第三十六話 過酷な世界
「カフェ、カイ左側は任せた! 俺は右からのに当たる!」
「任せといて!」
「わかりました!」
馬車を破壊されたり、引く馬をやられればこちらの負けだ。
俺たち3人以外はしっかりと馬車を守ってもらいながら、打って出る事で被害を出さないようにするしか無い。
オークとゴブリン、それにオーガ……数十体の集団に今、俺達は襲われている。
獣人が隠れ住むような場所は、人の手が入らない場所だ。
つまり、危険な魔物が跋扈するような場所でなんとか生活の場を見つけ出し、必死に守って暮らしていることがほとんどだ。
結果として、そこに向かえば、その途中でこのような遭遇戦には何度もぶち当たる。
馬車を引き連れて移動していれば、隠密行動は不可能だ……
「ブオー! ブオー!」
俺が敵の真っ只中に飛び込んで大暴れをしていると、不利を悟ったゴブリンが角笛を吹き鳴らす。
「くそ! 仲間を呼ばれたか……皆、踏ん張れよ!!」
荒野に響く戦いの音、角笛を聞いて駆けつけた同数程度の魔物と持続的な戦闘に突入する。
「ウガアアアァァァア!!」
オーガの振るう巨大な棍棒が地面を叩き潰す。
身体を回転させ、ギリギリで避けそのまま一歩踏み込み闘気を込めた双拳を突き出す。
ボウッ!! と腹部に巨大な貫通孔を作り、オーガは崩れ落ちる。
味方の惨たらしく、圧倒的な敗戦にも、引いてはくれない。
半ば狂騒状態になりこちらに飛びかかってくる。
「くそっ、しつこい!」
気を練り闘気を高めて敵を蹴散らしていく。
抜き手で胸を貫き、手刀で首を落とす。
頭を踏み抜き、首を極めて命を刈り取っていく。
一瞬の気の迷いが、落命へと繋がる道への一歩となる。
「ラスト!! カイ! カフェ!」
すぐに左翼に加勢する。
二人はお互いの背を守りながら果敢に戦っている。
それでも敵の数が多い、未だに殲滅には至っていなかった。
俺の参戦で一気に攻勢に出て、敵を全滅させた。
「すみません兄貴……」
「いいから休め、少し痛いが我慢しろ」
傷の処置を手早く行っていく。
二人共少し大きめな外傷はあったが、命に別状はない。
暫く休むと疲労した顔色も回復していく。
獣人自体の回復力に、闘気のブーストは本当に強い。
「しかし、本当にこんなところで生活できるのか?」
道もまともに整備されておらず、俺が工夫して作った馬車も激しく揺れている。
魔物は多く、大地も作物が作れるような環境ではない、とても人が住めるとは信じられなかった。
「兄貴も耳をすませば気がつくと思いますが、水の流れる音がします。
たぶん、その周囲にいるはずです」
「人間にとって、危険なことで有名になって近づこうともしない場所に、私達の居場所があるの……」
「……俺達の話が、届くといいな……」
「タスク様の想いは儂らがしっかりとお伝えします」
「頼むぞ爺たち」
それからも幾度も敵に襲われながらも、ようやく河川脇に到着する。
「うん、魔物と異なる生物が利用しているね……こっちだ」
カイが水場そばの痕跡から獣人達の住居を突き止めてくれた。
「何者だ!!?」
もちろん、簡単には受け入れられない。
まずはカイとカフェ、それに爺らが説得に当たる。
そして、食料や物資の提供、これは合流しなくても置いていくことに決めている。
折衝を任せて馬車を守る獣人たちと、野宿を覚悟していると……
「タスク様、代表者がお会いしたいと」
「俺が人間であることは……?」
「伝えてあります」
「そうか、向かおう」
それから俺は彼らの集落へと入る。
崖の下のくぼみを利用して外敵への備えを作っている。
その結果、薄暗くジメジメしている。
半地下のようなテントが彼らの家なのだろう、清潔さとは程遠く、ところどころにシダや苔、それにカビも繁殖している。
獣人たちは恐れと怒りが混じったような視線を浴びせてくるが、姿を表しては来ない……
「はじめまして、タスクです。彼らの代表者をやらせてもらっています」
「……本当に、人間が、獣人を従えているのではないのか?」
「あに、タスク様は我々を縛ったりはしない、自由を与えてくれる。
タスク様の元で、本当に幸せな生活をさせてもらっている。
与えられるだけではない、持ってきた食料の殆どは、我々が自ら育て、狩り得たものだ。
きちんとした生を送れている。
紛れもなくタスク様のおかげだ」
「信じられない」
「だろうな……信じて欲しい、としか言えない。
少しだけ、過去の話をさせて欲しい……」
それから俺はこの世界に来てからの散々な経験を話す。
異世界人であることも、以前の世界では獣医師であったことなどを全て話した。
「……確かに、他の人間とは違うことは理解したが……
長い年月をかけてようやく作り上げたこの地を捨てるのは……」
「確かに、苦労したんだろうな……」
「森の村はこことは比べ物にならないほど快適だぞ?」
「カイ、違うんだ。そういうことではないんだ……ここには、思い入れがあるんだよ……
商人とかと取引はあるのか?」
「あ、ああ……かなり移動しなければならないが、人間の商人と取引をする場所はある。
あちらも人間の中で生活しづらい生い立ちの者が集まっている場所だ」
俺はこの地に来るまでに手に入れた魔石を彼らの目の前に置く。
「これを使えば少しはいい買い物が出来るだろう。
俺たちも無理やり連れ去るつもりはない、この地で頑張るのなら、応援する。
自由に使ってくれ」
「こ、こんなに大量の魔石……いや、とんでもない価値が有りますが……?」
「そうだな、もう一つ与えられるものがあったな……
長よ、私の手を握れるか?」
「え、ええ……」
村長は恐る恐る俺の手を握る。
肉球の感触は、ガサついており、苦労が知れる。
「少し熱くなるが、驚くなよ」
俺はゆっくりとマナを回し、闘気を満たしていく。
「お、おおお……!? おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
「長!? 貴様、何を!?」
「だ、大丈夫だ……おおおお……これは……気持ち良い……!」
目を輝かせて受け入れてくれた。
そして、これがきっかけとなって、他の村人も興味を持って、全員にこの作業を行う事になった。




