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第二十四話 森の日常

 肌寒い風が顔を突き刺してくる。

 眼下に広がる一面の緑の絨毯……森林を木から木からへと飛び移って移動している。

 見慣れたこの景色もだんだんと冬の表情に姿を変えている。

 空は高く青が深く、遠くに見える山々も鮮明に映し出している。

 こんな広大な森の奥深くに隠れ住み、僅かな恵みで食いつなぎながら行きていた獣人たち。

 たぶん、古くより同じように暮らす者たちも居るのではないかと思っている。

 それだけこの森の懐は深い……

 

「廃墟はいくつもみたしな……」


 何らかの理由で打ち捨てられたり、場合によっては遺体もある廃墟は発見した。

 生活の質は、最低だったのだろうな、異臭が立ち込め不浄な場となっている廃墟も少なくない。

 森の中での生活は、厳しい。

 間伐の知識や多少の農学の知識もあり、そしてこの白衣による力があるから、森に獣人の安住の地を築くことが俺の目的だ。


「ん……あれは……」


 俺は異変を察知してマントを身にまとう。

 白衣は目立ちすぎるのでその上から迷彩に染め上げたマントをかぶるのが森での警戒時のスタイルになっている。

 俺が発見したのは、煙だ。いわゆる炊事など、窯や焚き火など小規模な火種から上がる煙。

 それが上がっている。

 俺は気配を消しながらその煙のもとに駆けつける。


 その光景に……しばらく思考が追いつかなかった。

 生い茂る木々の中でわずかに開けた場所に、住居と思わしき木々と草で作られた簡単なテントが3つほどある。

 その広場の中央に焼き場があり、煙はそこから立っていたのだが……

 火勢も弱く多くの煙の隙間から焼かれているものが見える。

 それは、毛の生えた人の形をしていた。

 亡くなったと思われる獣人が焼かれていた。

 そして、最も衝撃だったのはそれを焼いているのが小さな二人の子どもだった。


「にーちゃん……おなか空いたよ……」


「……」


「ねー、にーちゃんとーちゃんとかーちゃんはまだ起きないの?」


「……」


「ずっと寝てたから温めてあげてるんでしょ?」


「……」


「……にーちゃん……」


 兄と妹なのだろうか、顔は見えないが、兄と思われる獣人の肩が震えている。

 現在の状況を理解できる年齢なのだろう、しかし、妹はまだ小さく現状を理解できていない。

 たぶん、両親が力尽き、子供ながらにこれから襲い来る飢えや苦労の先にある自分の運命で恐ろしい恐怖に襲われているのだろう……


 俺は、わざと足元にあった枝を踏み折った。


「誰だ!?」


 兄と思われる子供は妹をかばいながら直ぐにこちらに向き直る。

 なるほど、まだ若い。

 これから冬にかけての準備で毛がもっこもこになっている狐に似た外見だ。

 たぶん、洗えても居ないのか、身なりはかなり汚れている。

 妹も似たような姿で、よく見れば洋服もなにか布を結んでいるだけ、本当に原始的な生活を送った痕跡が見て取れる。

 

 出来る限り警戒を解くために俺は両手を上げて敵意がないことを示しながら木の陰から姿を表す。


「……まさか人間!?」


 妹の手を引いて、俺と更に距離を取る。


「確かに俺は人間だが、人間からひどい目を受け、今は獣人と暮らしている」


「こんな場所に、人間が来るのは狩りだって教わった!」


「狩りだとしたら姿を表したりはしない、弓で打っておしまいだろ?」


 俺は腰の弓を指し示す。


「……じゃあ何のために来た?」


「煙が出ているのが見えたから……俺は獣人の村でまとめ役をしている。

 森の獣人がいれば話をして、望むなら村に呼んでいるんだ」


「嘘だ! この森で他人を養う余裕のあるやつなんて居ない!

 出逢えば奪い合いになるってとーちゃんが言ってた!」


「そうだな、その状況を少しでもよくしたいと思っているんだ。

 信じてもらえないのはよくわかっている、俺もひどい目にあったからな

 すこし、わかってもらえるかわからないが、かばんから荷物を出していいかな?」


「なにするつもりだ?」


「少しでも信じてもらえるように、俺が与えられるものを見せたい。

 受け取るも受け取らないのも自由だ。毒が怖いなら俺が先に食べても良い」


「たべもの!?」


「ばか!! 出てくるな!」


 俺は刺激しないように出来る限りゆっくりとかばんから今日の昼に食べるつもりだった弁当を取り出す。いまいち膨らみの悪い小麦を卵と練って焼いたパンモドキと干し肉、本当は検体を入れる瓶に入れた野菜スープだ。皿にそれらを並べて、スープはちょっとマナを利用して温める。

 シルバートレイの上にそれらを並べて再び兄妹から距離を取る。


 グーーーギュルルル。


 兄の腹が食事に素直に反応してしまい、慌ててお腹を殴って苦しんでいる。


「村に帰ればまだ用意がある。

 状況はある程度理解しているつもりだ、村が気に食わなければまた出ていくのも止めはしない。

 とりあえず、後ろの妹さんがよだれの出し過ぎで倒れる前に食べてみてくれないか?」


「くっ……動くなよ?」


 兄は恐る恐る食事に近づき、少しパンをちぎって口に入れた。


「あ、あ…………食べていいぞカエデ」


「ほんと!? …………お、おいしーーーー!!」


「すまんな、今はそれしかない……いや、あるはあるんだが……」


 ドックフードやキャットフードはなるべく出したくない……


「はい、にーちゃんも食べて!」


 腹が空いているだろうにきちんと半分は兄のために残す姿に、仙人となり久しく忘れていた感動が目頭を熱くさせた。

 兄も同じ気持ちだろう、気持ちいいほどにがっついて、皿をなめる勢いで平らげた。


「何日くらい食べてないんだ?」


「……5日過ぎてからは数えていない、なんとか果実があったからそれで喉はなんとかしてた……

 父ちゃんと母ちゃんが倒れてからは……」


「そうか……よく頑張ったな」

 

 それだけ空腹でさっきの食事で大丈夫か少し不安にもなったが、久しぶりのまともな食事で満面の笑顔の妹さんを見ていれば、これで良かったと思える。


「それで、どうする? 一緒に来るか?」


「……父ちゃんと母ちゃんを、ちゃんと、してやりたい……」


「わかった。それは手伝っていいか?」


「……うん」


「ありがとう」


 それから、テントの資材を使って火を盛大に焚いて二人の両親を弔い、深く地面を掘り、そこに埋葬した。

 浄化のマナを混ぜながらご遺体を焼いて、土にもたくさん含ませた。

 二人の体は森の糧となり、豊かな場所に変わるだろう……


 俺の身体能力に二人は驚いていたが、兄は別れのときに堰を切ったように泣いていた。

 妹も、その兄の様子から何かを察したようで、二人抱き合って泣いていた。

 俺には二人を抱きしめるくらいしか出来なかった。


 コレが、森ではよくある、いや、これでも幸運な方なのだ……




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