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第二章 初めての労働⑤

またちょっと間が空いて申し訳ないと思っています。

「まぁまぁ食べられたな」

「けど身体が小さいから食べられる部位が少なめでしたね、ガイアさん」

「そうだな、それに筋が多かった印象だ」

「あんま獣くささはなかったな」

「ベルゼ、お前もそう感じたか。それは木の実を食ってるからだろうな」

「商材としてはいまいちッスかねー」

「そうだな、食える量と捕る手間を考えたら俺たちならやっぱり猪とかを捕まえたほうが良さそうか」


 昼食が終わって少し後。オークたちは食べたばかりの猿の肉について感想を言い合っていた。

 捕まえた猿は全部で五匹。そう聞けば多いように感じるが、そもそも猿の体が小さいため一匹から取れる肉の量はたかが知れている。オークたちは不満げだった。


「ただ、客が食べるならまた捕ってもいいかもな。……エリカ、人間の立場から見て、味どうだった?」

「えっ」

 話を振られたエリカは、絶賛ダウナー中だった。熊やイノシシはともかく、猿の肉を食べることはエリカにはなかなかに衝撃的な出来事だったのだ。


「えーっと……あまり美味しくなかったと思う」

 それでも、食べてみての素直な感想はちゃんと答える。


「小骨が多くてちょっと食べにくかったかも」

「あー、小骨か。俺たちは気付かなかったな」

 オークは小骨などあんまり気にせずに食べてしまう。気づかないとしても仕方のないことだった。


「それと、味云々よりも猿は人間と似てるから心情的にも積極的に食べたいって思う人はあまりいないと思う」

「ふむ。味よりも心情か。人間らしいな。それじゃ、手間もかかるし猿は駆除が必要な時だけ狩る感じにするか」

「「「わかりました」」」

 ガイアがそう締めると、オークたちは声を揃えて返事をする。そして、食事の後始末をしたら再び山の中を進んでいく。この後は仕掛けていた罠に獲物がかかっていないか見て回りつつ、手頃な獣を狩る予定だった。


 そこでもエリカは大いに活躍した。矢で野鳥を数羽、射落としたのだ。

「やるじゃないか、エリカ」

 これにはガイアも息巻いた。エリカの力を信じていなかったわけではなかったが、予想以上の実力だった。エリカは手頃な野鳥を射落とし、負けず嫌いなザクイーですらも「……ふん! まぁ認めてやってもいいぜ!」と唸らせるほどだ。


「さすが騎士見習いだな、見直したぞ」

「ふふん、そうだろう」

「……そういうところだぞ」

「? どういう意味だ?」

 褒められた途端に調子に乗るといういつも通りな一面を見せたが、それはご愛嬌。


 もちろん、弓矢の腕などの戦闘技術だけではない。絶え間なく周囲を警戒するのもそうだが、何よりもガイアたちを驚かせたのはその鋭い感覚だ。遠くの小さな物音を聞き逃さず、また、遥か遠くで休んでいる獣を見つけることができたのだ。


「あそこにイノシシがいる。油断しているな」

「……どこだ?」

「あそこだ」

 エリカが指差すが、オークたちは誰一人として見えない。

「ちなみに、視力いくつ?」

「学校では計測不能と言われたな。まぁ、ルメール村くらいの規模なら、端から反対の端に立つ人が何を持ってるかくらいなら鮮明に見える程度だ」

「…………」

 揃ってオークたちは絶句したのは言うまでもないだろう。

 絶句しているオークたちをよそに、エリカは忍び寄っていた蛇にナイフを投げて同僚を助けさえした。


 果たしてエリカの言った場所に確かにイノシシはおり、ガイアの指示のもと、そのイノシシを狩ったらその日の業務は終了となった。


 * * *


 今日の収穫は、猿を除けば、罠にかかっていたシカと野鳥が数羽、そしてイノシシが一頭。

 これは、狩猟班が一つしかなかったことを考えれば大収穫と考えるべき成果だった。

 しかも野鳥とイノシシはほぼエリカ一人の功績と言ってもいい。

 完全に予想外だった。最初に戦った時にそこそこ戦えるとは感じていたが、それ以上だ。人間を甘く見ていたと、ガイアは唸る。


 オークの苦手な弓矢を使え、さらには鋭い五感……まさに、今のオーク商店に必要な人材だった。即戦力どころの話じゃない。一人で五人分くらいの活躍をしてる。

 まだ解体の知識はないようだが、土台となる技術はあるし、度胸もある。かわいそうだから殺せないとか言うことなく、ガイアの指示さえあれば手際よく淡々と肉に刃を入れていく様は頼もしくさえあった。これも騎士学校での教育の賜物だったのだろうか。


 また、猿肉の感想を求めたときも、その場の空気に惑わされることなく上司の自分に物怖じせずに自分の意見を言った。これもガイアにとって非常に高い評価をつけざるを得ないものだった。単に、ファーストコンタクトの時点で殴り掛かってきたわけだし、繕う気がないのか。それとも、有期雇用なのだから媚びる必要がないと思っているのか。それとも――

 当のエリカはというと、他の社員たちにおだてられ、能天気なアホ面をかましていた。先ほどまで凛々しい目つきで弓を絞っていた者と同一人物だとはとても思えない。収穫した肉はすべて精肉班に届け終わり、今は定時まで自由時間とはいえ、ゆるすぎる。何も考えてなさそう。

(ただそういうこと考えない性格なのか、だな……)

 なんとなく、それが正解のような気がしてくるガイアだった。


 ともかく、今日はベルゼの班と合同で狩りを行ったが、これなら明日からガイアとエリカの二人で山に入っても問題なさそうだ、とガイアは安堵した。

(それにしても、騎士団ってのはあんなに優秀な奴らがいるのかね……それとも、エリカが特別優秀なだけか?)

 確か彼女は、自分は騎士学校の中でも特に優秀な成績を修めていると言っていた。内定のためにオーク退治なんてちょっとアレな思考をしている者の自己申告など当てにならないと思っていたが、本当にかなり優秀なのかもしれない。

 あの若さでここまで強いのなら、これから先、経験を積めばさらに強くなるだろう。そう感じさせるほどの力を、エリカからは感じていた。


(しっかし、こんだけやれるのに騎士団には入れないのか……)

 それと同時に、ガイアの胸中にはやるせなさがあった。

 彼女が目指す騎士団。だが、極端な男性社会のため、女性は入りにくいという。あれだけの実力があっても覆せないルールは、いっそ理不尽とも言える。


 確かに、エリカは女性で、男性に比べたら力は弱いのかもしれない。しかし、それを補うくらいの技術があった。解体中だって、いつも力任せなオークの若い衆に比べてもスムーズに刃を入れることができる。彼女なりの努力が窺えた。

 だからこそ、惜しい。

 女性だからという理由だけで、落とし続けている社会が。

 彼女が騎士団に入ればより良い社会になりそうなのにな、と。


 ガイアはオークだ。この村のことしか人間社会のことはわからない。人間社会に対して何かできるわけではない。

 ただ、祈る。

(やりたいことがやれるといいんだがな)

 そこまで考えたところで、定時になり、


「何かお祈りって言われた気がした!」


 第六感までも鋭いエリカがそう叫んだ。

次回、夜勤編!

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