!」
翌朝目が覚めると、長たちが出立の準備を整えて待っていた。
闘気を通され、ドッグフードを食べ、満たされたこと無い魂の満足を得て、決定したということだった。こちらとしては歓迎すべき出来事だ。
暗い顔で、怯えながらこちらを見ていた子どもたちも、元気に外を走り回っている。
白衣から出されたフードは現代社会において、栄養学的な深い研究の末、安全性も十分以上に考慮されて作り出された物。近年のペットの寿命が延長していることに多大なる貢献をしている。
一部の人間は、腫瘍や心臓病、腎臓病などの原因をメーカーの作ったフードのせいにするが、実際は逆だ。メーカーの質の高いフードがペットの寿命を伸ばしたことによって、以前は高齢でかかる病気になる前に死んでいた動物が、高齢の生物なら起こし得る病気にかかるようになったのだ……
閑話休題。
とにかく、村人たちはたった一日で目には生気が満ち溢れ、肉体までもたくましくなったようにさえ感じる。
何台かの馬車に乗車してもらって、村での生活を支える民となってもらう。
「比較的近い場所にも、隠れ里があります」
長からも新たな情報を得ることが出来た。
そして、同じような生活をしている獣人たちを、最初の村の人々が説得し、闘気の導きとドッグフードによって、それからは驚くほどスムーズに住人勧誘が成功する。
流石に何度か村に寄りながら、保護する範囲を広げていく。
もちろん村の受け入れ体制もどんどん拡充してもらっている。
森の木々を大切にしながら、森と共に生きる。
獣人たちは多くの恵みをもたらす森に感謝する。
ドライアドがいるおかげで、超常現象のようなことも出来る。
例えば木の位置が少し邪魔だったら、お願いして移動してもらったりなんてことも可能だ。
その光景を見た獣人たちは、ドライアドを神格化し、森の使者として崇め始めるのだった。
一度軌道に乗れば、勝手に走り出す。
噂が噂を読んで、こちらから向かわずともあちらから多くの住人を引き連れてやってくる。
人間から逃げる最後の逃避行として、盛りの村へと旅をしてくる獣人も後を絶たなかった。
季節がめぐり、厳しい暑さから過ごしやすい天候に変わる頃には、森の村は、以前とは別次元の活気に包まれていた……
「まさか……獣人がこんなに幸せそうに暮らせる日が来るなんて……」
カフェは、そんな村の様子を見て涙ぐんでいる。
多くの獣人たちは同じ感想を胸に秘めている。
「いつまでも森の村じゃ不便だな、もう街と言っていいレベルだし、名前があったほうがいいな」
「タスクの国でいいじゃない」
「絶対に嫌だ」
「兄貴、カンナギはだめですか?」
久しぶりに聞いた……自分の名字……
むず痒いが、字面は好きだし、響きも悪くない。
「……悪くないかな」
「皆の者、聞けぇい!!
これよりこの地はカンナギ!!
獣人の聖地、カンナギとなった!!」
突然カフェが雄叫びのようにそう宣言する。
一瞬の静寂の後、獣人たちが一斉に遠吠えやら歓喜の声を上げて大騒ぎになった。
そしてそのまま建国の宴を始める! とか言い出して大宴会になってしまった……
仕方ないから、大量のドックフードを提供した。
調味料なんかもね、マナが減るし、なにより俺が死んだ後に困るからできればこの創造の力は乱用しないようにしている……
とんでもない力だ、この白衣は何なんだろう……
俺自身も仙人なんて存在になってるみたいだし……
そもそも、異世界転移って……
やっぱり、神様かなんかがチート能力をくれたってことかな。
当たりを見回すと、獣人たちが陽気に笑い合っている。
様々な獣人たちが、酒に、食事に、安全を手に入れて心の底から楽しんでいる。
その光景は、想像以上にオレの心を暖かくしてくれた。
前の世界で得られない、本当に動物にとって幸せを提供する。
純粋なそのことを、与える手伝いが出来たことが、想像以上に胸に染みている。
「なんで泣いてるのタスク?」
気がつけば隣にドライアドがいた。
そして、自らの頬に温かいものが流れていることを指摘され、初めて気がついた。
「あれ、なんでだろ?」
「ちょっと、何タスクを泣かせてんのよ!」
「いや、違うんだ、気がついたら涙が出ていた……」
「嬉しかったの?」
「……たぶん……」
「ありがとうタスク、貴方が居てくれたから、獣人は救われた」
「……泣かすなよ……」
カフェが珍しく真剣な表情で俺に告げるから、目頭が熱くなった。
照れ隠しに二人を抱き寄せた。
抵抗すること無く、二人が俺に身を寄せてくる……
この温かさも、俺のことを癒やしてくれる……
この世界で得た大切なものだ。
そして、まつりは続き、明るくなっても、幸せな声が森に響いていた。




