第4話 推しとデートすることになりました
水瀬さんとの話を終えた後、私は街中を歩いていた。
彼女には迎えを頼むと言ったが、家族は今日忙しい。だから自分の足で家に帰ることにした。
水瀬さんは心配してくれていたが、私はもう元気である。倒れることなんて、まずないだろう。
そもそも、移動時間の大半はどうせ電車だ。バスという手もあるし、自分の足で歩く時間はほとんどないといえる。
「それにしても、最近はなんだか色々と大変だなぁ」
「……へい、そこの彼女」
「……んえ?」
今日も含めて、最近あったことに思いを馳せていた私は、聞こえてきた声に少し驚いた。
私が声が聞こえてきた方向に視線を向けると、そこには赤いスポーツカーがあった。左ハンドルのその車には、一人の女性が乗っている。
サングラスをつけたチャラいその女性は、一見すると怪しい人だった。でもよく見てみると、知っている人である。彼女は、Pentasのメンバーの一人、皇琥珀さんだ。
「こ、琥珀さん」
「そう、琥珀さんだよ? 紬ちゃん、レッスンの帰り~?」
まさかこんな所で琥珀さんに会うなんて思っておらず、私はひどく動揺する。
私はとりあえず、周囲を見渡した。私はともかく、琥珀さんは有名人だ。外見的にも目立つ。だから騒ぎになる可能性もある。
ただ周囲の人達は、私達を特に気にせず通り過ぎていた。あの琥珀さんが、ここにいるのに? これが現代の冷たさということ?
「紬ちゃん、どったの? そんなきょろきょろして」
「い、いえ、その、琥珀さんは芸能人ですから。周囲の人達が反応するかと思って……」
「あ~あ、まあ、大丈夫でしょ。あたしはいつもこんな感じだけどさ、そういうことあんまりなかったよ~。てか、声かけられたらそれはそれでファンサすればいいでしょ」
「ファ、ファンサ……」
琥珀さんは、矮小な私と同じ世界で生きている人ではなかった。別に誰かに見つかっても気にならない。やっぱり琥珀さんは、芸能人ということだろうか。
とはいえ、よく考えてみれば琥珀さんはサングラスなどで変装している。私も一瞬わからなかった訳だし、案外見つからないものなのだろうか。
「そんなことよりさ、紬ちゃん、乗ってかない? 帰りなんでしょ? 送ったげるよ」
「え? いえ、そんなの悪いですよ。琥珀さん、レッスンしに来たんですよね? もう目と鼻の先なのに……」
「ん? ああ、別にレッスンしにきた訳じゃないんだよね。ドライブしてただけっていうか……」
「あ、そうなんですか?」
私とは逆方向から来ていたため、琥珀さんはてっきりレッスン室に向かっているものだと思っていた。
しかし、そういう訳でもないらしい。まあ、琥珀さんは歌もダンスも完璧な人だ。今更レッスンする必要などはないのかもしれない。
「てか、ドライブに付き合ってくんないかな? 一人でさ、運転の練習してるんだけど、ちょい寂しいっていうかさ。誰か誘えばよかったな~って、思ってたんだよね」
「練習?」
琥珀さんの言葉に、私は彼女のスポーツカーを見た。そこには、初心者を示す若葉マークが張り付けられている。
琥珀さんは今年に大学生になったばかりだ。その前の春休みに免許を取ったということらしいので、まだ運転に慣れてはいないということだろうか。
「あ、紬ちゃん、今初心者なのにこんな車乗ってるんだとか思ってるでしょ?」
「え? いえ、そんなことは思っていませんよ?」
「いや、実際そうだからさ。免許取った日にさ、パパが買っちゃたんだよね。いやまあ、あたしもこういうのは嫌いじゃなかったけどさ」
皇家は、お金持ちである。代々続く名家だと聞いている。金銭感覚は、一般庶民である私達とは違うということだろうか。
そんな人と今の今まで割と気軽に話していたことに、冷や汗が出てくる。無礼があったら捕まるんじゃないだろうか。琥珀さん本人は、滅茶苦茶軽いノリだけど。
「玲奈にもさ、正気かい? みたいなこと言われてさー。別にあたしが選んだ訳じゃないのに」
「玲奈……う、うん。玲奈さんがそんなことを?」
「んー、まあ、あの子とあたしっていとこじゃん? だからあたしには結構気安いんだよね。紬ちゃんには、やっさしいんだろうけどさー」
琥珀さんは、玲奈様の名前を出してきた。
彼女は玲奈様のいとこである。玲奈様のお母さんは、皇家の出身なのだ。
二人はなんとも、仲が良いと聞いている。しかしあの玲奈様が、気軽に接している様はどうにも想像できない。
「あたしにも王子様みたいに接してくれないかなー。紬ちゃんには、多分そんな感じでしょ? あんまり二人で話しているとこ見たことないけど、どんな感じー?」
「うぇ?」
琥珀さんが極めて軽い感じでしたであろう質問に対して、私は思わず変な声を出していた。
玲奈様が王子様みたい、それは確かに彼女の一般的なイメージだ。私だって最近までは、そういう人なのだと思っていた。
だけど先日私は、玲奈様の違う一面を知った。それを思い出したことで、変な反応をしてしまったのである。
「ん~? 紬ちゃん、どうかしたの?」
「あ、いえ、その、玲奈さんとそんなに話したことはないので……」
「そなんだ。まあ、あたしも紬ちゃんとはそんな話したことないよね~。てかそうじゃん。もっと話したいし、乗ってきな~」
「うっ……わかりました、少しだけなら」
琥珀さんの提案に、私はゆっくりと頷いた。
多少の迷いはあったが、その提案を無下にすることはできなかった。せっかく誘ってくれた訳だし、私にも琥珀さんと話したいという気持ちはある。
だって普通にファンだもん。玲奈様と一緒の時期に活動し始めた彼女のことを、私は玲奈様経由で知って、推し始めた。
とはいえ、当時の琥珀さんの活動といえばファッション誌とかそういう所で、私には縁のない分野過ぎて、出ている雑誌を写真集の感覚で買っていただけなのだが。
「シートベルトは閉めた? ん、よっしゃ。それじゃ出発出発」
「な、なんだかすごいですね。が、外国の車だ……」
「いやマジでさ、それなんだよね。あたしも最初は変な感覚だったわ」
スポーツカーの助手席に乗った私は、違和感を覚えていた。
免許が取れるような年齢ではない私にとって、そこからの景色は未知のものだった。脳が混乱してしまう。
そう思っている内に、車は動き出していた。なんとも静かな出発だった。それはきっと、琥珀さんの運転が上手いということなのだろう。
「……紬ちゃんさ、玲奈となんかあった?」
「……え?」
車がスピードに乗り始めた頃、琥珀さんが質問を投げかけてきた。
それは唐突なものだったが、あまりにも核心に迫っているもので、私はかなり動揺した。
もしもこの車を私が運転していたなら、事故が起こっていたかもしれない。いや、そんなメンタルでは、そもそも免許を取れるかも怪しいか。
「いやさ、何かさっきの反応が気になっててさ。紬ちゃんは、玲奈のことを王子様とは思ってないような気がしてさー」
「えっと、それは……」
「まあ、無理に聞こうとか思ってる訳ではないけど……って、無理やり車に乗せてこんなこと言っても、説得力ないかー」
琥珀さんは、苦笑いを浮かべていた。その表情からは、少々の気まずさが読み取れる。
それはきっと、言葉にしている通りなのだろう。結果に私を追い詰めているという状況に、彼女は申し訳なさを感じているのだ。
恐らく、それは私が動揺し過ぎているからなのだろう。別に琥珀さんは尋問している訳ではない。私はそうやって自分に言い聞かせる。
「……あの、実は玲奈さん――玲奈様と少し話しまして」
「玲奈様……ああ、紬ちゃんは玲奈のファンだったってこと?」
「はい、デビューした当時からのファンで……」
「おお~古参じゃん」
私は、玲奈様のファンだったことを琥珀さんに打ち明けることにした。
これに関しては、陽依さんの経験が活きている。別にファンだと打ち明けることで、不都合などは生じないのだ。
ついでにあなたのファンでした、ということもできたが、それはやめておく。私は琥珀さんのコアなファンでもないし、話がそれてしまうから。
「だからPentasのオーディションを受けたんです。受かってびっくりしましたけど……」
「へえ、それは玲奈も嬉しいだろうね。それを玲奈に話したの?」
「話したというよりも、ひょんなことからばれてしまったと言いますか……」
「ばれた? 別に悪いことではないと思うけどね」
「まあ、結果的にはそうだったのでしょうか、ね……」
玲奈様は、私がファンだったと知っても受け入れてくれた。琥珀さんも、玲奈様なら受け入れるだろうという確信があるようだ。
つまり私が勝手に、勘違いしていただけということだろうか。いやしかし、ファンが同じグループに入ってくるなんて、やっぱり人によって受け付け難いような気もする。
「それで少し仲良くなったと、言いますか……」
「仲良くなった……えっと、それはどういうこと?」
「どういうこと? というと?」
「ん? んー、まあ、玲奈はファンサとかはできる方だったかなと思って」
「ファンサ……」
琥珀さんの言葉に、私は玲奈様との間にあったことを思い出していた。
玲奈様に手を重ねていただいた。スカートをめくって、見せパンを見せてもらった。二人で抱きしめ合った。これって、ファンサに入るのかな?
「紬ちゃん? どうかしたの?」
「……ファンサかどうかは、微妙な所ですね。はい、色々とあって、あはは」
「……うーん」
私の誤魔化しは、琥珀さんには通じていないような気がする。今の唸りは、どういう意味なのだろうか。私としては気になる所だ。
それから少しの間、車の中に沈黙があった。ちょっと気まずいけれど、逃げ場はない。車内に二人きりというのは、確かに追い詰められる状況だった。
「……紬ちゃん、もしかして知った感じかー」
「……知った感じ?」
「玲奈の一面……一面というか、まああれが素というか」
「それは……」
沈黙を破ったのは、琥珀さんの方からだった。その言葉に、私は思わず反応してしまう。
それでわかったのだろう。琥珀さんは、苦笑いを浮かべた。つまり私が知った玲奈様の一面を、琥珀さんは知っている。いやいとこなのだから、それは当然か。
「あの子はさ、案外寂しがり屋さんなんだよねー」
「……そう、みたいですね」
「皆から一目置かれて、ファンも多いけどさ、結構子供なんだよ。小さい子みたいな感じ」
「小さい子……」
琥珀さんは、玲奈様のことを語っていた。その語りには愛がある。それはまるで、母親のようで――
「……あのさ、母親のようとか今思ってない? あたし、皆よりも年は上だけどさ。まだそこまでじゃないからね?」
「え? ああ……」
――それはまるで姉のようで、琥珀さんが玲奈様のことを大切に思っていることが伝わってきた。
それに私は、安心していた。そんな人がいてくれるなら、玲奈様も大丈夫だとそう思えたから。
でも同時に少し、寂しいような気がした。琥珀さんがいて大丈夫なら、玲奈様には私なんて必要ないということだから。
「琥珀さんは、玲奈様のことをとても大切に思っているんですね」
「まあ、いとこだしね。付き合いも長いし、姉妹みたいなものなのかな」
「それなのに、どうして玲奈様は私にあんなことを……」
琥珀さんのような人がいながら、甘えてきた玲奈様のことが私にはわからなかった。
彼女がいるならば、寂しがる必要なんてないだろう。口振りからして可愛がられていそうなものだし、問題はないような気がするのだが。
「んー? ああ、まあ、何言われたかは知らないけどさ。あたしと紬ちゃんとでは、多分違うと思うな~」
「違う?」
「あたしはさ、幼少期から一緒にいたいとこだから。良くも悪くも、日常に溶け込んでいる訳じゃん。親戚と友達は違うでしょ? だからあたしじゃ、駄目なこともあるって訳よ」
私の疑問は、琥珀さんの言葉である程度解消された。
言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。私だって友達はいないけれど、家族とは仲が良い。それでも孤独というか、ぼっちだと自認している。
玲奈様も、きっと同じなのだ。彼女の場合は高貴であるからこそ、友達を求めている――
「……って、友達ですか?」
「んー? 何か変かな?」
「いえ、玲奈様と友達なんて、そんなことは……」
「まあ、同僚でも仲間でも、言葉はなんでもいいと思うよー。でもさ、あたしとしては……」
そこで琥珀さんは、一度言葉を途切れさせた。
彼女の表情は、先程までとは変わっている。にこにことしていたはずの琥珀さんの真剣な顔は、少し怖かった。
「紬ちゃんが、玲奈の傍にいてくれたらいいって思ってる。あの子の孤独を紬ちゃんが癒せるのなら……」
「それは……」
琥珀さんからのお願いは、私には荷が重いものであった。玲奈様の孤独を癒す、そんな大役が私に務まるものだろうか。
でも私の脳裏には、寂しそうにする玲奈様の顔が浮かんできた。あれを見て私は、アイドルを続けなければならないと、そう思ったのだ。
その時の気持ちは、まだ変わっていない。私は玲奈様を一人にしたくないと、そう思ってしまっている。
「……私なんかに、何ができるのかはわかりませんが」
「紬ちゃんなら、なんだってできるよ。なんだっていいんだし。玲奈はさ、紬ちゃんがすることなら、なんでも喜ぶと思う」
「やれるだけやってみようと思います」
「うん、ありがとね、紬ちゃん」
陽依さんや水瀬さんのこともあって、私は少しだけ前を向けるようになっていた。そのことに関しては、二人にも感謝しなければならない。
しかし決意したのはいいものの、具体的にはどうするべきなのだろうか。その辺りのことは、まだよくわかっていない。元より対人関係は、苦手な方なので。
「えっと、琥珀さん、具体的には何をすれば良いですかね? なんでもしていいと言われても、正直困ってしまって……」
「んー? まあ、遊びに誘うとかどうよ? デートってことで」
「デ、デート?」
琥珀さんの案に対して、私は上ずった声を上げざるを得なかった。
デートなんて、いきなりそんな大胆過ぎるのではなかろうか。玲奈様と一緒にお出掛け、それは私にとってはあまりにも想像できないことだった。
ただ確かに、友達とかそういう風なイベントといえる。しかし、流石に外は私にはまだハードルが高すぎる。
「……お、お家に呼ぶとかはどうでしょうか?」
「え?」
「外で遊ぶのはちょっと、ほら、玲奈様は有名人でもありますし……」
「えっと……まあ、それでもいいとは思うけど。家に呼ぶ方がハードル高いんじゃない?」
「いえ、私にとってはそっちの方がいいんです」
とりあえず私は、玲奈様を家に呼ぶことにした。
友達を家に招いた時のように、おもてなしするとしよう。いやよく考えてみれば、私には友達なんていないので、おもてなし方もよくわからないか。
「紬ちゃんがいいなら、それでもいいと思うけどさ……」
「……いえ、ちょっと待ってください。やっぱり外の方がいい気がしてきました」
「え? そうなの?」
「参考までに、どこがいいとかありますか? 玲奈様を連れて行くなら……」
「んー、そうだね……紬ちゃんが普段行っている所とかいいんじゃない?」
私の質問に対して、琥珀さんは少し考えて後答えてくれた。
ただその答えは、すぐに受け入れられるようなものではなかった。だって私が普段行っているような場所を、玲奈様が喜ぶとはあまり思えなかったから。
「あの、私が普段行くような場所は、きっと玲奈様の趣味や趣向とは違うと思います」
「うん? まあ、それでもいいと思うよ。要するにさ、玲奈は紬ちゃんのことをもっと知りたいと思っているだろうから」
「もっと知りたい、ですか?」
琥珀さんの考え方に、私は陽依さんのことを思い出していた。
彼女も私のことをもっと知りたいと言ってくれた。それと同じことも玲奈様が思っているということなのだろうか。
その辺りに関しては、私にはよくわからない。いや、推しに関して色々と調べるのと同じことか。それならわからなくはない。
「そういうものなんですかね?」
「多分、そうだと思うけど……どうだろうね? あたしも玲奈の内心を完全にわかっているかは微妙かも。でも、私の予測としてはそう思う。というか、喜ばないってことはないと思うから、そこは安心して」
琥珀さんは、途中少々考えているような感じだったけれど、最後には言い切った。
まあ、確かに玲奈様はどこに連れて行っても喜んでくれるような気がする。余程変な所に連れて行かなければ、大丈夫なのかもしれない。
とはいえ、できれば喜んでもらいたいというのが、人情というものである。いや単純に、私が玲奈様からの評価を上げたい、だけともいえるが。
「……そういえばさ、紬ちゃんの『LINK』って知らないね?」
「え?」
「やってるの?」
「あ、はい。一応……」
そこで琥珀さんは、メッセージアプリ――『LINK』のことを持ち出した。
それは多くの人が使っているアプリであり、私も家族との連絡に使っている。
ちなみに友達はいないので、それくらいにしか使っていない。そのため、琥珀さんにそのアプリのことを言われて、少し体が固まった。
「それなら、あたしとLINK、交換しとこっか。ああ、後で玲奈のLINKも教えてあげるね」
「え? 玲奈様のLINKを……教えていただいてもいいんですか? わ、私なんかが……」
「いや、そんな大層なことではないって。あ、もちろん本人の許可は取るからね?」
玲奈様のLINKを教えてもらうなんて、私にとっては大変なことだ。心拍数が上がってしまう。
というか、もう少し国語の勉強をしておけばよかった。私のLINKの文なんて汚いものだろうし、玲奈様に見せていいものではないような気がする。
いや、まだ教えてもらえるとは限らないか。玲奈様が許可するとは限らない。でも万が一にでも許可した時のために、構えておかなければ。
「……ってか、仲間内でLINK知らないってのも不便だよね。そういう所に、もっと気を回しとけば良かったかなー」
私が震えていると、琥珀さんがそのようなことを呟いた。
それに私は、少しだけ冷静になる。琥珀さんの言っている気を回すこと、それはとてもすごいことだと思ったから。
私なんて、自分一人のことでいっぱいいっぱいである。それなのに琥珀さんは、Pentasというグループのことを考えている。それはなんだか、次元が違うような気がした。
「……琥珀さんは、すごいですね。グループの仲まで気にしていらっしゃるなんて」
「うん? いや、別にそこまで考えていた訳じゃないんだけどね? 今の今まで、LINKのことを気付いていなかったし」
「でも、気付いてなんとかしようとしている訳ですよね?」
「それはまあ、一応年長者だからかな? あたしからいかないと、遠慮される所もあるだろうから、ちゃんとしないといけないとは思ってるよ?」
琥珀さんはPentasの中でも唯一の大学生である。そのため、意識など違う所があるのかもしれない。
いやよく思い返してみれば、玲奈様や陽依さんだって、私や水瀬さんに声をかけてくれていたっけ。水瀬さんだって、皆とは仲が良い。
つまりグループの仲に関しては、皆気にかけていたということかもしれない。私だけが意識が低かったといえる。そもそも、受け答えすらままならなかったし。
「……色々とご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」
「え? いきなりどしたのさ?」
「いえ、私はコミュニケーション能力が高い方ではないので、今までPentasの空気を悪くしていたんだろうな、と思っていまして」
一人の協調性がない者がいれば、グループというものは円滑に行かないものだろう。私はPentasにとって、足手纏いだったかもしれない。
皆優しい人であるというのに、私は何を怖がっていたのだろうか。なんというか、過去の自分の行動というものが、情けなく思えてくる。
「うーん、そんなことはないと思うけど……ってか、Pentasもまだできたばっかりだし、緊張するのは仕方ないことでしょ? 紬ちゃんは年も一番下で、こういう世界も経験してない訳だし」
「でも、水瀬さんはそうではありませんし……」
「冴ちゃんは、確かにもの怖気しない方だねー。でもさ、あの子もあの子で色々と緊張しているとは思うよ。まだ距離感じるし……それに、玲奈と陽依も……」
そこで琥珀さんは、言葉を止めた。
玲奈様と陽依さん、二人の間に何かあるのだろうか。あの二人は、普通に仲が良いと思うのだが。
何かあるということだろうか。でもあの二人が険悪になるなんて考えられない。二人とも、とても優しい人達だし。
「まあ、何はともあれ、Pentasが一つになるのはもう少し先かな? もしかしたら、その鍵は紬ちゃんかもしれないよ~?」
「え? 私? そんなことはありませんよ」
「でもさ、今もこうしてあたしや玲奈との距離を近づけている訳じゃん?」
「それは、そうかもしれませんが……」
琥珀さんに言われて、私は頬をかいていた。私がPentasが一つになる鍵なんて、そんなのはいくらなんでも荷が重すぎるから。
でも、私がメンバーと仲良くなる必要があることは事実だ。私が空気を悪くしている限り、グループが一つになることはない訳だし。
「……いえ、そうですね。鍵かはわかりませんが、皆と仲良くなりたいとは、思っています」
「お、そうなの? それはあたしとしても嬉しいなー」
「と、とりあえず、今度の玲奈様とのデート、頑張ります」
「心強いねー。でも、あんまり気負わないようにね? 結局は友達と出掛けるだけなんだし」
「は、はい……」
そもそも私は、皆と仲良くなりたいと思っている。玲奈様とも陽依さんとも、水瀬さんとも琥珀さんとも。今はその気持ちに、従っても良いのかもしれない。
まずは玲奈様とのデートである。これを成功させてみせよう。私はそんな風に、密かに闘志を燃やすのだった。




