「新田くんの歴代の彼女って、美人な人ばっかりだったんだって。」前編
「新田くんの歴代の彼女って、美人な人ばっかりだったんだって。」
そう言ったのは、更衣室で前髪を巻き直していた真由だった。
私はロッカーの鏡に映る自分の顔を見ながら、「ふうん」とだけ返した。
美人、の定義ってなんだろう。
目が大きいとか、スタイルがいいとか、笑うとえくぼができるとか。
少なくとも私は、そのどれにも当てはまらない。
学生時代に辛いフラれ方をして以来、恋愛の主役になるのはいつも別の誰かだった。
新田くん…新田昴は、同じ部署で、三つ隣の席。
資料を渡すときに「ありがとう」と目を見て言う人で、それだけで胸に小さな灯りがともる人だった。
先週から、“新田くんの歴代の彼女は美人ばかり”という噂が、給湯室や更衣室で囁かれていた。
その噂だけが一人歩きして、本人はいつも静かだった。
ある水曜日、終業間際に声をかけられた。
「白石さん、今日この後予定ありますか?
ご飯行きませんか?」
一瞬、息が止まりそうになった。
声をかけてきたのは噂の新田昴。
今日は週一度のノー残業デー。
「はい、いいですよ。」
予定もない。
断る理由もない。
きっと特別な意味なんてない。
そう思い込みながら、私はうなずいた。
手早くデスク周りを片付けて、退勤打刻。
更衣室をそそくさと出ていく。
オフィスを出たエレベーター前で、彼は待っていた。
「急にごめんね、行こうか」
どうやら店は決まっているようだ。
歩きながら話すのは他愛のない話。
仕事のことだったり、上司の口癖だったり…
2人でいるところを同じ会社の人に見られたら、どう思われるんだろう…。
胸の内側で、心臓だけが少し早足なまま店に着いた。
連れて行かれたのは洒落た店でも夜景の見える場所でもなく、駅前の古い喫茶店だった。
穴場なのか、すぐに案内された。
「ここ、夜はメニュー少なめだけどディナーセットもやってるんですよ。安くて美味い。」
メニューを見ていると、新田が急に言った。
「白石さん、僕の噂、聞いてますよね」
持っていたお冷がグラスからこぼれそうになる。
彼の目がまっすぐ私の瞳を見ていた。




