表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏アカで同僚のアイドルの推し活していたことがばれました  作者: 木山楽斗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/10

第6話 世間に裏アカウントがばれました

 玲奈とデートをして、少し距離が縮まったような気がする。

 そう琥珀さんに報告すると、喜んでもらえた。「紬ちゃんに任せて良かった」、彼女にそう言われて、なんだか少し誇らしい気分だ。

 とはいえ、これからのことは少々心配であった。玲奈とは問題なく友達としてやっていけるだろうけれど、アイドル活動という面に関して。


 私は玲奈の傍にいると決めた。陽依さんや水瀬さんからも色々と教えてもらって、それから何よりもファンとも会えたことだし、アイドルをやめる気なんてもうない。

 しかしそのように決意すると、自分が色々と不足していることがより如実にわかってきた。アイドルとしてやっていくために、私は努力をしなければならない。


「おはようございます……って、あれ? 木下さんに、社長……?」


 こういったことはマネージャーである木下さんに相談するべきだろう。そう思って事務所を訪ねた私は、少し驚くことになった。

 私が所属している三鷹(みたか)プロダクションの社長である一条(いちじょう)剛健(ごうけん)さんがいたからだ。普段は社長室にいる彼が、執務スペースがあるこちらに来ているなんて珍しい。

 いや、珍しいなんてことを言っている場合ではないか。いつもはいない社長がいるということは、何かが起こっているということだろうし。


「……佐藤か。丁度良い所に来たな」

「佐藤さん……」

「うぇ?」


 社長と木下さんの言葉に、私は思わず唸っていた。

 このタイミングで丁度良いなんて言われたということは、何か問題が起こっていて、その原因が私にあるとでも言うのだろうか。


 何か悪いことをしたっけ? 玲奈と遊びに行ったことがまずかったのだろうか。事務所の中心である彼女は、気軽に連れ出してはいけなかったのかもしれない。

 とはいえ、私は彼女の友達だ。例え何を言われようとも、強く心を持ってみせる。


「あの、何かあったのでしょうか?」

「むぎりん」

「……え?」

「あなたのユーザー名よね?」


 木下さんの口から出た名前に、私は固まることになった。

 むぎりん、その名前をどうして知っているのだろうか。いや、それは考えるまでもないことだ。私のアカウントが――裏アカウントが発覚したのである。

 いや、違う。問題はどうして、それが発覚したのかということだ。玲奈がばらす訳もない。それならつまり――


「……今日、むぎりんというアカウントの存在が発覚したわ。あなたの裏アカウントだという情報が拡散されているの」

「わ、私の裏アカウント……」

「その情報に、誤りはないかしら? 事務所としては、それを確認しておきたいの」

「……はい、そうです」


 私は木下さんの言葉に、ゆっくりと頷いた。

 ここで嘘をついても仕方ない。事務所には包み隠さず話すべきだ。


 そもそもの話、あのアカウントを残しておいて、その上事務所に話していなかったことが問題だったといえる。

 あの頃から私は、アイドルとしての意識が低かったのだ。今ならもう少しくらい、それらしい対応をしていただろうけど。いや、それは所詮言い訳か。


「……はあ、そうなのね」

「申し訳ありませんでした。今までそのアカウントのことを隠しておいて……いえ、そもそもの話、裏アカウントを作っていたのが間違いでした」

「まあ、作ったのは随分と昔のようだけれど……」

「そうですね。三年前に作ったアカウントです」


 木下さんは、ゆっくりと重たくため息をついた。それは当然のことだろう。裏アカウントの存在なんて、良いものではないのだから。

 それはPentasのイメージを、著しく下げるものかもしれない。私の短絡的な行動で、それを招いてしまったというならば、それはなんとも申し訳ない限りである。

 私は、どう償えば良いのだろうか。それはわからない。でも私は、Pentasにいたいと思っている。皆と一緒に、玲奈の隣に私はいたい。


「あの、私はどうすれば良いのでしょうか?」

「どうすればって、それは……」

「……良い目をするようになったな」

「え?」


 私が木下さんに質問を投げかけていると、それまでずっと黙っていた社長が口を開いた。

 社長は笑っている。この状況には不釣り合いなほどに楽しそうに。それは私が叱られる所を面白がっているという訳ではなさそうだ。

 社長は私の目を、真っ直ぐに見てきている。その眼光はなんとも、鋭いものだった。


「佐藤、何か変化があったようだな。何があったのかを、殊更聞こうとは思わないが……」

「あの、社長? 急に何を……」

「木下、少し私に話をさせてくれ……佐藤、君は過ちを犯した。アイドルとして、裏アカウントを持つということは迂闊なことだ。そこから情報が漏洩するかもしれない。グループのメンバーに迷惑をかける可能性もあった。それは理解しているな?」

「は、はい……」


 社長の言葉に、私は背筋を伸ばす。鋭い視線を向けながら放たれたその言葉は、私を咎めるものだった。

 ただそれは、当然の誹りだ。私は本当に、愚かなことをしていた。いつまでも一般人気分で、迂闊な真似をしていたのは私の失態としか言いようがない。


「……えっと、佐藤さん。一応、あなたのむぎりんとしての呟きは、問題になるようなものではなかったわ。一通り目を通したけれど、あなたは本当に日常のことを呟いていただけだったみたいだし、もちろんアイドルとしては迂闊なことではあったけれど」

「木下さん……」


 社長が叱ったからだろうか、木下さんは逆に優しい言葉をかけてくれた。

 それは私にとっては、ありがたいものである。しかしそれに甘えてはいけないだろう。私はしっかりと、反省しなければならない。


「まあ、そのあなたの日常というものが、玲奈と密接に結びついていたことは驚きだけれど」

「そ、それは……」

「あなた、玲奈の大ファンだったのね……知らなかったわ」


 木下さんは、苦笑いを浮かべていた。私の呟きの数々、それに本当に目を通してきたのだろう。その表情からは、それが伝わってきた。

 ファンだということは陽依さんや琥珀さんにもばれたことだが、あの二人はChirptterを見ていない。ただファンだと聞くのとは、訳が違うはずだ。


「佐藤、問題はそこだ」

「……え?」

「君が玲奈のファンだった。この事実が何を表しているか、わかるか?」

「え? 何を表しているか、ですか……」


 社長の言葉に、私は少し考えることになった。

 私が玲奈のファンだったこと、それがどうかしたというのだろうか。いやもちろん、ファンが同じグループに潜り込んでいるなんて、ストーカーめいたことかもしれないが。


「えっと、私は決してストーカーとかそういうものではなくて、ですね……」

「……その点について、君の行動を咎めている訳ではない。むしろそれは、強みと言える。同じグループに属する者に憧れて、アイドルになった。そのエピソードは強い」

「強い、ですか?」

「さらに言えば、君のその憧憬は今回の一件で偽りではないと裏付けられた。それは人々の心を揺さぶるものだ」


 社長は笑っていた。それはなんとも、悪い笑みだ。元々人相が怖いと思っていたけれど、今の笑顔は本当に悪人のようである。

 私は、木下さんの方を見た。彼女も引いている。ただ木下さんは、すぐに首を横に振った。彼女は何かを思い出したのか目を見開き、社長に詰め寄る。


「社長、まさかとは思いますが、今回の一件を利用するつもりですか?」

「そうだ? 何か問題があるか?」

「あるに決まっているでしょう? むぎりんのアカウントは、佐藤さんのプライベートな部分ですよ? それを利用するなんて、あんまりじゃないですか」

「しかし、最早ことは広まっている。むぎりんのアカウントの呟きは、既に消えないものとなった。それは必ず、佐藤紬と結びつくことだ。既にネット上で、話題になっている」


 木下さんと社長の口論に、私はスマホを見た。

 社長の言う話題、それは一体どういうことなのか。私はとりあえず、佐藤紬という名前でエゴサーチしてみる。

 すると画面上に、様々な言葉が表示された。私はそれに目を通していく。


<Pentasの佐藤紬、裏アカ発覚!>

<佐藤紬の裏アカ、マジで玲奈のファンじゃん>

<裏で推し活してたとか笑えるわw>

<裏アカ発覚したけど、好感度あがったわ。てか、玲奈様のこと好き過ぎじゃね?>

<れなつむっていうか、つむれなかな?>

<プライベートで出掛けてこればれるとか、できすぎてるだろ。って思っていたら、三年前からあるアカウントだし、マジなのか……>


 ネット上は、かなり湧いているようだった。

 有名な玲奈有するアイドルグループのメンバーの裏アカが発覚したのだから、それは当然のことではある。


 ただ、湧き方というものが奇妙なものだった。私と玲奈、その関係性が注目されている。

 よく見てみると、先日玲奈と出掛けた時に女の子と撮った写真が拡散されていた。どうやらこの写真をきっかけに、私とむぎりんが結びついたらしい。


 今まで見たことがない程に、佐藤紬やむぎりんという名前が目に入ってくる。

 自分が話題になった。その事実に私は震える。それはとても怖いことだったからだ。


「理解したようだな、佐藤」

「社長、あのこれって、一体……」

「今君は、世間に求められているということだ。佐藤紬が、むぎりんがな」

「求められている? 私が?」


 社長が言っていることは、よくわからなかった。

 これは本当に、求められているということなのだろうか。いや違うはずだ。人を惹きつけるということは、玲奈のように光り輝くということで――これは違う。


「……私は、玲奈みたいに輝けている訳ではありません」

「玲奈のように? なるほど、確かに玲奈には人々を惹きつける天性の才があるといえる。しかしそれは、所詮玲奈の輝きだ。君の輝きとは違う」

「私の輝き?」

「私は、君に素質があると思ったからPentasの一人として採用した。思っていた通りだ、君は今、チャンスを引き寄せている」


 社長の鋭い視線が、こちらに向く。それはまるで、私を試しているかのようだ。

 私の額から、ゆっくりと汗が流れる。この状況がチャンス、本当にそうなのだろうか。

 確かに、Chirptterは盛り上がっている。佐藤紬という名前が、こんなにも注目されたのはこれが初めてのことだろう。


「社長、これがチャンスなんて、そんなことは……」

「木下、君とてわかっているはずだろう。佐藤の裏アカは、悪いものではなかった。その存在は、佐藤紬を舞台の上にあげ、評価を上げている。この状況を我々は利用するべきだ。チャンスというものは、そう回ってくるものではない」

「それは……」


 社長の言葉に、木下さんは押し黙る。彼女としても、その意見には同意できる部分が、あるということなのだろう。

 もしもそうだというならば、私はこのチャンスを逃してはならない、気がする。この世界は簡単なものではない。それは私もわかっている。


 私は、玲奈の傍にいると決めた。ファンの存在も知ったし、今はアイドルでありたいと思っている。

 そのためには結局の所、成り上がっていくしかない。いくらやる気があっても、人気がなければ生き残ることなんてできないのだから。

 私は拳を握りしめる。当然のことながら、まだ怖かった。でも勇気を出す。ここで突き進めなければ、もう一歩を踏み出すことなんてできないのだろうから。


「……木下さん、社長、私、やります」

「佐藤さん? あなた、何を……」

「これがチャンスだというなら、掴んでみせます。私は……玲奈の隣に立っていたいんです」

「ほう……」


 私は、ゆっくりと自分の気持ちを口にした。

 それに木下さんは、目を丸めている。しかし社長の方は、笑っていた。また楽しそうに、嬉しそうに。

 これは、社長の口車に乗せられてしまったということだろうか。いや、最早それでも構わない。私は前に進んでいくと、決めたのだから。


「……だそうだ。そろそろ入って来たらどうだ?」

「……うん?」

「社長、何を言って……あら?」


 社長はそこで、私でも木下さんでもない人物に呼びかけた。

 一瞬混乱した私だったが、すぐにそれが誰に対するものであるかはわかった。

 なぜなら部屋の中に、その人が入ってきたからだ。鳳玲奈、私の友達は頬を赤らめながらこちらにゆっくりと歩いてきていた。


「れ、玲奈、聞いてたの……?」

「あ、ああ、すまないね、紬。盗み聞きするつもりは、なかったんだ。ただ入っていくタイミングがわからなくて……」

「社長、気付いていたんですか? その上で佐藤さんにあんなことを言わせて……」

「……別に聞かれて困ること、という訳でもないだろう。最早その程度揺らぐ佐藤ではないと、私は思っている」


 玲奈に聞かれていた。それは私にとって、かなり衝撃的なことだった。

 そのことで木下さんに詰められた社長は、私に視線を向けてくる。この程度で私が揺らがない。そう信じてくれているのだろうか。

 いや、別に普通に動揺してますけど? いるならいると言ってくれたら良かったのに。今日でちょっと、社長のことが嫌いになった。


「……なんだ、その目は?」

「社長って、意地悪なんですね?」

「そうなのよ、佐藤さん。この人ね、本当に滅茶苦茶で……」

「苦労していらっしゃるんですね、木下さん……」

「……まるで、私は悪者だな。まあ、別に構わないが」


 木下さんの大変さというものが、よくわかった。この人の元で働くなんて、それは苦しいことこの上ないだろう。

 とはいえ、社長が悪い人ではないことはわかっている。こうして面と向かって悪口を言ってもいいと、思えるくらいには。


「あの、玲奈……」

「う、うん。紬、何かな?」

「言ったことは、私の本当の気持ちだよ。私は玲奈の隣に、立っていたい。玲奈様としてステージで輝くあなたに、並びたい」

「そうか……それはもしかしたら、大変かもしれないよ?」

「そうだね。でも、やるって決めたから。時間はかかるのかもしれないけれど、それでも私は前に進んでいくから」


 私は、玲奈にゆっくりと言葉をかけた。自分の気持ちを噛み締めながら、進むべき道を私は改めて考える。

 それはなんとも、険しい道に思えた。しかしそれでも、前を向くことができた。それはきっと私の道を明るく照らしてくれる、友達がいてくれるからだろう。


「紬、君はどこまで私を……」

「玲奈?」

「……いや、ううん。嬉しいよ、紬」


 玲奈は私に、笑顔を向けてくれた。それはアイドルとしての笑顔とは、少し違う。玲奈の少女としての笑顔だと、私は思った。


「それじゃあ、玲奈、とりあえず、これからもよろしくね……」

「え? あっ……」

「玲奈?」


 私がそっと玲奈の手を取ると、彼女は目を丸くした。

 もしかして、嫌だっただろうか? いや、玲奈がそんなことを思うはずはない。恐らく、急に手を取ってびっくりしたのだろう。


 よく考えてみれば、そうだ。私はなんとも、らしくないことをしているではないか。

 大体玲奈の手なんて、お金を払わないと取っちゃいけないものである。どうかしていた、今の私は……


「ご、ごめんね。急に手なんか取っちゃって、私、調子に乗っているのかな?」

「いや、それは構わないんだ。ただ……」

「ただ?」

「……いや、その、ううん。なんだろうね? よくわからないんだ」

「うん?」


 私の謝罪に対して首を横に振った玲奈は、自身の手を胸に当てている。

 私が取ったその手が、どうかしたのだろうか。もしかして怪我とか? それなら一大事である。ライブももうすぐそこまで、迫っているというのに。


「今のは一体……」

「玲奈?」

「うっ……すまない、紬。君が先程、随分と嬉しいことを言ってくれたから、私はどうにも平静ではいられない、ということらしい」


 私が顔を近づけると、玲奈は少し後退った。

 その動きはちょっと悲しかったが、すぐに事情を話してくれたため、私の方も軽傷で済んだ。

 なるほど、今玲奈は動揺している、ということか。それはそうだろう。あんなことを言われた後なのだから。


 しかし考えてみると、私はなんとも大胆なことを言ったものである。もちろん本気で言ったことではあるが、今となっては少し恥ずかしい。

 社長のせいで、変なテンションになってしまったということかもしれない。そうだ、全ては社長のせいにしよう。深く考えると、ドツボにはまりそうなので、私は責任転嫁することにした。


「……というか、木下さん。私の裏アカウントへの対応をしないと駄目ですよね?」

「うん? あ、そうだった。そうだわ、早い所対応しないと……」


 そこで私は、すっかり忘れていたことを思い出した。

 今もまだ、むぎりんのアカウントは話題になっていて、きっと多くの人の目に留まっている。ぞの事態を私は、収束させなければならないのだ。

 あのツイートが、多くの人に見られているなんて、それは考えるだけでも恥ずかしい。元より全世界へと発信したものではあるが、今は私の顔も名前も割れている。


「があっ、これがデジタルタトゥーなの……」

「つ、紬、大丈夫さ。うん、紬は変なことは呟いていなかったし……」

「えっと、とりあえず謝罪文とか用意して……」


 落ち込む私を、玲奈は励ましてくれた。その横で、木下さんは謝罪などの準備を進めている。

 社長はいつの間にか、いなくなっていた。一応、各所にかけあってくれているということだろうか。もしもそうなら、とてもありがたい。

 ともあれ私は、随分と大きな傷を背負うことになった。自業自得ではあるが、あんまりだ。SNSって怖い……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ