第三十二話 風使い
ワーワーと人が争う声、街の中には既に人の姿はない。
気配を探るともと領主の館に皆避難している。
兵士たちは各門を守護しており、本隊は攻撃の受けている門の守護にかかりっきりだ。
門には敵の魔法使いの強力な魔法による攻撃が激しく、今にも突破されかけている。
「助太刀する!」
門の上に立ち、敵の魔法を阻害する。
敵の魔法を白衣で吸い上げて、マナへと変換する。
敵兵にかけられていた強化魔法や、狂乱の魔法も吸い込んでやる。
「皆! 合わせろ! アオーーーーーーン!!」
少し恥ずかしいが、俺と獣人達によるオーラを利用した遠吠え。
精神干渉を起こして、敵兵の恐怖心を煽る。
先程まで魔法によって狂乱状態になっていた兵は、毒気を抜かれた瞬間に精神を揺さぶられ、効果は絶大だ。
腰を抜かす者、逃げ出すものが多発する。
ゴウッと風の刃が俺に向かって放たれるも、白衣が吸い込んでいく。
「あそこか……」
周囲で暴れまわる馬によって大混乱している中、堂々と馬にまたがりこちらに魔法を放ってきた人物を見据える。
「何者だ?」
魔法使いの声は何らかの魔法の手段によって、まるで直ぐ側で話しているかのように聞こえる。
どうやらこちら側の兵士も、敵兵も同様らしく、潰走状態になりかけていた兵士の冷静さを取り戻していく。怪しい精神支配は乗っていないみたいだが、その暗く、低く、冷たい声と言葉に自然とそういった力が宿っているんだろう……
「助っ人だ。この街には世話になってるからな」
「獣共を従え、魔人のたぐいか?」
「それは否定する。おれは魔人と敵対する存在だ。しかし、人間の味方でもない。
強いて言えば、獣人や動物の味方だ」
「はっ! 酔狂なやつだ……
人が魔物に怯えずに過ごす、そのために俺は戦っている。
貴様らの邪魔はせん、この街を渡さんか?」
魔法使いがフードを外しこちらを睨む。
魔法使いと言うか、まるで格闘家か何かかと言うようなたくましい肉体だ。
出会う場所が場所であれば是非手合わせをお願いしたいくらいだ。
短く刈り込まれた髪に鋭く、こちらを居抜き殺す勢いの眼力でこちらを睨んでいる。
「この街を手に入れてどうするつもりだ?」
「人を呼び、大きくする。
そして、力を手に入れ、魔物を退治して、さらに人を増やしていく!」
「獣人や動物は相変わらずモノ扱いか?」
「ふむ、もし貴様が味方になるというなら、考慮しようではないか?」
「んで、お前はどういう立場になるんだ?」
「俺は力だ、魔物を殺す力になる!」
「……魔物を憎むのに魔法は使うんだな……」
「……? どういうことだ?」
「魔法の力、使えば使うほど魔物を生み出す穢を作り出すことに気がついていないのか?」
「なに……?」
「魔法の源はマナ、そして、魔法を使うとマナは魔素へと成る。
魔素は生物を穢し、魔物へと変える」
「はっ! 語るに落ちたな魔人!!
マナこそが魔物、魔人の糧!
魔素こそ人類が生き残るための最後の力!!
やはり貴様は人間の敵、魔物共の長、魔人だ!!」
「ったく、馬鹿が……」
「わが全てを奪いし魔物の長……我が手で引き裂いてくれる!!」
ぶわっっと風が魔法使いの身体を包む。
「まずっ!」
俺は城門を蹴り、空中に飛び立つ。
同時に大砲の様に魔法使いの巨体が、こちらに吹っ飛んでくる。
オーラを纏ってその弾丸を受け止める。
「フハハハハハ!! よくぞ受け止めた!
俺の名は風使いガリウス! 魔物を葬ることを生業にしている!
魔人よ、滅びるがいい!!」
「魔人じゃね-って言ってるだろうが!!」
風の障壁に手を突っ込み、首根っこを掴んで地面に叩きつける。
そのそばに着地するが、まだ受けた手が痺れている。
「手を出すなよ、こいつは俺の得物だ!」
「カフェ、カイお前らも手を出すなよ、この馬鹿の目を覚まさせてやる!」
飛び道具は俺の白衣で無力化されることがわかって、ガリウスは自己強化に特化して攻撃してくる。
「お前、もともとこっちの戦い方か!」
拳が飛び交い、蹴りが交差する。
「ああ、貴様もか、俺と打ち合える人間がいるとはな!」
喋りながらも目突き、金的、なんでもありだ。こいつは喧嘩慣れしてやがる……
「貴様も多くの人間を拳で殺してきているな?」
「違うな、俺は武道だ!」
大振りなテレフォンパンチを廻し受けし、崩れた身体に膝を叩き込む。
身を守る風の障壁を食い破り、膝が腹にめり込む。
「ぐあっ! おのれ!!」
「魔法による外の強化では俺には勝てないぞ」
「はっ! なら貴様の力はマナ、魔人や魔物と同じではないか!」
「マナを利用して闘気に変える。闘気はより多くのマナを生む。
自覚しているだろ、自分の魔法が強力になっていること……
そして、魔素よりもマナが満ちたこの場の清浄、清麗な雰囲気を感じているだろ」
「……しかし……」
「少しは話を聞くきになったか?
魔素が魔物を生む証拠を見せてやる……ついてこい」
俺は、ガリウスと共に森へと飛んだ。
「タスク、こっちに有るわよ」
「な、何だ貴様は……!?」
「精霊、って存在だ。魔人が精霊と共にあるわけ無いだろ?」
「せい……れい……」
ガリウスが目を見開いてドライアドを見つめている。
この世界の人間にとって精霊という存在はおとぎ話の中の話だ。
すぐには信じられないのも無理はない……
「美しい……」
ガリウスの口からとんでもない言葉が飛び出した時、魔素溜まりからまさに魔物が生まれようとしていた。